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魔装と月の殲滅戦  作者: ルナモルファス
第三章 災害殲滅隊本部
26/79

閑話 押山司陰とカミナシの休日

 靄と海瀬が出かけている頃、司陰は暇を持て余していた。


 学校が始まるまでは勉強も自主的に少しやる程度で、任務も魔装が回復するまでは受けられない。

 だが、彼のいる場所は天下の東京。インドア派の彼だが、街で遊ばない理由はない。


 そういうわけで、彼はスマホで調べた街のおすすめの場所へ足を運んだ。


「すごいなぁ」


 人口が多い街にはお店も多く集まる。

 食べ物、服、その他もろもろ、全てが集中しているので、歩いているだけで楽しめるのが面白いところだ。


 もちろん歩くだけでも楽しいが、司陰には一か月の任務で得た、学生には余るほどのお金がある。

 良いお金の使い方とは、普段はなるべく節約して、大事な時には惜しまず出費をすることだ。


 彼はしっかり身だしなみを整えてから、意気込んで街に出発した。



 ・・・・・



「いや――、これはすごい」


 司陰は左手に袋を三つ、右手で飲み物を持ちながらご機嫌で街を探索していた。

 店員に勧められるままに服を買って、乾いた喉を潤すために近場の店で飲み物を買い、それからまだ楽しむために街を歩いていた。

 そこそこ歩いて疲れが溜まっても、帰るという選択肢はなく、どこかのカフェで休憩しようとしていた。


 そうして彼が歩いていると、なにやら店の前に人だかりができている所を見つけた。

 野次馬根性をはたらかせ、興味本位で近づいた彼だが、近くまで行けばその原因はすぐに分かった。


 皆がスマホのカメラを向けている先。

 そこにいたのは、寒色系の清楚な服に身を包んだ、サングラスをかけた白髪の女性。


「えっ」


『見てみて、あの人綺麗』とか、『モデルさんかな?』とかの声が彼の周りから聞こえてくるが、もはや彼にはどうでもよかった。


 司陰が人混みをかき分けて近くまで行けば、彼女はすぐに彼に気づき、サングラスを外して彼のほうを向いた。


「カミナシさん……」

「久しぶり、司陰君」






 司陰は彼女の向かいに座ったが、それでも野次馬が減らない。


「視線が……」

「気になる? 追い払おうか?」


 如何せん周りの人間がカミナシに注目しているせいで、司陰はすごく居心地が悪い。

 司陰が困っている様子を見かねたのか、カミナシはそう言って司陰のほうへ身を乗り出して、その手を伸ばした。

 白い髪が宙を流れる。


 司陰は咄嗟のことに驚いて硬直し、その間にカミナシは彼の頭を両手でそっと包んだ。




 司陰にはカミナシが何をしたのか、全くわからなかった。

 頭を手で触られた感覚とは別の感覚が彼を襲って意識をその瞬間飛ばした。


「大丈夫かな?」

「…………はい、なんとか。なんか、頭がちょっと変な感じです……」

「まだ使い慣れてないからね」


 司陰が気づいた時には、野次馬は道の流れに合わせて去った後だった。

 先ほどまで注目されていたカミナシの容姿を、今は道を通りすがる人の誰もが気にも留めていない。


 不可解極まりないが、司陰はカミナシに何をしたかとは尋ねなかった。


 人間は自分に利益があることには疑問があっても追求しない。

 それだけでなく、司陰はどこか彼女を深層で受け入れていたようだ。






「あっ。ヨオスクニからだ……」

「任務かな?」

「はい……でも、今は受けれないな……って、言っちゃだめだった……」


 何故か今は一緒に紅茶を飲んでいるが、司陰とカミナシが会うのはこれでまだ二回目である。

 司陰はある程度素性を明かしたが、カミナシはそうではない。ヨオスクニの情報を部外者に漏らすのは明確な隊の規律違反だった。


「えっとですね、今俺が言ったことは忘れて欲しいんですが――――」

「大丈夫。私も事情は分かってる。黒島司令官が特会から帰ってきて、それで『偽装』の多さに驚いて急いで探知させた。それで、夜までに全部片づけるつもりで、それが君のところにも回ってきた。違うかな?」

「…………多分、そうだと思います。あの、カミナシさんはもしかして?」

「その質問には答えられないけど、だいたい合ってると思うよ」


 司陰は、カミナシを災害殲滅隊とは無関係だと考えていた。

 もしそうでないとして、それでも、カミナシの表情からは司陰は何も読み取れなかった。


 司陰の勘は、どうやらカミナシには通用しないらしい。

 サングラスを外したとて、彼女の髪色と同じ色の瞳は、外部のことなど知ったことかという風に決まった光を返すのみ。


 不思議だが、そこがよい。

 そんなイメージを司陰は抱いたわけではないが、夜の街頭に引き寄せられる走光性の虫のように、彼は無意識にどこか彼女に惹かれていた。


 決して恋心ではない。

 されど、一緒にいるだけで心が晴れる、そんな対象が彼女であった。






 司陰は今、何故か任務を受けている最中である。


【紺黒の銃】は前と同じように使えないと言ったら、カミナシは自分が代わりに戦うと言って、司陰に強引に任務を受けさせた。

 司陰の端末のヨオスクニでは任務は受けられないはずだったが、カミナシが司陰から隠れて何かをすると、その制限が消えてしまっていた。


 なお、カミナシの笑みは、靄の冷笑や真賀丘の言外の圧力よりも闇の深いもので、司陰に拒否権を行使する勇気はなかった。




「右に三十度、それから上に六十度、17.6秒後から19.2秒後の間に通過する」

「まさか……」

「賭けてみる? 私が勝ったらこの後少し付き合ってもらうよ」


 任務の場所である、改装中のビル内。

『偽装』持ち月晶体(ルナモルファス)の位置は、近くなら司陰にも漠然と分かる。

 それに、彼の勘の良さには周りも太鼓判を押している。


 カミナシは、司陰にとっては未知数の存在と言える。

 それでも、まさか自分にもできないことをできやしないだろうと、半ば根拠も無しに信じ切っていた。


 どこからかカミナシの手に光が集まり剣を創り、それは司陰も息を呑む正確さで発射された。


「そんな……」

「ふふふ。思い込みは魔装使いの大敵、わかったかな?」


 光の剣が発射された瞬間。

 その時、月晶体の声なき断末魔を、司陰はハッキリと聞いた。


 意識しないと分からないほど細い裂け目。

 その向こうで、どこからか差し込んだ光を晶片(しょうへん)が反射して、美しく輝いた。






 二人は任務後すぐに移動した。


「あれ? このマンションは……」

「まさか、気のせいだって」


 カミナシに連れられて来た場所は明らかに見覚えのある場所で、それもそのはず。

 そこは真賀丘から借りている部屋のあるマンションだった。


「いやいや、同じマンションじゃないですか! こんな偶然あります!?」

「偶然ではないよ。一緒に買ったもの。投資だと思ってみんなを誘ったら、乗ってくれて」

「そうなんですか……」


 やはりカミナシは災害殲滅隊と関わりがある。

 詮索無用、そう分かっていても彼女の身分を疑わずにはいられなかった。




「さあ、入って入って」

「はい、お邪魔します……って、殺風景!」

「普段使ってないからね」


 引っ越してすぐの司陰と靄の部屋はともかく、それすら上回る殺風景がその部屋には広がっていた。

 机椅子、後は段ボールの山で、生活感が全くもってない。

 ただ、今カミナシが踏み入ったキッチンだけは料理道具、食器、その他調味料まで完備してある。


 カミナシは腰に手を当てて髪を翻しながら振り返り、司陰に問いた。


「そういえば、料理できないとか。同居人任せだって聞いたよ」

「うっ。すみません」

「私に謝ってどうするの。それより、一品でも作れるようになるほうが建設的だと思わない?」

「確かに……一理あります」

「一理どころか百理あるね!」


 そうは言うものの戸惑う司陰の背後にカミナシは回り込み、グイグイ押していく。

 どこからか持ってきたエプロンを着させて手を洗わせ、カミナシ自身は他の部屋で部屋着とエプロンに着替えて戻ってきた。


「よし! じゃあ、パスタを作れるようになろう」

「お――?」




 鍋に水を注いで塩を大匙一杯入れてIHのコンロにかけ、その間にフライパンを取り出してソースの準備をする。


 司陰はカミナシの手際よい準備を見て、しっかりと頭に工程を刻んでいく。


「いい? 今回作るカルボナーラのポイントは三つ。アルデンテ、並行作業、そして卵の火加減。あとは、パスタ作りでオリーブオイルを使う時は、大胆に入れたほうがいい」

「高いところから注ぐんですか?」

「違う違う、量の話。まっ、見てて」


 カミナシは湯が沸いたのを見て、すぐに作業を始めた。


 今回使う麺はポピュラーなスパゲッティ。

 それを二百グラムの二人分、中央で持ってねじり、鍋に投下する。すると、麺はばらけて放射状に広がった。


 感心する司陰には目もくれず、それからカミナシはすぐにフライパンの前へ移った。

 オリーブオイルでパンチェッタという、塩漬け熟成ベーコンを炒め、パンチェッタの塩分とうまみを油へ移していく。


「司陰君、炒めるの交代」

「はい!」


 司陰にオリーブオイルとパンチェッタは任せ、カミナシは冷蔵庫から泡立っていない生クリームと卵とパルメザンチーズを取り出した。

 それを彼女はボウルに入れて混ぜてソースを作る。


「パルメザンチーズは硬質チーズの一種で、香りがいいからカルボナーラの完成度を一段上げてくれるんだよ」

「そうなんですね」

「そう。それと、今回は私がイタリアで買ってきたパルミジャーノ・レッジャーノを使ってるからさらにいいものができるはず」


 カミナシは他にも、大切なことを伝えながら、麵のゆであがりを見て話を締めた。


「最後はこのソースをフライパンに入れて、少し温める。で、麵を入れて絡めて……はい、完成!」

「すごい、いい匂いがします!」

「でしょう? じゃあ、盛り付けまでするよ」

「必要なんですか?」

「当たり前でしょ。料理は見た目も大事なんだから」


 トングで掴んで巻いて盛る、そして何かハーブを載せて黒コショウをたっぷりかければ完成だ。


 サラダと飲み物を用意して、食事の準備は整った。




「じゃあ、カルボナーラ(炭焼き職人)を召し上がれ!」

「なるほど……では、いただきます」


 完成したカルボナーラは高級そうな皿も相まって、お店でも滅多にお目にかかれない出来映えである。


 司陰はそれをフォークで巻いて口に運び、嚙み締めた瞬間から震えた。


「うまい! なんですかこれ!?」

「よかったよかった。これでも久しぶりで、腕が鈍ったかと思ってたんだけど、杞憂だったみたいだね」

「……なんていうか、任務をしてもらって、こんな料理も作ってもらって、なんと言ったらいいか……」


 よく考えれば、司陰は今日カミナシに何もできていない。

 それでは彼女が気にしようとしまいと、卑屈になってしまうだろう。


「いいんだよ。『恩返し』はしなくとも、誰かに『恩送り』してくれれば私は結構。それに、いつか私が困ったときは、ぜひ助けてもらえると助かるかな、司陰君」

「……俺でいいなら、いつでも」

「うん。じゃあ、食事の再開だ! ワインでも飲む?」

「未成年なんでダメですよ! それに昼間なんで、カミナシさんもやめましょう」

「私は飲まないよ。お酒は好きじゃない」

「じゃあ、なんで勧めたんですか!?」




 その後はワイワイと、アルコールの力無しに盛り上がったとか。

 楽しい時間は短いもので記憶に詳細には残り辛いが、司陰がはっきりと覚えていることが二つ。


『真賀丘則人は身内に弱い』と、『咲田美明は自分より強い人間に弱い』の二つだった。

 結局、カミナシは自分のことについては、全く話さなかった。

カルボナーラについては語り切れなかったので、是非、調べてみてください。


案外、初めてでも美味しくできます。

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