『魔装と月の殲滅戦』(後日談)
一つの戦いが終わった。
魔装使いと人類の争いは終わった。
現実改変によって魔装は消滅し、すべての異能の力が弱まった。月晶体は月の民となり、また、日晶体は人の世に紛れることを選んだ。人と月晶体の争いの歴史は徐々に消え、いつか世界から忘れられる。
それでも、今日も誰かが争いで死んでいく。
残酷な世界だ。
・・・・・
司陰は高校二年生になった。
災害殲滅隊が解体されて、月日高校の特別クラスも廃止された。【紺黒の銃】は二度と現れず、司陰はもはや普通の高校生にすぎない。
いや、司陰にはまだ役割があった。現実改変は司陰の手に委ねられており、歴史の改変と世界の秩序の再構築は現在進行形の作業だ。
「――――どうしますか? 災害隊は無くなって、第一隊大隊長のあなたも次の職を探し始める頃でしょう?」
入院中の白澄に咲田がお見舞いに来て尋ねた。
白澄は未だ悩んでいるので唸る。
「正直、十分稼いだからな。もうリタイアしてもいいと思うが。というか、小隊長の霞和斗みたいなやつは野に放ったら猟奇殺人鬼になりかねないし、なんとかしておいてくれ」
「また面倒な……。でも、そう、分かりました。リタイアは妥当な選択ですね」
「就職するのか?」
「伝手はあります。まあ、給料は半分以下になりますけどね、普通に過ごせればいいと思いますよ。さようなら」
咲田の最後のセリフは白澄に向けたものだった
白澄にも、昔の友達から連絡がたくさん来ていた。
「普通、人並みの生活、か。……メールを送っておくか」
・・・・・
そして、半年が過ぎた。
歴史の改変はほとんど終わって、国際月面開発機関ですら今は名前通り月面開発のための国際機関になってしまった。
現実改変を動かす司陰の周りにはスパイや監視員がうようよいたというのに、今はもうその事実をほとんどの人が覚えていない。司陰は本当に普通の高校生になった。
昼休み、司陰はテラスで靄と清水とご飯を食べていた。
清水は司陰と同じ高校二年生で、菜小の後輩だった女子だ。
「――――それでね、靄さんに「リンゴを半分に割って」と言ったら、手で握りつぶしてリンゴジュースになったんですよ」
「それ本当ですか!?」
「司陰君、プライバシー!」
相変わらず司陰と靄は一緒に暮らしていて、この二人はそういう二人だと周りからも思われている。司陰も配慮はしているので、靄も本気で怒りはしない。
ところで、変わったことは多いが変わらないものもあり、その一つは靄の握力だった。
「そういえば、春の測定で何キロだったんですか?」
「教えてください先輩!」
「えっと、その、――キロ」
「「……」」
「なんかリアクションして!」
【熱供の短剣】が消えても靄は靄だった。
清水が先に自分の教室に帰ってから、司陰と靄は二人だけで話し始めた。
「あれからだいぶ経ちましたね。まだ復興半ばですけど、この世界はもう立ち直っている」
「なんだかその言い方格好つけすぎ。私から言わせれば、司陰君は甘いけどね」
「どうして?」
「『現実改変』があればもっといい世界にできるのに!」
「それじゃカミナシさんと発想が変わりませんよ……」
カミナシの肉体は災害隊本部のあった地下最深部に埋葬されている。生死は不明だ。確かめる間もなく密かに運び込んだ。
理由は、概念として可能性の収束を司陰には真似できなかったから。つまり、もう一度世界が滅びかけることがあったら彼女の力が必要になる。
できれば頼りたくないが、背に腹は抱えられない。
「カミナシさんは人の一生の何十倍も働き続けてきて、だから今は休ませてあげたいんです」
「司陰君、こういうのはね、きっちり始末しないと後で痛い目に遭うよ。あの人がまたいつか世界を滅ぼそうとするかも」
「そうならないことを祈っときますね」
靄はため息をついた。
「こうやって世界は滅ぶのか……」
「そういうこと言わないでください」
「さあ! こちらが人形桜! そして血で咲いた花!」
「今は夏だから葉っぱしかないよ! そもそもあんた誰だ!?」
「マノという名の通りすがりですよ」
人形桜の下は今日は繫盛していた。
月装研グループと元素機関グループがなぜか偶然たまたまここで邂逅した。お互いたいした面識はないが、弾む話はある
騒がしい様子を、燕尾服をやめてカジュアルな格好のネイトとアステこと菜小が眺めている。
「アステ、あなたはあの馬鹿や私たちに付き合わずに学校に戻るという選択肢もあるのですよ? 同級生たちは今でもあなたを歓迎するはずです」
「分かってます。靄ちゃんも司陰君も優しいから。でも、一度決めたからには元素機関が無くなる日まで務めを果たします。未雨と継琉の分まで私が生きます」
「……いい心がけです。いますぐあのマノから十二番を剥奪してあなたに与えたいぐらいには」
世界から魔装が消えても、元素機関の活動は続く。
真賀丘は人形桜の地上に出た根をノックして囁いた。
「最後の野菜ジュース、双木に渡しといたから。……って、ここにはいないのか」
昼片名義で届いた最後の荷物は野菜ジュースだった。
この先、彼、いや彼女に会うことはもうないだろう。
後ろでは、マノに海瀬が泣かされたり、井倉とネイトが常人には理解できない会話を発展させていたりと、大変騒がしい。
白いコートを着た人間が缶コーヒーを持って人形桜の近くに立ち寄った時、騒がしい集団を発見した。
彼はその騒がしい集団を遠くから眺めて呟いた。
「気楽なものだな」
幻聴か、天の声か。
誰かが「だけど、面白い」と答えた。
【あとがき】
――――「だけど、面白い」と答えた」
キーボードを叩く音が―――。
パソコンの―――には、長い小説のエンディングが――していた。
「なんで俺がこんなことを……。こういうのは――――――――にでもやらせれば――――――。……まあ俺が書いて当然か。これが誰かに見つかったら―――――――――――――」
―――――を―――してから、また―――――。
「この小説――――――――― 理不尽――――」
歴史は――――――――――忘れら――。
彼らの―――ここに―――。
「――――――――――――――――――。『――――――――――――――――――――』と――――――――? ――な。―近――間は――――――く―いと読――――――――。―――――――」
Enter。
『――――――――』
忘―られ――――に――。




