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魔装と月の殲滅戦  作者: ルナモルファス
第八章 揺らぐ未来
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閑話 押山司陰が生まれた日

 司陰はまどろみの中にいた。


 ぼやけた視界の先には、誰かの記憶が覗いている。



 ・・・・・



 最初は病院だった。

 出産を控えた母親がお腹を大事そうにさすっている。


「――――生まれるの?」

「もちろん。元気な男の子だそうです。この子のためにも、カミナシ様もぜひ触ってください」

「私からもお願いします」


 カミナシ、と呼ばれた白い髪の女性は恐る恐る手を伸ばした。母親の膨らんだお腹は鼓動するように上下しており、触れた手を優しく押し返している。

 彼女がその感触を不思議そうに確かめているのを見て、子の両親は安心したようにしんみりと話し出した。


「死にかけのところを助けてもらって、こうして私とこの子の命があるのはカミナシ様のおかげです」

「こんな人並みの幸せを享受できるなんて、いくら感謝してもしきれません」

「……照れ臭いからやめてよ」


 カミナシが珍しく照れているので両親にも笑顔が浮かぶ。

 彼女はほのかに顔が赤くなって、二人から目を逸らしてしまった。


「カミナシ様にも可愛いところがあるんですね」

「まるで酒が入ったみたいで。赤ちゃんには慣れてないんですか?」

「からかわないでよ……」


 三人で幸せを共有して、笑い合う。

 それはとても楽しい時間だった。


「あの、カミナシ様」

「何?」

「この子に、『司陰』と名付けてよろしいでしょうか――――」






 次は船の上だった。

 カミナシと話しているのは城島安吾だった。


「――――何人生きて帰れるんだ?」

「『時空の天災』を殺すなら、南極に集結した魔装使いの最低でも九十パーセントは命を落とす」

「……嫌な真実だな」


 南極大陸の厚い氷床には黒い雲がかかり、接近するものを阻んでいた。

 揺れる船の甲板で、二人は雲の中にいるものを見ていた。


「ヒドラを倒さないと人類は滅ぶ」

「倒してもいづれ、そうなるだろう」

「……その通り。でも、人間にとって魅力的な選択は今生存を勝ち取ること。将来は現在のおまけにすぎないと、歴史は証明し続ける」


 城島は嘆息した。


「誰かにしわ寄せがいく世界なんて碌なもんじゃない」

「だから私が変えるんだ」






 最後は墓場だった。

 一人の少年がカミナシと手を繋いでいる。花が手向けられた墓の前で、二人は祈りを捧げた。


「どうして花を置くの?」

「大切な人がここにいるから」

「いないよ?」

「目には見えないんだ」


 カミナシは少年を優しく諭した。


「両親は好きかな?」

「うん。今は遠くに行ってて、でもすぐに帰って来るって」

「そうだね。帰って来るよ」


 その少年には墓に刻まれた二人の名前は読めなかった。

 もし読めていたら、未来は変わっただろう。


 時空の天災との戦闘で、少年の両親は鬼籍に入ったのだ。




「司陰君、両親を迎えに行こう」



 ・・・・・



 司陰は夢を見ている気分だった。

 だが、夢だと思ったそれが事実だった。


 いや、事実は司陰の認識下にあって、まさしく彼の両親は存在していたのだ。




 夢から醒めた今、司陰は大切な人を失ってしまった。

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