録画、早送り再生、一旦停止
月曜日、遅刻ぎりぎりに教室に入った翔は、筆記用具と財布の代わりにエアコンとテレビのリモコンと対面した。
「翔~」陸が笑いながら、ほらよと筆記用具を貸してくれた。「しゃあない、わいが昼飯代貸したるわ」海斗が背中をバンバン叩きながら、翔の分も出してくれた。
こうして昼食難民を逃れたが、今度は欠伸が止まらない。翔は己の両頬を叩き、借りたシャーペンで手を突いたりしていたが、頬杖が崩れ目が覚めた。
「ここ、試験に出すからな」
出た、開田の不意打ち。翔は慌てて黒板を写そうとするが、チャイムが鳴り終わるやいなや、開田の手で消されてしまう。
「翔、さっきの授業のノート、見せてくれないか?」陸が振り向き、今まさに同じことを言おうとしていたことを言われ、「お前もか」と笑いながら返した。
翔は帰宅するなり、鞄から筆記用具と財布と間違えて持って行った二つのリモコン出し、エアコンを付け、テレビに電源を入れた。
「撮りだめを見るか」テレビの前に座り再生ボタンを押した。
「翔~」陸が笑いながら、ほらよと筆記用具を渡し、画面の多くが影に覆われた。
(まさか)翔は早送りを押す。画像はホームルーム、一時間目、二時間目と進む。
(間違いない。この画像は今日の教室だ)
三時間目、一足先に体育の授業が終わり、着替え終えた女子が教室に戻ってくる様が映し出され、翔はそのまま見続ける。場面は、四時間目、そして昼食へと進む。
教室に残った女子の一人が、翔の机の上に座ろうとする様に、一旦停止を押し巻き戻す。
「ちっ」スカートの中は体操服かよ。翔は再び早送りしようとして、開田の不意打ちを思いだした。
五時間目、古文を読みながら教室内を歩く開田。この部分は早送りにし、試験に出すからな。と宣言された瞬間に一時停止を押す。
(リモコン様々だ)翔は鞄からノートを出し、黒板を写し始めた。
(今日も授業を録画できるかな)
翔は祈り、机の中に入れたテレビのリモコンの録画ボタンを押し、翔は部活をサボって、家に帰るなりテレビの前に座り再生した。
(やった!)
翔の唇がほころびた。
さらに次の日、
(チャンネルボタン押して録画を押したらどうなるのだろう。一時間毎に試してみよう)
「今日も部活さぼるんかいっ!」海斗の叫びを尻目に家に帰り、録画を再生する。
「ふむふむ、1は自分の教室、2は隣の教室、3はさらに隣の教室か。明日は7から順に試してみよう」ノートの端に、どのチャンネルがどの教室だったかメモしていく。
さらに次の日。さすがに連続して部活をさぼるわけにはいかないず、代わりにBS、CSボタンも試してみることにした。
そうして、学校のありとあらゆる場所がどのチャンネルなのか判明する頃には、翔は女子更衣室に、女子部室に予約録画を施し、部活をさっさと切り上げ、録画にかじりつくのが日課となっていた。
「明日から期末試験まで一週間。うわぁ、古文ぜんぜんわからない!」
頭を抱える陸を横目に、翔はただ相槌をうつだけ。
(楽勝、楽勝)
今日も家に帰るなり、録画を再生するけれど、画面は砂嵐。
「えっ、今朝はどうってことなかったよな」どのボタンを押しても砂嵐のまま。
……いや、砂嵐の音に混じって声がする。翔は音量ボタンをあげていく。
「最近、翔、変だよなぁ」この声は陸。
「このところ、翔が変やと先生も感じてたんやな」海斗と開田の会話が聞こえていた。
「最近の翔くんの目つき、なんだか気味が悪いと感じない?」この声は教室で昼食をとる女子の一人だ。その言葉をきっかけに同意の言葉が次々と上がり、砂嵐の中に無数の白い目が現れていく。
「ひっ!」
リモコンでテレビの電源を切る。だが画面は変わらない。翔は電源コードを引っこ抜いたが画面は変わらない。
「!!!!!」
ガシャン! 飛び散る画面の破片一つ一つに白い目が現れ……