《ざまあ》され終えたS級ランクの勇者は気ままに辺境の地で旅をしながら、裏で世界平和を支える。「今度は村人Aからやり直します」
「参ったなあ〜…これからどう生きていこう…」
白い霧のかかった山奥でひとり、ぽつんと突っ立ているオレ。元、勇者。カミナ・リードス
元々は、数日前。Sランクギルドの勇者をやっていたが、昔、追放した召喚士が世界のあらゆるところで活躍し、オレらのギルドの存在を危ぶむ事態に発展させた。
「勇者だったオレもこうして、落ちぶれてただの冒険者。 召喚士のアリアは今や、世界を救った英雄。 オレの計画通りとはいえ、まさかこんなに差が開くとは…はあ…」
ギルドにいた召喚士のアリアがあまりにも無能で経験値も得られない体質だったことに、みんなが痺れを切らし、好き勝手罵倒して追放する。という流れが昔あった。
当時、彼女には世界を救える才能があると分かっていたオレは、自ら追放役を買って出た。
今となっては、申し訳ないことをしたと思うが、恨みを買ってでもそれが最善の策だと思っていた。
その結果がこれだ。アリアの活躍により、オレらギルドはみるみる陥落していき、最終的にはボロボロのギルドは解散。ぼっちのオレだけが残ったということになる。
「はあ〜あ…世界も救われて結果オーライってとこか。 英雄の座は取られたけど、これが現実だしな。 勇者の目的は世界を救うこと! よし、くじけず次の人生何しようか、考えよう!」
そうは言っても、なかなかすぐには考えは浮かばないもの。とりあえず、オレは山頂から降りて生まれ育った最初の村。カーミナル村に戻ることにした。
***
村の西にある平坦な道の途中で、ローブを着た行き倒れてる人物が目に入った。
勇者である義務を忘れかけていたオレは慌てて、その人物のところへ駆け寄り、助けるように声をかけた。
「大丈夫か…ずいぶん辛そうだが」
「み…水…」
「ほら、持っていた最後の水だ。ゆっくり飲んで…」
「ゴホッ…ゴホッ…!!」
あまりにも喉が渇いていたのか、水を急いで飲んで、むせる少女。ローブで隠れているが、確かに分かる。
彼女はまだ幼い少女だ。しかも、どこからか竜の尻尾まで生えているんだが…!?
「君は一体…」
「わ、私は魔王の娘。 レギル・ハーベスト。 人間と魔物の混血だ」
「ま、魔王の娘!?」
驚いた。赤い竜の尻尾でまさかとは思ったが、魔王に娘がいたとは。これはどうやら訳ありと言ったところか。
「オレは元、勇者のカミナ・リードス。 今はただの旅人だがな」
「ッッ……!!?」
とんでもなく警戒されている。無理もない。勇者と聞いて、この拒絶反応をとる魔物は多くいるからだ。
きっと察するに、英雄のアリア一行から追われて逃げている…というのが正しいのだろう。
ぐうううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう〜〜〜。
どこからか腹の鳴る音がする。それと同時に、恥ずかしがるように真っ赤な顔をローブで隠す魔王の娘、レギル。オレもクスッと笑みをこぼしながら、持っているパンの一切れを渡す。
「う、うまいわ!! これッ!!」
「ははっ、そりゃ良かった」
パンを勢いよくほうばるレギルの姿を見て、微笑ましく思いながらも、彼女から事情を聞くことにした。
***
「やっぱり、アリアたちが魔王を倒したのか…」
「ああ。 あいつら、ひどいんだぞ! なんの罪のない魔物まで蹂躙するぐらい徹底的に攻撃してきたんだ」
「そうか、ひどい目にあわされてきたんだな、よく頑張った」
「私には、行くあてもない! だからと言って、助けてくれる人間もいない…私はどうしたらいい!?」
「どうしたらって…」
このまま、彼女をかくまえば守っているオレにも、とばっちりがくる。でも、勇者だったプライドがたとえ、魔王の娘であっても見捨ててはいけないと、言ってる気がする。
「分かった。 オレがお前のことをカーミナル村まで守ることにするよ」
「見ず知らずの私でも、助けてくれるというのか?」
「ああ。 そうだって言ってるじゃないか」
「ありがとう。 このご恩は末代まで持っていく」
「よし、善は急げだ。 早速、近くのカーミナル村まで直行だ!」
「うん!」
***
カーミナル村は辺境の地にある。そこでは、村人たちが互いに平和に暮らし、困ってる人あれば優しく分け与える。そんな幸福に満ちた小さな村だった。
「着いたぞ〜、なんだ? もうへばってるのか?」
「お前が、体力がありすぎるだけだぞ…ゼエッ、ゼエッ」
「すまん、すまん。 久しぶりすぎて、気持ちが高ぶってしまったよ」
特に魔物や人に会うこともなく、村に無事着いたオレらはまず、昔からの幼馴染であるレミールカの家を訪ねることにした。
「こんにちは〜」
「ん? あんた、カミナじゃない。 勇者の旅はどうなったのよ?」
「それが…追放した召喚士がオレの代わりに世界を救っちゃって、オレはただの旅人に戻ったというか…」
「何よ、情けない。 それでおめおめと戻ってきたわけ? バカなんじゃないの、あんた」
「ごめんなさい。 村のみんなも精一杯に送り出してくれたのに、申し訳ない」
「本当よ。 このごくつぶし」
「なんなんだ? この小娘、変に生意気なんだが?」
「レギルは黙っててくれ」
この口の悪さ。旅に出てから、何にも変わってない。幼馴染のレミールカは、昔。どっかの第一王子に婚約破棄されて、この村に1人で来た元、悪役令嬢なのだ。
プライドも高く、高飛車でこれでも来たばかりに比べたら、優しくなったほうだ。
今は、子爵令嬢をやめて村人の一員として畑をコツコツと耕してる訳だ。意外と努力できる性格で、この生活が性に合ってるらしい。幸せそうで何よりだ。
「で、私のところに来て、何の用? くだらない用事なら早く帰って欲しいんだけど」
「いや、今日は旅の途中で拾った子を村で迎え入れたくて、ぜひ紹介したいんだ」
「紹介?」
「ああ。」
「ふむ! 私は、魔王の1人娘。 第二魔王、レギル・ハーベストである! よろしく頼む!!」
「はあ? 魔王の娘!!?」
「そこに関しては、目をつぶってくれないか…ははっ」
「ははっ…じゃないわよ!! なんてものを連れてきちゃってるのよ! このバカカミナ!!!」
「ですよね〜…」
この後、ちゃんと訳を説明した。だが、レミールカの怒りは収まらず、オレに当たり散らすことでなんとか収まってくれた。
「はあ、はあ、マジでバカなのね、あんた達。 いくら無実の魔物とはいえ、この平和の村でかくまうなんて、危険行為よ」
「分かってる。 そのための最強のオレがいる。 レミールカも守るよ」
「えっ?」
守ると言った途端、レミールカの顔が赤面し始める。なんだかわからないが、とにかく彼女が怒ってる訳じゃなくてよかった。
「ま、守るって! みんなもでしょ! 私だけを守ってどうするのよ!!」
「う、うん? そ、そうだな、確かに」
「全く、罪な男だな。 お前は」
「?」
レギルの言ってることは理解できなかったが、この村の人たちに嘘はつけない。出来るだけ、穏便に事情を伝えて、レギルをこの村にかくまえるように言ってみよう。
***
カーミナル村の人たちはみんな案の定、優しかった。事情を伝えると、こころよくレギルを迎え入れてくれて、村長なんかは、泣きながら優しくレギルを抱きしめたくらいだ。
これでめでたし。めでたし。と言いたかったところだったが、その数日後。やはり、レギルの追っ手である召喚士のアリア達がこの村にやってきたのである。今にも交戦しそうな、危うい事態だ。
「あなたはこんなところでも、私の邪魔をするんですね。勇者カミナ」
「もう様付けもしなくなったんだな。 まあ、今は敵同士だもんな」
「当たり前です。 私を無能だからと言って追放したのは、今でも根に持ってますよ」
「そうか、それは恐ろしいな」
常ににらみ合いが続く。じりじりとこちらに足を進めてくるアリアとオレの陰に怖くて隠れる、レギル。
「さあ、おとなしくその子を渡してください。 そうすれば、この村もあなたも何もせずにすむ」
「バカ言え。 おとなしくこの子を渡したとして、一体どうするっていうんだ」
「魔王の血族はみんな、殺します。 私は、この世界を救う英雄なので」
「それがお前の正しい正義ってやつなのか」
「ええ」
「なら、お前のいう何かを犠牲にして世界を救う正義があるとするのならば、オレにも世界を救うより、誰かを犠牲にせずに守る正義がある。 この意味がわかるか?」
「いえ、分かりかねますね」
そう彼女が言った瞬間、アリアは召喚獣の魔法を唱え始める。オレもそれに対して、攻撃体制に入る。
どうやら、アリアのギルドはおとなしく、この場から帰るつもりはないらしい。
「この地に集まる精霊よ、骨を断ち、翼をかけ、今ここに魂と命を神の名の元に授けたまえ!! 召喚!!」
召喚士のアリアが魔法を唱え終えると、空が暗雲に覆われ、そこから翼を広げて黒竜が現れた。上空を高いところで飛び続けている。
「ギルドのみんなが出ることもありません。 この最強の黒竜一匹で十分です」
「言ってくれるね…でも、相手にとって不足なし」
「こんな落ちぶれ勇者など、1発でやっつけて反省させてやれ。 アリア」
「そうです! 今の勇者なんて昔に比べたら、断然に弱いです!! やっちゃってください!」
「見るまでもないな。 アリアの勝利だ」
アリアのギルドパーティーは好き勝手言ってくれる。確かに、昔に比べて力やスキルは劣るがオレにはまだ秘密兵器があるのをみな、知らないのだ。
「命までは取りません。 降参するなら、今ですよ」
「いや、このままでいく」
「そうですか、なら」
黒竜がオレめがけて炎を吐きながら突進してくる。それを冷静に間合いを取りながら、深呼吸をして、あるチートスキルを発動させる。
「太陽の剣技_______________________________________________!!!」
構えた大剣から、黒竜に向けて強い太陽のような光の柱が切り裂いていく。黒竜の吐いた炎は真っ二つに真横に分かれ、黒竜自身も2つに割れるようにして地面に崩れ去った。
「そ、そんな。 私の召喚獣を一撃で破る攻撃スキルがあるなんて…」
「プライドを折るような真似をして悪かったな。 オレもまだまだ現役でね」
「やったぞ!! 勇者カミナは最強であるぞ!!」
太陽の剣技。その名の通り、自身の剣に太陽光の力を加え、その一撃必殺を相手に与える勇者のみ使えるチートスキルだ。
ギルドのみんなには教えてこなかったし、何より冒険してから習得するのに10年はかかった。
「こいつ…ッ、調子に乗りやがって。 オレらも加勢するか? アリア」
「いや、私たちには強すぎる相手。 ここは下がりましょう」
「なんでッッ!?」
「一撃必殺のスキルなんて、聞いたことがありません…もっと強くなる必要があります」
「ここはさよならだな、アリア。 元気で」
「チッ…」
アリアたちのギルドは転移魔法を使うと、どこかへと消えていった。オレも、ひとまずは安心言ったところだ。
「勇者!! お前、実はすごい実力の持ち主だったんだな!!」
「勇者じゃなくて、名前で呼んでくれよ。ぜひ」
「ああ、そうだったな! よきに計らえよ! カミナ」
「まったく、何様だよ。お前は」
危機を切り抜けた村には歓声が上がっていた。緊張感が解かれ、一気に喜びが湧いたのだろう。
オレもその心地よさと安堵感に酔いしれると共に、誰かを守れたという勇者として幸福を感じていた。
***
「このバカカミナ! またどっかに旅に出るの?」
「ああ、このまま、魔王の娘を住まわせたまま、この村に迷惑かけるのも酷だしな」
「あっそ、じゃあさっさと行けば。 もうあんたには戻る場所なんて今度こそないわよ」
「そんなこと言って、ホントは行って欲しくはないんだろ〜? 娘〜」
「ち、ちがうわよ!! 何言ってんの! この魔王の子は!!」
「ははは!」
楽しい時間はあっという間に過ぎていく。オレとレギルは村のみんなに見送られながら、村を後にし旅に再び出る。
気ままな2人旅だ。レギルを守れる安息の地を目指して、今は追っ手から守りながら旅をする。
「カミナ、お前は世界が救われた今、これから何がしたいとかあるのか?」
「オレか? 今は勇者もやめて、ただの村人Aとして生きていくよ。旅する村人としてね」
オレにできることはこの子を守ることと、世界平和を裏から支えることぐらいだ。
きっと簡単なことではないが、きっとオレなら気楽にやっていけるはずだ。そんな気がする。
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