#7日後にエンディングを迎える物語 『母の卵かけご飯』
#7日後にエンディングを迎える物語
#1日目
「いただきまーす」
休みの日くらい許してという気持ちで出した朝食は、卵かけご飯にワカメと豆腐の味噌汁。
それでも7歳になったばかりの娘は、威勢の良い号令とともに美味しそうにそれらを頬張った。
先日母が死んだ。享年62歳だった。
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#2日目
私が小さな頃から、母は看護師として働いていた。
忙しい上に夜勤もあったため、夜ご飯を一緒に食べることが難しく、「だからせめて朝食だけは一緒に」と母は眠いそぶりなど一切見せず、卵かけご飯と味噌汁を出してくれた。
ふとそんなことを思い出した。
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#3日目
「朝はやっぱりこれね」
そういって母は納豆や大根おろし、刻みネギなどを食卓に並べると、まるで遊園地に連れてきてもらった子供のように目を輝かせ、それらを生卵に混ぜた。
幼少期の私には、母のその嬉しそうな姿が不思議でならなかった。
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#4日目
「お母さん、アタシもそれ食べてみたい」
母のその嬉しそうな表情の理由が知りたくて、私も母の真似をして納豆や大根おろし、刻みネギを生卵に混ぜた。
そして一口食べると、すぐに母のその嬉しそうな表情の意味を理解した。
「お、おいしい!」
「でしょ」
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#5日目
「けどね、驚くのはまだ早いのよ!」
「えっ?」
「入れる具材の分量を変えると、また違う美味しさになるの! こっちも食べてみて!」
得意げな母は、そう言うとまだ手をつけていない母の特製卵かけご飯を、一口私に食べさせてくれた。
「ホントだ!」
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#6日目
そして今、食卓には納豆や大根おろし、刻みネギが並んでいる。
まぁ並べたのは私なのだが。
私はそれらを見つめると、今の気分に最も合いそうな分量を考え、生卵に混ぜた。
初めて母が食べさせてくれたあの味。
その懐かしい味に、思わず涙が溢れそうになる。
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#7日目
娘は私のそんな姿を不思議そうに見つめると「それ美味しいの?」と首をかしげた。
「食べたら分かるよ」
私の言葉を半信半疑で聞くと、娘は生卵に具材を混ぜた。
そして一口。
「すっごく美味しい!」
母から私
私から娘へ
母の卵かけご飯は生きていく。