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魔装と月の殲滅戦  作者: ルナモルファス
-七章 百回同盟
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前編 徒然なるままに

 生まれ変わることに意味はあるのだろうか。




 何かを得られるとして、それは喪失の哀しみに勝るのだろうか。

 やり直せるとして、それは過去を書き換えることになるのだろうか。

 記憶を引き継ぐとして、無垢でない生き方は幸せなのだろうか。




 自分を嫌いにならずに生きれるのだろうか。



 ・・・・・



 目の前を行き交うのはたくさんの人。

 スーツを着こなし真面目な顔で歩く人やカジュアルな服装でこれから買い物でも楽しもうとする人。


「あの子誰? 芸能人?」

「私は知らないかな」

「お前ナンパしてこいよ」

「いや、流石に無理だろ」


 私は週に数回モデルの仕事をこなして、暇な時間はずっとここに立っている。碌な繋がりを持たない私だけども、人ごみに紛れていれば人と繋がっている幻想を持てる。


 そして、変わらない彼らを今日も変わらず眺め続ける。






「ねえ、あなた」


 背後から誰かが肩を叩いた。

 その人はナンパしに来た人でもなければ職務質問に来た警察でもないらしい。

 そんなことは何十年ぶりだろう。


「なんでしょうか」

「あなたこそ、こんなところで何してるの? 暇なら、私とお茶でも付き合ってよ」


 綺麗な人だった。

 自身に溢れているようで眩く見える。化粧を剥いだってこの輝きは消えないに違いない。私の無為な毎日と比べて充実した生活を送っていそうな人だった。


「ほら、早くついてきて」

「待って、」


 ただ、かなり強引な人だった。私の手を掴んでどこかへ連れていく。助けを呼んでもいいが、そういう気でもない。

 きっと、こんな日を待っていた。




「――――あなた、輪廻転生とかって興味ある?」

「宗教勧誘ですか? なるほど、人生の意味を宗教に求めるのもいいですね」

「違う。真面目に聞いてるの。あなた、死んだことはある?」


 この女性はカフェに入って飲み物を注文すると、すぐにこんな質問を投げかけてきた。

 壺でも買ってほしいのかと思ったが、違うらしい。


「ありますよ。ほら、ちょうどこのカフェの前の交差点で車に轢かれました。痛かったです」

「ちなみに何回?」

「数えてません」

「じゃあ、少なくとも四回以上ね」


 この女性は見るからに甘ったるそうな桃色の液体で喉を潤すと、続けた。


「自己紹介がまだね。私はウ―シェンルン。百回同盟っていう転生者の集団のリーダーをやってるの。あなたに声をかけたのは他でもない、勧誘のためよ。転生者は記憶を引き継いで生まれ変わり、積み重なったストレスがやがて感覚を摩耗させて死に至る。そして、世界から存在をなかったことにされる。私たちはそんな運命を変えたい。だから同じ境遇の人間を集めていて、あなたにも、」

「入ります」

「えっ?」

「だから、入ります」


 ウ―シェンルンと名乗る女性は驚きを隠せないでいる。


「まだメリットとかほとんど告げてないわよね?」

「あなたは、洞穴で一生過ごすのと外界に出るのとならどちらを選びますか?」

「外界よ」

「そういうことです」


 私には連続性がない。

 戸籍はあるが、親も親族もない。

 家はあるが、購入記録はない。

 この私を証明するのは今存在する私のみ。


 きっと、存在意義を渇望していたんだ。








 ここは先日と同じカフェ。

 麗しのリーダーは誰かを連れて私に会いに来た。


「私はもうすぐ上海に飛ぶ。資金調達のために欠かせない仕事なの。だから、新人に教育係をつけることにしたの。ほら、挨拶」

「……」

「こいつは私が留学生時代に知り合ったんだけど、全然コミュニケーションをとってくれないの。能力はあるくせにシリコンヴァレーじゃなくて人生の谷底で暮らしてる、言ってしまえば宝の持ち腐れ。あ、名前はゴッドレスとでも呼んで」


 ゴッドレスというのは目の前の男性だ。

 前髪が邪魔で見づらいが、間から覗く眼は透き通るような青色で綺麗だと思う。ただ、視線は机の上だ。話し手を見る気はさらさらないらしい。


「シェンルン、この人役に立つの?」

「だって。あなた新人にまで能力疑われてるわよ」

「……仕事はする。だが、あまり人と関わりたくない」

「はー、本当に。故郷に帰って家族とでも過ごしたら? 仲は悪くはなかったはずよ」

「……日本はいい国だ。もうあの国には帰らない」


 シェンルンは呆れて早々に席を立ってしまった。

 私はどうやらこの根暗そうな男に指示を受けなければならないらしい。


「日本はそんなにいい国?」

「犯罪が少なく、食べ物に困らず、福祉が充実して、教育も平等に受けられ、俺のような底辺にも優しい。申し分ないだろう」


 ゴッドレスも席を立った。


「どこ行くの?」

「帰る。会計はシェンルンが済ました。後は好きにしろ」

「教育は?」

「……気が向いたらな」


 ゴッドレスはポケットからサングラスを取り出してかけると店を出た。今日は曇りだ。彼はちょっと変なのかもしれない。

 私は後をつける。


「……なんでついてくるんだ?」

「教育は平等に受けられるんでしょ? まさか役目を放棄するわけないもんね?」

「……ふん」


 ゴッドレスは鼻を鳴らすと私の行動を容認した。


 これはシェンルンから学んだことだが、人間は多少強引に行動した方がいい結果を得られるらしい。








 ゴッドレスの家は都心から結構離れた場所にある一軒家だった。

 庭の草が伸び放題なのは彼らしいだろう。外装も内装も特筆すべき点がない。


 玄関に入ったところで彼がまた口を開いた。


「興味本位で来たなら帰れ」

「嫌だと言ったら?」

「……女が一人暮らしの男の家に行くものではない。襲われるぞ」

「そんな度胸があるの?」


 彼は言葉に出さなかったけれど、お茶を入れて出してくれたのはそういうことだった。




「次の作戦はここだ。なんでも、医薬品関係の人間がたくさん集まっているらしい。精神状態の変化による理への影響は未知数だから、ここで抑えてしまおうという話だ」

「直談判でも?」

「そのつもりだ。だが、」


 彼はタブレットの別のタブを開いて見せた。


「警備が堅いんだ」

「ああ。だから手荒な真似はしたくない。暴力には頼らず、話し合いでどうにかする」

「コミュニケーションがてんでダメな人間が話し合いを?」

「俺はできない。だからお前がいる。せいぜい頑張れよ」


 彼はタブレットを片づけると二階へ上がろうとした。

 私もついていこうとするが、意識が朦朧としてカーペットに倒れこむ。

 床は少し埃臭い。


「……気を付けておくんだな」


 睡眠薬をお茶に盛られたらしい。

 彼の足音が遠ざかって……。

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