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魔装と月の殲滅戦  作者: ルナモルファス
第九章 現実改変
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六十八話 最後は心

「カミナシさん、あなたは死んだふりをしつつ、昼片司陰という体で活動を続けていた」

「ご名答。同時には存在できないが、どちらの立場も役に立った」


 草陰から気配がする。

 背後から靄を襲ったのは潜土砲手だった。


「何でここに!?」

「靄さん!」


 靄は潜土砲手の体当たりを受けて森の中に飛ばされ、潜土砲手数体がそれを追っていく。

 司陰は逡巡したが、目の前の人物と対峙することを決めた。


「終わらせましょう、カミナシさん」

「君に私が止められるなら、ね」



 ・・・・・



 歪むようにして景色は移り変わり、司陰は夜の街に立っていた。

 最初に月晶体(ルナモルファス)に襲われた夜。笹池小隊長に助けられなければ、死んでいたかもしれない夜。


 月晶体の代わりにカミナシが歩いてきて、司陰の首を締めあげた。

 彼女の瞳は透き通って冷徹に染まっている。月光を浴びた白髪は銀色を帯びつつもどこか暗い。


「君は弱かった。そして今も。人は他人の助けなしには生きられないけれど、君は助けられ過ぎている。笹池が来なければ君はとっくに死んでいた」

「ぐっ、」

「死の間際に及んでも目覚めないとは本当に救いようがなくて、私は少し失望した」


 カミナシの目に慈悲はない。




 そこは下水処理場の近辺。

 司陰はそこで群れの月晶体に襲われた。


「そして君は死を受け入れかけた。自らの魔装に縋ることも足搔き藻掻くこともせず、ただ私の助けを待った。拍子抜けだった。君の両親がどれほど重い愛を君に送っても、君はそれに応えるほどの力はなかった」


 カミナシは光剣で司陰の胸を突き刺した。






 司陰は桜の木の下にいた。

 胸に開いた穴からはとめどなく血が溢れ、当然息もできず、その場に倒れた。


 カミナシは司陰を見下ろして言った。


「最後にここを選んだのは『桜の樹の下には』を思い出したから。この桜の美しさには醜い死体がなければ釣り合わないとあって、私もそう思った。だから、司陰君の死体をここに捧げる。心配しないで、もちろん私も消えるから」


 司陰は限界まで集中して力を集めた。

『現実改変』は司陰の胸を塞いでいく。


「――――死んでどうするんですか」

「もう治ったの? 君は悪い意味で私の予想を超えるね。冥途の土産、いや、真の死の前に教えてあげるよ。君の中で育てた『現実改変』と私の力のすべてを合わせて楽園を作るんだ。誰も苦しまず、誰も悲しまず、無限の幸福だけが人類を包む。死者も蘇り、皆で一生幸せに暮らすんだ」

「ありえない……」

「実現可能なのは君も分かってるよね? 私だけの力だけでは無理だけど、君とならできるんだ」


 カミナシは子供のように無邪気に喜んでいる。

 彼女にとって数万、数十万年来の夢が叶う時が来たのだ。


「なら、どうして今人類は苦しんでるんです?」

「もちろん、対価は必要だ。魔装がそうであるように、この宇宙には膨大な可能性がある。ただし、それは無限ではない。魔装はこの有限の可能性を全て解き明かし、いつかは繰り返される悲劇は終わる。だけど、私は待てない。だから全てを探求しつくす。英雄は戦場で生まれるんだ。人類が滅びるまで戦い続ければきっと終わる」

「いつか終わるなら今でなくてよかった!!」

「今でないとダメなんだ!!」


 カミナシは司陰の声を掻き消すほどの大きな声をあげた。

 彼女の目には先程と変わって涙が浮かんでいる。


「今でないと、私は弱くなりすぎる。私も感覚を失い始めていて、もはや味覚のうち甘い味が分からない。血が出ても、骨が折れても、痛みはない。この無感覚という病は、恐ろしいほど早く私を蝕んで衰えさせる。そして、この世から消えさせる」


 昔、仲間が飲んでいた甘ったるい飲み物の味。

 カミナシには分からない。


 と、遠くで轟音が鳴った。

 靄と潜土砲手が戦っている。


「ああ、月晶体(ルナモルファス)日晶体(ソラモルファス)、彼らは馬鹿だった。彼らは争い続けて自らの惑星を荒廃させ、それでも戦いをやめなかった。日晶体(ヒュドラ)はループする次元に気づいて私に地球に住みたいと願い、その傲慢さを改めさせるために私はそれを十に割った。(ヒュドラ)はやがて反旗を翻し、君の両親は戦って果てた。私はヒュドラの現実改変のプライマルセルを君に与えたが、それは本当に良い結果となった」


 カミナシは天を仰いで言った。


「ありがとう」






 司陰の胸の内。

『現実改変』には光剣の形の楔が撃ち込まれ、どうにもできなかった。


 いや、何かが揺蕩っている。

 黒と紺の銃はエネルギーのすべてを銃口に結集させて、その身を構成する力さえ尽くし、楔を壊す弾を作り上げた。


「――――それを撃ったら壊れて消える」


【紺黒の銃】は司陰の心の現れ。

 でも、それは自壊も厭わなかった。


 漆黒の弾丸が発射された。

【紺黒の銃】は砕けて二度とは戻らない。

 そして、弾丸は楔を完全に破壊した。








 司陰が起き上がる。


 カミナシは驚いて光剣を再度突き刺そうとした。

 だが、弾かれた。


「なんで、」

「また、助けられたんです」

「ふ、あははは、面白い。でも、もう終わりの時なんだ!!」


 百万本の光剣が一点を目掛けて飛ぶ。

 それを、横から熱と光の放射が焼滅させた。

 靄が向こうに立っている。


 カミナシは何度も光剣を振るうが司陰にかすり傷一つ付けられない。


「どうして!? 私は待ち続けた! 乗り越えた! 背負い続けた! なのにどうして!?」

「カミナシさん、あなたは弱い!!」

「何が!!」

「あなたの原点は家族の喪失だ!!」


 カミナシがよろめく。

 司陰は言葉を止めない。


「あなたは家族を取り戻したかった!! あなたは仲間を救いたかった!! あなたは理不尽な世界を嫌い続けた!! 受け入れなかった!!」

「違う!! 私は皆を救うんだ!!」

「楽園ができてあなたが消えたら、悲しむ人間がいるだろ!!!!」


 最後の光剣が地に落ちた。

 カミナシの目から涙が地面に零れた。


 それを見ながら、司陰は背後の靄に質問した。


「靄、みんなに会いたい?」

「もちろん会いたいよ。未雨、継琉、城島先生、それと私のお父さん。みんな大切なひと。でも、楽園で再開してもきっと喜べない。『現実』を粗末にしたら、みんなに笑われる」


 偽物の城島も、司陰の正しさを肯定している。

 みんなが司陰の背中を押している。


 司陰は城島からもらった晶化銃を握った。


「カミナシさん」

「……」

「あなたの負けです」

「そう」


 銃声一つ。




 今は寒風吹きすさぶ冬枯の季節。

 桜の木の下には紅の絨毯がひかれていた。



 ・・・・・



 私は神を信じない。

 合理的でなくてもいい。神が無いと信じることの、何がいけないんだ。


 私は神無しだ。

 それ以上でもそれ以下でもない。

 辛い一生を送ってきた。それももう終わる。

 ……。


 辛い一生だったのだろうか?




 気づけば満開の桜の木の下に立っていた。

 思い出した、ここは最初の私が自殺した場所だ。桜の樹の下の死体とは私だったんだ。

 なんて間抜けな話だろう。仲間にも顔向けできない。

 ……どうしよう。

 このまま消えるまで待ち続け……。


 幻聴が聞こえる。

 聴覚までおかしくなってしまった。

 他に誰もいないはずなのに、足音が聞こえているんだ。

 存在しないはずの両親の声が聞こえるんだ。


「おかえりなさい」

「今まで会えなくてすまなかった」






 ……どうして胸に温かみを感じるのだろうか。

 どうしてこんなにも振り向いてみたいのだろうか。

 あと一話。


 最後までお付き合いください。

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