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魔装と月の殲滅戦  作者: ルナモルファス
第九章 現実改変
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六十六話 再誕せよ

「飛ばしますよ!」

「了解です!」

「無理無理ちょっと待って心の準備が――――いやあぁぁぁぁ!?」


 靄と海瀬が軍用ヘリから打ち出され、光の巨人目掛けて高速で飛んでいく。

 重力を無視して一直線に飛んでいく様は不思議なものだが、それを見ている人間たちが思うことは一つ。


 成功への祈りだ。



 ・・・・・



 司陰にとって大事なものは何か。

 そんなことは暇な時に考えればいい。


 今司陰が知るべきは彼女の正体だ。






 司陰は森の中にいた。

 土砂降りの雨が全身を打ち付けている。


 前を誰かが走っている。

 傘も持たずわき目も振らずに走り続けて、何かから必死に逃げているようだ。


 その人の背後からは黒い塊が追走していて、見るだけで忌避すべきものと分かるおぞましい何かがまさにそれだった。


 黒い塊はやがて追いつき、その瞬間人が一人その世界から消えた。




 次に司陰がいたのはとある一軒家の前だ。司陰にはよく見覚えのある、彼が住み慣れていた家と全く同じ外装の一軒家だ。

 困惑する司陰の肩を誰かが叩く。


「久しぶりだな」


 声の主は城島だった。


「えっと、久しぶり? ですか」

「ああ。城島安吾は死んだから、ここにいる私は偽物だ。だが、お前に真実を伝えることはできる」

「偽物っていうのは……」

「まあ、夢みたいなものだ」


 偽物の城島は誰かをここで待っていて、その人が来るまで司陰の話を聞いてくれるそうだ。


「さっき森の中で誰かが追いかけられてたんですけど、あれは誰なんですか?」

「そいつがオリジナルの昼片司陰だよ」

「えっ? えっと……昼片ってことは今の司令官の?」

「後任のことは知らないが、そいつとは別だ。オリジナルの昼片司陰はあの場で死んだ。そして、カミナシのような所謂転生者になることを拒否した。だが、あらかじめ定められた理を覆すのは難しい。昼片司陰の意識の一部は乖離して、人類の思念と混じり合い、やがてカミナシという存在しないはずの人格が誕生してしまった。それは次の世界で肉体を得て、彼が生まれた」


 城島の指差す先から少年が歩いてくる。

 虚ろな目はまさにこの一軒家だけを映していて、玄関までたどり着くとドアノブを引っ張った。

 ドアは開かない。


「あの人は誰ですか?」

「カミナシだ」

「はい?」


 少年はリビング側に回り込み、カーテンの隙間から室内を覗いた。

 中では家族と『少年』が楽しそうに話している。

『少年』は少年と全く同じ顔で全く同じ体格で、全く同じ笑い方ができた。


 少年の唇は家族を呼ぶように動いていた。




 場面はそこで暗転した。

 その場に残ったのは司陰と城島のみ。


 司陰は胸が苦しくなった。


「……あれを見て、なんとなく分かりました。自分が二人いる状況が起こったんですね」

「そうだ。あの少年は絶望してあの後自殺し、名前も人格も体も何もかもを捨てて別人として世界に降り立った。それがカミナシで、それが彼女の原点だ」

「なら、カミナシさんは自分を絶望させた世界を壊そうとでもしているんですか?」

「違う」


 背景が街中に変わった。

 司陰のよく知る姿のカミナシが路上で誰かと話している。


「カミナシはウ―シェンルンに誘われて百回同盟に加わり、この世界の理を探った。要するに、神を探そうとした。その結果、彼女はこの世界で最も神に近づいた」

「どうして?」

「彼女は特別だったからだ。神は科学的でない。それは存在の証明も非存在の証明もできないからだ。なら、本来存在せず、かつそこに確かに存在する彼女はいったい誰だ? まさに神そのものだろう」




 再び暗転する。


「時間切れだな」


 城島は名残惜しそうに言った。


「どこに行くんですか?」

「どこか遠い場所だ」


 城島はもう司陰のことを見ていなかった。


「俺は、これからどうすればいいでしょうか」

「答えてやりたいが、私にはできないことだな。ただ一つ助言をするなら、何が正しいかは自分で決めろ。『元素計画』が完了したら、楽園はできるかもしれないが、カミナシは消える。もちろん今の人類も絶滅する」


 司陰は硬直する。

 カミナシは消える、ということは、カミナシはまだ生きているのか。


「城島さん、カミナシさんは今どこに――――」

「おっと、迎えが来たな。それでは、さようならだ」

「待って! っ、ありがとうございました!!」


 城島が急速に遠ざかっていく。

 城島は消える最後に何かを叫んだ。


「死体を探せ!!」


 元司令の気配が消えた。



 ・・・・・



「到着!」


 やけに滑らかな地面に靄と海瀬は着いた。

 結晶質の大地を踏みしめ、靄は大声で呼びかけた。


「司陰君!! 聞こえたら返事して!!」

「私もいますよ!!」

「叶深さんは黙って!」

「なんで!?」


 声が枯れるまで二人は叫び続ける。

 こんなことならメガホンを持ってくるべきだったと海瀬が思う横で、靄は声を出し続ける。

 愛は恐ろしい。


「――――ぁ」


 二人以外の誰かが話そうとしている。


「司陰君!? 聞こえたら返事して!!」

「――――ちょっと、待ってください」


 祈りは届いた。


「――――よし、いける」

「何が?」

「飛んでいくんですよ」

「どこへ?」

「黒い球へ!」


 光の巨人の巨体が収束していく。天まで伸びる結晶体は靄と海瀬の辺りを中心にどんどん収縮と集合を繰り返す。

 球状になったところで、今度は銃の形に変化していく。黒と紺の大きな銃。【紺黒の銃】の巨大版が太平洋上に完成した。


 靄と海瀬は銃身の中にいる。

 海瀬は震えだした。


「あの、何がこれから起こるの?」

「発射します。俺は後から飛びます」

「待って! もう飛びたくないの! というか、黒球と接触したらまずいでしょ!」

「なんですかそれ? あの球に触ったらまずいって誰が言ったんですか?」

「……さあ?」




 海瀬を東京に向けて発射した。

 死ぬことはないから安心だ。


 今度は二人の番。


「すぐに返事してくれなかったの恨むから!」

「いや、そんなこと言われても……すみません」

「もう……。おかえり」

「ただいま」


 謎を解くには時間が惜しい。

 世界の知らぬところで物語は急速に進んでいた。

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