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一章 奇特な少年
はてさて、オアシスに水を飲みに行く少年の名前はなんというのか。
グライス村のタカルと言えば、彼のことである。
彼は苗字を持たぬゆえ、名を名乗る時は、タカル・ファ・グライスとなる。
ファ、とは、この場合、どこそこの、をあらわす言葉。
少年はその優しさで有名で、その地方のなまりで、「奇特な子」と異名を持っている。
大人たちが仕事に出ている間、村の子供たちの面倒をみながら、老人の話を切に聞く。
そして夕飯のころ、今日は何があったんだい、と家族にたずねられると、
老人たちから聞いた話から作った空想を言って、楽しませるのでした。
一体どんな大人になるんだろうね、と、少年の将来に夢を見る者も数多く、
またその期待に応えるかのように、少年はすこやかに育ちました。