五章 太陽花の油
国はまだ、姫のための「奇特な血」を求めていました。
タカルは時々献血に行き、そして姫の体に適合する体質です。
献血所は街にあり、タカルはそこで、名前を聞かれました。
「ここに、同意のサインを」
献血の同意書を見せられ、困惑するタカル。
「新しい担当のひと?」
「最近来たけど、常連さんなの?」
「僕、文字の読み書きができないんだよ」
「なるほど、じゃあ、親指の指紋でいいよ」
朱肉を親指につけ、それを同意書に押すタカル。
「代筆で名前を書いておこう。名前は?」
「タカル・ファ・グライス」
「ほう・・・グライス村の?」
「そう」
「帰りに、寄り道をしていくといい。グライス村の隣あたり、太陽花畑があるって」
「そうなの?ぜひ見ておこう。教えてくれてありがとう」
献血の帰りに、クッションに水晶を乗せた占い師と出会いました。
タカルはそのぽっちゃりした女の占い師が、なぜか本物だと思いました。
占い師が、タカルを見つけてぎょっとします。
そちらの方から、慌てた様子で話かけられます。
「ちょっと、ちょっと、そこの君、こっちおいで」
「なに?」
素直に占い師に、太陽花の畑がどのへんにあるのかタカルは聞きました。
場所を教えてもらったうえに、ただで診てあげようと占い師に言われます。
「君、古き良きに新しきを知る・・・今日のお告げです。料金いらないからね」
「それじゃあ、気が済まないや」
タカルは通りがかりの売り子から、甘い乳紅茶を買い、占い師に渡しました。
「いいこだねぇ。きっといいこには、いいことがあるよう」
「うんうん、ありがとうね」
くだんの太陽花畑はイロリという村にあるそうで、そこに到着しタカル。
そこには太陽みたいな花、太陽花が広大な土地に咲いています。
近くにいた同い年くらいの男の子に、タカルが話しかけます。
「すごい、綺麗な畑だね」
「ここは、僕の家の畑さ」
「見てもいいの?」
「村おこしになればいいと思ったのに、辺鄙なところで特に誰も来ないよ」
「なるほどなぁ~、こんなに綺麗なのに・・・」
「おじいちゃんが、太陽花を植えたらいいって遺書に書いてあったんだ」
古き良きに新しきを知る。
タカルはなぜか、その言葉が問題解決の鍵だと思いました。
タカルは大人が仕事に出ている間、老人の話し相手をするのが好きです。
そしてどうやらその知恵が、タカルの発言にかわりました。
「種はどうしているの?」
「種?どういう意味?」
「太陽花の油は、髪の毛をつややかにするために役に立つって聞いたことがある」
「なんだって?もしかしておじいちゃんは、そのことを・・・」
「きっと、そうだ。家のひとに相談してみなよ」
「ありがとう、君、名前は?」
「タカル」
「なるべく覚えておく」
「村おこしのために、植物成分を混ぜたらいいんじゃないのかな?」
「トリートメント?」
「そうそう。詳しくはないけど」
「分かったっ、ありがとうっ」
少年は走って、どこかに行ってしまいました。
タカルは太陽花の畑をたっぷりと鑑賞して、村に帰りました。
さて、しばらくして、太陽花油のうわさがグライス村にやってきました。
上質な太陽花からできた油なので、お城に献上される、とのこと。
そしてその縁で、イロリ、という新しいトリートメントができたようです。
イロリ村の村おこしは、タカルのおかげで大成功。
ただ、お城に献上されるさいに、
きっかけになったのは、「タケル」みたいな名前だと伝わることになるのでした。
タカルに名前を聞いた少年は、少し忘れっぽいひとだったようです。
病床に伏している姫の痛んだ髪は、イロリトリートメントでつややかになりました。
姫も使っているトリートメント。
そのうわさはたちまち、イロリを豊かにしたのでした。
イロリ村の人々は、あの少年を見つけたらきっとお礼をしよう、と誓ったのでした。