四章 涙橋のうわさ
ある日タカルが新しい服を買いに行くと、お喋りな店員が涙橋の話をしました。
涙橋とは好いた男にふられて川に身を投げて死んだ女の、幽霊が出る橋です。
みながその現象を怖がり、特にひとけがありません。
その橋を使えるようになれば、交通の便がよくなるのに、ひとけがない。
奇特な少年タカルは、その涙橋に行ってみることにしました。
涙橋を通ると、ツラい思いをする。
そのうわさにタカルは挑み、女の幽霊に出会いました。
タカルは涙橋でお弁当を広げ、楽器を弾いて歌い、そして酒を幽霊にすすめました。
「どうしてそこまでしてくれるの?」
「どうしてか、気になったんだ。それだけだ」
「奇特なひとなのね」
「時々、そう言われるよ」
タカルは涙橋の周りを見て、簡素なところだなぁ、とぼやきました。
そしてタカルは、国からの報奨金の残りを思い出します。
「そうだ、君のためにも僕のためにも、里のためにも、お花を買おう」
不思議そうにした女の幽霊をよそに、上機嫌のタカルはお弁当をたいらげました。
それから少しあと、タカルが注文した花の苗が大量に届きました。
グライス村の人々はタカルの言う通りに、涙橋のそばに花の苗を植えました。
そしてお花見の時期、満開の花が涙橋に咲き誇り一面をいろどりました。
タカルがこの場所で酒盛りをしようと言うので、皆が持ち寄って宴は楽し気です。
その様子を見ていた女の幽霊が、私はここにいたらいけないと思う、と言いました。
タカルが、言います。
「お金なら多少もっているけど、想いがお金になったらいいのに。
そしたらあの世の暮らしは、すこしマシになるんじゃないかな?」
その言葉に、女は感動して涙を流しました。
「その言葉だけでも嬉しい。ありがとう」
そうだ、と言ってタカルは、あの世の人のためのお金を思いつきました。
後日、タカルは『あの世のひとのお金』を作って、送り火で燃やしました。
その気持ちが嬉しかった女の幽霊はあの世へと旅立つことにしました。
タカルの枕元に現れた女の幽霊は、タカルにお礼を言いました。
きっと、恩を返す、と。
そして国にいる夢見の能力者全員が、その日同じ夢を見ました。
涙橋を通ると、しあわせになる。
正しく、線を、引いたから。
グライス村の、タカル。
それを告げると、女の幽霊は消えるようにいなくなりました。
グライス村にいた夢見の老人は、涙橋を久しぶりに見に行って、歓喜の涙を流しました。
皆が、当然に橋を渡り、挨拶を交わしているではありませんか。
それを知らされたタカルが言います。
「きっと涙橋の名前の意味は、いい意味なんだね」
次の春、女の幽霊のお礼と皆の感謝の気持ちなのか、花に亜種ができました。
タカルが名前を付けるといい、と皆が言いました。
「涙の花。ルイカって名前にしよう。いいことをしてよかった」
元気を取り戻しつつも、未だ病床に伏している姫。
おそらく姫の奇病の原因は、オアシスに沸く砂金を取りすぎた天罰です。
巫女として国のために舞った姫をかわいそうに思う臣下はたくさんいました。
なので花が好きな姫の耳に、亜種の花ルイカと涙橋の話がされました。
姫は、素敵なお話ね、と久しぶりに少し嬉しそうにつぶやきました。
きっと元気になったら、その花を見物したい、と姫は側近に言いました。
まだ本調子ではない姫に、
涙橋の問題解決者タカル・ファ・グライスの名前は、出されませんでした。
側近までもが、何やら運命の気配を感じて、用心していたのです。
姫の御身の心配が優先。
なので涙橋の問題解決者『タカル』が姫の輸血の相手だということを、
城にいる者も知っている者は少なかったのでした。