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魔装と月の殲滅戦  作者: ルナモルファス
第七章 過去、過ぎ去りし惨劇
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五十話 元素機関、人類に光をもたらす灯り

「みんな、俺はこれからも戦い続けます」

「誰と話してるの?」

「わあぁ!?」


 司陰は幻聴でない声に呼びかけられて叫びながら腰が抜けた。


 なんてことはない、司陰が朝早くから走っているのを知って靄もついてきたきただけだ。

 靄は司陰同様に走るのに向いたラフな格好で、制服のスカートと違って足の露出面積が大きいズボン姿に、司陰は奇妙な感覚を覚えた。


「何?」

「いや、靄さんは足を出す格好はあまりしてなかったと思って」

「そう……かもしれない。そんなに私の生足が見たいの?」

「ではなくて! 単なる好奇心ですよ。ほら、好奇心は猫も殺すってイギリスのことわざがあるでしょう?」

「じゃあ司陰君死ぬじゃん」


 靄が伸ばした手に司陰は掴まって起こしてもらう。

 朝の冷気に当てられて、靄の手は冷たく、そしてほんのり温かかった。


 靄は司陰の顔に若干の憂いを認めると、彼女の両手で司陰の両手を握りしめて言った。


「……不謹慎かもしれないけどさ、司陰君はきっと未雨、継琉、そして先生に励まされてる。死者の思いはいい薬になるけど、それは毒と紙一重だと私は思ってる」

「毒、ですか。俺は今蝕まれていると?」

「そこまでは言わないよ。でも、今の司陰君は昔の私と同じ。助けがなければ、やがて潰れて死ぬ」



 ・・・・・



 司陰は靄の言葉を反芻しながら帰宅した。

 靄は気遣って、あまり話しかけてこない。


 玄関に入ると、朱柚がニヤニヤしながら現れた。


「おやおや、今朝はお楽しみでしたね」

「私、今日はお月様の血の色が見たい気分」

「すみませんでした」


 朱柚は脱兎のごとく逃げ出した。


 靄は追いかけようとして、その前に司陰の手を掴んだ。


「元気出してよ。怪我も治ったんだし、朱柚ちゃんを見習って」

「彼女、父親を失ってるのに元気すぎるような……。死んでも切れない親子の信頼でもあるんでしょうか?」




 司陰はテレビを点けた。


 テレビの画面に映っているのは国会議事堂前で(ひし)めく群衆。手にはプラカードと幕を持って行進し、その異様さと迫力に報道陣まで気押されている。


 そして、靄は物珍しそうに画面を見ている。


「家に籠ってればいいのに。元気な人たちだね」

「参政権の行使は大事ですよ。権利の上に眠る者は権利を失いますから。仕事休んで他人に迷惑かけるのも、彼らなりの不断の努力です」

「それはそうかもしれないけど、私たちは命懸けて戦ってるのに、随分平和な不断の努力だね」


 靄はデモ隊を快く思っていないみたいだった。テレビの先で誰かが叫ぶ度に、忌まわしそうにそれを見ている。


「何かあったんですか?」

「私の父親に、ね。人助けだけが生きがいみたいな人だったから。勝手に避難命令を無視して取り残された人間のために、私のことを放って助けに行って、それで今は『災害殲滅隊及び関連項目について』の巻末に名前が載っちゃった。助けに行く義務もなかったのに、他人の我儘に殉職したの」

「それは……すみません」

「なんで謝るの? あの時私の誘いを断ったならともかく、魔装を手に取った司陰君には少しも恨みはないのに」


 靄はうつむき気味な司陰に近づいて、彼の顎を掴んで上を向かせた。

 司陰から見る靄の顔は、やはり少し悲しげだ。


 と、朱柚がリモコンでニュースを変えた。


『――――あっ、今降りてきました。今タラップを下っているのが、連日報道している災害殲滅隊という組織の代表である昼片司令官です。この後、会場へ移動したのちに世界へ向けた記者会見が行われる予定です。そこでは組織や月晶体(ルナモルファス)という生命体についての詳細が語られるとみられており、――――』


 司令官が変わったのだと改めて思い、司陰は心にチクリとした痛みを覚えた。

 昼片、下の名前は分からないが、そういえば咲田大隊長がこんなことを言っていた。


『……そうですか。……これは真賀丘則人から聞いた話ですが、少なくとも押山、あなたに彼は会っているそうですよ。しかも四月、あなたの入隊以降に』


 今テレビの画面に映る男性に司陰は心当たりがない。

 勘違いか、司陰の物忘れか。


「っ!」


 画面の昼片の横顔を凝視していた時。

 彼は立ち止まり、司陰の方を向いて笑った。








「どうかしましたか?」

「いえ、見知った人がいまして」


 急に立ち止まった昼片司令に、羽賀大使は声をかけた。

 羽賀はこの後アメリカに戻るので空港に長居はできないが、新しい司令官の知人には興味があった。


「誰でしょう? 隊員の方ですかな?」

「そうですね。見込みのある新人です」

「ほう、大隊長を目指せるような、ですか?」

「大隊長では足りない、世界を動かす人間になりますよ」


 羽賀はその言葉を聞いて頷いた。


「あなたがそう言うならきっとそうなのだろう。ところで、前司令の葬式はいつですかな? お世話になったものとして、私も是非参加させていただきたい」

「しませんよ」

「はい? 御冗談を。あのヴェラ博士と並ぶ偉人ですぞ。むしろ国葬にしてしかるべきでしょう」

「遺体がありませんから、今も行方不明扱いです。ヨオスクニの不具合で、死亡記録も保存されておらず」


 羽賀の顔が曇った。

 ヨオスクニが公表されている全世界のスーパーコンピューターのスペックを何十倍も上回っていることは、羽賀も知っていた。不具合など考えられない。

 しかも、死亡記録と言うには、死亡確認は取れているということだ。


「……若者、死者を冒涜するのは許されないぞ。あの方は偉大な方だ。邪険に扱うようであれば、私の人生をかけて貴様を潰す」


 羽賀は憤った様子で昼片にそう言って去っていった。


 一方、昼片は平然としている。


「若者、か。悪くない」






 昼片の向かう先では白色のコートを着た人物、白澄大隊長が立っていた。


「護衛ですね」

「そのつもりです」


 車の中で白澄は昼片に問うた。


「新司令、あなたの仕事はご存じですか?」

「私は暴力は苦手なので、せいぜい国際月面開発機関(ILDO)と腹の探り合いでもしておくつもりです」

「そうですか」


 日本から広がった月晶体(ルナモルファス)と魔装使いという存在の露呈は全世界に広がっており、国際月面開発機関は火消しに必死になっている。

 災害殲滅隊が責任を負わされそうになったところで不思議なことに謎の力による横槍が入り、敗戦国よろしく尻の毛までむしり取られる事態は避けることができた。


 だが、白澄は敢えて疑問を呈する。


「昼片司令、何を隠しているんですか?」

「さすが、第一隊の大隊長だ。だが、見識が足りていない。城島司令官は答えを他人に求めはしなかった。そう、何事をまず自分の意見を言うことです。魔装使いならなおさらね」

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