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魔装と月の殲滅戦  作者: ルナモルファス
第五章 影入銃士
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三十九話 大胆不敵

遅くとも

とにかく書こう

ホトトギス

『美明、どういうことだ?』

「こちら咲田です。何か用ですか?」

『第二隊の人間に誘引役を頼んだ覚えはない。仮隊員の高校生にもだ。人助けは結構だが、現場が混乱する。おかげで待機人員を総出で駆り出すことになった』

「元から無茶な作戦です。遅かれ早かれそうなったでしょう。それに、彼らは優秀です。私も別件を片づける余裕ができました

『……人助けが趣味なんだろう? こんな時にテロリストに構っていていいのか?』

「月光火薬ですよ? 数キログラムで高層ビルが残さず吹き飛びます。地上のどこで使うにしても、あまりにも危険です」

『……私も合流しよう。十五分待て』

「お好きにどうぞ。来なければ一人で行きます」


 咲田は白澄との通信を終了し、改めて状況を確認した。

 一度地下通路で全員を集めてたが、損耗は予想より少なかった。

 靄はまだ大技を切っていない上に、司陰の魔装もまだまだ使える。仮隊員三人組は一度Dランクに遭遇したが、他の隊の応援を主に行っていたので体力は余っているように見える。

 吞気に食事をとっている様子は多少気になるが、休憩時間ぐらいは大目に見ようと咲田は決めた。


 潜土砲手は既に半分が撃破され、作戦進捗はまもなく五十パーセントに到達する。

 だが、人的被害は少なくない。一部の小隊に限ればほぼ壊滅状態である。

 また、被害の規模が大きい。建物の損壊はもはや災害隊も把握しきれていない。




「後始末は第一隊に任せるとして……皆さん、そろそろ移動しましょう」

「どこへ行くんですか?」

「私は他の任務へ赴きます。あなたたちは今から迎えが来るのでついていってください」


 咲田はそう言い残すと地上へ階段を駆け上がり、豪雨の中に消えていった。



 ・・・・・



 咲田が去ってすぐに城島が別の通路からやってきた。


「どうだ、まだ元気はあるか?」

「城島先生!」


 後ろには朱柚もついていた。

 彼女曰く「寂しいから」とついてきたらしい。

 それも間違いではないのだろうが、本音は城島と離れるのが怖いのだろう。

 人間で月晶体(ルナモルファス)の朱柚の肩身は狭い。




「突然だが、今すぐ移動できるか」


 城島はそう切り出した。


「何かあったんですか?」

「ああ、お前たちは全員この地域から撤退する」


 城島と朱柚以外の皆が「えっ」と声を上げた。


「誘引の不均衡でこの地域に潜土砲手が多数集結している。白澄の魔装の再装填まであと一時間程度かかるから、見つかる前に地下鉄を使って逃げるぞ」

「先生や咲田さんの魔装でどうにかできないんですか?」

「できない。相手は戦車の集団のようなものだ。あれを一方的に殲滅するには白澄の魔装以外にない」

「……黒島司令官なら?」

「司令は前線にでない。話は終わりだ。行くぞ」


 城島は話を強引に打ち切って地下への階段を下って行った。








 今、司陰たちは彼ら以外乗客のいない車両の中で座っていた。


(本部との連絡線みたいだ)


 もっとも、「司陰君、駅の照明が消えてる」と話しかけてくる白川と電車に乗るのは初めてだ。


 二人で普段との違いに盛り上がっていると、靄がやってきて強引に二人を湯川双子の元まで引っ張った。

「二人だけで楽しむな」ということらしい。

 城島はそんな様子を気にも留めず、車両の先頭方向を凝視している。


「継琉君はどうだったの? 今日のデビュー戦」

「僕は……一発だけ撃てたかな。貫通して効果なしだったけど」

「俺も最初はそうだったから」


 白川はかなり落ち込んでいるようで、司陰は慌ててフォローした。


「未雨と菜小は?」

「私は絶好調! 残裂でDランクを二体仕留めたんだ!」

「あれを察知するのは城島先生ぐらい。私はDランク一体を刀で貫いて倒したよ」

「初戦でもう戦績を上げるって、すごいですね」


 未雨も菜小も心なしか浮かれているようだ。

 平常運転の未雨はともかく、あまり感情を出さない菜小まであからさまに嬉しそうなのだ。


「僕だけ……」

「次があるから! 次が!」


 城島先生の生徒は皆優秀だと司陰は思っている。

 それは傲慢ではなく事実のはずだ。

 災害殲滅隊のこれからを俺たちがつくるといったって過言ではないはず。


 できることならみんなで……。




 考えは中断せざるを得なかった。


「司陰」

「っ! います!」


 司陰の勘が激しい警鐘を鳴らしている。

 これは命の危機の時に感じるものだ。


 時速八十キロの地下鉄が五秒で到達する位置、広がった月晶体は主砲をこちらに向けている。

 そして、その巨躯の月晶体はトンネルの広がった場所に三体陣取っている。


「先生!!」

「全員しゃがめ!!!!」


 ガラスが弾け、アルミの車体はひしゃげ、轟音が彼らの頭上を駆け抜けた。

 熱とガラスの嵐が車内を襲った。

 シートが引き裂かれ焼き焦げ、つり革は一つ残らず後方へ吹き飛んだ。

 人が通るための車両間の通路は砲弾が通って風穴となった。


 潜土砲手の『潜行』。

 それは土中を地下水面に達するまで潜り、自在に移動する異能。

 土中故に探知できず、移動速度は遅いが相手に悟られることなく背後をとれる。


 そしてこのように、地下での待ち伏せも可能だ。










 とある倉庫の扉の前。


「美明、」

「五分遅刻です。なので先にここで待っていました。それと、名前で呼ばないでください、陽介さん」


 咲田の言葉を無視して白澄はつづけた。


「司令と無線が通じない。管制室も混乱状態で、何が起きたのか全くわからない」

「……指令が? 珍しく『電場』でもでましたか」

「地下鉄を一本特別に動かしていた。それに乗ったのが最後の記録だ」

「なら、十中八九『潜行』でしょうね。雨だと思って潜れないと考えたのが裏目に出たわけです」


 心配している様子の白澄を咲田は一蹴した。


「戻らないか? 嫌な予感がする」

「銃型魔装の人間はよくそう言います。別にあなたが来なくても私は一人で乗り込むだけです」

「……一人にはさせられない」


 咲田の読み通りだ。

 どうせ一人で行くと言えば白澄はついてくる。自分は普段一人で動くくせに、こういう時は律儀にツーマンセルを守るのだ。


 白澄はそんな咲田の考えを読んだように話した。


「私は月光火薬を取り扱える。だからついていくだけだ」

「三十分後の砲撃に備えて休むほうがいいでしょうね」


 白澄は無言で扉に手をかけた。






 僅かに開けた扉から白澄は中を伺う。

 中はトタン屋根に雨粒が当たって騒々しい。

 その時、真後ろの先に稲光が落ちて倉庫の中が照らされた。


 扉をスライドさせ突入する。

 中はいろいろな段ボールが積まれており、いかにも普通の倉庫といった雰囲気だ。

 違和感はその奥。


「ソファだ」

「誰かいましたね」


 咲田はソファの冷えた表面からここにいた人物は既に立ったのだろうと推測した。


「おい」

「言われなくてもわかります」


 さらに奥にはモニターが置かれていた。

 咲田が近づくと液晶が自動で点灯する。


『――――この映像は録画だ。お前らの話はこっちには聞こえない』


 画面に出てきたのは月を(かたど)った模型。

「悪趣味だ」と白澄が呟くが、映像は止まらない。


『災害隊の荒くれども、私らは尻尾掴まれる前に逃げさせてもらう。無駄足で残念だったな、月の退治に専念すればこんなとこまで来る必要はないのに。まあ、私も悪魔じゃない。わざわざ皮肉を聞かせたんだから、一つ代わりにプレゼントをやるよ』

「咲田」

「……」


 咲田は無言で相槌を打った。


『実は気分が良くてな、量は半分にしておいた。せいぜい味わいな、月光火薬の威力をな!』


 動画はそこで終わった。


 咲田は壁に向けて加速し、コンクリート壁を【冷渦の細剣】に纏わせた渦で砕き散らした。

 咲田が体を丸めて飛び出すと、白澄もそれに追随する。


 二人の背後で爆音が響き、屋根が飛んでどこかに落ちた。

 衝撃波で二人は十メートルを転がる。




 白澄は咲田に手を貸した。

 咲田は逡巡してからその手を掴んだ。


「大丈夫か?」

「あなたに心配されるとは」

「私が現場にいる時点でポリシーも何もない」


 白澄も人の心配はするし、任務をすることはある。

 確かに例外だが、親切を疑われるのは心外だった。


 咲田は崩壊した倉庫を見ていった。


「月光火薬ですね。私の魔装でも対処ができない」

「私もできない」

「変な協調性出さないでください」

「違う。あの集団にだ」


 咲田は意外そうな顔で白澄に尋ねた。


「やっぱり知ってたんですね」

「魔装革新連団、真賀丘から聞いた」

「……なるほど」


 咲田は顔に影を宿した。

 それを見て白澄は訂正した。


「いや、真賀丘は関係がない。私が聞いたんだ。国内外の危険組織について」

「なぜでしょう?」

「いつか話す」


 白澄は黙秘してその場を去った。

 咲田は不服を言葉には出さず、無線で隠ぺいを指示すると自分もその場を離れた。

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