第十四話 ::瞬き::
頑のバグはロロによって修正された。そのため、頑は変身を使ったラッシュができなくなり、変身するためには申請が必要になった。
バグを起こす前の状態に戻ったのである。
それに伴い、全戦士のバグ3使用も禁止された。
最近はバグに頼りきりだった頑は現在沙夜の指示のもとで蛇川とともに、変身のタイミングや息を合わせる特訓中である。
仮想空間にて。
沙夜が素早く間合いを詰めて、拳を突き出す。
「変身解除」
戦車の姿だった頑は沙夜に殴られた後、人の姿に戻った。
「キメラさん!まだ遅い!」
「すみません!」
「私の動きをよく見ててください!」
「見てます!」
「まあまあ、慣れだからさ」
沙夜が二人をなだめる。
頑も蛇川も焦っているのである。変身を使いこなせるよにならなければ、前任者に少しでも追いつかなければ、そんな焦りである。
「ひとまず、この辺にしておこうか。そろそろ時間でしょ」
蛇川が時間を確認する。
「そうですね。ではひとまず戦闘終了で」
「えっ。私、まだやり足りないんですけど!」
「大丈夫、奏エちゃん。まだまだ終わらないから」
頑と沙夜は仮想空間から戻ってきて、蛇川と三人で2階のオフィスに降りた。
「一体なんなんですか?」
「もうすぐ来るからお楽しみね」
「来る?」
頑が首をかしげると、タイミングよくノックが鳴った。
「はーい」
沙夜が適当に返事をし、入ってきたのは満島。
「なんだ、先輩か」
「あ?」
頑の態度に半ギレの満島が扉を開き、人を招き入れる。それもぞろぞろと何人もだ。
「えっ?」
最初に入ってきた桐原が頑に駆け寄り事情を話す。
「驚いた?みんな奏エちゃんのトレーニングに付き合うってさ」
満島と桐原が連れてきたのは戦士たちだった。
修羅の道を脱落した「victory fighter」「老若パッション」の四人や桐原の相方の代田 アイワン。満島の同期「バロン」の二人に、頑の母 願子。
計8名の戦士たち。修羅の道は惜しくも逃したもののみんな折り紙付きの強さだ。
さらに二人、沙夜の所属している黒尾戦闘所のマスター 松谷 レオンと、元綾木戦闘所のマスターアシスタントで、現在は「バロン」が所属している古長戦闘所のマスターである園田 戦だ。蛇川のコーチ役となる。
「しょ、初対面の人が多い……」
「そんなの気にするタチじゃねぇだろ」
「でも、皆さん。私のために集まってくれたんですよね?」
自分のために名だたる戦士たちが駆けつけてくれたことに、頑は嬉しい反面戸惑いがあった。
「みんな奏エちゃんの強さを認めてるからきたんだよ」
「そういうことだ。立っていても時間が過ぎるだけだ。早速始めましょう。みなさん、バグに頼って鈍った後輩と新人マスター、ボコボコにしてやってください」
頑と蛇川の猛特訓が始まった。
まずは一対一で頑とそれぞれ戦士たちが順番で戦っていく。
「victory fighter」の木島の容赦ない速攻や、「老若パッション」の結城の気合の反撃、「アイワンパンチ」の代田の相手を見極める戦い。
頑と蛇川は多種多様のスタイルの戦士たちと戦い、着実に技術を身につけていった。
コーチ役である松谷と園田の的確なアドバイスにより、蛇川のマスターとしての能力は戦闘の回数をこなす毎に上がっていった。
頑のコーチ役は沙夜、満島、「バロン」の伊賀 涼子だ。
「カウンターの後、油断が見える」
「そこで引くな!攻めろ!」
「横に逃がさない。常に壁を背負わせる」
三人の注意を聞きながら、一筋縄ではいかない戦士を相手にする。常人なら音を上げるハードトレーニングだが、努力だけはできる頑はひたすらに戦っていった。
数時間もすると、頑と蛇川の息が合うようになり、一対一ではほとんど勝てるようになった。だいたい、人型戦闘ロボットを倒した時くらいの強さだ。しかし、セブンライトは修羅の道の上。さらに強くならなければならない。
次に始まったのは、各コンビによる二対一の戦闘。
「victory fighter」「老若パッション」「バロン」「満島夫婦」息のあったコンビネーションを頑は一人で破らなければならない。
そして何より頑を苦しめたコンビが桐原と頑の母 願子のコンビだ。二人は元々綾木戦闘所の戦士で20年来の付き合いだ。個人個人の強さと、熟練された連携、さらにバグ1バグ2を使いこなし、並みの戦士なら歯が立たない。頑がバグを使えたとしても勝ち目は薄いが、夕方の4時から始まり、時計の短針が一回転し、早朝4時にもなると頑と蛇川は全てのコンビに勝利していた。
満島や桐原は他の戦闘所の面々に、深夜になる前に帰宅することを勧めたが、全員、頑の活躍に期待を寄せ、トレーニングを続けこの時間まで残ったのである。
しかし、さすがに体調面を気にして満島が止め解散となり、みんな始発で帰って行った。
戦闘所に残ったのは満島と桐原だけだ。頑と蛇川はトレーニング中は元気爆発といった具合だったが、トレーニングを終わった途端、疲労が表れクタクタだったため頑は母が、蛇川は代田がそれぞれの家まで送った。
2階のデスクで作業する満島とコーヒを入れている桐原。
「空雄くんは帰らないの?」
「事務作業が残ってますから」
「報告書でしょ。私が書いておくから帰ったら?」
ピーナッツの仮想空間を私用で使うことは許されていない。いかなるトレーニングも申請と報告が必要なのだ。
「自分でやります。桐原さんこそお帰りになったらどうですか?」
「私は蛇川くんから鍵の管理任されちゃったから。……オッケー、じゃあ、手伝うよ。二人でやってさっさと帰ろう」
満島のデスクにコーヒーを置き、となりのデスクに座る桐原。
「すみません、苦労かけちゃって。ありがとうございます」
二人掛かりで今日の大規模トレーニングの報告書を書いていく。
「私、修羅の道を絶対に勝ってやろうって思ってたんだ。荵ちゃんは小さい頃からピーナッツに縛られてた。だから私が荵ちゃんを超える戦士になって、あなたなしでもピーナッツは大丈夫だよって、言ってあげたかった」
「……」
「荵ちゃんを戦いから解放してあげたかった。でもダメだった」
「桐原さんも修羅の道の上にいるじゃないですか」
「一応ね。でも、今日気がついたよ。荵ちゃんが呼んでいるのは私じゃない、奏エちゃんだってね。あの子なら荵ちゃんと戦える」
「戦士はみんな、勝つために全力を尽くします。桐原さんがそんなんじゃ相方の代田がかわいそうですよ」
「そうね。悪いとこ出たわ。一緒に頑張ろうね」
再び順番の入れ替えがなされ、「アイワンパンチ」は一足先に第五の番人と戦い敗北した。
修羅の道の上に残ったのは「セブンライト」ただ一組となった。
「まさか、アイワンパンチが負けるとはね」
「ですね」
綾木戦闘所の二階にて、「victory fighter」の木島と「老若パッション」の神谷が昼食を食べながら話している。
あの大トレーニング以降、暇さえあれば名だたる戦士たちが頑と蛇川のトレーニングに協力するようになっていた。今日は木島と神谷なのだ。満島は沙夜によって別のメニューが組まれ、頑とは別々にトレーニングをしている。
頑は二人の会話を聞きながら黙々と昼食を食べている。
「桐原さん。相当落ち込んでますよ、きっと」
「まあ、あの人は昔っから荵ちゃんのために戦ってきたようなもんだからね」
神谷は現役戦士のなかで最年長で藤高のデビュー当時も、桐原の最盛期も知る人物だ。
「荵ちゃんを助けてやるんだって意気込んでたから、反動がね」
「でも、桐原さんほどじゃないにしろ、戦士はみんな藤高さんを倒したいって思ってますよ。まあ、いまそれができるのは……」
木島が頑を見つめると、視線に気づいた頑が目を合わせる。
「奏エちゃん。修羅の道頑張ってよ」
「はい、もちろん」
神谷が立ち上がり、頑の元まで行くと正座した。
「今まで、正直、奏エちゃんのことを歌のついでに戦ってるだけの中途半端な子だと思っていた。でも、奏エちゃんは誰も倒せなかった人型戦闘ロボットを倒して、修羅の道もここまで登ってきた」
「神谷さん?」
頑は戸惑っている。木島は何が始まるのかと興味深々な顔で、神谷の真似をして頑の前に正座した。
「まぐれでなんとか勝ち上がってきただけだと思ってた。でも、最近の戦いぶり、トレーニングを見て確信した。奏エちゃんは強い」
「知ってますよ。そんなの」
頑は一つの謙遜も見せないが、神谷は続ける。
「いや、わかってないよ。長年やってると気づいちゃうんだよ。実績とか実力とか、戦闘には関係ないってことに。戦闘はそんとき強い奴が勝つだけなんだよ」
「はあ……」
「奏エちゃんのお母さんは勝率では同期の河合くんにかなり劣ってたけど、ロロも倒したし、河合くんとの決闘も制している。それは奏エちゃんのお母さんがそんとき一番強かったからさ。その強さが奏エちゃんはずば抜けてる」
「あ、ありがとうございます」
「みんな気づいてる。自分では荵ちゃんに敵わない、超えられないと。でも奏エちゃんは超えられる。だから、戦士の年長者として奏エちゃんにお願いする。あの人を、藤高 荵を倒してくれ」
藤高を目指した戦士は数知れず、赤丸部隊で最後まで戦い続けていた黒尾ですら、目標は藤高のような戦闘をすることであった。
神谷の言う通り、藤高を超えることは戦士の渇望なのだ。
その願いを聞いて頑は答えた。
「もちろんです」
「さあ!やってまいりました!最強目指して駆け上がれ!ピーナッツ修羅の道!!」
開催当初の世間一般の予想を大きく覆し、最後に残ったコンビはセブンライトであった。
「実況は清水 武雄、解説は河合 優也さんです。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「本日は修羅の道、第五の番人「イサンス」の最終戦となります。今まで同様、戦闘終了後にイージー版にてイベントの配信を予定しています。ぜひ、修羅の道の険しさをその身で味わってみてください」
これまでイージー版では四人の番人が配信されたが、ほとんど誰も勝つことができていない。ほとんどというのは、修羅の道を敗北した「徒手空拳」が第三の番人「トニトルス」を倒したからである。それ以外でイージー版ユーザーの白星はない。
「今回のフィールドは草原の夜となっています」
暗いのは戦士にとって不利なことが多いが、今回のフィールドは月明かりがしっかりと照らしているため、今までのフィールドよりは有利不利が発生しにくい。
「さあ!残されたのはこの二人!セブンライトだ!!満島の臨機応変な戦術やここぞの根性、そして頑の戦闘技術でここまで登ってきた。しかし、今回の相手は強すぎるか!あのアイワンパンチの二人が成す術なく敗北した!奈良 逸男が作り出した第五の番人 イサンス!!セブンライトはまだこの道を登れるのか!?河合さん、いよいよここまで来てしまいましたね」
「そうですね。戦士が負ければ修羅の道は終わりですもんね。セブンライトの二人には頑張ってもらいたいです」
「勝算はあるんでしょうか?」
「うーん。あると言いたいところなんですが、このイサンス、シンプルなんですよ。強さが。奈良さんって戦闘技術が高いわけでも、分析が優秀なわけでもないんです。ただ、赤丸部隊の全員から頼られていました。何が凄いのかって、相手の隙を突くのが異常に上手いんですよ。で、この番人はその隙をついて一撃で終わらせるのに特化してるんです。高い攻撃力に相手の視界から消える能力。正直、完璧すぎて戦士に勝ち目はないように思います」
「なるほど、セブンライトもここで狩られてしまうのか!?」
二人は満月に照らされた草原の上にいた。
「そういえばもう秋ですね」
準備を終え、月を眺めている二人。
頑が綾木戦闘所に配属されたのは春。志田の病気が悪化したのが梅雨。修羅の道が開催されたのが夏。藤高が死んだのが残暑。めまぐるしく変わる状況の中で、季節は駆け足で過ぎ去っていった。
特に頑には怒涛の日々だった。季節を感じる間もなく半年が過ぎたが、今回はちょうど秋に合った風情のあるフィールドで、久しぶりに四季を感じたのだ。
「そうだな」
仮想空間で戦闘に関係のないことを話すと、満島は無駄話だと言って切り捨てるが、今日は頑の意見に賛同した。
「お二人とも、やけに落ち着いてますね」
蛇川はこれから戦闘が始まるというのに、呑気に見える二人に不安を覚えていた。
「ああ、なんでだろうな……」
「集中してくださいね」
「集中はしてる。闘志だってこれまでにないくらい燃え上がってる。それなのに、こんなに落ち着いているのはなんでなんだろうな」
トレーニングで幾多の戦闘を短期間に経験し、二人の闘志は極限へと至っていた。
相手を倒す。ただそれだけである。
「わかりました。準備はいいってことですね?」
「ああ頼む、キメラ」
「お願いします、キメラさん」
「では、戦闘を開始します」
二人の前方に甚兵衛を着た男が召喚された。腰には刀を携えている。
「作戦はいつも通りだ。行くぞ」
「はい!」
満島は男に向かって走り出した。
「遠隔衝撃グローブを」
満島の腕にグローブが装備された状態で召喚される。
「やるじゃねぇか、キメラ」
「ありがとうございます。練習の賜物です」
「いいぞ」
満島の後を追って頑も走っている。
「近接戦闘戦車に変身」
前衛後衛は変わらず、満島が前で、頑が後ろから砲撃で援護の作戦だが、頑は前に出てきている。しかし、これは作戦無視ではない。
後衛の役割は安全圏からの攻撃で味方をサポートすることと、二人同時の早期退場を避けることだ。頑は最近の鬼のようなトレーニングでその後衛の役割をしっかりと理解し、今までの後衛では安全圏でありすぎたため援護が遅れることに気がつき、その両方に即座に対応可能な位置までは前に出るようになったのだ。
ジェットを使いながら満島の背後につき、アームの照準を男に合わせる。
男は居合の構えを見せると、消えた。
満島は抜刀し立ち止まった。頑はその背後で背中合わせだ。
「嫌な能力だ」
「高速移動か、ワープか、単に消えているだけか。どう絞りますか?」
「待つ」
「相手の思う壺なんじゃ……」
「逆だ。向こうはこっちの隙を探ってる。どの能力であれ、隙を見せれば一瞬で襲ってくるぞ」
風の中に草を踏む音が混じる。
満島と頑は同時に音の方に振り向いた。そこには二人にめがけて刀を振り上げた男がいた。
振り降ろされた刀を二人はそれぞれ左右にかわし、満島は剣で、頑はアームで男を挟み撃ちにした。
しかし男は満島の水平切りに対し左手に持った刀を振り上げて払う。
ッバキユウウウウウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥンンン!!!!
とんでもない怪力だった。初期支給武器は壊れないようにできているため、満島の剣が折れることはなかったが、はるか上空に打ち上げられた。
同時に、頑のアームパンチに右手の裏拳を合わせていた。
打ち合いなら別にいいと思い、頑は構わず左アームを突き出し、男の裏拳にぶつけた。
ゴアジャアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァンンンン!!!!!
力のあまり、頑戦車の左アームから車体の左半分までが爆散した。
「変身解除!」
退場寸前ですかさず変身を解除し、退場を免れた頑。
満島は背中の銃を向かって構えたが、男は再び消えた。
頑は満島に駆け寄り、背中合わせに構えた。
「とんでもない攻撃だ!!イサンス!!終わらせにきている!!」
「一撃があまりにも強すぎるんですよね。当たったらアウトですからね、あれ」
「そうですね。頑の戦車も一撃で粉砕されましたしね」
「奏エちゃんの変身解除の判断が早かったから助かったものの、退場ものですよ」
「簡潔明瞭な能力だ。消えて隙を探して、あの怪力で一撃必殺か」
「シンプルで強いですが、それなら防御面は大したことなさそうですね」
「そうだな」
満島は背中のアサルトライフルを背中合わせのまま頑に手渡した。
「あのダメージじゃもう変身はできないだろ。武器を持て」
「先輩は?」
「グローブがある。それから、剣がそろそろ落ちてくる。それを拾いに行く」
「援護します」
「お前の方に来ないとも限らない。注意しろ」
「はい」
ザスッ!
満島の剣がようやく落ちてきて、綺麗に地面に突き刺さる。
すると満島は走り出し、剣に向かう。
頑は奇襲を警戒しながら、満島の周囲に銃口を向けて構えている。
満島は剣を拾い、頑に合流しようと振り返った。
「頑!後ろだ!」
振り返りながら体をそらして、イサンスの袈裟斬りを避けた頑。容赦なく銃を発砲しようとするが、
バツグロドオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォンンン!!!!!
イサンスが刀を振るったのは左手、残った右手で銃ごと頑のみぞおちを殴った。一撃で戦闘を終わらせる威力の攻撃。頑は一気に壁際まで飛ばされ、瀕死状態だ。
「頑!!退場寸前か!?」
「銃ごしで力が分散されたからよかったものの、拳が直撃してたら多分、腹部を貫かれてますよ」
「強いですね。かろうじて残ってはいますが、もう頑は苦しそうですね」
「ええ、あとは空雄くんがどこまでできるかですね」
「なるほど、支給品やブーストは残っていますから、まだ勝機はあると考えていいですかね?」
「うーん……。このイサンス、一つ一つの行動が命取りになりかねないんですよ。無闇に支給品を出すとその隙を狙われますから。状況はかなり厳しいと思いますよ」
再び消えたイサンス。満島は周囲を見渡して四方を警戒する。
ヤツは後ろから攻めてくる。ほんの少しの気の緩みで。
満島はあえて一瞬だけ気を抜き、すぐさま振り返った。
はっきりと確認した。何もない宙に刀が現れ、手元、上半身、下半身の順にイサンスが姿を現した。
食らったら即死の袈裟斬りをかわし、イサンスに斬りかかる満島だが、間合いを詰めたイサンスは剣の柄をつかみ、怪力で奪うと満島の胸に突き刺し掲げた。そして、
ドガズザアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァンンンン!!!!!!!
自前の刀で満島の上半身と下半身を水平に断ち切った。
「グブア……」
満島は闘志だけで動き、グローブをイサンスに向けるが、衝撃波を放つ前に剣ごと放り投げられ、戦闘終了の蹴りを決められる。
ッバッツドアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァンンン!!!!!!!
頑の元まで蹴り飛ばされた。
「強すぎる!!イサンス!!アイワンパンチに続いてセブンライトもノックアウトだ!!」
「でも戦闘が終わりませんね。まだやる気なんでしょうか……」
「満島は間違いなく退場です。動くなら頑でしょうか?」
「そうだと思いますが、得意の変身ももう使えないですからね。ブーストをつかっても勝機があるかどうかはなんとも」
仰向けに倒れている満島は最後の力を振り絞り、自分の胸に刺さった剣を刃部をもって引き抜き、高く掲げた。
「刀から……あら、われる。刀を……追え」
頑は無言で立ち上がり、満島の剣を受け取った。
誰もがセブンライトの敗北を確信していた。
一人は退場、もう一人は立っているのもやっとだ。それに対し番人は未だ無傷。
修羅の道はここで終わる。そう思っていないのはセブンライトの二人だけだった。
私はよくやった。戦士になりたて女の子が伝説たちと互角に戦った。それだけで十分すごいことだ。
健吾は良くなった。先輩とも信頼関係を築けた。たくさんの人たちと仲良くなれた。ハイラさんはお金のことは気にしなくていいと言っていた。
私が戦わなきゃいけない理由はない。
でも戦いたい理由はある。
藤高さんに会いに行くまで、私は負けない。
お腹の激痛が身体中に響いて震わせる。それでも私は立ち上がる。
揺らいでいた視界がはっきりとして、感覚が冴え渡っていく。
先輩から受け取った剣はまだ暖かい。
イサンスは頑に向かって居合の構えだ。
「よく立った。行くぞ」
低く冷たい声で告げるとイサンスは消えた。
頑は微動だにせず、剣をまっすぐに構えている。
広い草原を撫でる風の音。月明かりが作り出す頑の影。深くそれでいて静かな頑の呼吸。穏やかな秋の夜。この戦いを終わらせる刀。
頑は即座に刀の刃筋からそれるように間合いを詰め、まだ姿を現しきっていないイサンスの両腕を切り落とした。
風に紛れて再び消えるイサンス。
「ブースト発動」
ユイーン!
ッドゴロオオアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァンンン!!!!!
頑の右脇腹に背後からのイサンスの蹴りが命中する。ブースト中にもかかわらず、その蹴りは頑の肋骨を粉砕する。しかし、深い踏み込みで耐えた頑は血を吐きながらも、イサンスの足を左手で掴み、振り向きながら右手の剣でイサンスの袈裟を切り上げる。
ザアアアバアアアアアアアアアアアァァァァァンン!!!!!
ブザーが鳴った。
「頑!!!瀕死状態から勝利をもぎ取った!!!変身なくとも極まっているか!?」
「よくやりました。最後のブーストも相手の攻撃の流れを読んで発動しています。文句なしですよ」
「そうですね。気づけば一流戦士です。喧嘩してた頃が懐かしいですね」
「あそこからここまで来るなんて誰も予想してませんでしたよ」
「本当ですね。さあ残る番人はあと二人。セブンライト、どこまで行くのか!?」
画面が切り替わり風の吹き荒れる大嵐の寺の中庭に、袈裟を着た男が佇んでいる。
突如として男の頭上に光の輪が現れ、雨が輪の中に吸い込まれていく。そして、今度は男の周りに無数の光の輪が現れ、中から大量の雨粒が吹き出す。
「修羅の道、綾木 慶が作り出した第六の番人「ワタリ」輪を通す」