ウッカリ乱入して、伝説を作ってしまったお話(実話)。
二度とやらないので、許してください。過去に一度だけ、確信犯でスピード違反をしたことがあります。大好きな祖母が老衰で昏睡状態になったと連絡があった時です。おそらく意識を取り戻すことはないだろうと言われましたが、一秒でも速く祖母のもとに駆けつけたくて車を走らせました。
いまだに不思議なのですが車のアクセルを力いっぱい踏み込んでいる間じゅう、ずっと死んだ父の声が聞こえていました。
「カーブ。減速」
「向こうから車が来るぞ」
「そこを右」
ありえないスピードだったのに無事に病院まで行けたのは、父の声のおかげです。お父さん、ありがとう。でも二度と違反はしません。
息を切らせて病室へ駈け込んだら、チューブや電極をいっぱいつけた祖母が横たわっていました。家族が来るまで延命措置をしてくれていたのですが、そこに祖母の魂は無いことを感じました。
親族が全員そろった時に病院から「今後の延命措置はどうしますか?」そう尋ねられました。祖母がそれを望んでないのは親族一同が知っていたので、装置を外してもらいました。そして祖母は帰らぬ人となりました。
深い悲しみを感じていましたが、やらなきゃいけないことは山ほどあります! 泣いてるヒマはない!!
幸運というか不運というか、その頃の私はお葬式にかなり詳しくなっていました。周囲から「呪われてるんじゃないか?」そう心配されるほど、お葬式続きだったのです。お葬式の合間に法要があって、別の人が亡くなってまた法要が続く、そうしてると別のお葬式や数年前に他界した方の法要がありますから、そっちも何とかしないと!
あまりに続くので、替えの喪服を買い足したくらいです。洗って乾かないうちに、次の法要があるから。そういえば「もう喪服で会うのはイヤや!」って、親族にキレたことがありました。wwそれくらい、喪服ばっか着てた。
祖母が他界するのは数年前から覚悟していたので、私はある挑戦をすることにしました。
その挑戦とは………………、
お葬式代、どれくらい節約できるかなゲーム!!(ゲームじゃないよ!!)
車でナビをしてくれた(?)父が他界したときは、突然だったし経験もなかったし、色々と心残りな点がありました。必要な費用をケチるつもりはありませんけれど、お通夜の席のビールが一本800円って、どうですか? ボッタクリじゃないですか? 一事が万事そんな調子で、父が急にいなくなったことに涙を流しながらも「ちがうんじゃないか?」そう思っていました。
祖母の他界も悲しいが、悔しい思いはしたくない! 削れる費用は削る! そう心に決めて葬儀屋さんと向き合いました。何より祖母は倹約家でしたから、無駄な費用をイヤがるのは祖母のはずです。おばあちゃんが安らかに眠れるよう、私は頑張るぜ!
飲み物、食べ物は必要最低限を斎場にお願いして、後は許可を得て持ち込み。同じビールが半額以下! おつまみだって格安! しかも豪華!! 故人を偲ぶため、お好きなだけ呑んで食べてください!(← そういうところは、ケチらない)
湯灌は、お断り(!!)しました。「故人は入浴した直後に倒れました。身体はキレイです」。祖母は孫の私がちょっと引くくらい無宗教な人でしたから、湯灌にン万円も使ったらイヤがるはず。
もちろん(?)棺や挨拶状、花や祭壇も一番お安いお品で! 祖母と親しい方々はとっくの昔にあちらへ行ってらっしゃいますし、親族の勤務先からは花や電報が届く程度で、弔問にはお見えになりません。でもきっと私からの花は喜んでくれるだろうから、そこはケチらずデカイ花を!
ドライアイスは5万円でした。もちろんお断りしたところ、葬儀屋さんが「ニオイますから!」そうブチ切れたのでお願いしました。夏の暑い盛りでしたから、確かにニオうかも。でも一日くらいなら、大丈夫だったかも?
そんなこんなで頑張りましたが、結局は父と同じくらい費用がかかりました。おそらく葬儀屋さんも、請求する最低限の金額は決まっているのでしょう。あちらを削っても、こちらで割り増し……みたいな感じだったと思います。ケチケチして節約できたのは、20万円くらいだと思います。私としては気が済むまで挑戦できたので、良い経験でした。
通夜と葬儀はあっという間に終わり、斎苑へ向かいました。何度も来ているので、慣れたものです。テーブルを確保して買ってきたお菓子を置いて、無料の薄いお茶を運ぶ。車じゃない方は、ビールもあります(← こういうトコロは、ケチらない)。焼き上がり(?)まで神妙な顔をして、親族をもてなします。夢中で色々してたけど、それもあと少しで終わり。その後の法要は七日ごとだから、ずいぶんと間遠になる。
焼き場のランプが消えました。お骨になった祖母と対面です。今まで気を張って動いていましたけれど、もう私ができることはない。そう気付くと急に悲しみが押し寄せてきました。大好きな祖母と会えなくなる。もっとおばあちゃん孝行すれば良かった! 悲しさや後悔がゴッチャになったまま、涙で前が見えなくなって、泣きながら祖母のお骨に近づきました。おばあちゃん、今までありがとう! お疲れ様でした!
お骨を骨壺に入れるのは他の人に任せて、私は身も世もなく大泣きしていました。溢れる涙をハンカチで押さえていると、何だかようすがおかしい。誰もお骨を拾っていません。誰もが身動き一つせず、お骨の周りに突っ立っている。なんだ? どうした?
さすがにヘンなので、私は泣きながらみんなを見ました。すると………………、
ぜんぜん知らない人たちが、ギョッとした顔で私を見ている!!!
ビックリして故人のお写真を見ると、ぜんぜん知らないおじいさんが笑ってる!
誰だ!? アンタ!?(故人だよ!)
え!? わたし、おじいさんの関係者と間違われてる? おじいさんの孫とか? いや孫なら、全員知ってるはずだから! え!? 隠し子とか愛人と間違われてる!? 隠し子!? 愛人!?
涙が引っ込んだ私を見て、全員が固まっています。そりゃあ、そうでしょう。いきなり知らない女が乱入して、誰より大泣きしてるんですから……。
私は涙が出てない目に、白いレースのハンカチを当てました。そして「うう……」とウソ泣きをしながら静かにバックをして、ダッシュで逃げだしました! きゃああ! 間違えた! 恥ずかしい!!
その時は恥ずかしさのあまり逃げ出したのですけれど、めっちゃ後悔しています。一言でいいから「間違えました」と言うべきでした! だって黙って逃げちゃったから、亡くなったおじいさんに愛人か隠し子がいたって誤解を解けなかった!!! おじいさん、ごめんなさい!!
きっと後で親族の皆さんは「うちのオジイに愛人が……」とか「ひょっとして隠し子?」とか言い合って、お連れ合いさまがご存命なら「キイイ! 妻の私がありながら!」っておじいさん、やってもない浮気を疑われているのでしょうね………………。 ほんとに、ごめんなさい。
そういうワケで、知らないおじいさんの焼き場へウッカリ乱入して、おじいさんの英雄(?)伝説を作ってしまいました……。 ほんとに、すみませんでした!!




