第十五話 綾木
真っ白な仮想空間、桐原の強力な拳が頑を襲う。
「変身解除」
頑は変身のカウンターで桐原のアゴに、鋭い右ストレートを決めた。
ズバアアァァァァン!!
桐原は倒れた。
「やっぱ、勝てないや」
「私、強くなりましたから」
二階の事務所で話す頑と桐原。
デスクにはコーヒーの入ったカップが二つ置かれている。どちらも激甘だ。
「ほんとにね。……私、戦士辞めたの」
「えっ!」
唐突な桐原の言葉に頑は驚愕の声をもらした。
「まだ所長はやるし、奏エちゃんのトレーニングにも付き合うから、体の同期はそのままだけど、戦士の登録は削除した。もうどのレベルも戦えないよ」
「……どうしてです?」
「荵ちゃんのために戦ってきた。本当は怖いけど、荵ちゃんが背負ってきた痛みよりずっとましだから、助けるために戦ってきた。でも、荵ちゃんは亡くなった。修羅の道は負けちゃった。私はもう会いに行けない。助けられない」
「何もやめなくても……。桐原さんはまだまだ現役で」
「奏エちゃん。お願い聞いて」
「お願い?」
「あの子を、荵ちゃんを倒してあげて。ピーナッツはあなたなしでも大丈夫だよって教えてあげて」
桐原は泣いていた。戦いの果てに挫折した一人の戦士の涙だった。
「……必ず」
誰がいつから言ったのかはわからないが、その男は叡智の副将と呼ばれていた。
綾木 慶。ピーナッツ戦士の中で最多の1592勝を誇る正真正銘の伝説だ。赤丸部隊の副隊長であり、赤丸部隊の戦闘の指揮は全てこの男がとった。
敵味方問わず分析が得意で、相手に対し最適の解答を導き出し遂行する。赤丸部隊の隊員は綾木の指示に従い勝利を手にしてきた。
元々、この手腕を生かし隊長になるはずだったのだ。しかし、赤丸部隊のデビュー戦でレベル5を相手にし、綾木の目測は外れた。敗北寸前の赤丸部隊を勝利に導いたのは、定 吉景だ。綾木は隊長の座を定に譲り渡し、自らは副隊長として勤めた。
その後、幾度となく綾木が隊長であるべきだという、世間の声が上がったが、綾木が隊長の座につくことはなかった。
墓の前、満島は藤高が生前好きであったコーヒーの豆をコップに入れて供える。
「墓じゃいれられないんで、これで我慢してください」
満島が手を合わせ、黙祷した。
「なくしたものは大きい」
満島の隣に綾木が立っていた。
「いつものことです」
満島の兄が死んだのは2年前だ。刑事だったが殉職した。その時点で満島の親族は沙夜の親類だけになった。
「君のお父さんは強かったが、君はさらに強いな」
「綾木戦闘所の下っ端ですよ。俺も親父も。綾木さんがいた、藤高さんがいた、そのあとは桐原さんや頑の母さんがいた、今はアイツです」
「やはり強いな。安心した。君たちなら勝てる」
「綾木さんにですか?藤高さんにですか?」
「誰にでもさ。楽しみにしている。君たちがまた一つピーナッツの歴史を作ることを」
「期待に添えない可能性の方が高いです」
「現役時代からこの目はよく利く。今も狂いはないよ」
「……」
「あっ、次の戦闘のヒントじゃないからな」
満島は供物を片付け帰り支度をし始めた。綾木は線香を焚き、黙祷した。
「……俺たちが藤高さんを成仏させます」
墓を立ち去っていく満島。残された綾木は線香の煙を見上げた。
「たいした二人を引き合わせたもんだ」
「さあやってまいりました!!そびえ立つ高すぎる壁!!ピーナッツ修羅の道!!」
修羅の道の上に残った最後のコンビ「セブンライト」彼らは初戦から現在に至るまでに著しい成長を見せ、今や頂上の藤高にさえ勝つのではないかと言われている。
「実況は清水 武雄、解説は吉野 優樹さんです。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「コンビはセブンライト一組となりましたので、本日の戦闘終了後にイージー版にてイベントの配信を予定しています。ぜひその身で修羅の道をご体験ください。また、今回のフィールドは嵐の寺となっています」
本来は別のフィールドが用意されていたが、綾木が藤高の死を弔うために急遽変更したのだ。
「さて、ここまで来てしまいました。数多くの戦士が挑み、その大半は入ることすら許されない修羅の道。狭き門をこじ開けて入った戦士たちも番人に圧倒されその道から落ちていった。最後に残ったのは誰もが予想しなかったこのコンビ「セブンライト」だ!!対するのは誰もが認める戦士の中の戦士。長く険しい戦いの果てに築いた勝利の山、驚異の1592勝!ピーナッツにおいて最多の勝利数を誇る伝説!綾木 慶!彼が作り出した第六の番人「ワタリ」頂上を前に最大の難敵が立ちふさがる!!吉野さん、今回の戦闘はいかがでしょう?」
「はい、ほんとにあの二人がここまで来るなんて思ってもみなかったですが、来ちゃいましたね。それに見合う実力も身につけていますし、前回の奏エちゃんの最後の動きなんて神がかってました。現在のコンビで一番強いのは間違いありません。しかし、相手が綾木さんです。どんなことをしてくるかまだ未知数ですし、これまでの番人と比べて頭一つ抜けて強いと思いますよ」
「ここからまた戦いの次元が一つ上がると?」
「おそらく……」
二人は大雨の中にいた。
「選考戦から修羅の道に変わった時、相手が一段と強くなったように感じただろ」
「そうですね、軽く絶望して、それでバグが」
「あの感覚がここから二回続くぞ」
「マジですか」
「綾木さんは赤丸部隊でも別格の強さだ。今までの番人とは全くの別物だと考えた方がいい。その先に藤高さんだ。俺たちでは想像のつかない強さが待っているはずだ」
「……なんか、ワクワクしますね」
「そうだな」
満島は雨の中で剣の柄が滑らないか素振りをして確認している。
一方頑はフェールドを歩いて寺には入れないことを確認した。今回の装備は銃だ。
従来の選考戦や挑戦者なら銃弾をたやすく耐え、かわしたが、修羅の道は様相が違う。一撃くらう前に、抗えない強さで終わらせる者が多い。逆に一撃当てれば勝ちという状況も多い。そういった場合、とっさの攻撃で強いのは銃なのだ。遠距離でも近距離でも。
「お寺には見えない壁があって入れなそうでした。相当狭いですよ、ここ」
寺の中庭は幅100メートル奥行き70メートルほど。いつものフィールドの半分以下だ。
「了解、逃げ回れないってわけだ」
「逃げるつもりがなきゃ関係ないですね」
「ああ。いくか」
二人は寺の正面に向いた。
「キメラ、頼む」
「わかりました、戦闘を開始します」
二人が見つめていた寺の正面に袈裟を着た大男が召喚された。身長は2メートル近い、頭は丸坊主で相手を捉えて離さない鋭い瞳で二人を見つめ返し、ゆっくりと歩いて近寄ってくる。
「行くぞ!」
「はい!近接戦闘戦車に変身」
満島と戦車になった頑は男に向かって駆け出した。
「遠隔衝撃__」
満島の腕にグローブが装備される。
「まだ申請しきってないぞ、キメラ」
「すみません、でもこれですよね」
「ああ、絶好調だな」
その時、満島の目の前に身長よりやや大きい光の輪が召喚された。立ち止まれなかった満島は輪の中に入ってしまう。次に満島は仮想空間の天井付近に召喚された同様の大きさの輪の中から飛び出してくる。
「何が……」
満島は落ちていく。頑は消えた満島にかわり、男に攻撃をしかける。ジェットの勢いののったアームのパンチを男に繰り出す。
男はこれを簡単にいなし、頑めがけ反撃の拳を突き出すが、
「変身解除」
頑の変身カウンターが炸裂する。人の姿で相手の拳をすり抜け、鋭いストレートが男を襲う。しかし、一瞬にして頑の拳の前に光の輪が現れる。
頑は反応できず輪の中に拳を突っ込んでしまう。すると頑の背後にも輪が現れ、中から頑の拳が突き出てくる。
自分で自分の首の後ろを殴ったのだ。光の輪が消えると頑の腕は元に戻ったが、後ろからの攻撃で前かがみになり、そこに男の容赦ない膝蹴りが決まる。
ッドアアアァァァァァァンン!!!
倒れそうな頑の背後に身長ほどの輪が現れ、落ちていく。
輪の先は地面で、仰向けに投げ出された頑はすぐさま体を転がした。
ドッスシィアアァァァン!!
満島の着地点だった。
「あぶねっ」
「先輩、だいぶ厄介ですよ、あいつ」
「わかってる」
「何が起きているんだ!!ワタリ!不気味な能力を使いこなしている!」
「パッと見、ワープホールですね。一時的に輪っかで空間をつなげているような」
「なかなか戦士側は戦いにくそうな能力ですね」
「そうですね。一撃必殺じゃないかわりに守りにも長けた能力に思えます」
「どうします?」
「お前の見立てを聞く」
大雨の中、ゆっくりとこちらに向かってくるワタリを眺めながら二人は作戦を練っていた。
「あの輪、さっき倒れる時に触れたんですが、危険はなさそうでした。もし触れたことによって消えたのなら、消しながら戦うっていうのができるかと」
「なるほどな。輪を消せるならそれがいいな。攻撃の仕方を変えるぞ。突き出す攻撃は輪を通るからなしだ。パンチや砲撃は使うな。アイアンブレードを装備して斬れ、横や縦に斬る攻撃なら輪が大きくない限りは通らない。大きいなら向こうからも攻撃できないはずだ」
「了解です」
「それから、あの輪は厄介だが今までの番人の能力と比べるとそこまでの強さじゃない。ヤツはまだ何かを隠している可能性がある。」
「わかりました。変身。アイアンブレードを」
変身した頑戦車の両アームに鉄の刃が出現し、二人は再びワタリに向かう。
満島の足元に大きな光の輪が召喚され、中からワタリの手が伸びてきて、満島の足を掴んで引きずり込んだ。
出たのはもちろんワタリの元で、足を掴まれたまま横向きで引きずり出された満島は、ワタリの振りかざす拳を見てとっさに両腕で顔をガードしたが、ワタリの拳は新たに召喚された輪の中へ。
ダオアアアァァァァンン!!!!
満島は後ろ首を殴られる。
しかし、すぐさまグローブをワタリに向ける。同時に輪の中に入って追ってきた頑のアイアンブレードがワタリの首を狙う。
ワタリは頑のブレードを右にかわしながら体をそらして、満島のグローブの衝撃も避けた。さらにその体勢から頑に膝蹴りを食らわせる。
足を解放された満島は隙を狩ろうとワタリの首に居合斬りを繰り出すが、また体を後ろに逸らされ避けられる。
今度は頑が隙を狩ろうと右のブレードを裏拳の要領で振るうが、ワタリは体を起こして間合いを詰めると頑戦車のアーム部分を右手で掴み押さえた。
満島が剣を振り上げ、ワタリに踏み込むが、踏み込んだ地面には輪が召喚され満島は片足が沈みバランスを崩し、前かがみに倒れそうになる。そこにワタリの容赦ない蹴りが決まる。ついでに掴んでいた頑も投げ飛ばした。
「強い!!セブンライトの猛攻を見事に捌ききるワタリ!これが赤丸部隊最強の男か!」
「セブンライトの攻撃もすごくいいんですが、相手の守りが完璧すぎる。これを崩せる戦士なんてそういないですよ」
「この守りが吉野さんの言う、一つ抜けた強さってことですね」
「ええ。今までの番人は戦士たちに余裕を与えず、追い込んで勝つという戦い方でした。ところがこのワタリは余裕を与えています。綾木さんがそう作ったってことは、綾木さんが経験してきた千何百っていう戦闘の中で味わってきたあらゆる猛攻に耐えられるってことです」
「頂上を目の前にして、最大の難所か!?」
攻撃が当たらない。単純な問題だが、これが大問題なのである。
「そもそも戦闘技術が高い。輪がなくても二人掛かりで互角のレベルだ。正攻法じゃ勝ち目がない」
「ですね。輪っかも壊されないように使ってました」
大雨の音が響き二人の声はかき消され、ワタリに作戦が聞こえるようなことはなかったが、二人の戦い方の変化を見破り、輪の使い方を変えてきていたのだ。
「次の手がいるな」
「相手は遠距離攻撃をしてきません。触れただけで攻撃になるような、……電撃とかはどうでしょう」
「いい手かもな。この雨で感電しやすくなっているはずだ」
「じゃあ、それで」
「だが奴は凌ぐだろう。逃げたところにグローブの一撃を食らわせる」
「グローブの衝撃波じゃ輪っかで返されますよ」
「いや、これは遠隔衝撃グローブだ。あの輪が隔たりならば貫通する」
「大きな賭けです。貫通しなかったら返ってきます」
「返ってきたらかわせ」
「……。返ってこなかったら?」
「崩れた奴をブーストで仕留める。お前が使え」
「わかりました」
今度は頑が先行しワタリに向かう。
「戦車の車体に電撃効果を付与」
頑戦車は電気をまとい、ジェットの最高速でワタリに向かっている。満島は輪っかに注意しながら頑を追いかけている。
猛スピードの頑の目の前に輪っかが召喚される。
「変身解除」
しかし、頑は人の姿となり速度はそのまま、スライディングするように輪っかの下部を蹴り消した。
ワタリに渾身のストレートを撃ち放つ頑。それをワープさせようとワタリが輪っかを召喚するが、
「変身」
戦車の姿に変わり、拳よりも大きなアイアンブレードが輪っかを切り裂く。
ワタリは一歩間合いを詰めて、ブレードのないアーム部分を手でいなす。
バリィッ!!
ワタリの体を電撃が駆け巡る。しかしワタリは動じない。
頑戦車の車体上部を押さえて地面に叩きつけると当時に、反動を利用し、自らの頭の上に作り出した輪っかの中に飛び込んだ。
「バレバレだぜ」
輪っかの先は満島の背後だったが満島にはたやすい予想であった。
バッツサアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァンン!!!!!!!!
満島が放った衝撃は、ワタリがとっさに召喚した輪っかを貫通し命中した。
「変身解除、ブースト発動」
ユイーン!
満島よりも遠くにいた頑だが、ジェットではなくブースト中の脚力を使い、衝撃で浮いているワタリの元へ一瞬で移動し、最高威力の拳を振りかざした。
次の瞬間、上空に無数の小さな光の輪が召喚され、雨が中へ降り、その先の無数の輪はワタリと頑の間に現れた。
バッッッゾオオアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァンンン!!!!!
凄まじい水しぶきが上がり、地面に叩きつけられたはずのワタリは二人のはるか遠くに現れた。
イーユン!
ブーストが終わり、頑、満島、共に何事もなかったかのように立っているワタリを見て絶望した。
「なんということだああ!!ワタリ!!あの状況からブーストの一撃を耐えた!!」
「やばいですね」
「未だ対抗策を見いだせていないセブンライト!ブーストはもうない!しかし吉野さん、ワタリは凄まじい防御力ですね」
「はい。ただ、今のって単純な防御力じゃないんですよ。岩人間とか、あと鞭使いオカナとかフィジカルの強さで耐えてくるのは選考戦にもいましたけど、今のって、雨を利用して自分と奏エちゃんの間に大量の水を張って、衝撃を和らげて、なおかつ、地面にも輪っかを出して、自分が叩かれても地面に叩きつけられないようにしているんです。ちょっと判断の速さが異常ですよ」
「完全無欠の守りということですね。伝説の男 綾木 慶。そう簡単にはこの道を譲らない!」
満島は気付いた。詰んだということに。
「支給品はあと一つ。ブーストはない。通常の攻撃はまず防がれる。多分、詰みだ」
頑も理解していた。しかし、認めずに打開策を考えていた。
「グローブの衝撃は輪っかを貫通します。それなら」
「無理だ。奴は猛攻の時に衝撃波を避けた。追い込めば当たると思ったが、さっきのを見る限り、ブーストを使わせるためにわざと隙を見せたんだろう」
「……でも、まだ」
「わかっているはずだ。ここ最近でお前の分析能力は格段に高くなった。勝ち目がないのは明白だ」
「じゃあ、このまま負けろっていうんですか!?」
「最後に何をするかはお前に委ねる。悔いの残らない選択をしろ。どう転ぼうがこれがラストだ」
今まで格上、強敵を倒してきた。初戦から健闘した。その後も二人でなんとかほんの僅差で勝ってきた。しかし、今回の相手は話が違った。修羅の道の頂上を拒む最強の番人。二人の猛攻も電撃もブーストもいともたやすく防ぐような怪物。二人に勝利はなかった。
頑は静かに決心した。
「……全力であいつを殴りたいです」
「奇遇だな。俺も同じことを考えていた。変身を申請しまくってあのバグを再現しろ。あれがお前の最大の攻撃だ」
「多分、全部輪っかで返されますけど」
「全部俺が受け止める」
「先輩が先に退場するだけですよ。それ」
「俺たちの勝ち方を思い出せ。お前の変身と俺の瀕死だ。一番俺たちらしい戦い方じゃねぇか」
「それもそうですね。やってみますか。キメラさん。ワタリの元に着いたら、できるだけ早く変身をお願いします」
「わかりました」
二人は大雨に打たれるワタリに向いた。
「行くぞ」
「はい」
決死の覚悟で駆け出した。
ヤケクソ。玉砕。そんな猛攻であった。
戦いの切り札であるブーストを失い、支給品はグローブ、ブレード、電撃と使い残りは一つ。
攻撃は全て防がれ、圧倒的な強さを前にセブンライトは成す術がない。
負ける。そう予想するのはたやすい戦いであった。
しかし、セブンライトは戦った。
ワタリに向かう二人の前に光の輪が現れると、頑は戦車となりブレードで輪を切り裂いた。
ジェットを使い加速する頑の上に満島は乗り、グローブの衝撃波をワタリに撃ち放つ。
空気の振動が仮想空間に響き、ワタリの両サイドで見えない爆発が巻き起こり、雨のしぶきが弾ける。
左右に交わせなかったワタリは正面から二人を迎え撃つ。
頑は戦車と人と交互に変身を始め、満島は頑の背後、背中合わせで構えた。
変身を繰り返す頑の猛攻。光の輪を通ろうとお構い無しで、拳にブレード、砲撃、蹴りとあらゆる攻撃を繰り出している。速さゆえに、ワタリは全てを輪に通すことはできず、後ずさりしながらかわしている。
一方で輪を通った頑の攻撃は後ろの満島の方へ飛んでくる。しかし、満島もそれらを背後の頑に届かせないために全て受け止めている。
頑が蛇川に変身を早くするように要求する。満島は残った支給品で頑の戦車にアームをもう一本増やせと要求する。どちらの要求もすぐさま応じられ、ワタリはますます激しい攻撃を受ける。
未だにワタリを捉えた攻撃はない。だが、ワタリは徐々に後ろに下がり、もう壁が迫っている。
満島が頑に銃を渡すように言うと満島の手元に銃が落とされた。
ワタリが壁にぶつかる瞬間。満島は光の輪から出てきた頑の拳を受け止め、手を回して輪の裏側に向かって銃を発砲した。銃弾の先は頑が狙っていた輪の先、ワタリの目の前である。
銃弾がワタリの頬をかすめる。
退路がなくなったワタリは壁に大きな輪を作り出し逃げようとするが、頑がワタリの袈裟を掴んで引き戻し、壁にできた輪の淵を叩き、輪を壊す。戻った壁にワタリを叩きつけ、拳を振るう。
頑が狙う先に光の輪が現れ、その先の満島の目の前にも輪が現れるが、満島は頑の拳が出てくる前に輪の淵を叩いて壊す。
頑の狙いの先の輪が消えた。
ほんの一瞬のことであった。何十何百の攻撃の中の一撃がワタリの顎を捉えた。
一撃では致命傷にならない。しかし、この一瞬の乱れが致命的であった。
その隙になだれ込むような頑の猛攻。ワタリは対応しきれずほとんどの攻撃をくらい崩れ落ちた。
ブザーが鳴った。
「セブンライト!!!とてつもない猛攻撃!!!鉄壁のワタリを押し切った!!!」
「勝った……」
「たった今、セブンライトの二人が修羅の道の頂上に到着しました!!」
「最後ですね。次で」
「そうですね。修羅の道、たくさんの猛者達が挑み、残ったのはセブンライトの二人。二人の初勝利を当てた吉野さんとしてはどんな気分ですか?」
「勝ってほしい。それだけですね」
「それはおそらくピーナッツファン全員に共通する希望ですね」
「そうかもしれません」
画面は大雨の寺へ。一人の若い女性が真っ黒な傘をさして佇んでいる。
寺は消え、雨が止む。真っ白な仮想空間になり、女性は傘をたたんで振り返る。
藤高がエモナと戦い、最強の証明をした時の姿だ。
「修羅の道、最終戦。藤高 荵が作り出した第七の番人「モネ」終戦の傘」