今日こそは、叔父の話。
昨日は、申し訳ありませんでした。話がどんどん逸れてしまって、叔父の話を書けませんでした。今日はちゃんと叔父の話を書きます!
私の母の弟である叔父は、ものすごく無口な人です。伯父と話したことは、数えるほどしかありません。いつも明るくて陽気な叔父の妻(私の義理の叔母)が話の間に入ってくれて、楽しい話を聞かせてくれます。叔父はニコニコしながら、妻の横で黙っている。
叔父は裕福でない家庭に生まれて、教育を受ける機会が少ししかありませんでした。でも真面目で努力家だったので、成績は良かったらしい。母(私の祖母)は賢い叔父を何とか高校へやろうと、苦労してお金を貯めていたそうです。ところが叔父は勝手に就職を決めて、福岡県から遠い滋賀県へ一人で行ってしまいました。もし母親が高校へやるつもりだったと知っていれば、叔父の人生は大きく違っていたでしょう。この親子の行き違いを叔父は知らないそうですし、この話を私にしてくれた母親は、弟である叔父にこの話をしていないらしい。祖母と叔父の溝を少しでも埋められるかもしれない話なのですが、私が叔父に会ったのはずっと前です。祖母はとっくに他界していますから、いつか私がこの話を叔父に伝えなければ……!!
そんな叔父ですから、以下の話は叔父から聞いてません。陽気で明るい叔父の妻(私の義理の叔母)から聞きました。
叔父は家族に相談せず、誰も知り合いのいない滋賀県で就職しました。医療機器の製造と販売をしている会社です。そこで叔父は働きながら勉強をして、医療機器の設計に関わるようになりました。田舎の中卒男子が一人で生活しながら設計の勉強をするのは、並大抵の苦労ではなかったと思います。でも叔父は無口なので、黙して語りません。
努力が認められ、大事な仕事を任されるようになり、ついにドイツへの海外出張を命じられました! 当時はネットがありませんから、海外の情報を手に入れるのはとても難しい。叔父は会社の先輩に聞いたりして、何とか出張の日までに準備を終え、日本出国にこぎつけました。
事件が起こったのは、ドイツの入国審査です。入国審査官がドイツ語で質問したらしい。おそらく「今回の旅の目的は?」だと思います。ってか、それ以外に考えられない。中卒の叔父に、ドイツ語は理解できません。さらに叔父は筋金入りの無口です。
「…………」審査官を見つめたまま、叔父は黙り込んでしまった。
審査官はドイツ語での審査をあきらめて、英語に切り替えてくれました。英語で「今回の旅の目的は?」そう訊いたはず。「ビジネス」でもいいし「サイトシーイング(観光)」でもいい。一言いえば、入国できたと思います。でも叔父は、何も答えなかった。田舎の中学はろくに英語を教えてくれなかったし、叔父は筋金入りの無口だったから。
審査官は何度も英語で「何をしに来た?」とか「英語は話せないのか?」などと質問したらしいです。色々と訊かれているのはわかったが、何を訊かれているのかわからない。叔父は黙り込んでしまいました。
業を煮やした審査官は、警備員を呼びました。警備員は叔父を連行して、別室へ連れていきました。叔父、ピンチ! このままだと強制送還! ドイツに入国できない!!
ソウ:それで? 叔父さん、どうしたの?
叔父:…………黙ってた…………。
ソウ:黙ってたら、ドイツに入国できないでしょう!?
叔父:…………。
ソウ:何か答えないと!
叔父:…………。
ソウ:どうなったの!?
叔父:…………できた。
ソウ:え? 何ができたの?
叔父:…………8時間ずっと黙ってたら、入国できた。
ええええええっっっ!? 8時間も黙って座ってたのっっっ!? 叔父も大変だけど、相手の方も大迷惑でしょう!? ってか無言のヤツを、なんで入国させたんだ!?
おそらく今なら、もっと別な対応になるでしょう。昔は寛大というか、大らかだったのでしょうね。
無事に入国できた叔父が、ドイツでちゃんと仕事ができたのかは不明です。仕事ができたか訊いてみたけど、答えが返ってこなかった……。でもその後も何度も海外出張へ行ったらしいので、現地につけば何とかしていたのでしょう。たぶん……。
この一件で叔父は懲りたらしく、英会話の勉強を始めます。NHKの英会話のラジオ放送を、欠かさず聞くようになった。叔父は無口ですが勉強熱心なので、コツコツと何年も英語の勉強を続けたそうです。ずっと横で見ていた叔母が、私に教えてくれました。
ソウ:それで? 叔父さんは英語がわかるようになったの?
叔父:…………(無言でうなずく)。
ソウ:英語で話しかけられたら、何を話しているかわかるようになった?
叔父:…………(無言でうなずく)。
ソウ:じゃあ、英語で話せるようになったんだ!!
叔父:…………(無言で首を振る)。
ソウ:だって英語がわかるなら、話せるでしょう?
叔父:…………………………。
ソウ。わかった。無口だから答えないんですね……。
叔父:……(深く頷く)。
ダメじゃん……。英語を理解できても、答えなかったらわからないのと同じじゃん……(涙)。
こんな無口な叔父とうらはらに、私はけっこうオシャベリです。英語力はほとんどないが、気合と根性で話す! 今まで一番「我ながらアレは素晴らしかったよなぁ!」そう思うのは、ハワイの空港でした。
飛行機は禁煙なので、空港でタバコが吸いたかった。日本へ帰るためホノルル空港に到着して一番に、喫煙所の場所を聞きました。答えてくれたアメリカ人のスタッフは、嫌煙家だったみたいです。喫煙所の場所を尋ねられてあからさまにイヤな顔をしました。そして早口の英語で言った。
スタッフ:喫煙所はありません。
ソウ:ない? タバコを吸える場所がない?
たどたどしい英語で、私は聞き返します。
スタッフ:今どきタバコを吸うなんて、悪い習慣ですよ! ハワイはクリーンな場所ですからね! 空港内に喫煙所はありません! 1ヶ所だって、ありませんからね!
頭に血がのぼった私は、かつてないほど流暢な英語でまくしたてました!
ソウ:ふざけんなや! こちらとら今から何時間も飛行機に乗ってタバコ吸えへんのや! ここで吸えんかったら、アタマおかしなるわ! ナイわけナイやろう! 喫煙所はどこにあるんや!? 正直に言わへんかったら、タダじゃ済まんぞ! ちゃんとルール守って吸いたいから、喫煙所の場所を訊いてるんや! ちゃんと場所を言えや! (← 完璧に輩やん……)
私の小さな脳みその、どこにこれだけの量の英語が詰まっていたのか、いまだにナゾです。でもその時は、ものすごい量の英語を一気に吐き出すことができた! 剣幕に押されて、スタッフは言いました。
スタッフ:……この道をまっすぐ行って、左に曲がって、〇〇を右に曲がる、〇〇を左に曲がって、〇〇を通り抜けて〇〇の奥。
せめてもの抵抗か、ものすごくわかりにくい説明 & めっちゃ遠い場所でした。方向オンチな私は、日本語でも2回曲がると道を見失います。それなのにこの時だけは、ちゃんとたどり着けました! まさに気合と根性!!
たぶん……。たぶん外国語って、知識や言葉は関係ないのかも……。気合と根性で、何とかなるのかも…………しれません。たぶん…………。




