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魔装と月の殲滅戦  作者: ルナモルファス
第二章 【熱供の短剣】
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十話 「偽装」の連続

 投稿頻度が三日だとすごい負担が軽い気がします。

 実際のところ執筆速度は変わっていませんが。

 ある日のこと。


「なんかおかしくないですか?」

「うん? クッキーのこと?」

「いや、「自爆」のことで」


 司陰は鏡野の作ったクッキーをかじりながら彼女に尋ねた。

 鏡野のバタークッキーのおいしさに文句はないが、司陰にはずっと気になっていることがある。


「ああ、少なくともこの地区では気にしなくていいよ、って真賀丘さんが言ってた」

「またそれですか……」


 今は真賀丘はいない、だから真意を尋ねることはできない。


「多分君がいるからじゃないかな」

「俺が?」

「そそ、あの人ずっと君の存在を前提にして話してるもの」


 確かに真賀丘は司陰に対して謎の熱意があるが、それが司陰の入隊前からならさらに謎は深まる。


「知りたければいつか本部に行ったときに真賀丘さんの元同僚に聞いたら。真賀丘さん、意外と口が堅くて本当に大事なことは何もしゃべらないし。それより……」

「それより?」

「おいしい?」


 彼女が言うことには料理は好きではないとのこと。

 なのでおそらくクッキーづくりは初めてなのだろう。

 いつもの凛として熱のない顔が、今は不安そうに見える。


「おいしいですよ」

「本当は?」

「本当ですよ」


 鏡野はあまりあからさまには顔に出さないので変化に気づきにくいが、確かに顔が緩んだ。


「じゃあ、お皿の片づけは頼んだよ。クッキーのお代ね」

「……ふふっ」

「今、照れ隠しとか思ったでしょ。違うからね! 罰としてコップ追加!」



 ・・・・・



 今日は学校再開の日。

 誰かさんが派手に破壊した校舎も、急ピッチで建て直した結果として今は以前よりも白くなったこと以外変わらない様子を見せている。

 司陰も同じようなものだ。

 月晶体が出るのは夜、なので夜以外の生活は変わらない。しいて言えば勉強を夜にできないので放課後が忙しいとうぐらいだ。


 鏡野との学校での関係も別に今同居状態にあるからといって急に近づいたりはしない。

 司陰は高一、鏡野は高二、異学年間の交流というのはどの学校でもそこまで多くない。

 そんなことよりも、目下の問題は部活動だ。


「押山、部活入らないの?」

「ああ、ちょっと放課後は忙しいんだ」

「ふーん、自由に休めそうな文化部とかに入ればいいのに」

「籍だけ置くのは普通の部員に悪いよ。……まあ、運動不足とかの心配もないし、人間関係を深めるとかもどうにかなるしね」


 災害殲滅隊のように命を懸けて戦う部活が他にあるわけでもないので入部してもよかった。

 だが、司陰は自分にそこまでの期待はできなかった。


「そういえば……押山、あの時の先輩は誰だったんだ?」

「……ああ、鏡野さんのことか」

「かがみの……うーん、聞いたことないな。知り合いとかそんなかんじ?」


 司陰が最初に会った時は鏡野は知り合いですらなかった。

 それが今は……。


「同僚……まあ、友達かな」




 司陰が学校にいる時間も何事もなく終わり、学校から帰って必要なこと――宿題、魔装での戦闘訓練など――を終わらせている間に出動時間はやってきた。


「司陰君、そろそろだよ。ご飯の準備も出来たから早く行こう」

「なんか全部やってもらってすみません。というかDランクの月晶体ですよね、もういっそ鏡野さんがパパッとやっつけて俺が夕食を作ればいい気がしてきました」


 お互い装備を身に付けながら会話する。

 ベルトに晶化ナイフを差し込み、染色爆弾を二つ反対側に取り付ける。上から耐衝撃コート――白色コートを着込んでヨオスクニに無線接続したマイクとスピーカーを首周りに付ける。


 鏡野は慣れているので司陰より早く準備を終わらせて司陰の軽口に返す。


「ツーマンセルを言ったのはあなたでしょ。まあ確かに私も料理が好きってわけではないから代わってくれてもいいよ」

「そうですね……レトルトカレーとか――」

「ダメ」

「じゃあ、ゆでたパスタ……にレトルトソ―ス――」

「私が作るから」


 これはダメだ、と鏡野がこめかみに手を当ててため息をつき、司陰はその間に準備を終わらせた。

 鏡野が出かける前に振り向いて司陰に一言掛ける。


「一応言っておくけど、私は油断したことは一度もないからね。この前のCランク月晶体もショッピングモールを壊していいなら一度距離を取って溜めてから【熱供の短剣】の光熱放射で確実に仕留めれたし。私についてくる以上は油断は絶対にしないでよ」




 ヨオスクニによる月晶体の予測出現位置はビルの地下だった。それも廃ビルでなくていまも普通に使われているビルディング。避難誘導は鏡野の小隊の仕事ではないが、夜間に働く人間の説得は骨が折れるだろうということが容易に想像できる。


 地下だとどうしても正確な位置は割り出せない上に、月晶体は水道管や換気ダクトを通れるので実質このビルの下部とその周辺すべてが戦闘区域だ。それを少しでも狭くしたいならあらかじめ管やダクトを塞ぐということが必要だが、それにはとてつもない労力が掛かるため、現実性に欠ける。

 そうして結局取り除かれなかった問題こそが、災害殲滅隊の負担を増やす原因にもなっている。


 布陣は、どこに月晶体(ルナモルファス)が出ても対応できるよう鏡野が中央、司陰は地上への出口付近にいる。ずっと市街戦が続いており、今回も例に漏れず激しい近接戦闘が予想される。そうなれば鏡野がまたメインで戦うことになる。

 二人組とはいえ書類上は鏡野小隊で鏡野が隊長なので変ではない。だが、一つ年上なだけの女の子に頼るという状況に慣れることはいいことのなのか、と司陰は待機時間で気を散らしていた。




その時は突然にやってきた。

ヨオスクニの警告音が二人の耳元で鳴る。


「こっちからは見えない。そっちは?」

「こっちからも見えません」


出現波の観測した後に空間の歪みが視認できなければ、一つ一つ部屋を確認していくしかない。

現在、鏡野と司陰はお互いを視認できないので、無線で連携しながら探す必要がある。


司陰から鏡野への物理的、情報的な距離は短いが、こうして彼女が見えない位置で任務にあたるのは彼にとって初めてだった。




あらかじめ開錠しているのでどの部屋にも入り放題だ。

司陰に火事場泥棒をする気はないが、権力というものの偉大さを感じさせる。


司陰が扉をゆっくり押し開ければ、徐々に暗い室内が見えてくる。飲食店なのか、扉から漏れた光が店内を照らすと椅子やカウンターが見える。

【紺黒の銃】の銃口を向けながら店内を見回すが、特に空間の歪みは見受けられない。


ここもはずれ、そう思って扉を閉めようとした時、彼の直感が何かに気づいた。


「……鏡野小隊長、もう逃げてるかもしれません」

「私もそんな気がしてる。そっちも部屋が荒れてるでしょ」


暗い店内によくよく目を凝らせば、カウンター向こうのキッチンで食器が散乱している。

まさか慌てて逃げて散乱したわけではないだろう。

なら、おそらく店員が積んだ食器を月晶体(ルナモルファス)が崩したのだろう。


目的は、食器の近くに水道があることから推測すると。


「水道を通ってますね」

「私も同意見。水道周りだけ荒れ方がひどい。こうなったら一度合流しましょう」




オペレーターがサポートしてくれるのはBランク以上の月晶体(ルナモルファス)との戦闘時に限る。

だからこうして、司陰と鏡野はヨオスクニでビル周辺の配管情報を調べてるわけだが、一見して理解できるものでもない。

唯一分かることは、もうとっくに逃げられただろうということだ。


「やられた、これはもう見つけられない。しかも下水か上水、どちらに逃げたかもわからない」

「どうにかならないんですか?」

「そう言われても、私にはなんとも……。今まで「偽装」持ちの月と戦ったことなんて、それこそ数えるぐらいしかないよ」


鏡野の能力は確かに万能だが、それでもできることには限りがある。

そして今回の「偽装」こそ鏡野の弱点の一つだった。


鏡野が指を動かしながらしばらく経ち、彼女は一つの結論にたどり着くと同時に顔色が悪くなる。

彼女は不安そうな顔で司陰にこう言った。


「……司陰隊員……一人で下水場まで行ってくれますか?」

 レトルトは悪くない。


 クッキーは自分で作ってもおいしいが、どうせだったら…………ねぇ。

 司陰がすごく羨ましい。

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