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魔装と月の殲滅戦  作者: ルナモルファス
第四章 高校生と月の人
33/79

三十話 国立月晶体研究所と月晶体

タイトル、変えました(変え忘れ)。(8/2)


×『同化』が逃がした人間……

〇『同化』を逃がした人間……(8/4)



ミスが……

「海瀬さん!」

「あっ、杏西さん!」


 国立月晶体研究所の中。

 出迎えに来ていた杏西が鏡野に気づき、その呼び声で海瀬もそちらへ気づいた。


 海瀬は真賀丘を置いて駆け出す。


「遠いところお疲れ様。最近調子はどう?」

「今は絶好調です!」


 行きの暗さはどこへやら。

 海瀬の元気な様子に杏西はほっと肩を緩めた。


「早く行きましょう。藤上さんも待ってるから」

「行きましょう!」

「真賀丘さんも」

「先に行っていいよ」


 海瀬と杏西は足早に研究棟の入り口へ進んでいった。

 途中で杏西が振り返ったが、真賀丘はジェスチャーで早くいくように指示した。




「……『同化』を逃がした人間はそこの楓の木の後ろかな?」


 真賀丘が少し道からそれてそうわざとらしく話したら、木の後ろからは白衣を着た人が出てきた。


「それは濡れ衣だよ。月が逃げたのは職員のミスだ」

「どうだか。藤上研究員はしなくても、彼女の友人の藤上なら、してもおかしくないな」


 いきなりギスギスした会話が始まったが、雰囲気はそれほど剣吞ではない。


 藤上は真賀丘の友人だ。

 彼は真賀丘の友人たちの中でも、変人の枠に片足を突っ込んでいるが、比較的常識人の部類に入る。

 少なくとも地底人生活を満喫している双木と井倉(変人たち)よりはまともに違いない。


「ところでさ、あの人は今何してる? 暴れてない?」

「今、海の向こうにいるあの人? だったら問題起こして昼片の荷重をせっせと増やしてるけど、何か? 藤上の先輩だよね?」

「うーん。僕に責任ないし……」


 昼片には悪いが、誰も真面目に苦労を肩代わりしようなどは考えもしてくれない。

 当然、真賀丘もしないのである。


「代わりに計画を進めといたからさ。これで等価交換」

「『同化』の先まで選定済みだったのか……」


 真賀丘は藤上の優秀さに下を巻いたが、一方で少し注意したかった。


「どうして一般人から選ばなかったのさ」

「どうしてって……()()()()()()()()で元から余命の短い人間は、『同化』の実験の対象としては申し分ないよ。予想適合率もほとんど最高値だった」

「最適……一般人なら、ね」


 同化が成功した今となっては誰も不利益は被らないだろう。

 皆に利益があるのなら、多少は無茶な選択でもまかり通るに違いない。

 彼女の親も最後には許してくれるだろう。


 事実そうだとしても。


「あの娘は、黒島司令官の実子だ」



 ・・・・・



 早朝。


 司陰は結局熟睡できて、隣で寝ている二人よりも早く起きてしまった。

 靄の寝間着姿は今更珍しくもないが、朱柚が隣にいたのでそそくさと部屋を出る。


 今日も登校日だ。

 アクシデントがあっても、もたもたしてはいられない。




「――――それで、朱柚も学校に?」

「うん」

「すな――――」

「コホンッ」

「……朱柚さんは、月日高校の生徒ですよね」

「そうだよ」


 同性の名前呼びはよくても異性の名前呼びはなしではないかと司陰は毎回思うのだが、靄も譲れない何かがあるらしい。


 教科書はほとんど電子化されているのでここから通っても問題はないのだが、司陰は一つ大きなことが気がかりだった。


「それで、親に連絡しました?」

「……」


 朱柚は少し俯きつつ沈黙する。


 司陰は靄に視線を送った。

 これはいる沈黙なのかいない沈黙なのか、助け舟を求めた。

 すると、靄はゴーサインを出したので、司陰は思い切って尋ねた。


「じゃあ最低限、親の名前は?」

「どっち?」

「まず……父親で」

「……あの人。二人とも知ってる」


 知ってると言われて司陰と靄は顔を見合わせる。

 二人の知り合いに須波の苗字はいない。

 候補が多すぎて見当がつかないので司陰がさらに尋ねる。


「名前は?」

安吾(あんご)


 やはり心当たりはない。

 真賀丘が真っ先に思い浮かぶが、彼の名前は則人。

 他の知り合いにも安吾(あんご)はいない。


「……ヒントをください」

「……学校に行けば会えるよ」

「「えっ」」










「それで、どういうことですか。城島先生」

「育児放棄ですか」

「待った。何の話だ?」

「「「「「とぼけても無駄ですよ!」」」」」


 須波は自分のクラスには入りたくないということで、この特別クラスに連れてきた。

 ちなみに、衝撃の事実は湯川双子と白川に共有済みである。

 そのため、朝早くからホームルームのために来た城島は五人から問い詰められていた。


「既婚者なのは知ってましたけど、最低です!」

「子供が不登校になってるのに病院に行っている場合ですか!?」

「待て待て。既婚者だとなんで知ってるんだ? それに、病院はいいだろう。体は資本だぞ。というか、何か勘違いしているぞ、お前ら。なんでここに須波がいる?」


 今、教室内には七人しかいないというのに、お祭り騒ぎの様相を呈している。


「……そんなに知りたいか? 事情を」

「「「「「知りたいです!」」」」」

「わ、私も……」


 五人だけでなく朱柚まで賛同した。

 こうなったら話すまで誰も落ち着かないだろう。


「……一限は魔装理論か。潰すのは惜しいが、やむをえまい」


 城島は皆に座るよう促した。

 そして自分は教壇に立った。


「言っておくが、気分のいい話ではないぞ。……私も思い出したくはなかった」






 結論から言うと、須波朱柚は間違いなく城島の子だ。

 正確には違うのだが、ここでは一旦そうする。


 須波は城島の婚約者の苗字だ。

 当時は夫婦同姓にするために、向こうの須波を一度は選んだ。

 婚約者の須波は城島の当時の研究と関わる会社の経営者一族で、ある意味政略結婚とも言える婚約だった。

 ただし、そこに愛はあった。


 そして、十一年前の事件よりも前に朱柚は生まれた。

 この時の城島はまだ一人の研究者に過ぎない。

 二人、いや三人は幸せの絶頂にいた。




 転落はその三年後、月晶体の発生からだ。

 城島が教授を務めていた大学の研究室の学生が一人亡くなった。

 しかも、原因不明で。

 城島は責任を負わされる形で辞職し、須波の後援を受けながら新しい研究を始めた。


 やがて研究は実り、城島は災害殲滅隊の重要な位置に就く。

 そして多量の仕事に忙殺され、城島は家族と疎遠になった。さらに追い打ちをかけるように、須波の一族が月晶体の影響で没落した。


 彼女は確かな愛を求めたが、彼は応えることができなかった。


 国際月面開発機関に赴いた城島が帰った先。

 そこにはもぬけの殻となった家が残されていた。




 城島は一度僅かながら職権を行使して住所を調べ尋ねた。

 一応送金はしていたが、生活の様子が、自分の子の様子が心配でたまらなかった。


 やっとのことで判明したその家。

 そこで城島は彼女にこう告げられた。


「もう関わらないで」




 城島は苗字を戻した。

 朱柚の学費のために送金を増やした。

 二度とその家には訪れないと決めた。

 魔装を酷使し、体を壊すまでB、Aランクの任務をこなし続けた。

 成長した朱柚に遭遇しても、他人のふりをした。


 自身が家族と関係を断つのは月晶体から家族を守るためだ。

 そう自分に言い聞かせて。










「――――そういうわけだから、私が今更父親面できるはずもないんだ」

「ッ!?」

「朱柚!」


 耐えきれなくなったのか、朱柚は靄の制止も振り切って城島へ詰め寄った。


「なんで!? なんで!? なんで私とお母さんを捨てるの!?」

「捨ててなど……」

「同じだもん!」


 朱柚の目から涙がこぼれ、煌めいた。

 城島が愕然とする。


「それがお前たちの幸せだと思って、私は……」

「なら、どうしてお母さんの見舞いにも来ないの!?」

「…………」


 知っていた。

 そして、知らないふりをした。

 真に恐れたのは二人を失うことではなくて、自分を失うことだった。


 酷く惨めな自分。

 哀れな家族。

 この時ばかりは、やり直せる彼女が羨ましくて仕方がなかった。






 朱柚は随分長い時間、城島の服にしがみついて泣いていた。

 誰も何も話せない。


 ただ、朱柚はこれでも十五歳の高校生だ。

 いつまでも泣きすがるほど弱くない。


「……約束して、お父さん」

「……なんだ」

「お母さんのお見舞いに行って。場所、知ってるはず」

「わかった」

「私の名前」

「……これからは朱柚と呼ぶ」

「最後、私を助けて。司令官なら――――」

「待て、朱柚。どういうことだ?」


 城島は心臓が冷めるように感じた。

 ()の願いは聞き届けたい。

 だが、立場上まずいこともある。




「お願い殺さないで、お父さん。私は、わたしには、『同化』の、月があって……」

「お前だったのか……」


 城島は天を仰ぎたくなった。

 それでもしっかり朱柚を見つめて頷いた。


「お父さんに任せろ」

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