〜龍太郎死す〜
辺りは薄暗く…今にも雪が降ってきそうな寒さ。
そんな12月の夕暮れ時に、東京湾にある倉庫の前で、とある男の人生が終わろうとしている。
龍太郎「はあはあはあ…」
仁「くっくっく…ついに追い詰めたぞ…!?武神!!」
仁「年貢の納めどきだぜぇ!?」
鬼灯「もう諦めろ…お前らがここで死んで九鬼組は全滅…終わりだ…」
龍太郎「くっ…」
仁「暴馬と恐れられた九鬼組の武神もさすがにこの人数はどうにもできねぇよな…哀れだねぇ…!」
仁「最後になにか言い残すことはあるか?武神!?」
龍太郎「くそっ…。」
男の名前は武神龍太郎、35歳。
九鬼組と言われるかつて関東最強と言われた組の特攻隊長。
だが近年九鬼組は弱体化していた。そこに長い間敵対していた鬼灯組に抗争を仕掛けられ…
龍太郎以外の組員は…組長含め、殺されてしまった。
鬼灯組がそこまで悲惨な仕打ちをするのには訳がある。
人格者だった鬼灯組の先代を今は亡き九鬼組組長が殺めたからだ。
100人以上の鬼灯組の構成に囲まれ、龍太郎は絶対絶命だ。
龍太郎(オヤジ…俺もここまでのようです。)
龍太郎(オヤジに必ず九鬼組を復活させると約束したのに…)
龍太郎(申し訳ありません…)
鬼灯「もういい…仁。」
鬼灯「さっさと九鬼組最後のこいつを地獄に送って先代を喜ばせてやれ。」
仁「オヤジ…そうですね。」
仁「あばよ…武神さん…」
鬼灯組組長の命により、組員の仁が龍太郎の額に
拳銃を突きつける。
目を瞑り…龍太郎が生を諦めたその瞬間…
リン「待って。」
仁「へ?お嬢?」
鬼灯「お、おい!!リン!!なんでこんなところにいるんだ!?」
鬼灯「ここには危ないから近寄るなと言ったろうに!!」
龍太郎(あいつは…確か鬼灯組組長の娘…)
そこに立っていたのは、この状況に似つかわしくない可憐な少女。
少女の名前は鬼灯リン、年は7歳。
鬼灯組組長の実の娘だ。
リン「お父さん、この人を殺さないで。」
鬼灯「なにを言ってるんだ!!リン…!!」
鬼灯「こいつにはうちの組員が何人も殺されてるんだぞ!?」
仁「そうですよ!!殺さないなんて無理です!!お嬢…!!やらせてください!!」
リン「だめ。」
鬼灯「リン、どうしてこいつを助けようとするんだ…!?」
龍太郎(俺にも理由が分からない…こいつとは特に接点はないはず…)
リン「それはね…この人、魔法少女だから。」
鬼灯・仁「へ?」
リン「だからこの人の正体は魔法少女なの。」
鬼灯「ま、魔法少女…?」
リン「うん。」
龍太郎(こいつは…いったいなにを言ってるんだ…?)
仁「お嬢…冗談キツいですぜ…」
仁「こんなごついおっさんが魔法少女なわけ…」
仁「そもそも少女じゃないですし…」
リン「ううん、仁、私、見たの。」
リン「この人が魔法を使って悪い人をやっつけてるところを。」
それは数日前のできごと…
ある1人の老婆が若い男2人からカツアゲに遭っていた。
若者A「おい、ばばあ!!金出せや!!」
若者B「どうせ老い先短いんだ…!使わねぇだろ?
若者B「ほら、さっさと寄越せ…!!」
老婆「い、いや、お金なんてないよ…」
若者A「バッグを貸せっ!!」
老婆「あっ!!」
若者A「おっ!財布発見!!」
若者B「へえ、金はねぇとか言って結構入ってんじゃん…!」
老婆「やめてくれ…それは…」
老婆「それは孫の誕生日プレゼントを買うお金なんだよ…」
若者A「へへっ、もーらいっと!」
若者B「パチンコでも打ちに行こうぜ!」
老婆「あ、あああ…。」
そこに…たまたま縄張りの様子を見るために巡回をしていた龍太郎がやってきた。
龍太郎「おい、うちのシマでくだらねぇことしてんじゃねぇ。」
若者A「あ?」
若者B「なんだおっさん…?」
龍太郎「その金をばーさんに返せ。」
若者A「分かったよ、返せばいいんだろ?」
若者A「はい、あげたーー!!」
若者B「ぎゃははは!!」
龍太郎「くだらない真似を…」
若い男は素直に返す…と見せかけ、老婆から奪いとった金をもつ右手を高くあげた。
若者A「返すわけねぇだろ!ばーか!!」
若者B「悔しかったら力づくで取り返してみろ!」
龍太郎「…そうさせてもらおうか。」
若者A「は?」
若者B「う、うわあああ!!」
若者A「く、くうううう…」
龍太郎が腕を一振りすると…
若者たちは吹っ飛んだ。
リン「すごい…アニメの魔法少女みるくみたい…」
龍太郎「ほら、ばーさん。」
老婆「あ、ありがとうございます…本当にありがとうございます…」
仁「お嬢!!こんなところにいた!」
仁「もう…勝手にどっか行かないでくださいよ!
仁「俺が怒られちゃうんですから…」
リン「仁、魔法少女がいた。」
仁「へ?魔法少女…?」
仁「そんなことより帰りましょっ!オヤジが心配してますから…!」
龍太郎は筋肉隆々とした見た目通り力がある男。
腕を一振りしてその若者たちを吹っ飛ばした。
その様子を家から抜け出して公園で遊んでいたリンが見ていた。
リンは魔法を使って吹っ飛ばしたと考えたようだ。
そして魔法少女のアニメにちょうどハマっているリンは…
龍太郎のことを魔法少女だと思い込んだのだ。
リン「お父さん、この人は魔法を使える魔法少女なの。」
リン「だから殺しちゃだめ。」
リン「悪者が出た時に倒す人がいなくなっちゃう。」
リン「魔法でしか倒せない悪者がいるんだよ。アニメでもそうなんだ。」
仁「お、お嬢…それはただぶん殴っただけで…」
鬼灯「そうだ…こいつは魔法少女なんかじゃ…」
リン「あなたは魔法少女でしょ?」
龍太郎「…ああ、魔法少女だ。」
鬼灯・仁「は?」
鬼灯「な、なに言ってんだ武神お前!!」
龍太郎「(もちろん魔法少女なんかじゃねぇが…もしかしたら生きのびれるかも…)
リン「やっぱりそうだったんだね。」
リン「ねぇ、あなたの名前は?」
龍太郎「…龍太郎。」
リン「龍太郎…魔法少女龍太郎だね。」
リン「ねえ、龍太郎、よかったら…私のペットにならない?」
龍太郎「え?」
鬼灯「ぺ、ペット!?」
リン「どう?龍太郎?」
龍太郎「ぜひペットに。」
リン「やった♪今日からよろしくね、龍太郎。」
リン「ということでお父さん、今日から龍太郎のこと飼うから。」
鬼灯「い、いや、ちょ、ちょっと待て!!リン!!」
仁「お嬢…!!考え直してください…!!」
リン「もうこれは決定事項。」
リン「もし…龍太郎のこと勝手に殺したりしたら…」
リン「お父さんと縁切るから。」
鬼灯「なっ!?」
仁「オ、オヤジ!!ショックを受けてる場合じゃないですって!!
仁「ここで仕留めないと!!命令をしてください!!オヤジ…!!」
鬼灯「くっ…こいつを…殺すのは禁ずる…今日から九鬼はうちの…ペットだ…」
仁「オ、オヤジ!?なに言ってるんですか!?こいつなんかお嬢の側に置いたら、お嬢の命も危ないです…!!」
鬼灯「それは…仁、お前がどうにかしろ。命に変えてもリンを守れ。」
仁「は、はいいいいい!?」
鬼灯「リンに何かあったら東京湾に沈めるからな。」
仁「そ、そんな…」
リン「行くよ、龍太郎。」
龍太郎「あ、ああ…」
龍太郎(とりあえず今はペットでも魔法少女でもなんでもいい…生き延びて…オヤジとの約束を果たすんだ…)
仁「あーー!俺も行きます!!お嬢!!」
鬼灯組の組長は…こう見えて娘バカ。
縁を切られると言われ、この選択を取るしかなかった。
こうしてヤクザとしての龍太郎は死に、魔法少女としての新たな人生がスタートする。
魔法少女としての…