第九話 跪かせる壁
ここはピーナッツ日本支部 応接室。綺麗なソファーが二つずつ、テーブルを挟んで向かい合うように置いてあり、壁や壁際の棚にはピーナッツが残してきた功績や、ピーナッツの歴史的な品が飾られている。
ソファーに座ってタブレット端末を使い、修羅の道挑戦権を獲得した五組の選考戦での戦いを見ている老人。
この人が定 吉景。伝説の赤丸部隊の隊長にして、藤高と共に修羅の道を開催した人物である。
「ようやく始まるな」
「そうですね」
返事をしたのは定と向かい合って座っている藤高だ。
「この五組が我々を超えるのか」
「いいえ、勝つのは一組だけです」
「勘かね?」
「修羅の道を勝ち抜ける才能を持っているのは一人だけです。過程はどうあれ、結果は見えています」
「頂点を譲り渡す覚悟はできたというわけだ」
「ふふ、頂点にいたかったことなんて、一度もありませんよ」
何十年も昔のこと。アメリカで徐々に人気を獲得しつつあったピーナッツが世界に規模を広げるため、戦士育成の訓練所を作り、支部ができる予定であった日本に試験的に訓練所を置いた。
当時の日本ではピーナッツはまだマイナーであり、戦士の募集をして集まったのはたったの7人だった。
7人は本部から指示された訓練内容をこなし、数年の訓練期間を経て、日本初の戦士たちとしてデビューする。初戦にて、未だ誰も勝利したことのなかったレベル5の挑戦者を倒すという偉業を成し遂げた。
初戦から一瞬にして世界中のピーナッツファンに名を轟かせたこの7人こそが、いまなお伝説とされる赤丸部隊である。
驚異的な勝率で個々の能力も高く、次々と戦果を上げていった赤丸部隊の活躍により、ピーナッツは日本でも爆発的な人気となった。
その後、世界各地に同じような訓練所が作られ、ピーナッツの戦士になろうとする者たちが集まった。当然日本でも訓練所に入所を希望する者が殺到したが、あまりにもハードな訓練についていけるものは誰一人いなかった。
最初期のハードな訓練をこなすことができたのは赤丸部隊だけだったのだ。その後、何度も訓練内容の見直しがされ、現在のものに至る。
赤丸部隊は20年の間、活躍し続け、訓練所から徐々に優秀な戦士が輩出されるようになると、戦闘所を7箇所作り、赤丸部隊を解体し各人を戦闘所の所長として、新たなるピーナッツ戦士たちを迎えた。
そして現代まで赤丸部隊のノウハウが戦士たちに受け継がれているため、日本の戦士たちは海外の戦士たちに比べ、圧倒的に勝率がよく、今回の修羅の道は海外の戦士たちも参加していたはずだったが、挑戦権を獲得したのは全て日本人という結果になるほどだ。
負けることが前提であったレベル5の戦いに希望をもたらし、日本のピーナッツ戦士の魂を作り上げた。
誰もが認める伝説の戦士たち。それが赤丸部隊である。
修羅の道が開幕した。
選ばれた五組は1日ごとに戦っていく。
初日、くじ引きで決まった一番手、魚崎戦闘所所属の「老若パッション」は惨敗。
第一の番人「タテ」が勝利を収め、修羅の道がこれまでの選考戦とは比べものにならない程高い難易度なのだと世間に知らしめた。
二日目、二番手は定戦闘所所属の「victory fighter」だ。持ち前の速攻と攻略でなんとか勝利した。
三日目、イージー版からの参戦「徒手空拳」は「タテ」の能力に押され敗北。
四日目、奈良戦闘所所属の「アイワンパンチ」は瀕死になりながらも勝利をもぎ取った。
そして五日目、「セブンライト」の番である。
参戦している戦士たちは修羅の道の戦闘を見ることができない。順番で有利不利ができないようにするためである。
セブンライトの二人に入ってきた情報はいつ誰が勝ったか、負けたかだけである。
「一人目で二組も脱落か。やっぱり、一筋縄ではいかなそうだな」
満島は夜からの戦闘のため、綾木戦闘所に控えていた。
「まあ、ここからが本番っぽいしね」
2階のオフィスでコーヒーを飲む満島の隣にいるのは、応援に駆けつけた沙夜だ。
「ただ戦うだけなら、栄誉なんだが、負けられないってのがな」
「ふふ、緊張してんね、空雄」
「人の命がかかってるからな」
「大丈夫だよ。空雄は勝とうと思えば勝てる戦士なんだから」
満島夫婦がこんなやりとりをしている頃。
松浦大学病院 第3棟 一階にて。
頑は戦闘前に志田に会っておこうと病室へ向かっていた。
綺麗な廊下を歩いて行くと、いつもの病室から人が出てくるのが見えた。その人は頑に気づくと、少し暗い表情で頑の方へ来た。
「こんにちは、真由さん。健吾の具合は?」
志田の母 真由であった。
頑と志田の関係は両家の両親も協力的であるため、頑と真由も良好な関係であった。
「うん……。今、循環補助の機械で安定させてる」
「そうですか。真由さんはもう帰るんですか?」
真由はうつむき、頑の両手を握った。
「奏エちゃんが健吾のためにとっても頑張ってくれてるのはわかってるのよ。でも、健吾、管にたくさん繋がれてて、本人がこんな姿じゃ奏エちゃんに会いたくないって」
「えっ……」
「ごめんね。奏エちゃんは何にも悪くないのよ。ただ、会わないであげて。ごめんね」
初めて志田に拒絶され、ショックを受けたが、頑は涙をこらえた。
「いや、大丈夫です。じゃあ、帰ります」
「ごめんね」
2年前。頑は戦士になると決意した。
一流の音楽高校を卒業し、音楽の道は歩み放題だったが、決めたら聞かない性格の頑は周囲の反対を押し切り、ピーナッツの訓練所へ通いだした。
当時、音楽教師の父はもちろん、元戦士である母すら反対していた。この時、唯一賛成してくれた人物が志田 健吾だ。
頑は馴染みの喫茶店で戦士になると告白すると、志田は困惑の表情を浮かべる。
「えっ、本当に?」
「うん!本当に。誰がなんと言おうと、ピーナッツ戦士になる!」
影響されやすい頑は昔からこういう突拍子もないことを言う。そのたびに毎度振り回され、大抵のことにはなれている志田であったが、今回の告白は今後の人生を大きく変えるものであるため少々戸惑ったが、ひとまず話を聞いてみることにした。
「どうして急にそんなことを?」
「小さい頃はお母さんの戦いとか、よく見てたけど、だんだん見なくなって、この前久しぶりに見たら、かっこよかったの。だから!」
「なりたくなっちゃったんだ……」
「うん!」
「そっか。……歌はやめちゃうの?」
「わかんないけど、歌を仕事にするのはやめる」
志田は深くため息をついた。これまで頑が音楽に捧げてきた努力を知っているからである。
「奏エちゃん。僕の目を見て」
頑は言われた通りに志田の目を見つめた。
「ピーナッツのことはあんまり詳しくないけど、戦士っていう仕事は間違いなく半端な覚悟でできるようなものじゃないよ。本気でやったって向き不向きがきっとあるよ。それでもやるの?」
「うん」
頑の目は真剣だった。
「じゃあ、応援するよ」
二週間後、志田は発作を起こして倒れ、そのまま入院することになった。
「やってまいりました!ピーナッツ修羅の道!本日は5度目の砂漠。第一の番人タテに挑む最後のコンビです」
修羅の道は選考戦や普段の戦闘とは違い、特殊な仮想空間で戦うことになる。
第一の番人が待っているのは砂漠。仮想空間と大きさは同じだが、環境がかなり違う。砂に足をとられたり、気温の高さでバテるのが早かったり、適応できるか否かは戦士次第である。
「実況は清水 武雄。解説は河合 優也さんです。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「本日の戦闘の説明に入っていきますが、その前にこちらをご覧ください」
画面は切り替わり、これまで満島が一人で倒してきたレベル4の挑戦者との戦闘のシーンが流れる。
「中堅とは誰が言った?難易度を無視し、レベル4と一対一で渡り合うまさに規格外の戦士。亡き父の無念を背負い今日も鬼の形相で立ち上がる。満島 空雄」
また画面が変わり、今度は頑が舞台で歌っているシーンになる。
「突き刺す歌声。響き渡る笑顔。冴え渡る拳」
一瞬で頑が戦車になり戦っているシーンに変わる。
「誰もが疑った拳は選考戦最強の刺客を打ち破った。頑 奏エ」
二人が倒した天狗、スライム、ロボットとの戦いがダイジェストで流れる。
「修羅の道一番のダークホース。セブンライト」
画面は戻り、説明が始まる。
「修羅の道では仮想空間が通常とは異なり、それぞれの番人に合わせたフィールドが用意されています。第一の番人「タテ」のフィールドは砂漠となっています。また、本日の戦闘終了後、イージー版にて、第一の番人「タテ」に挑戦できるイベントが配信開始となります。ぜひ、その身で番人の強さをご確認ください」
いち早く番人と戦おうとイージー版ユーザーの中には、すでにイベント待機をしている人々もいる。
「さて、河合さん。本日でタテは最終日となるわけですが、セブンライトとの戦い、どうなりますかね」
「はい、まずタテの方ですが、これまでの4戦を見てきて思ったのはやはり選考戦とは違う戦い方が求められている、ということですかね。修羅の道に出てくる番人は全員、赤丸部隊のレジェンド達が作っている訳ですから、僕たちが作った選考戦の刺客とは根本的に戦法が違います」
「戦法ですか?」
「ええ、僕らは刺客を作る際、自分の長所を活かせるような作り方をしてきたんですが、赤丸部隊の方々の作り方を見ていると、自分の長所によって補える部分をめっぽう弱くして、戦士が抗えないような強みに変えているんです。そうすると何が起こるかっていうと、めっぽう弱い部分を戦士が見つけ出す前に、抗えない強みで一方的な展開になってしまうんです。なので戦士側はその強みに耐えつつ、弱みを探すっていう、なんとも古き良きピーナッツらしい戦いをしなければならないんですが、なにせ難しいですからね」
「なるほど、相手の弱点を探すのはピーナッツの根底ですもんね。セブンライトの方はいかがでしょう」
「ん〜。この二人は正直未知数ですよね。奏エちゃんがすごく成長していて、技術の上がり方が凄まじいですよ」
「そうですね、たった数回の戦闘で選考戦最強の刺客を相手に互角でしたからね」
「それでちょっとその強さの理由を考えてみたんです。もちろん彼女の努力が大きいとは思うんですが、それ以外の可能性としまして」
「なんでしょう」
「頑さんが奏エちゃんを妊娠してた時、僕やロロと戦っているんですね。仮想空間のデータ的には妊婦ではなかったんですが、奏エちゃんの無意識に仮想空間の戦闘が刷り込まれている可能性があるんじゃないかと。彼女は自分なりに考えながら戦っていますが、それを止めたらもしかすると、奏エちゃんの中に眠っていた何かが目をさますかもしれません」
「ピーナッツの申し子である可能性があると」
「ええ」
頑がピーナッツの申し子かどうかは置いておくとして、今日の頑は少々落ち込み気味だった。
「緊張か?顔は上げろ」
「……はい」
頑は顔を上げ、広がる砂漠を見つめる。
満島は腰に剣、背中にアサルトライフルを装備した。
「気張れ。あとたったの7連勝だ」
頑は今までにないほど暗い表情だ。
「勝つぞ、頑。藤高さん、戦闘開始をお願いします」
「は〜い。頑さんもよろしいですか〜」
「はい……」
「では、始めま〜す」
二人のはるか前方に番人「タテ」が出現した。淡い水色のマントを着ていて、痩せた頬に鋭い目。この番人を作り出した魚崎 ハイラの現役時代の姿である。
「行くぞ、頑。作戦はいつも通りだ。遠隔衝撃パワーグローブを」
「はい、先輩。近接戦闘戦車に変身」
満島は手元に現れたグローブを装備しタテに向かって走り出し、頑は戦車になり砲撃するためにアームを構えた。
セブンライトの定石だ。
タテは手を振りかざす。すると、
ブッスアアアァァァァン!!
ッゾオアアアァァァン!!!
一瞬にして二人の体は鉛のように重くなり、砂の海に突っ伏した。
「始まった!!番人タテの能力!重力操作!この能力に二組は成す術なく惨敗しました!セブンライトはどうだ!」
「打開する策がないことはないんでしょうが、勝利した二組もようやくって感じでしたし、ハタから見てても、僕もいい策が思いつかないので、戦士からしたら地獄の時間でしょうね」
「地獄の時間。まさにそうですね」
「奏エちゃんは戦闘技術は成長していますが、相手の弱点を見つけ出すのは経験が大きいですから、やはり場数を踏んでいる空雄くんがなにかアクションを起こさないを危ないですね」
ヤベェな、こりゃ。ろくに体が持ち上がらねぇ。選考戦は本当にただの前哨戦だったんだな。
なんとか寝ながら動くしかないか。
伏せたまま満島は背中の銃を構え、タテに向かって発砲した。
ババババババッッ!!!
射線に盾が現れ防がれる。
防御もしっかりできるのか。お手上げだぜ。
タテが手を振り上げると、地面にへばりつく二人の頭上に無数の盾が召喚された。大きさは二人の体ほどのものから拳ほどのものまで様々だ。
タテが手を振り下ろすと、その盾が一斉に二人にめがけて降り注ぐ。
ゴドゴドドドドドドドドオオオオォォォォォォ!!!!
盾の重さはすさまじく、頑戦車の装甲にはヒビが入り、満島の体はいまの一瞬でボロボロだ。
タテが手を振り上げ、無数の盾を浮かび上がらせる。
もう一度来る。なんとかしねぇと終わる。
「衝撃吸収パワーブーツを」
道島は足元に現れたブーツを寝転がったまま装備した。
再び盾が降り注ぐ。
ガダドガドドドドドドオオオオォォォォォォ!!!!
骨に響く鈍い痛みが全身を襲う。重い盾の下敷きになり身動きは取れない。
タテが手を振りかざし、無数の盾が再び浮き上がる。
今しかねぇ。
満島は全力で上体を起こし、無理やり足を踏み出して立て膝をついた。
いまの攻撃でブーツは衝撃を吸収した。吸収した分を全部使えば、
ッダアアァァン!!
ブーツが吸収した衝撃を使って満島は跳躍した。
着地の衝撃を利用して次の一歩を踏み出す。これを繰り返せば相手のところまで行けるはず。
ズアアン!
満島は着地して気がついた。
砂が衝撃を吸収している。ブーツに力が溜まってねぇ。だから砂漠なのか!
ッドオオッサアアアアァァァァンン!!!!
正面から中華鍋ほどの盾が飛んできて、満島の上半身を弾いていった。
ドサリと仰向けで砂の上に倒れた満島。
「満島!ノックアウトか!」
「考えは良かったんですが、厳しいですね」
「満島が退場となると、頑が一人でなんとかしなければいけなくなりますよね」
「そうですね。ただ、今日は調子が悪そうですね。戦車になったままガードはしていますが、やられっぱなしです」
「番人 タテを前にセブンライト!成す術なしか!」
まだだ。こりゃあ負けていい勝負じゃねぇんだ。
骨が何本折れようが、勝たなきゃいけねぇ勝負なんだ。
タテが手を振りかざすと二人の頭上に無数の盾が現れる。
「頑!!!ブーストはお前に託すぞ!!!」
タテが手を振り下ろし、二人に盾の雨が降る。
ッバッツサアアアアアアアアァァァァァンン!!!!
満島は左手のグローブの衝撃を自分の体に当てて吹き飛ばし、盾の雨を回避した。空中で体をひねりながら、右手のグローブでタテに狙いを定めた。
遠隔衝撃グローブはその名の通り、多少の隔たりは貫通する。あいつの盾はすり抜ける。
こんなんで倒せるとは思えないが、お願いだ、こんなんで倒れてくれ。
バツドオオアアアアアァァァァァァァァンン!!!!
飛んできた拳ほどの小さな盾が満島の右手をへし折り、グローブは暴発し、満島は吹き飛ばされ砂の上に落ちた。
満島にはダメージが溜まっていた。何度も重い盾に叩かれ、おまけに自分のグローブの衝撃まである。
万策尽きた。体はもう動かねぇ。次、どんなに弱くっても一撃くらったら退場だ。
すまない、頑。俺にお前は救えなかった。
「満島!流石にもう限界か!」
「普通はもう退場してますからね。持ちこたえている方ですよ。それより、奏エちゃんの方が心配ですね」
「戦闘開始からほとんど動いていません。何かシステム的なトラブルでしょうか?」
「……マスターが藤高さんなので、それはないと思いますが、どうしたんでしょう」
頑は溺れていた。
今までの選考戦。確かに相手は強かったが、勝てる兆しが見えていた。しかし、今回の番人は一瞬にして勝敗を握られ、成す術がない。
負けたら健吾が死んじゃう。病気も治らないし、症状も回復しない。
こんな状態で会いたくないって言われた。でもこんな状態のまま死んじゃうかも知れない。
そしたら、トレーニングを始める前に会ったあの日が最後の日になっちゃうかも知れない。
そんなの嫌だ。
もう会えないなんて絶対嫌だ。
勝たないと。
「この体!動けえええええええええぇぇぇぇぇぇっっ!!!」
頑戦車は一瞬で人の姿に戻り走り出す。
再び重力に捕まり、砂の上に倒れるが、今度は戦車の姿になりジェットを使いタテの方へ向かっていく。
「あー。勝手に変身しないでくださいよ〜」
何度も変身を繰り返し、その度に重力に捕まっている。しかし、頑の変身は次第にペースが上がっていき、速さのあまり戦車なのか人なのかわからないほどになった頃、頑は完全にタテの重力から抜け出した。
「なんだこれは!?頑!見たことのない技でタテの重力から逃れている!」
「変身……。タテの能力は重力操作ではなく、単に個々の物体、生物の重さを増加させるものなのかもしれません。変身して別の体にすることによって、その重量の増加から逃れているんじゃないでしょうか」
「なるほど、重量を増加させる能力を受ける前にまた変身して、スピードを維持しているというわけですね」
「おそらく。ただ、あのスピードで変身を繰り返して、まともに体を動かせているのは変身が上手いってレベルじゃないですね」
「河合さんの言う、頑の中に眠っている何かが目を覚ましたと」
「かもしれません」
瀕死で退場寸前だった満島は、覚醒した頑を見た。
「……なんだ……ありゃ。頑……なのか?」
変身を繰り返し、定まらない姿のまま猛スピードでタテに向かっていく頑。
波のように押し寄せる盾をかわしてすり抜け、頑は目前に迫ったタテにめがけて拳を振るった。
ッダオアアアアアアアァァァァンン!!!!
タテと頑の間に仮想空間の天井まで届く巨大な盾が出現した。
頑は変身を続け、アームで殴り、足で蹴り、拳で殴り、砲撃を撃ち放つ。目にも止まらぬ速さで、これらをほぼ同時に繰り返している。
満島は虫の息でつぶやいた。
「ブースト発動」
ユイーン!
全身の感覚はもうない。力が入っているのか入っていないのかもわからない。しかし、満島は立ち上がり、巨大な盾に一直線で跳躍した。左手で剣を抜き、
ッズアアドアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァンンン!!!!!!!!!!!!!!
勢いのまま盾に剣を突き立てた。頑の真上の位置だ。
ブーストの怪力で剣を捻って盾にヒビを入れる。
ビベギバギッッ!!!
下で殴り続けている頑の目の前にも細いヒビが入る。
頑は人の姿で細いヒビに手を突っ込み、戦車に変身し、
ボフウワアアアァァァン!!!
アームの砲撃で盾の向こうにいる番人を吹き飛ばした。
ブザーが鳴った。
「番人タテ!!頑の砲撃で吹き飛んだ!!!セブンライト!!修羅の道を進む!!!」
「やりましたね。最初はどうかと思いましたが、奏エちゃんの動きが凄まじかったですね」
「そうですね。あの連続変身は達人の技に近かったですよね」
「達人どころの話じゃないですよ。怪物ですよ。あとタテですが、あの重量の能力とブーストでも吹き飛ばない盾を無数に召喚できる。奏エちゃんが迫ってきても逃げなかったということも考えると、あの場から動けなかったんじゃないでしょうか。砲撃一発で戦闘が終わるほどの防御力のなさと移動という大前提を引き換えにあれほど強力な力を維持していたんだと思います」
「なるほど。こういった極端で強い番人がこの先に待っているわけですよね」
「……怖いのは、この魚崎さんの番人がまだ一人目ってところですよ。この先はもっとやばいんじゃないですかね」
画面が切り替わり森が映し出される。
だんだんと森の中は暗くなっていき、木々の間を黒い影が走り抜ける。
鈍い衝撃音と同時に画面は完全に暗転する。
「修羅の道、黒尾 武彦が作り出した第二の番人「カラス」闇に潜む」