序章 姫の舞
月花蜜水夜。
・・・おやおや。
不思議で奇妙は不可思議かな?
謎たちが溶けそうな、君。
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序章:【姫の舞】
砂漠の地帯、デルタ―ル、そこには普段、ひとなどいない。
世界の真中とも呼ばれているその場所に、少しばかりオアシスがある。
そのオアシスを知る者は、歴史上少ない。
その泉の水を飲みに来る奇特な少年がひとり、今日もまた、その場所に来た。
そして普段見かけぬ気配に、茂みに身を隠す。
少女と、武官。
そして少女は武官からつるぎを渡されると、水の上を歩いて剣舞を踊りだした。
その泉が淡く光りだし輝いて来る頃には、大粒の砂金がわんさか湧いて出てくる。
武官が砂金を桶から樽に汲み上げている頃、少年はぼやいた。
「珍しい刺青だな・・・」
少女の体にある刺青が動いていて、あとは肌に吸い込まれるように見えなくなった。
そこにメスの虎が一頭、少年に飛びかかり、息をのんだ少年の顔をなめだす。
アージーと呼ばれた虎の飼い主は少女だったようで、虎は素直にそちらに戻った。
起き上がり、大きなため息を吐く少年。
その武官を従えオアシスをあとにする美少女が姫であることを、彼はまだ知らない。