私の愛の行方(くるくるドライヤー)
この愛の行方について、今日はお話させてください。
私はバツ2です。一人目の元夫は、とある電機メーカーで製品開発のお仕事をしていました。いわゆるエリートです。それだけでなく、とても誠実で優しい方でした。それなのに私のワガママで離婚してしまいました。
別れたとは言え今でも尊敬していますし、感謝しています。離婚した後も彼が開発に携わった商品を、ずうっと愛用していました。ナノイーのクルクルドライヤーです。〇〇社の最高機種、ナノケアシリーズのクルクルドライヤー。
……この話、メーカー名を出さないとわかりにくいですね。ってかナノケアシリーズって書いた時点で、わかる方にはバレていますね。離婚したのはずっと昔ですし、すでに時効と判断します。Panasonicです。Panasonicのイオンが出るくるくるドライヤーです。もし元夫がこのエッセイを見て「勝手に書くなよ!」という場合は、ご連絡ください。勝手にエッセイに書いたのと離婚のお詫びに、一席もうけます。そしてその節のご無礼を、伏して謝ります。
一人目の夫が買ってくれたイオンのくるくるドライヤーを、別れた後もずっと愛用していました。イオンで髪の毛がツルツルになるという宣伝文句の通り、これで乾かすと髪がキレイになります。たまによそで安いドライヤーを使うと、髪の毛がバサバサになった感じがする。「やっぱりイオンが出ないとダメだよね~! うちのドライヤーが一番!」と思っていました。
もちろん二度目の結婚をした時も、このドライヤーを持参して嫁入りました。その後も長い間使っていたのですけれど、とうとう壊れてしまいました。一人目の夫に敬意を表して同じ機種を買いたいが、すごく高価です。欲しいけれど、高い……。当時の私は主婦です。自分の稼ぎはゼロ。夫が社長(!)とは言え、自分で稼いだお金はない。夫の稼ぎで買うのも違う……と迷っていたら、夫がある日、黙って箱を差し出しました。中身は、前と同じ機種の新しいドライヤー!
彼はとても無口でしたけれど、すごく優しい方でした。私が言ったことをちゃんと覚えていてくれるのが、彼なりの優しさでした。何も言わないけど、ちゃんと聞いて心に留めておいてくれる。私が何気なく「前と同じドライヤーが欲しいな~」と言ったのを覚えていてくれたのです。そして同じ物を贈ってくれたのでした。
こんなに優しい人と、なんで別れたかなぁ~っ!? しかも別れた理由は「なんとなく」です!!! ほんと私、地獄へ堕ちろ!!!!!
というわけでずっと同じ機種を使っていたのですけれど、二人目の夫ともお別れしてずいぶんたちます。愛用していたイオンのくるくるドライヤーが、ヘンな音を出しはじめた。ヘンな音はするが、金はない! たまに焼けたヘンなニオイもするが、金はない! 買い替える金は、一円たりともない! このドライヤーが壊れたら、髪の毛を坊主にするか……と考えていました。
つい昨日、お付き合いしている彼と新しくオープンした電気屋さんへ行きました。何を買うというワケではないが、オープンしたので見に行った。ブラブラしているとくるくるドライヤーのコーナーがあったので見ていた。新しいのがほしい……でもお金ない……。
彼:たくさん種類があるね! そして値段もバラバラ! どこがちがうの?
私:イオンの量と値段は正比例します! 値段が高いほど、イオンが多く出る! だから髪の毛がツルツルになる! 私が使っているのは、この一番お高いヤツ!(← 自慢) でも高いから、買えない!
彼:ほんと、高価だね。
私:でしょ? だから買えない!
5分後。彼がどこかへ行ったので店内をブラブラしていると、彼が箱を持ってきた。
彼:これ、あげる。
私:なんですか?
彼:見てみたら?
さっき言ってたイオンのくるくるドライヤーでした(涙)。彼が買ってくれた(涙)。
彼:ほしいって言ってたから。
彼の優しさに、涙が出そうです。でもお店で泣くと彼が困るでしょうから、今は泣かない! ありがとうございます! あなたとは、うっかり別れないよう気をつけます!!
おうちに帰って大喜びで箱を開けます。今まで使っていた機種の最新式! もうヘンな音に悩まされないし、今の機種のほうがイオンだってたくさん出るはず! だってイオンの吹き出し口が、すごく大きくなってる!!
嬉々として本体とアタッチメントをつなげます。カチっと音がして、完成! 前よりさらに髪の毛がキレイになる予感! やった~!!
彼:ねえ、それ違うんじゃない?
私:何がですか?
彼:アタッチメントの向きがヘンじゃない?
私:私がコレを何年使ってると思うんですか? 同じ機種を20年以上使ってるんですよ。
彼:でも説明書の絵とちがう気がするよ?
私:コレでいいんです! だって今まで使ってたのと同じでしょ、ホラ!
今まで使っていたドライヤーと新しいのを並べて見せる。彼が説明書を見ながら言う。
彼:でもそれじゃあ、イオンが髪の毛に当たらないよ?
私:え…………………………?
私、アタッチメントの向きを間違っていました……(涙)。20年間、イオンはまったく髪の毛に当たっていなかったのです……(涙)。すべて空気中へ無駄に放出されていました(涙)。
あんなに「やっぱりイオンは良いなぁ~!」と言っていたのに、ぜんぜん当たってなかった(涙)。
「安いドライヤーは、バサバサするぜぇ~!」とかドヤ顔で言ってたのに、安いドライヤーと同じですから!!
わたし、わかったつもりで何にもわかってなかった!!!
もう、ショックで……(涙)。私の人生、いったい何だったんだろう……(涙)。
結婚に失敗してまた同じ失敗して、それと同時にドライヤーの使い方もずっと間違ってたのか……(涙)。夫たちの好意を台無しにして、せっかく買ってくれたドライヤーさえまともに使えてなかった……(涙)。
私の人生、いったい何だったんだろう? 間違って迷惑かけて、何にも進歩してない(涙)。
普段はほとんど後悔しないタイプですが、さすがに後悔します。今までたくさんの人に迷惑かけてきて、ガッカリさせてばっかり……(涙)。
ガックリしていると、彼が横で笑いだしました。だんだん声が大きくなって、大笑いしてる!
彼:あんなにドヤ顔して「イオンの数が!」とか言ってたのに、ぜんぜん髪の毛に当たってなかったかと思うと、おかしくて……wwww!!! それって壮大なボケなの? 20年間も仕込んだボケなの? アハハハハ!!!
その時にずっとモヤモヤしていた気持ちがスルスルと溶けていきました。やっとわかった。私はパートナーと一緒に笑いたかったんだ。一緒に笑って、生きていきたかったんだ。
何不自由ない豪華な生活をさせてもらっていたけれど、一緒に笑うことはできなかった。だから私は一人になった。そして一緒に笑ってくれる人を探して、やっと彼に出会えた。
腹を抱えて笑う彼を見て、わたしも笑えてきました。20年間も間違っていたなんて! 笑いながら、ちょっと泣けました。優しい夫と一緒に笑えないなら、私が夫を笑わせてあげればよかった! ごめん! 待つばっかじゃなくて、私が一歩踏み出せばよかった! 彼がいま笑ってくれるなら、この一件は壮大なボケということでいいや! 彼を笑わせるために、私は長い間ボケてたってことで!
一夜明けて、さっきお風呂に入りました。満を持して正しい方向でドライヤーを使ってみたら、髪の毛がサラッサラ!!!になりました! 今までとぜんぜん違う! サラッサラ!!!
ここまで来るのに、20年もかかった!!
そして今、あなたに向けてこのエッセイを書いています。あなたがちょっと笑ってくれたら嬉しいです♪ あなたが笑って、楽しく過ごせますように♪ そして一緒に笑える人が横にいますように!
もし今横にいなくても、大丈夫です! 20年くらいボケてたら、きっと会えますから!!!