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第五話 新たな地平線

「そうなると俺ももう少し自分のことを伝えておかないとな。教導相手を選ぶ権利は、君らにあるんだからな」


 ミヅキさんが気遣う視線を向けてくるが、俺をBランクの高位冒険者だと思っている三人娘は、興味津々の様子だ。Bランクなのは間違いではないんだけどな。


「俺の【職業】は【冒険者】だ。ついさっきまであるパーティーに所属していたんだが、そこを抜けてきたばかりで、ソロ初日にミヅキさんから君達への教導依頼を持ちかけられたのさ」


「待ってください、【冒険者】というお話ですが、それは誰でも取得できる【基礎職(ベースジョブ)】ではないですか。Bランクの冒険者なら中級職が上級職でもおかしくはない筈です」


 半信半疑な様子のミラに、俺は苦笑を浮かべて答える。ミラの言い分の方が常識で、俺の方が非常識な事を言っているからな。


「ソレが、俺がパーティーを抜けてきた理由の一つだよ。俺はどういうわけか分からないが、どうしても【冒険者】以外の【職業】を取得できないんだ。【冒険者】から派生する下級職はもちろん、それ以上の中級職や上級職もね。

 【冒険者】は全ての下級職の一部の【技能(スキル)】を習得できるから、それの扱いと工夫でなんとか今日までやってきて、Bランクにもなれた」


 冒険者になった者達が取得できる、始まりの【職業】の【冒険者】は【基礎職】と言われるように、そこから派生する下級職【戦士(ファイター)】【魔法使い(メイジ)】【僧侶(プリースト)】などの【技能】をいくつか取得できる。

 万能と言えば聞こえはいいが、それぞれの分野では劣るし、実際には器用貧乏と言うべきだ。しかも使えるのは下級職止まりであるから、中級職以上の相手と比べられればどうしても見劣りするばかりだ。


「では教導者よ、貴殿は天より授かりし神秘なる宝の持ち主なりや? あるいは唯一無二の秘奥を宿せし者か?」


「【神器】ならあるが生憎と冒険の役には立たないな。そんな俺が教導役で本当に構わないか? よく考えて欲しい」


 初見の相手に事情を語りすぎかもしれないが、初々しい彼女達は冒険者になったばかりの頃の昔を思い出させて、少しでも良い先輩であろうとなんだか見栄を張りたくなる。こんな俺だが、彼女達に冒険者という存在に、失望してほしくないのかもしれない。


「差し出がましいようですが、私がユーゴさんに依頼を持ちかけたのは彼が最も適任であると判断したからです。

 確かにユーゴさんは下級職ですが、それを補ってあまりある経験と判断力、適応力、それに人格の持ち主だからです。この方ほど【冒険者】に精通した方は他にいませんし、下級職でありながらBランクという評価を受けているのがユーゴさんなんです」


「ミヅキさん、それは誉めすぎじゃないか?」


「正当な評価です。むしろユーゴさんの自己評価が低すぎるんです。もっとご自分を肯定してください。」


 眉をつり上げたミヅキさんになぜか窘められた。そうは言うが俺が万年下級職なのも神器が役に立たないのも事実だからな。口に出したらミヅキさんに更になにか言われそうだと口をつぐんでいると、ヴィアが俺をじっと見てこう言った。


「我は貴殿にこそ教導を望まん。逆境にありて高みに挑み、未知への挑戦を続ける貴殿なれば、魂の故郷を離れ異郷の地にて新たな戦いに挑む我らに相応しき心の強さ、不屈の意思! 混沌の同胞よ、我は彼こそ我らの導き手とみたり。そなたらの心はいかに?」


「ナンナはユーゴ、良いと思う。下級職、事実、でもユーゴが高位冒険者なのも事実。Fランクのナンナ達に好機なのも変わらない事実」


「ヴィアとナンナに言いたい事を言われましたね。ユーゴさん、まだほんの少しお話をしただけですが、ギルド職員のミヅキさんからの信頼が厚いのも分かりましたし、私も信じてみたいと思います」


「どうやらお三方ともユーゴさんが良いみたいですよ、よかったですね!」


「……なんだかな。誰かにここまで褒めて貰えるのは、何年ぶりだろうな。恥ずかしい気持ちとうれしい気持ちが混ざっているよ。分かったよ。それなら俺も微力を尽くして君達の役に立とう。

 さて、そうなると教導の詳細をつめていかないといかん。教導の依頼は昔からあるが、この場合はギルド側から報酬が出るんだったな」


「ええ、ギルドがミラさん達に提案したものですから。元々は新人冒険者の方達に行っている研修を、理由があって受けられなかったか、伸び悩む方達の助けとするべくギルド側の立ち上げた制度ですからね。

 今回のミラさん達への教導の期間は最低でも一週間。延長の申し出は都度で、教導側の冒険者の事情によってです。

 教導の内容としては基本的に依頼者に同行し、冒険や依頼中の行動を見守り助言を与えたり、事前の準備や細かな心構えについて、不足していると思われる部分を指摘していただくものです。

 実際のところは教導側にお任せしますから、よほどの事が無ければギルドがとやかく言うことはありません。その分、教導を依頼する冒険者の選定には慎重を期していますから。つまり、ユーゴさんを信頼しているって事ですよ?」


「もう分かったってば。その信頼に応えて見せるさ。それに後輩の前で格好悪い先輩の姿は見せられないし、教導も気を抜かずにやる。ミラもヴィアもナンナも、一人前になれるよう手助けするとも。

 それで教導をするにあたって、君らの予定はどうなっている? もう何か依頼を受けていたりするのか? それともどこかの迷宮に挑む予定があるとか、休養中とか」


「廃坑の攻略、向けて、戦い方を見直す予定。ナンナ達、魔妖精(イビルフェアリー)の討伐依頼、受けた」


 戦い方を見直す、か。これまでの冒険の中でどこかに問題があったって事だな。


「ああ、そういう季節だもんな。魔妖精か、腕前はまだ知らないが、君らの装備とパーティー構成ならそうそう問題にはならないはずだな。うん、腕前を見せてもらうのにはちょうどいいな。いつ出発するんだ? 明日、明後日か?」


「ん。今日、これから」


 ああ、俺が来なかったらそのまま討伐に向かう予定だったのか。その前の打ち合わせ中だったんだな。


「それならちょうどいい。俺も一緒に同行させてもらおう。最初の教導は魔妖精の討伐を見させてもらってからだ」


「でもユーゴさんは昨日、巨大石眼蛇を討伐したばかりじゃないですか」


 ミヅキさんの言葉にミラ達が目の色を変えた。今の彼女達からすれば巨大石眼蛇は、はるか格上の魔物だ。それを討伐したと聞かされれば、こういう反応にもなるか。


「俺は例によって仲間の支援ばかりさ。大したことはしてないよ」


「単体でもAランクの巨大石眼蛇が二匹に、数十匹の石眼蛇の群れまで相手にしたんです。Aランクパーティーでもよほどの人達でなければ、依頼の達成は困難です。それを成した一員なんですからもっと自信を持ちましょうよ~」


「俺個人はBランクだって忘れてないか? まあ、一匹ならなんとか出来るけどさ」


 実際に俺が巨大石眼蛇と一対一で戦ったら、準備を重ねていてもただじゃすまないだろう。あの群れを討伐できたのはアルマナや他のメンバーが居たからだ。

 俺はいくらかの情けなさを噛み締めていたが、そんな事を知らない混沌の少女達は俺をキラキラと輝く尊敬の瞳で見ていた。参ったなあ。この瞳は裏切れないぞ、俺。


「ああ、ところで君達のパーティーに名前はあるのか? 良ければ教えてくれないか?」


 話題を逸らすようではあるが、当然と言えば当然の質問に、ミラ達三人はお互いの顔を見合わせてから、ミラが代表して俺に教えてくれた。


「【新たな地平線(ニューホライゾン)】。それが私達のパーティーの名前です」


「【新たな地平線】か。ああ、未知に挑み、世界を広げる冒険者らしい、良い名前だ」


 俺が心から称賛しているのが伝わったのか、ミラとヴィアとナンナは嬉しそうに顔を綻ばせる。こうしてみれば混沌の種族だ何だと言っても、年頃の少女以外の何物でもなかった。

お読みいただきありがとうございました。

ユーゴは役立たずの神器しかありませんが、それでも地道な努力と準備でのし上がってきた隠れた実力者で、それを知っている人達は自分だけ分かっている、と後方恋人面をしていたりいなかったり。

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