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魔装と月の殲滅戦  作者: ルナモルファス
第九章 現実改変
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六十七話 There Is (Not) Answer

 黒球内部。

 あらゆる攻撃を無効化した不思議な空間の内部に司陰と靄はいる。そこは半透明で不安定な足場と空気の他には何もない。

 誰もいない。


「これは……?」

「やっぱり囮だ」

「やっぱりって……?」


 司陰にはもう分かっていた。答えはここにはない。

 なぜなら、彼/彼女は待つだけでいいのだ。

 日晶体(ソラモルファス)によって人類の文明が荒廃して崩壊するまで、既に秒読みが始まっている。


 と、ヘリの音がする。

 二人が黒球の外を覗くとなんだか覚えのある魔装の雰囲気があった。


「「青葉さん!」」

「そろそろだと思いまして、迎えに上がりました」



 ・・・・・



 生前、城島は災害隊員の長らしく秘密を固く守っていた。特に、カミナシと元素機関に関わることは噓発見器すら躱せるほどに訓練していたほどだ。

 そんな彼にも真実を打ち明けておいた部下が数名いる。

 それが白澄陽助、真賀丘則人、青葉航貴だった。


 青葉の魔装の風に運ばれ二人はヘリに乗り込む。


「どこに行きますか?」

「死体のある場所を探したいんです」

「死体、ですか」


 靄が「あの人の?」と司陰に耳打ちした。司陰は頷いて返す。

 偽物の城島の最後のセリフは文脈を考慮してカミナシのものを示しているはずだ。


「と、いいますと、目的地は例の大穴の場所でしょうか?」

「それが、そこまで簡単な問題ではない気がしてるんです。だって、そもそもヒントがなくたってあの穴には注目が集まるはず」

「確かに、あの穴について調査が進んでいますが、今のところ何も手掛かりは出ていませんね。再調査に値するのか疑わしいものです」


 ヨオスクニから警告音が鳴る。

 見上げた空には竜の身体のように広がった日晶体が真相追及を妨げるかのごとくヘリを待ち構えていた。


「味方……ではありませんね」

「エノン……」


 災害隊本部の焼却をやめてわざわざやってきたのか。

 それとも本部はもう灰燼に帰したのか。

 いや、ヨオスクニが鳴るなら本部は無事だろう。


 青葉の【空繰りの旗】が輝くと、ヘリは急激に加速して超音速をもってエノンの下を突っ切ろうとする。もちろん、エノンは天罰(レトリビューション)を空域全体に張り巡らして突破を防ごうとする。

 掠れば終わり。だが、全く当たらない。

 神懸かった操縦スキルと正念場での危機回避能力が全てを避けさせる。


 それでも消耗は避けられなかった。

【空繰りの旗】は風を失ったように垂れはじめ、青葉の呼吸が荒くなってくる。


「青葉さん、それ以上は、」

「いえ、役目は果たします。あなたたちを送り届けなくてはあの人に笑われてしまうではないですか」


 天罰の空間への薙ぎ払い。ヘリは急降下して、中の人間は無重力状態になる。

 次は左右からの挟撃。ヘリはさらに加速して隙間を潜り抜ける。

 だが、メインローターのローターブレードに掠ってヘリは急速に高度を落としていく。

 日本列島はもう見えているのに、陸地がとても遠かった。


 次のエノンの攻撃は全方位攻撃だった。

 もはや逃げられない――――。




 全方位の天罰(レトリビューション)が消失する。

 ヘリと陸地の間、海上には一隻の軍艦がいて、その甲板にはヴェラ博士が立っていた。

 その少女が手を空にかざすと、エネルギー光線は全て幻のように消えていく。『月霧(Lunar Fog)』がヘリを守っている。


「昨日の敵は今日の友、ってね」


 エノンの天罰(レトリビューション)が軍艦一隻に集中して放たれた。

 ぶつかり合うエネルギーが水を巻き上げ白い水滴の集まりが辺りを覆い隠した。




 軍艦は濃霧に覆われて視認できない。

 青葉は安否の分からない軍艦を見て覚悟を決めた。


「お二人さん、ここまでです。私の【空繰りの旗】を持ってヘリから脱出してください。魔装があなたたちを導くでしょう」

「そんなことをしたら青葉さんが、」

「死んでも城島司令と同じところに行くだけです。今更怖くありません。さあ、扉を開いて」


 開かれた扉から冷たい風が吹き込む。

 司陰が靄と一緒に【空繰りの旗】を握ると、それは最後を告げるようにいっそうたなびいて見せた。


「お世話になりました」

「私も、お世話になりました」

「いえいえ。そうですね、最後に一つお願いしましょうか」


 青葉は感謝を受け取ってから、迫る天罰の前に言った。


「その魔装には大地と花の匂いを与えてあげてください――――」


 猛烈な風が二人を襲う。

 そして、それを【空繰りの旗】が和らげつつ、慣性を活かしながら二人は最後の場所に滑空していった。


 大きな爆発音が響き、すぐに温かい風が二人を押して運んでゆく。



 ・・・・・



「死体、花、そしてあの家」

「第四十支部、私たちのふるさと。ずいぶん荒れちゃった」


 戦いの爪痕は凄まじく、インフラはとことん破壊され、もう人の気配が残っていない。

 みんな安全な場所へ逃げていき、ここは廃墟も同然になった。


【空繰りの旗】は輝きを失い風も消え、二人が地面に足を付けると役目を終えたのかたなびくことは無くなった。


「どこまで持って行くの?」

「もちろん、最後の場所ですよ。靄さんも縁ある場所に」

「季節外れだから蕾があればいいぐらいだけどね」




 枯草色の大地を踏みしめながら進む。その先には桜色の絨毯。狂い咲きする人形桜の下には、誰かが立って花見をしていた。

 司陰が【空繰りの旗】を地面に刺すと、それは崩れて消えた。


 この人はこんなご時勢に優雅に花見を楽しんでいるのだから呑気なものだ。みんな血眼になって捜索し続けているというのに。

 いや、立場的にもここにいてはダメな人だ。災害隊本部にいて指揮をとるべき人だろう。

 ヨオスクニに任せればどうとでもなるが。




「――――お疲れ様」

「俺はまだまだ戦えますよ。あなたもですけど。そうでしょう、昼片司陰司令官。いや、カミナシさん」

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