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第二十一話 ユーゴの実力

「歪、そんな立て続けにこんなことが!?」


 ミラは俺の“歪”の一言に新たな驚きを浮かべていたが、それでも指示を守り、戦斧を固く握りしめてヴィアとナンナを背後に庇いながら第五層の入り口まで下がる。

 ナンナは俺の渡した回復薬と体内に収納していた自前の回復薬を使って、俺に斬り落とされた右手を再生している途中だ。

 俺やミラとは異なる擬人粘体だからこその再生能力。ナンナの右手首を斬り落としていなければ、腕を丸ごと食われていたかもしれないとはいえ、俺が実行できたのは彼女の再生能力を知っていたからというのが大きい。


「億万と散れ! 『闇黒魔弾』!」


 そして歪に真っ先に仕掛けたのはヴィアだった。怒りの炎を瞳に宿す彼女が得意とする魔法を詠唱し、滲みだす灰色のナニカと化した歪へ黒い魔弾が猟犬の群れの如く襲い掛かる。

 空中を乱舞する石の巨像騎士の残骸が魔弾を受け止めようとするのを、俺は黙って見過ごしはしなかった。魔弾の妨害に数を割いた事で、俺の拘束が緩んだお陰だ。


「『召喚・土精』!」


 俺は魔弾を受け止めようとしていた残骸を触媒として土属性の精霊を召喚し、残骸に宿る歪の力と召喚の力が相殺し合った結果、残骸はその場で浮力を失って床に落下する。

 出来ればそのまま土精を召喚したかったが、相殺出来ただけマシか。

 邪魔な残骸が無くなり、ヴィアの『闇黒魔弾』は歪へ直撃するかと思われた。しかし、まさに命中するその直前に、灰色の染みの一部が巨大な腕を形作り、その手に握られた大剣が『闇黒魔弾』を一振りで吹き飛ばしてしまう!


「なんと!?」


 ヴィアの驚きの声を耳にしながら、俺は歪がこちら側に完全に顕現する前に仕留めきれなかったのを悟った。これがアルマナ達だったら……いや、ここに居るのは俺だ。居ない人間と比べても仕方がない。


「みすみす黙って見ているだけってのも、芸がない。三人共下手に手を出すな! 歪に取り憑かれた魔物は強さが増すってのが定番だからな」


 言外に足手まといになると言い含め、三人の悔しそうな表情を尻目に俺は歪へと駆け出す。(やっこ)さんは既にこちら側での形を取り終えつつあった。石の巨像騎士の魔石を核にした以上、ある程度の影響を受ける筈だ。

 歪の取った姿は胸部と頭部は石の巨像騎士を踏襲した騎士の鎧兜を模したものだが、そこから伸びる四肢は白い炎のような魔力が形作り、後頭部からも白い炎が燃え盛っているようだ。

 武器は右手に握る石の長剣。元は石の巨像騎士の砕けた大剣だが、破片を繋ぎ直した事で長剣の大きさに留まっている。歪は俺と同程度の体躯であるから、ちょうど釣り合いが取れている。


 名前を付けるなら歪んだ石の巨像騎士バグズ・ストーンゴーレムナイト……は長いな。大きさも変わったし……歪んだ石騎士バグズ・ストーンナイト。あんまり変わらんが、とりあえずはそう呼ぶか。

 歪んだ石騎士が俺を目掛けて駆け出す。長剣は石造りだが歪の力を受けて、強度と切れ味が増していると考えるべきだ。まずは一当てする前に牽制といくか。


「『火炎(ファイア)』、『風刃(ウインドカッター)』、『水撃(ウォーターショット)』、『雷電(サンダー)』、『氷結(アイス)』、『閃光(シャイニング)』、『暗黒(ダーク)』!」


 武装蜂を相手に使用したのと同じ、各属性の初級魔法が歪んだ石騎士を包み込むように立て続けに炸裂した。どれか一つでも効いたなら、弱点となる属性が判明するんだが、どうだ?

 答えは守りの構えすら取らずに俺に向かってくる歪んだ石騎士の姿だった。属性による損傷の差異はなし。そもそも損傷自体がほぼなし。魔法に対する防御力、動きの早さも含めて吟味すれば全体的な能力向上は確実か。


「歪とやり合うのは初めてじゃないが、まったく厄介な相手だな、お前達は!」


 互いの間合いがほぼ同じとなった俺達は、互いの長剣を振り上げて一気呵成と斬りかかる。歪んだ石騎士の斬り下ろしを一度受けてから滑らせるようにして弾き、腰だめに構えた愛用の長剣を突き込む。

 歪んだ石騎士の左脇を貫くはずだった一撃は、奴の振るった白い炎のような左腕に防がれた。この感触、鉄並みの硬度を持った魔力か?


 歪に浸食された魔石が頭部の中に収納されたのは見えていた。ま、中で移動している可能性もあるがとりあえずは頭を狙ってゆく方針でいいだろう。

 長剣を引き戻し、今度は左腰を斬りつける──と見せかけて刃を跳ね上げて、歪んだ石騎士の頭部を右斜め下からの斬り上げへ! これを歪んだ石騎士が上半身を仰け反らせて回避した。フェイントは無視となると、視覚に頼ってはいないか。それならこいつはどうだい?


「『転倒(スリップ)』」


 対象の足を滑らせ転倒させる。至って単純な、それでいて成功すれば効果は絶大な魔法だが、効果のほどはいかに?

 歪んだ石騎士は上半身を仰け反らせていたこともあり、見えない魔力に足を滑らせてそのまま仰向けに倒れ込む。好機! と俺は仰向けに倒れ込む敵へと長剣を振り下ろした。


 必殺を意識する一撃だったが、歪んだ石騎士は左手で倒れる体を支え力の入らない姿勢ながら、右手の長剣を振るって俺の一撃を弾き、すぐさまその場で立ち上がってみせる。

 精神がない相手だと不意に足元を掬っても、動揺の一つも見せないから厄介だ。立ち上がり、怒涛の勢いで斬りかかってくる歪んだ石騎士の斬撃を捌きながら、俺は目の前の敵の戦闘能力を吟味していた。


(Dランク、いやCランクに届くか? 中級職で固めたパーティーか、上級職を一人か二人は入れたパーティーで戦いたい相手だ。ミラ達に手出しをしないよう命じて正解だな)


 対する俺はBランクとはいえ下級職の【冒険者】。中級職、上級職と位階を上げるにつれて齎される身体能力の向上や強力な【技能】の有無を考えれば、純粋な戦闘能力では目の前の歪と大して変わりはないかもしれない。

 ミラ達はと言えば食い入るような目でこちらを見ている。ナンナの右手首は、よし、治っているな。苦痛を感じているようには見えない。


 ああするしかなかったとはいえ、彼女の右手首を斬り飛ばした時の感触は愉快なものではなかった。後で誠心誠意謝らなければなるまい。

 ヴィアは再び魔法による援護を行おうとしているが、俺と歪んだ石騎士とが激しく入れ替わる立ち回りを演じている為、行動に移れずにいる。よし、それでいい。焦る必要はないんだ。あくまでも冷静に機会を見極めろ、それが魔法使いってものだ。


二連斬(ダブルスラッシュ)!」


 下級に属する【技能】を発動させ、腕の振りと手首の回転による素早い連撃が歪んだ石騎士の左首と胸部とに襲い掛かる。

 俺の一撃目は奴の長剣に防がれるが、最初から防がれるのを意識した囮の一撃だ。本命の二撃目を返す刃で叩き込み、石造りの胸部を横断する傷を刻み込む。


(損傷による怯みなし。四肢の魔力に影響なし。核はやはり頭部か心臓の位置か?)


 俺の目の前で歪んだ石騎士が込み上げる怒りを表すかのように左腕を大きく振り上げ、一瞬の間に大きく膨れ上がる。それこそ巨人の腕か何かと疑いたくなる大きさだ。

 先程までよりも多くの魔力が注ぎ込まれた腕は、俺程度なら一撃で死亡させる威力を発揮するだろう。やみくもに長剣を振り回すだけが能じゃないってか!


「『解放(リリース)』!」


 それならば俺もとっておきを解禁する。愛用の長剣に封じ込めていた魔法『障壁(シールド)』が発動し、歪んだ石騎士の左腕は光り輝く『障壁』に阻まれて、白い炎を四方へと広げるだけに終わる。

 歪んだ石騎士は左腕の一撃を防がれた瞬間には、右手の長剣で俺の首を斬り飛ばしに来ていた。まったく、動きの速いことで!


「ふっ!」


 だが、俺の一閃が奴の右手を斬り払う方が速い。俺は戦闘開始からこれまで使っていなかった強化魔法を、『障壁』を展開した一瞬に発動していた。

 下級とは言え強化魔法により、先程までよりも速さと強さを増した俺の一撃は、歪んだ石騎士にとって不意を突かれた形となる。これで自我を持っている相手だったなら、もっと分かりやすく動揺を誘えたんだがな。


「小細工で悪いな!」


 歪んだ石騎士の右手が宙を舞い、左腕の炎が静まるのと同時に『障壁』も消える。奴は苦痛も恐怖もない様子で、左手をこちらへと伸ばしてくる。だが、遅い!


首刈(ボーパルブレード)!」


 首を目標に発動する斬撃系の【技能】を行使し、歪んだ石騎士の首を刎ね飛ばす。並みの生物ならこれでお終いだが、それでもまだ動いて俺に向けて長剣を振りかぶり、突きこみ、払ってくる。


「ミラ、ヴィア、ナンナ!」


 俺の刎ねた歪んだ石騎士の首は、重々しい音を立てて床に落ちて転がっている。そちらに入っているかもしれない魔石の破壊は、俺がやるよりも三人娘に任せる方が速い。

 割り込む隙を見出せずにいた三人は俺の声に素早く反応してくれた。短い時間だったが教導を施した成果だな。もっとも間合いの広いヴィアが左手に魔導書を開き、歪んだ石騎士の頭部へ狙いを定める。


「『炸裂光弾』!」


 赤い光弾が当たると見えたその寸前、歪んだ石騎士の首がふわりと浮かび上がり、空中を蝶のように舞って回避した。あれだけの芸当が出来るとなると、魔石はやはり頭部の中か。


「ああん、もう! 外れた!」


 言葉を飾るのも忘れるヴィアの傍らで、ナンナが回復した右手と左手を鞭のように振り回して、投げ紐の要領で投石を行う。頭部を破壊する程の威力は無くても、当たれば動きを鈍らせるくらいは期待できる。


「ん、ん、ん!」


 唸りを当てて投げられた石を、歪んだ石騎士の首は腹が立つくらい軽やかに避けて見せる。腹が立つくらいの身軽さだな、と俺は苛立ちを乗せた一撃で首無しの胴体から左腕を斬り飛ばし、三人娘と頭部の攻防を盗み見る余裕があった。

 ヴィアの魔法は外れ、ナンナの投石は外れた。だがナンナの投石は歪んだ石騎士の頭部の逃げる方向を誘導する為のものだ。頭部が回避に集中している間に、ミラは既に戦斧の間合いに頭部をおさめている。


「いい加減に、しなさぁああい!」


 ナンナの投石を下に沈んで避けた歪んだ石騎士の頭部は、まさにミラが横殴りの一撃を叩きつけるのに絶好の位置!

 ミラの全力の一撃が頭部の右側頭部に直撃し、あまりの威力に頭部はそのまま細かい無数の破片に砕け散り、その中に歪に浸食された魔石も混じっていた。戦斧に魔石が砕かれるのと同時に俺が相手をしていた首無しも力を失い、その場で崩れ落ちる。

 白い炎のような魔力は消え去り、首も手足もない胴体だけが床の上に落ちて砕けた。さて、まさかまさかの歪二連発は……なさそうだな。俺はふっと息を吐いて、長剣を鞘に納める。


「ふ、ミラ、良い一撃だ。ナンナも上手い誘導だったよ。それと右手首をすまない」


「ん。仕方、ない。必要だったこと、ナンナ、理解している。それにこの、通りに、元通り。気にすんなとナンナは思う」


 ナンナは俺を励ますように、元通りになった右手を開いたり握ったりして見せる。年下の女の子に慰められていたら、世話がないな。当のナンナがこう言ってくれているのなら、素直に受けいれるべきだろう。


「ああ、言葉に甘えさせてもらうよ。すまないな、ナンナ」


「それでいい。ヴィア? ヴィアも落ち込むの、止める」


 ヴィアは歪んだ石騎士の頭部を破壊するのに際して、ほとんど役に立たなかったのを気にしているのか、魔導書を持ったまま頭を抱えていたのだ。


「く、くぅうう、我が闇の力を結集せし弾丸は空を切り、虚しく消えた。更には力ある言葉の紡ぎ手たることを忘れ、純なる言葉を口にするとは……。虚空の洞があらば我が身を封印せしめたい!」


「それだけ声が出せるのなら、元気は有り余っている証拠だ。迷宮主の魔石や残骸は回収できなかったが、今回の歪の発生を伝えれば特別な報酬が出る可能性はある。

 それを楽しみに帰るとしよう。気を抜きすぎてはいけないぞ。第四層から第一層まで魔物を相手にしながら、入り口まで戻らないといけないんだからな」


「ん、ナンナ、ユーゴに回復薬、お返し、しないといけない」


 ナンナは空になった陶器の瓶を俺に見せてきた。彼女の右手首を斬り落とした時に投げ渡した瓶だ。


「いや、ナンナがその回復薬の代金を出す必要はない。いくらナンナが擬人粘体だとはいえ、手首を斬ったのは俺なんだ。それは少しだけでもナンナの傷を治す為に渡したものだ。

 ナンナ、調子はどうだ? 少しでもおかしいと感じたら言ってくれ。出来る限りの伝手を頼って、君の傷を治せるように尽力する」


「ユーゴは生真面目。ミラと同じくらい? 真面目さん。ゆーづー? ゆーずー? が利かない。でも、分かった。おかしかったら、ユーゴに、隠さずに言う。それで納得?」


「ああ、納得するよ。すまないな、融通の利かない頑固者で」


「仕方ない。それがユーゴの良いところ、だと、ナンナ達は知っているので」


 敵わんな、と俺はミラに向けて肩を竦めて見せた。ヴィアはまだ頭を抱えたり、自分を抱きしめてくるくると回ったり忙しいので、同意を求める相手がミラしかいなかったのだ。

 ミラはミラで、俺に同意を求められても困るとは思うが、やれやれと言わんばかりに尻尾と顔を左右に何度か振って俺に答えた。ナンナの言う通りだと思っての反応か、俺の視線に込めた意見に同意したのか、ちょっと分からなかった。


 もし帰り道でもまた異常事態が発生したら、流石にもう勘弁してくれと言う情けない方の自信があったが、幸いにして俺達の祈りは中庸や混沌の神々に通じたのか、通常通りの迷宮内の魔物との交戦だけで済んだ。

 第三層と第四層の間にある例の水場で休憩を取り、喉の渇きと空腹をほどほどに満たしてから入り口に到着するまでも、大きいどころか小さな異常も発生せず、本当に第五層に着いてからの異常事態の連続は何だったのかと思わず愚痴を零したくなる。


 一方で三人娘達はというと、ボルフ大洞穴を出て冒険者ギルドへの帰路について歩を重ねるにつれて、ついに自分達が三度目にしてようやくボルフ大洞穴を攻略したという実感が湧いてきたようで、顔ばかりか全身に喜色を浮かべているような雰囲気だ。

 ナンナは変わらず表情の変化に乏しいが、ヴィアなんかは頭の上の輪を勢いよく回転させているし、ミラも時折尻尾の先端をわずかに上手に向けた状態で左右に振っている。おそらく機嫌が良い時の動作だろう。


 どうにかこの子達を無事に迷宮から脱出させられて、俺は今度こそ安堵の吐息を胸の中で零した。

 ボルフ大洞穴内部での立ち回りと希少迷宮主の撃破を合わせて考えれば、【新たな地平線】の評価はなかなかのものとなるだろう。そう思えば短い時間とはいえ教導した俺も鼻が高いってもんさ。

週一更新を目指して頑張ります。

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― 新着の感想 ―
[一言] 辛抱強く待って、ブックマークを外さなくてよかった。 ただ、内容は忘れてしまっているので読み返さないといけない。
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