お金持ち!!
〇金庫の家
以前に住んでいた街に「金庫の家」と呼ばれる豪邸がありました。広大な敷地に高い塀が張り巡らされていて、家屋は屋根しか見えない。地元の住民は道案内をする時に「金庫の家を右に曲がる」「金庫の家の北側」という風に説明していました。金庫どころか家さえ見えないのに、どうして「金庫の家」なんだろう?
しばらくして近所の人とも顔見知りになった私は、疑問をぶつけてみました。
ソウ:あの豪邸、どうして「金庫の家」って呼ばれてるんですか?
住民:家に金庫があるからや。
ソウ:なんで金庫があるってわかるんですか? 外から見えないのに。
住民:あそこに家が建つときに「ものすごい豪邸が建つらしい」ってウワサになったんや。それで近所の住人たちが、まいにち工事を見学に行ってた。
ソウ:それで?
住民:ある日、大きなクレーン車が来た。普通の家の工事には、絶対に来ないような大きなクレーン車。見てた住人たちはビックリして、隣近所のモンを呼んだ。何事が起こるかと大勢が集まって見てたら、とんでもなく大きな金庫が運ばれてきた。そして金庫をクレーン車で吊り上げて、地面に埋めた。その上に家が建ったから「金庫の家」。正確に言うと「地下に隠し金庫のある家」。
ソウ:隠れてませんやん! 地元の人たちにバレてますやん!
住民:地元の人間は知ってるが、国税局にはバレてない。ww こないだマルサ(税務署の調査)が入ったけど、金庫は見つからんかった!ww
ちなみにこの家、後に取り壊して新しい豪邸が建ちます。建て替えの理由はその家のおぼっちゃまが「何となく、気に入らない」と言ったかららしい……。なんとなくで、家を建て替えるんだ……。
〇盗難事件!?
以前に私はとあるデパートの外商部で働いていました。年間に100万円以上お買い上げになるお得意様に対応する部署です。お金持ち専門の部署! 動く金額がハンパなかった!
たとえばお客様が「シャネルのバッグが欲しい」と担当者に言います。普通ならシャネルのお店へ行って、バッグを買いますよね? 実際にお店へ行くお客様もいらっしゃいました。その時は入店から退店まで担当者が張り付いて、お客様をご案内します。お客様が荷物を持つことは一度もありません。すべて担当者が持ち歩き、後日お宅まで持っていきます。途中でおなかがすいたら、デパートの名店でお食事を召し上がることもあります。もちろんこの時も担当者がお店に予約をして最高の席を押さえ、食事の間じゅうお相手をします。
シャネルまで行くのがメンドクサイお客様はどうでしょう? なんと! ご自宅にシャネルが来るのです!
担当者はシャネルのブティックに出かけていって、お客様の好みに合うバッグを幾つもピックアップします。そのバッグとシャネルの担当者とお客様の担当者が連れ立って、お客様のおうちへ伺うのです。お客様は家にいながらにして「コレとコレをちょうだい」そう言ってシャネルのバッグをお買い上げになる! 世界が違う!! コレとコレって、一個100万円とかするんですよ! 二個で200万円! 「形が気に入ったから、色違いで」とか言って、同じ形の色違いを複数買ったりするんですよ! 意味わからんし!!
そういう職場でしたから、ン百万円の品物はフツーでした。最初こそ緊張したものの、すぐに慣れた。だって私には関係のない世界だから。私は事務員だったので、お客様とお話する機会は少なかったですし。一番ウケたのは「80万円のラクダのももひき」でした。高級な桐の箱に入った、最高級のビクーニャのももひき。どんなに高級でも「ももひき」ww。おじいちゃんが寒いときにはく「ももひき」です。ww手触りは気持ち良いけれど、見た目はフツー。それなのに80万円。ww
高額なお買い物ももちろんですけれど、少額のお買い物もあります。お客様がテレビを見ていて、話題のスイーツを見つけた。「昨日のテレビに出てたチーズケーキを食べたいの」お客様がおっしゃいます。番組名やチーズケーキの名前を訊いても「わからんなぁ」と、ハッキリしない。ここからが担当者の腕の見せ所です! 担当者は血眼になってテレビ番組の情報を仕入れ、どこのお店のチーズケーキか特定して、全力で取り寄せます! たとえ通販をしていなくても、現地に人をやってでも取り寄せる! 手間とコストを考えたら大赤字です。でも普段から対応していればデカイ買い物をしてくださるので、手間は惜しみません!!
私が在籍している間で一番デカかった買物は、二千万円(!)の屏風でした。高名な作家が作った大作の屏風。漆とか螺鈿とか金箔とか、すごかったらしい。私はお品を直接見てないですけれど、その作家さんの作品はたくさん美術館にあるので「ああいうノリのヤツか……」そう思った。ってか美術館が所蔵するレベルの作品を「玄関の目隠し」にお使いになるのですよ……。
この話、続きがあります。お品を気に入ったお客様が「同じのをもう一つ」と仰って、さらに二千万円お買い上げになりました! いとも簡単に「もう一つ」って!! お金があるのもすごいが、置く場所があるのもすごいわ!! 屏風一双でも広げたら畳4枚分くらいあるんですよ! 二双買ったら畳8枚分! 私の部屋で広げたら、身動きできんわ!!
そんな職場ですから、現金も高価な品もその辺にゴロゴロ置いてありました。私はよくわからんまま誘われてパートで働いていたのですけれど、後から「盗難があるといけないので、誰でも雇うわけじゃない」そう言われました。私が雇われた理由は「高給取りのエリートサラリーマンの妻」だったからです。私の素質がどうこうではなくて、私の夫がエリートだったから雇われたらしい……。つまんない理由です。妻だけに。
ある日、社員さんはルンルン♪で荷物を運び出していました。お金持ちのお客様のお宅へ、超豪華なカバンをいくつも持っていく準備をしていた。総額ン千万円です。家が建つくらい大金!! この日はデカイ商談だったみたいで、ブランドの担当者が5人も来ていた。6人でお客様の家へ伺い、かなりの金額を売り上げたみたいです。みんなご機嫌で帰ってきました。
事件が起こったのは、その直後です。担当者が「カバンが無い!」と言い出した! 売れたカバンはお客様の家に置いてきたが、売れなかったカバンは持ち帰ってきた。その売れなかったカバンがごっそり無くなっているというのです! 総額ン千万円のカバンが消えた!!
私、血の気が引きました。じつは当時、ボロアパートで貧乏生活をしていました。入社した時はセレヴの妻でしたけれど、家出して一人でボロアパートで生活していた。もしバレたら、私が一番の容疑者になってしまう! どうしよう!?
カバンはいくつもあるから、それなりにボリュームがあります。それなのに忽然と消えたらしい。担当者は顔を真っ赤にして「ここに! まとめて置いていたのに無くなった!」そう言います。事務所の中ですから外部の人間は入れない。どう考えても内部の犯行。スタッフは全員、身元が堅い人ばかりです。貧乏人の私が一番怪しい……。
全員で30分ばかり探しましたが見つからない。「警察を呼ぶ? でも大事になったらデパートの評判が……」そう話していると、ゴミ収集の時間になりました。「とりあえずゴミを出そう」そう言いながら黒いゴミ袋を運ぼうとした時………………、
「あった! カバンがあった! ゴミ出すのやめて!」担当者が絶叫しました。
なんと高価なカバンは、黒いゴミ袋の中にあったのです!! そしてゴミと一緒に置いてあった!!
真相はこうです。ブランド名の入った箱や袋で持ち運ぶと人目につきやすい。そう考えた担当者は、黒いゴミ袋にン千万円のカバンを入れて持ち運んでいた。外から見たら、ただのゴミにしか見えない。それをまとめて持ち帰って、事務所の床に置いた。
中にバッグが入っていると知らない事務所のスタッフが「こんな所にゴミを置いて! ちゃんと決められた場所に置いてよね!」そう文句を言いながら、ゴミ集積所へバッグの入ったゴミ袋を移動した。
バッグが無くなったと思った担当者はあわてていたので、ゴミ袋にカバンを入れたと言わなかった。私たち事務員は、てっきりブランドの箱や袋に入っていると思い込んでいたので、それらしき箱や袋を探していた。
そしてゴミ収集の時間になり、ゴミ(高級バッグ含む)を運び出そうとしたところ、袋の口が開いてバッグが見えた! 危機一髪! ン千万円のカバンをゴミに出すところでした!! 急いでゴミ袋を確認したら、無事に全部ありました! 誰も盗んでなかった!!
この一件は笑い話で済みましたけれど、私は笑えませんでした。「次に何か無くなったら、私が疑われる!」そう思うと、怖くなった。だって貧乏なのは私だけです。他のみんなは裕福な暮らしをしている。たとえ私が盗んでなくても、貧乏な私が疑われるに決まっている。だからソッコー転職しました。
大金を隠す金庫や、ン千万円のお買い物……。イイですねぇ……(うっとり)。いつか私もできるようになるでしょうか……(うっとり)。でも今はとりあえず「甲賀市の燃えるゴミ袋」が欲しいです。最後の一枚を使ってしまったので、ゴミ袋がなくなってしまった。高級バッグはいらんから、燃えるゴミ袋が欲しい……。でもお仕事が決まってナイから、買えないんですよね……。
まあ、なんとかなるでしょう♪




