六章 街の女
時々街に献血に行くタカルは、街の店で小物を買いました。
「きっと喜んで欲しいなぁ」
タカルが村に帰ると、ルイカの花の成分検査官がいました。
どうやら安全な花だと分かったので、城に献上するとのこと。
難しいことを抜きに、姫に贈り物ができる、ということは分かりました。
「お姫様、喜んでくれたらいいなぁ」
「君、文字の読み書きができないって?」
「そうなんだよ」
「では、私が代筆しよう。特別に、お姫様に手紙を書いてもいいよ」
「本当にっ?ありがとう」
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お姫様へ
ルイカという花を献上します。
お姫様に手紙を書いてもいいと言われて、感動で胸がいっぱいです。
お早く病状のほど、完治されることを願います。
心身ともにお大事に。
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タカルは自分で自分の名前を書いてみたいと言って、名前を習って自分で書きました。
「たしかに、お手紙預かりました」
そう言った代筆者と別れて、タカルが子供たちの遊び場へ向かう所でした。
タカルが村のために買った、ベンチに座っているお腹の大きな女性。
見たことないひとだなぁ、とタカルは心の中でぼやきます。
タカルが挨拶をしようとした時でした。
そのひとが、ちょっと君、助けて、と言いました。
「どうしたんです?」
「お腹に赤ちゃんいるんだけど、なんだか落ち着かないのよ」
「そりゃ大変だ。お医者さん呼びますか?」
「んん~・・・どうしたいいのか分からない・・・」
「お家、近くですか?なんだったら、荷物持ちますけど」
「それだったら、助かるわ。すぐそこよ」
「見ない顔だけど、家は近くなの?」
「里に出産のために戻って来たのよ」
「お名前は?」
「コーメ」
「僕、タカル」
歩きながら話をしていると、どうやらコーメには妹と弟がいるらしい。
話はそれたり戻ったり、見慣れぬその女性に少し戸惑っているタカル。
家の前につくと、タカルは少し驚きました。
「カーユとコージの家じゃないか。あなたが、件のお姉さん?」
「あら、妹と弟の知り合いなの?」
「カーユは妹分で、コージは弟分」
「なるほど、夕食あなたの分まで作るから、食べていきなさいよ」
「ほう、用事をすませたら、また来ます」
なんだか怪しいかもしれないひとだな、と思ったことを、タカルは少し反省しました。
遊び場にいる子供たちのもとに現れたタカルに、子供たちは喜びます。
「お土産だよ~」
そう言って小物を渡されると、子供たちのはしゃぎぶりは青空の雲まで払いそうでした。
普段はタカルが年長者として子供たちを見ています。
タカルが村にいない時は、妹分のカーユが、子供たちを束ねるのでした。
「カーユ、こっちにおいで」
老人たちと話をしていたカーユが、なぁにあにさま、と話を中断してやってきます。
「これ、カーユに」
そう言ってカーユに見せたのは髪飾りで、カーユはぱちくりとしています。
目を輝かせたカーユの手から髪飾りをいったん離して、タカルが髪の毛を留めます。
「うん、可愛いぞ」
「すぐに、鏡見たいから、家に帰るっ。コージ、おいでっ」
「コーメっていうお姉さんに、夕飯誘われたんだけど?」
「なら、あにさまも、僕の家に行くの?」
「そうだね。用事はすんだし」
まだ幼いコージは、贈られた男の子用のネックレスを、つけてくれ、とせがみます。
つけてやると、鏡を見るために家に早く帰りたい、と言うので、タカルは笑いました。
なんて愛らしいんだろう、と思ったからです。
コーメの待つ家に行くと、そこには美味しそうな料理。
再会を喜ぶのもつかの間、お腹がすいた、と言うので食事がはじまります。
今日、初めて文字を書いた話をタカルがすると、コーメが関心しました。
コーメは街に住んでいて、文字の読み書きができるひとらしいのです。
それを聞いて、タカルは文字の読み書きを教わりたい、と言いました。
快諾したコーメは、まだ幼い弟の口元を鼻で笑うかのような苦笑をしました。
タカルは、このひとは誤解されやすいだろうな、と印象を持ちます。
この日からタカルは、子供たちと一緒に、コーメに文字の読み書きを教わりました。
そしてタカルはお礼にと、空想の作り話をして、皆を喜ばせます。
その話を、文字にしてみたい、と、言い出した子供がひとりいました。
その子の家は貧しく、紙やペンを買うお金の余裕はなさそうでした。
なのでタカルはその子のために、紙とペンを用意してあげました。
感動したその子の両親からお礼の挨拶があり、
その子の名前をタカルに改名したいと言われました。
「どうか、承諾しておくれ」
「光栄だよ。素晴らしい気分だ」
その子の家には苗字がないので、その子の名前も、タカル・ファ・グライス。
村では、奇特な方がタカル。
そして一方を、その子のペンネームであるシュガーホールと呼び分けることにしました。
ルイカの鉢を献上された姫は、手紙を読みました。
「・・・これ、は、なんて読むのかしら?」
側近が、首をかしげます。
「タカル、みたいに見えます」
「タカル、ね。おぼえておきたいわ」
綺麗なお花を見た喜びなのか、姫様はこの日とても気分がいいと王様に言いました。
王様が、いつかグライス村に視察に行こうぞ、と言います。
姫はその時、手紙の差出人が自分が探している者であることに気づきませんでした。
タカルは手紙に、「タカル」としか書いていませんし、
お姫様は「ファグライス」という名前が、運命の相手だと思い込んでいたから。
そしてお姫さまは王様が喋っている間、お花にみとれていたのでした。