三章 いいなずけ
一方、お城に住むお姫様は静養中、医者に聞きました。
「私を助けてくれたのは、どなたの血なの?」
「それは決まりで言えません」
そこに別の医者がやってきて、カルテを見ながら何やら話しています。
聞き耳をたてますと、よわよわしく「ファ・グライス」と聞こえました。
やがて眠りについて姫は、輸血で元気を取り戻し、美しく育っていくのでした。
その姫の美貌は城の外にうわさになるほどになりました。
迷路のような作りの市場で、食事を終えてテーブルに足を乗せた男がいました。
「なーにか、いいこと、ないかねぇ・・・」
四つ足の椅子が男のせいで斜めになって、ギイギイ軋んだ音を出しています。
つまようじを床に吐き飛ばしたその男の名は、ファグライス・タミュ。
二十代後半だと言うのに、四十代に見えかねません。
「ファグライスの兄貴ぃ」
そこにやってきたのは、身長の低いどこか愛らしげな姿の男。
「どうしたぁ、なにかいい話でもあるのか?」
「兄貴って、お姫様に輸血したんすか?」
「ん?一応検査は受けてみたが、なんだ?」
「あれ?適合したんすか?」
「なんの話だ」
「僕のパパ、お城で働いてるじゃないですかぁ。うわさに聞いたんです」
「なにを?」
「お姫様が、奇特な血を持つファグライスって男を探してる、って」
「ほう・・・どういう意味であろう?」
「なんだか、ファグライスみたいな名前の姿見ぬ男に恋をしたって」
「奇特な血の?」
「そうでやんす」
「ほうほう・・・お前、さきほど、父親が城で働いてるって言ってたな?」
「そうでやんす」
ファグライス・タミュが子分にぐぐいと顔を寄せた。
「俺は、献血に言った、ファグライスだと、城に知らせてあげろ」
「なんですって、こりゃあすげぇ、すぐにパパに知らせておくでやんすよっ」
走り去っていく子分のウリズンの後ろ姿を見て、にやけるタミュ。
「俺は、ある意味、奇特なやつ、だ・・・」
ウリズンの話をすっかり受け入れた城は、タミュをいいなずけ候補にしました。
ウリズンはタミュのついた生まれや育ちのうそに、だまされて子分になったのです。
そしてとんでもない話をする男、という言い方で、皆が勘違いをしました。
姫との面会はまだありませんが、タミュはこの時から、王座を考えました。
よこしまな考えからであって、タミュは以前からも悪さに余念がありませんでした。
姫は輸血をしながら、この血はファグライスというのね、とつぶやきます。
ひとのいい王様は、タミュの進言通り、秘密裏に彼を姫のいいなずけにしました。