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魔装と月の殲滅戦  作者: ルナモルファス
第九章 現実改変
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六十五話 現れよ

 地球の天気は対流圏内の現象だ。

 対流圏の高度は上空十キロメートルまで、そしてそれが光の巨人の身長だ。


 巨人の一歩は地震を起こす。

 巨人の進行はモーセのごとく海を割って津波を起こす。

 溢れる熱気は上昇気流になって巨人の頭に傘を付けた。




 巨人の進む先、太平洋上には大きな黒い球体があった。



 ・・・・・



 災害殲滅隊本部の会議場内は紛糾していた。

 突如現れた太平洋上の黒球に光の巨人がたどり着いたら、一体何が起こるのか。光の巨人がたどり着くまであと一週間。人類の滅亡が近いのではないか、と思わずにはいられない人間が多数だった。


「――――今すぐ国際月面開発機関(ILDO)と連携して黒球に攻撃するべきだ! 歩く災害が目指すさきがあれなのだ、接触を許すべきではない!」

「落ち着いてください。魔装研、月装研、月晶研、いずれも光の巨人があれと接触することによる影響の評価を未だにしかねる段階です」

「だからそんな悠長な暇はないんだ! 我々には考える時間が残されていない!」


 ほとんどの人間はこの男性の意見に賛成だった。


 会議場内にいるのは災害隊員だけではない。自衛隊関係者や他国の軍関係者までがテーブルについている。そして、皆一様に得体の知れない不安を覚えている。

 なぜか、それは反撃能力が日に日に失われているからだ。かつて天罰(レトリビューション)と呼ばれた月晶体を焼く光は、今は地球上のありとあらゆるミサイル発射基地と空軍基地を灰に変えている。幸いなことは原水爆が起爆しなかったことだが、もはやそれを喜んでいる人間はいない。


 追い詰められた状況で、紛糾する原因はただ一つ。

 別の意見があるのだ。




 少女が立ち上がった。


「――――誰だ?」

「知らないのか、災害隊の大隊長だよ。咲田美明の後継だ」

「若すぎるな」

「この面子の前で話すつもりか」


 疑いの視線を跳ね除けて、靄は壇上に立った。

 昼片司令と白澄大隊長が彼女に発言の機会を与えてくれた。


 司陰のことを思いつつ、靄は緊張を殺して声を上げた。


「私は、作戦を提案させて頂きます」


 会議場がどよめく。


「光の巨人を生み出した押山司陰を回収して停止させます。その後、黒球内部に直接乗り込んですべての異常の原因を排除します」


 これは未だに煮詰まりきっていない案だ。そもそも司陰を回収できるのか、できたとして止まるのか、黒球の中に何があるのか。不十分な提案に会議場内では怒号すら響き始めた頃、大きな揺れが会議場とその中の全員を襲った。

 まるで冷や水でも浴びせられたかのように静まる会議場に、外で待機していた災害隊員が駆け込んできて言った。


「緊急です!! 天罰(レトリビューション)が本部直上に照射されています!!」








「――――で、そんな曖昧な作戦が実行に移されたと」


 真賀丘が靄を揶揄った。

 米空母内の船室で彼と靄は話しているのだが、これまでずっと本部の独房に拘束されていた彼は再びの狭い部屋に機嫌があまり良くなかった。

 もっとも、今は文句を言ってられる状況でもない。


「なんとかするのが真賀丘さんたちの仕事だったはずです」

「確かに、ということで作戦は練った。特注の大型晶化散弾銃で光の巨人に風穴を開けて、そこから君が内部に侵入。そこでとにかく彼に呼びかければいい」

「……すごく成功が疑わしいですね」

「そうでもない。ヨオスクニは成功率50パーセントと試算してる」

「つまり二回に一回は失敗すると」

「そして僕らに二回目はない」


 特注晶化散弾銃のための弾に使う月の石は一回分しかない。なんでも、昼片司令が第一隊に命じてとある組織の違法輸入品を押収させたらしい。それと米中露から譲り受けた分を足してようやく目標量に達した。

 そして魔装研の技術の粋を集めれば兵器は完成した。


「光の巨人にコアはない。つまり、動きを止めて司陰君の精神に呼びかけるしかない。彼が呼応しなければ……まあ、僕か新司令の首が飛ぶ。そうなったらあとは国際月面開発機関に任せるしかない」

「司陰君は、返事してくれるはず、です」

「僕もそう思う。ここは一つ、人類の命運を情に賭けてみよう」








 光の巨人は歩く災害なので、船も航空機も近寄れない。

 なので、限界までヘリで接近してから魔装で射出して送り込む。その穴をつくるための大型晶化散弾銃はミサイルに無理やり搭載して熱気を突破する。無茶は承知で行う作戦だ。


 回収する方法はないので、司陰を呼び出せなければ送り込まれた人員はそのまま死ぬ。だからといって靄一人に任せられる任務ではない。

 そこで、もう一人災害隊員が同行することになった。


 と、真賀丘が連れてきたのは海瀬叶深だった。


「チェンジ!」

「なんで!?」


 海瀬は心外だという様子だが、靄からしたら冗談ではない。

 ただでさえ同行者はいらないと思っているのに、なんで半分非戦闘員みたいな人を連れていくのか。


 泣きそうな海瀬に代わって真賀丘が説明する。


「これでもね、この前のいろいろの時には戦ってたんだよ。これでもね」

「これでもってなんですか!?」

「肉壁には使えるかも」

「ねぇ!?」


 戦闘を経験しても気性が変わらないというのはある意味才能かもしれない。


 それに、()()が必要なのは靄もはっきり分かっている。

 ただ、やっぱり自分が誰かの特別でありたいと思ってしまうだけなのだ。



 ・・・・・



 ミサイルは恙なく射出された。

 原理的には月晶体(ルナモルファス)が晶化ナイフで固化するのと同様に、光の巨人は着弾地点から結晶に変わっていって、ヨオスクニの計算通りやがて全身がその場で停止した。熱気は相変わらずあるが耐晶コートを着た魔装使いなら耐えうる。


 賽は投げられた。

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