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魔装と月の殲滅戦  作者: ルナモルファス
第四章 高校生と月の人
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二十九話 第二隊と潜みし者

「――――聞こえるか、私だ」

『はい。今は……城島先生、ですね?』

「そうだ」


 城島は病院の屋上の小さな段差に腰掛け、偽物の夕暮れが映る天井を眺めながら電話をしていた。




「昼片、そっちはどうだ」

『近況が聞きたいんですか? なら生憎、こっちは忙しすぎて長電話はできませんよ。博士もあの人も勝手すぎて大変です。それに、国際月面開発機関が今騒がしくて。なんでもSランク発生の兆候があるとかないとか』

「眉唾の話か」

『いや、それがそうとも言い切れないんですよ』

「お前がそう言うなら、そうなんだろうな」


 城島はため息こそつかないが、うんざりという気分は口調で伝わった。


『特会から戻ったところすみませんが、近々また呼ばれるのは確実ですよ。体、大丈夫ですか? また無茶をしたらしいですね』

「なに、私はまだ頑張れるさ」

『一応引退してるんですから、無理しないでくださいよ』


 昼片がいくら忠告したところで、この堅物はこの先も自分を犠牲にし続けるのだろう。

 そう思って、電話の向こうの彼はそれ以上のことは言わなかった。


「お前は私のことを心配するがな、()()は今相当忙しいだろう」

『あーあー、そういう話は秘匿回線でお願いします。昼片は承っておりませんので』

「わかった。じゃあな」

『お気をつけて』


 城島は電話を切ると、すくっと立ち上がった。


 短い電話だが、胸のつっかえを取るのにはちょうどよいのだ。



 ・・・・・



 司陰と靄は現在食事中。


 あの後、城島先生が帰ってこなかったので、オンライン授業をいくつか試しで受講したのちに、昼過ぎには解散になってしまった。

 親睦を深めようと未雨が二人を帰りに誘おうとしていたが、出会って初日なのでまた今度となり、結局下校して今に至る。


 ちなみに、今日の献立は司陰が作ったカルボナーラである。


「――――おいしいね。この香り、私好きかも」

「上手に作れてよかったです」


 靄は手放しで料理の味を褒めてくれた。

 それと同時に、少し(いぶか)しんでいる様子でもあった。


「……ところでさ、いつ覚えたの? これの作り方」

「え、ああ……インターネットの動画で」

「何その間……。へぇー、動画を見るだけで美味しく作れるんだね」

「ソウデスネ」


 実は上階の人に直接教えてもらったとは、司陰は言いだそうとは思わなかった。






「そういえばですね、今日は厄日なんですよ」

「急に……なんで?」

「俺の直感がそう告げてるんです。今に厄介ごとが――――」


 ピンポーン、とチャイムの音が司陰の言葉を遮った。

 ギシギシと首を軋ませながら司陰は椅子の上で振り返って、玄関の方を見た。


「すごい、本当に来た」

「え、あ、どうしましょう……?」

「えっ、何? でたらめだったの?」


 靄が司陰に代わってインターホンのカメラの映像を見に行く。

 ただ、カメラには何も映っていない様子。


「誰……?」

「このマンションって不審者は入れませんよね。つまり……」

月晶体(ルナモルファス)?」

「いえ幽霊だと……」


 不気味さのせいでお隣さんの可能性が二人の頭から消えているが、すでに外は薄暗いのでその可能性は限りなく低い。


 と、すると……。




「私が出るから、晶化ナイフ持ってきて」

「えっ、本気ですか」

「いや司陰君が厄日って言ったんだよ。なら、警戒するしかないよ」


 今日、学校で城島先生に勝ったからか、靄はやけに勇ましい。

 水を差すのも躊躇(ためら)われたので、司陰は彼女に任せることに決めた。




 一歩、二歩、靄は晶化ナイフを右手に持って歩みを進める。

 靄が扉に手をかけた時、司陰はすぐに【紺黒の銃】を出せるようにした。


 そして勢いよく扉を開くと……。




 コーン、と鐘のような音が鳴って、誰かが地面に倒れた。


「「あっ」」


 床に倒れているのは、朝に会った須波朱柚だった。






「――――よし。これで大丈夫」

「しばらくソファで寝かしておきましょう」


 なぜ扉のすぐ前にいたのかは謎だが、気絶させてしまったのは非常に申し訳ない。

 ということで、すぐに部屋に運び込んで介抱することになった。


 仰向けに寝かせているのだが、外傷は見当たらず目も閉じていて、気絶というより寝ているようである。


「なんでここに来たんでしょう? もしかして、このマンションに住んでいるとか?」

「ありえるかも。でも、このマンションの人ならインターホンに映るように立つんじゃない?」

「確かに。それじゃあ……?」


 司陰は須波に大変近寄りがたかった。

 異性だからという話ではない。

 靄まで距離をとっているのだからよっぽどである。


「起きたら返しましょう」

「泊めてって言ってきたら?」

「ないでしょう。もしそうなったら、靄さんお願いします」

「いいけど……いやよくない。そうなったら司陰君が一緒に……もよくないから、私たちと彼女で分かれよう」

「何の意味が?」


 二人がいろいろと言い合っているうちに、須波の瞼は持ち上がりかけていた。




「泊めてください」


 須波の一言目に司陰も靄もため息をつかずにはいられなかった。

 想定はしていたが、とにかく理由を聞かねばなるまい。


「家に帰れないの?」

「……」


 須波は無言で首をブンブン横に振る。


家庭内暴力(DV)とか?」

「……」


 司陰の問いかけにも彼女は首を横に振った。


「……えっと、わかった。とりあえず家主に連絡するから、ちょっと待って。ご飯は食べた?」


 またしても須波は首を横に振ったので、司陰が彼女を台所に連れていき、その間に靄は家主(真賀丘)に電話した。




『――――その娘、どうやってそのマンションに入ったの? そこ、かなりセキュリティ堅いよ?』

「さあ? 命の危険は感じないので、とりあえず月晶体(ルナモルファス)ではなさそうです」

『……そうか、ならいいや。部屋は三人分でも四人分でもあるから好きに使って』

「ありがとうございます」

『うん。異変を感じたらすぐに連絡して』


 真賀丘はいくつか靄に質問はしてきたが、ふざけたことは何も言わなかった。

 真賀丘が極真面目に話しているのを聞いて、靄は逆に不安を覚える。


 彼女が台所に戻ったとき、須波はパスタをがっついているところだった。


「司陰君」

「なんですか?」

「ちょっと来て」


 手招きして呼べば、司陰は須波を気にしながらも靄のいる部屋まで来た。


「私、とりあえず彼女を風呂に入れてくるから、その間に彼女の分の布団を用意してくれる?」

「あー、どこで寝てもらいます? 

「どうしようか……。じゃあ、私の部屋に置いといて」

「了解です」




 司陰は須波の使った食器を食洗器に放り込んだのちに、布団を探しに行った。

 おそらく靄が考えたのは第四十支部の時のものだろう。


「ない、な」


 布団はない。

 それもそのはず。かさばる荷物は全部置いてきたか処分済みである。


 余談だが、司陰のベッドはキングサイズで靄のベッドはセミダブルぐらいである。

 何故かというと、キングサイズのベッドが占有している部屋を靄が譲ったからである。彼女は確かに引っ越し用段ボールの数が多かった。


 司陰は気づいた。

 布団がないなら自分のベッドしかないのでは?


(あーまずい。これ、ソファで寝させられるやつだ)


 情報を追加しておくと、ソファは司陰の給料が吹き飛ぶぐらい高価なものである。

 寝心地はよさそうだが、寝ている間によだれでも垂らして汚したら問題だ。


 もはや司陰は須波そっちのけで寝場所の心配をしていた。




「んー、いい気分。風呂が広いっていいな」

「……靄。どこで寝ればいいい?」

「ん? 朱柚は、司陰君の用意した布団で寝てもらおうかな」


 司陰の知らない女子の風呂の間に二人は互いを名前で呼ぶことにしたらしい。

 靄の背が高いのか須波の背が低いのか、姉妹のようである。


「司陰君。風呂いいよ」

「はい。……ところで、何か異常とかありました?」


 司陰は須波にマグカップに入れたココアを渡して、その隙に靄に耳打ちをした。


「ないよ。あっでも、ちょっと水が怖そうだった」

「水が?」

「うん。でも、いざ風呂に入ったら全く怖がってなかった。溺れたことでもあるのかな?」

「もしそうなら風呂には入れないでしょう」


 靄の気付きに司陰はピンと来なかったが、心に留めておくことにした。






 夜。

 司陰はオセロに興じる靄と須波をしり目に、部屋に戻って二人か三人は寝られるベッドの端に横たわった。

 先に寝てしまおう作戦である。


 目を閉じて早く深い眠りにつこうとするが、風呂で火照った体はそれを妨げる。


 彼が寝返りをうとうとしたその時、誰かが扉を叩いた。




「司陰君? 寝てるの? 入るよ」


 二人分の足音が扉の開く音の後に続いた。

 司陰は寝返りを中断して狸寝入りに必死になる。


「もう。布団も用意してないし……。もしかして、布団見つからなかったのかな」

「……どこで寝る?」

「私のベッドで寝る? それか、このベッドの空いた場所でもいいけど」


 司陰は背中に須波の凝視の視線が刺さるのを感じていた。


「……ここで寝る」

「えっと、本当に?」

「冗談は言ってない」

「なら、いいけど……」


 靄は困惑、司陰は心臓バクバク。

 唯一須波だけが自然体のままベッドに上がり、固まる二人の間で仰向けになった。


「こっち」

「……」


 靄は、仕方ない仕方ない、と呟いてからベッドに上がった。

 そして決して軽くはない須波をひょいっと持ち上げて、自身が真ん中になるようにした。


「……どうして」

「…………」


 須波は不満そうだった。

 だが、靄の無言の圧力に負けて、靄の手を握ったまま、また仰向けになった。






 十分後。

 須波が寝息を立て始めた頃。


 ツン。

 ビクッ。


 靄が司陰の背中をつついて寝ていないことを確認した。


「……司陰君」

「すみませんでした」


 司陰は小声で靄に謝るが、靄の方へは向かなかった。

 それが靄は不満だったのだろうか。


「……えい」

「!?」


 靄が司陰の頭に抱き着いた。




 シャンプーとトリートメントの華やか香りの中。

 そこで司陰の意識は途切れている。

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