七章 キリシア姫
姫の容態が落ち着き、姫もタカルも十四歳になった頃。
大きくなった虎のアージーにもたれていた姫の名前は、キリシア。
イロリトリートメントのおかげで、髪はつやつや。
肌もみずみずしく、体の線に無駄はありません。
姫は側近に言いました。
「それじゃあ、例の村へは行けないの?」
「いえ、ぜひお供を連れて姫はグライス村に足を運んでみよとの王様からの伝言です」
退屈そうにアージーの頭をなでていた姫が言います。
「・・・今、グレイス、と言ったの?」
「いえ、グライス村です」
「なんだか、重要だわ」
「姫、お話があります」
「なぁに?」
「グライス村のタカルに、お会いになりたくはありませんか?」
「今、なんてっ?」
「姫が気に入ったと言った『ルイカ』という花の、あのタカルです」
「父王が秘密にしていることって、それなのねっ?」
「ん~・・・存じません」
「いいの、いいの」
深いため息を吐き、姫はアージーに再びもたれました。
「タカル・・・グライス村の」
姫は、独特ななまりである「ファ」を、この時知りませんでした。
だから、この時、気づかなかったのです。
急な外交の務めで、王様は視察を断念しました。
ただ王様は姫キリシアに、外交ができる娘になってほしと切に願っていました。
そこに来て、助成金を出しているファグライス村のタカル。
彼は王様にとって、少し特別な存在として頭の端にいるのです。
姫に外交を覚えされるなら、ぜひタカル・ファ・グライスに会わせたい。
王様はそのことを言うと、なぜか娘に嫌われたりするんじゃないかと思いました。
だから王様は父として、
タカル・ファ・グライスのことも、
ファグライス・タミュのことも、
まだ秘密にしていることにしたのです。
その事情を知っている仕える者たちに、王様は口止めをしました。
だから姫の側近は、命令の効力により、はぐらかすような返事をしました。
姫の側近は、けして姫を嫌っていて曖昧な言い方をしたのではないのです。
むしろ姫を想えばこそ、側近として当然の態度をとっただけだったのです。
一方、姫が視察に来ると知らせが来たグライス村。
タカルは皆にお願いをして、隅から隅まで村を掃除。
そして全部の家に、花の鉢を買って、育ててもらうことにしたのです。
お姫様は花が好きだと、聞いていたから。タカルは村を花でいっぱいにしました。