第十二話 勝利の女神
赤丸部隊が解体され、隊員たちが各戦闘所の所長として新たなピーナッツ戦士たちを迎えるようになってから19年。赤丸部隊を超える逸材は現れなかった。
赤丸部隊の面々にも老いが見え始め、ピーナッツは衰退していくかに思われていた。
そんな時に現れたのが藤高 荵である。
仮想空間への順応が子供の方が優れているのは、前々から知られてはいたが戦闘をさせるのは倫理的に問題があるとされ、今まで子供の戦士はいなかった。
ところがピーナッツはこの当時、試験的に痛みの再現や、グロテスクな表現を一切なくし、倫理観に最大限配慮し、10代前半子供たちに戦士の募集をかけ、子供戦士の育成を行った。
この頃には、ピーナッツはスポーツやアニメなどと同等に人気を獲得していたため、多くの子供達が仮想空間の順応訓練や、戦闘訓練に励んだ。しかし、模擬戦闘訓練が始まると、辞退していくものが増えていった。痛みの再現や、グロテスクな表現は変わらずに一切なかったが、戦いに挑むという闘志が憧れだけでは保たなかったのだ。
たくさんいた子供達は1年で一人になった。それが藤高 荵だ。
貧困家庭に産まれ、半ば捨てられるようにピーナッツの訓練所に預けられた藤高は死に物狂いで訓練をこなしていった。
レベル3の挑戦者を圧倒し、華々しくデビューを果たした藤高はこの時12歳で、世界のピーナッツファンに衝撃を与えた。
一方で、痛みの再現がないのだから、強いのは当たり前という批判があった。しかし、藤高は自ら大人と同じ条件で戦い、挑戦者を倒し続け、そんな批判をはね除けた。
その後、圧倒的な強さを保ちながら、あらゆるレベルの挑戦者に無敗を誇った。
藤高はヨーロッパの血が入った綺麗な顔立ちをしていて、実力も相俟ってとてつもない人気だった。衰退するかに思われたピーナッツを爆発的に盛り上げたのだ。
死因は脳梗塞だった。
深夜に藤高の体のマイクロチップから心肺停止信号が発信され、救急隊員が駆けつけた頃には息絶えていた。
葬儀にはピーナッツ関係者、頑や満島はもちろん、元綾木戦闘所の戦士たちやその他新旧問わず多くの戦士たち、赤丸部隊のご老体、日本支部の重役だけでなく、アメリカ本部からも数名が参列していた。
身内のいない藤高の葬儀はピーナッツが手配し、追悼の挨拶は藤高をデビュー当時から知る綾木 慶が行った。
「あの日は、冷たい大雨でした」
綾木が藤高との思い出を語る。
藤高は夜の雨に濡れたまま、橋の上から真っ暗な川を見つめていた。
一つの戦闘をきっかけに藤高は批判の嵐を浴びていたのだ。
周りの人は離れていった。友達だと思っていた人たちには軽蔑され、下宿先の人からは犯罪者のような扱いを受け、頼れる家族はいなかった。
藤高の頭上にそっと黒い傘が現れる。
「綾木さん……」
「嫌われ者でも風邪は引くよ」
藤高は俯いた。
「私は悪いことをしたのでしょうか?」
「悪いことなんかしていないと思っていたから、泣いていたんじゃないのかい?」
「戦士はみんな、勝つために全力を尽くすものじゃないんですか?」
私は彼女の問いに何も言ってあげられませんでした。
彼女は誰よりも、何よりも、戦いを重んじていました。ここにいらっしゃる皆様ならご存知のことかと思います。
彼女は私に教えてくれました。戦いが好きなのではなく、戦いしかないのだと。
小さな頃から両親には愛されていなかった。捨てられたようにピーナッツの訓練所に送られた。だから、生きるためには戦うしかなかったのだと、たくさんの訓練仲間たちが脱落し、帰っていったけれど、その家路が自分にはなかったのだと、彼女は言っていました。
もし子供の自分が一度でも負ければ、再び倫理観の論争が始まり、自分は戦士ではいられなくなる。居場所がなくなる。だから絶対に負けないようにあらゆる戦いで全力を尽くしてきたのだと、彼女は言っていました。
引退後は本当に業界の人間としか関わりがなかったようです。
私はいつも、戦闘で負けそうになると、彼女のことを思いました。彼女は必ず勝ちます。それは私たち戦士に負戦などないのだと教える勝利の女神のようでした。そんな私たちが憧れを抱いてやまなかった彼女は、私たちが思うよりも戦いに全てを捧げていました。
常に私たち戦士を導いてくれた恩人へ、最大の敬愛と感謝を込めて、ご冥福お祈り申し上げます。
頑の浮かれ気分も、それに対する満島のイライラも消え去っていた。
二人は綾木戦闘所の二階、各々自分のデスクにつき、頑は俯いたまま沈黙し、満島は事務作業をしていた。葬儀明けで疲れもあり、精神的にもトレーニングをできるような状態ではなかった。
人の死の後にある特有のやるせなさが事務所内に充満していた。
18歳で戦士になり、それからずっとこの戦闘所に所属していた満島にとって、藤高は最も信頼していた人物だ。
事務作業をしているが、涙が溢れそうになる度に書類を書いているボールペンは止まり、唇を噛み締めて涙を抑えていた。
一方で頑は放心状態だった。
藤高とは出会ってから半年も経っていないが、身近な人の死を経験したことのない頑にとってはあまりに大きなショックだった。
ノックがなった。
満島が無気力に扉の方を見ると、入ってきたのは桐原 理生だった。
「桐原さん……」
「おはよう、空雄くん。昨日はお疲れだったね」
桐原は満島の隣のデスクの椅子に座る。元々、桐原のデスクだった場所だ。
「いえ……。何か用事ですか?」
「うん。本当は空雄くんがここの次の所長になるはずだったんだけど、まあ、今はまだ修羅の道があって大変だから、私が代理で所長をすることになったの」
「代理って、桐原さんも修羅の道があるじゃないですか」
「そう。だから大した仕事はできないけど、引き継ぎとかそういうのは気にしなくていいから。それと、これ」
桐原はカバンから一枚の書類を取り出して満島に手渡した。
「綾木戦闘所に新しいマスターが来ますよーっていう通達ね」
書類には新しく来るマスターの情報が書かれていた。
蛇川 翼虎龍22歳 男。
「キメラか」
「キメラ?」
「こいつがマスターの研修してる時、模擬戦闘に駆り出されてて、そこでよく組まされてたんです。キメラってのはあだ名です。名前に生き物が入りすぎてるところからキメラって」
「そうなんだ。知り合いなら良かった。まだまだ新人で荵ちゃんみたいにはいかないと思うから色々教えてあげてね」
桐原は立ち上がって、頑の元へ行くとその頭を撫でた。
「奏エちゃん。修羅の道、頑張ろうね」
頑は弱々しい声で呟いた。
「はい……」
「やってまいりました!世界最高峰の戦いがここにある!!ピーナッツ修羅の道!!」
藤高の死はピーナッツファンに衝撃を与え、先日の追悼番組では藤高の現役時代の戦闘がいくつか放送され、視聴者だけでなく同業の戦士たちも藤高の圧倒的な強さを改めて思い出した。
主催者の一人であった藤高が亡くなっても、修羅の道は大イベントであるため続行され、残っているセブンライト、アイワンパンチの二組は心に陰りを残したまま第四の番人に挑むことになった。
「実況は清水 武雄、解説は河合 優也さんです。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
「本日は修羅の道、島ノ江 紗季が作り出した第四の番人「マグネス」との初戦となります。第一、第二の番人と同様に特殊な仮想空間が用意されております。第四の番人マグネスのフィールドはビル街となっております。なお、今回も番人の能力が一部開示されています。マグネスの能力は瞳を覗き込むことで感情を操作できる能力だそうです。河合さん、この能力を開示してしまうと、目を瞑る、相手を見ないといった回避行動ができてしまうような気がするのですが」
「それでも問題ないか、それができないような別の力があるんでしょうね。それかこれは深読みかもしれませんが、ある程度、気の持ちようで抵抗できるくらいの弱い感情操作で、別に本命の武器がある可能性もなくはないと思います」
「なるほど、情報開示を利用したブラフであるかもしれないということですね」
「ええ、この感情操作の能力って、赤丸部隊の方々が倒した当時の連勝記録をもっていた挑戦者と同じ能力なんですよ。確かに強いんですが、相手を倒すためならなんでもやるような島ノ江さんが、こんな安直な攻め方をしてくるとは思えないんですよね」
「すでに戦略は始まっているわけですね。セブンライトの方はいかがでしょう?」
「正直、厳しいと思いますよ。二つほど要因がありまして、まず藤高さんが亡くなられてマスターが変わったことですね。それも新人のマスターなんですよ。マスターは戦闘中も支給品の対応やブースト、変身とやることが多い上に戦士と息が合わないといけないんです。支給品が遠くに出てしまったら戦士はそれを取りに行く手間がありますし、ブーストなんかは5秒しかないのでタイミングが重要になってきますから、そういう部分で練度の差が出てしまうのではないかなと。あとはまあ、セブンライトの二人が藤高さんの件で精神的にキツい状態だと思うので、そこですかね」
河合の分析は見事であった。
「大丈夫か?頑」
大通りの真ん中で満島は銃に弾を装填しながら、うつむいたままの頑の様子を心配した。
完全に戦えるような精神状態ではなかった。
「気持ちはわかるがこいつは弔い合戦だ。しゃんとしやがれ」
頑は返事をしなかった。
「満島さん、頑さん。準備は大丈夫ですか?」
仮想空間に響くのは新人マスター 蛇川の声だ。
「キメラ、頑の退場までの判定を甘くしてくれ」
「ちょっとの怪我で退場するようにすればいいですか?」
「ああ、頼む。今日ばっかりは無理させらんねぇ」
「わかりました。ちょっとまってくださいね」
蛇川が判定を設定している間に、満島はあたりを見回した。
「しかし、ビル街か。感情操作とは関係なさそうな場所だが、別の何かがあるのか」
「設定しました。他は大丈夫ですか?」
「ああ、戦闘開始を頼む。頑もいいな?」
「……はい」
「それでは戦闘を開始します」
二人のいる大通りのはるか前方に短髪の女が召喚された。
「遠隔衝撃グローブを」
「はい。えーっと、出しました!」
満島の背後にグローブが召喚された。
「前に出せ、前に」
「すみません。近くに出すので精一杯でした」
「ったく、先が思いやられるぜ」
グローブを装備した満島は頑の様子が変わらないのを確認すると、一人で相手に向かっていった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴガガガガガガガガガ!!!!
女のいた場所に二棟のビルが倒れていった。
「なんだ……」
次に崩れ去ったビルの残骸から、人の形の瓦礫が何人も出てくる。
十数人の瓦礫たちは凄まじいスピードで満島、頑に向かって走ってきた。
「まずい!」
満島は踵を返し、頑の元へ戻る。
「頑!来たぞ!」
「……」
「チッ……」
放心状態のまま立ち尽くしている頑を足元から抱え上げ、お姫様だっこで人形から逃げる満島。
しかし、人形たちは速く、満島に追いつくと走って逃げようとする満島の背中を叩く。
「先輩……私、もう」
「黙れ」
その時、二人めがけて、ビルが倒れてきた。
「!!」
ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴオオオオ!!!!!
「セブンライト!ビルに押しつぶされた!!ピンチか!!」
「まだ感情操作を使ってきていませんね。やはりブラフでしょうか」
「そうですね、今の所はビルを倒壊させる事と、その残骸で人形を作る事しかしてきていませんね。それだけでも強力な能力だとは思いますが」
「本命はまだ出てきてなさそうですが、出てくるまでセブンライトが保つのか……」
ビルの残骸の中、わずかな空洞に二人はいた。
頑は満島が庇ったため無傷だが、満島はかなりの傷を負った。
背中がいてえ。ヒビでもはいったか。
ずいぶんシンプルな能力だ。ビルを破壊できるパワー、人形を複数操るコントロール。数と力の暴力。しかし、それだけ強ければ、感情操作は大した事ないな。
「頑。動けるか?」
頑は虚ろな表情で倒れたままだ。
「わかった」
満島は抜刀し、頑の左手を持ち上げると、手首を浅く切り裂いた。
「今日はもう休め。俺一人でやる」
そう言って瓦礫の壁を壊しながら、満島は外に出た。
外に出た満島を待ち構えていたのは、宙に浮いた無数のビルだった。
「お待ちかねか」
満島は猛スピードで走る。ビル群は満島めがけて降ってくるが、全て満島の後ろで速さに追いついていない。
ゴガガガガガガガガガガガガガグググググググ!!!!!!
ビルの雨が止み、満島が振り返るとそこには瓦礫の野原が広がっていた。
「すっかり更地だな」
ガソシ!
地面から瓦礫でできた腕が生えてきて満島の足を掴む。瞬時に満島は飛び上がりながら、生えてきた腕を切り払った。
「ホームグラウンド完成ってわけだ。容赦ねぇな。いい憂さ晴らしができそうだ」
「満島!凄まじい!無数に押し寄せる瓦礫の人形を捌ききっている!」
「気迫がすごいですね」
「父を思わせる鬼のような戦い方!満島!覚醒したか!」
「いや、多分、自暴自棄なだけですよ。空雄くんも、奏エちゃんも」
河合の言う通りであった。何かショックな物事が起こると、満島は発散し、頑は塞ぎ込む。そういう性格なのだ。
「大丈夫ですか〜?」
藤高さんののんびりした声が聞こえる。
左の手首がジンジンする。
なんだか心地がいい。
頑が目を開くと、瓦礫の中だった。
仰向けのまま左を見れば、左手の傷を優しそうな短髪の女性が握っている。
「はい、左手の傷は治りましたよ〜」
左手には細かな瓦礫が包帯のように巻かれていて、痛みは全く無くなっていた。
「あなたは……」
「第四の番人 マグネスです。よろしくね、奏エちゃん」
「なんで助けてくれるの?」
「仲間に腕を切られて可哀想だったから」
「そう、ありがとう」
マグネスは穏やかににっこり笑って訊ねてきた。
「戦う?」
「戦わない」
「即答……。そっか、じゃあ戦闘を終わらせたいんだね」
「うん」
「方法は二つよ。今ここで私を殺すか。二人であなたの先輩を退場させるか。私は一応番人だし、強いから、後者の方をお勧めするわ」
「先輩を退場させる?」
「そう、その後奏エちゃんも退場すればすぐ終わるよ。大丈夫、痛くしないから」
「じゃあ、先輩を退場させる」
「本当!?よかった〜。私、実は戦うの怖くて、一人じゃ不安だったんだ〜。それじゃあ、一緒に」
頑は戦車に変身した。
「マグネスは見てて、私一人で終わらせる」
「わかったわ。でもサポートはさせてね」
マグネスが手をかざすと、瓦礫がひとりでに動き出し、外までの道を作り上げた。
「頑、マグネスに取り込まれた!」
「厄介ですよこれ。感情操作の能力はほとんど補助のようなものに見えます」
「と言いますと?」
「島ノ江さんって、戦闘だと容赦ないんですが、現実だと本当に天性の人たらしなんですよ。現役の頃は自我を持つ挑戦者はまだ出てきていませんでしたから、この性格が戦闘に生きるとこはなかったんですが、ここにきて武器として使ってきてます」
「つまり、感情操作は能力というより、彼女の才能だと?」
「ええ、開示は嘘をつけませんから、多少は操作してるんでしょうけど、おそらく、それ以外の何かがまだあります」
ゴッスドオオオオォォォォンン!!
頑戦車の最高速ジェットによる猛烈な体当たりが、人形と交戦中だった満島を吹き飛ばす。
「うっ……。頑」
満島は瓦礫の上に立ち上がり、殺気立った戦車を見据えた。
「感情操作か。つーか、なんで退場してないんだよ」
「相手に回復されました」
蛇川が説明するが、満島は怒った。
「そん時教えろ!」
「す、すみません」
頑は再びジェットで迫ってきたが、今度は体当たりではなく、満島の目の前で瞬時に人の姿になり、右拳によるストレートを繰り出す。
満島は仕方なく左にかわして、カウンターで頑の袈裟を切ろうと剣を振るうが、頑はまた変身し、今度はジェットで左に回転しながら満島の剣を避けて、カウンター返しの左アームが満島の横顔に決まる。
ッツダアアアアアァァァァァァンン!!!
ふっとぶ満島をジェットで追いかけ先回りすると、人の姿になって蹴り上げる。宙に浮いた満島をさらに追いかけ、凄まじいスピードで変身を繰り返しながら、パンチ、キック、砲撃とあらゆる攻撃を浴びせ、満島が剣を落としたのを確認すると最後には足を掴んで投げ飛ばした。
ガジョアアアアアアアアアァァァァァァァァァンン!!!!
瓦礫に埋まったがなんとか抜け出た満島は、またこちらに向かってくる頑に向かって叫ぶ。
変身まで使って本気で先輩のことを殴っている。
もう私の方が強い。すぐ終わる。
先輩は私のためにこれまでボロボロになっても戦ってくれたのに。
悲しい。あんなに威張ってた先輩ってこんなに弱かったんだ。
全力で私のことを助けてくれたのに。
私の方が戦士として上だしもう敬語やめようかなぁ。
殴ったらいけない人なのに。
「テメェの心はそんなに弱くねぇはずだ!!!今俺を殴ってんのは、テメェかあいつかどっちだ!!!!」
先輩……。体が止まらない。
「助けて……」
頑が満島に猛攻を仕掛けようとする瞬間に、ほんの小声で呟いたその言葉を満島は聞き逃さなかった。
「任せろ。ブースト発動」
頑の変身を繰り返すラッシュが満島を襲う。
ッッドダダダダダダダダダダダダダダダダアアアアアァァァァァ!!!!!!!!
ユイーン!
満島は頑を蹴り上げた。
ゴッッザアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァンンン!!!!!
空中まで追いかけ、右拳を構え、
ッガッスドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォンンンン!!!!!!
右ストレートを打ち放ち、頑は爆散した。
「キメラ!ブーストが遅かったぞ!」
「す、すみません。集中してたんですが反応が遅れてしまいました」
「それを集中してないっていうんだよ!」
「気をつけます!」
「やれやれ、あんまり奏エちゃんをいじめないでほしいな」
満島と頑の攻防をはるか後方から見守っていたマグネスが手を振りかざすと、爆散したはずの頑の体が再生した。
「大丈夫〜?」
マグネスは再生した頑をそっと抱きしめながら異常はないかを確認した。
「よし、大丈夫そう。今度は一緒にいこ?」
「なんということだ!操られている頑を倒した満島だったが、頑はマグネスによって蘇生されてしまった!」
「戦士の蘇生。捕らえた奴隷は離さないってわけか」
「いやー、河合さん。これ相当満島はキツイんじゃないですか?」
「キツイですね。ブーストも使ってしまいましたし、ずっと攻撃されっぱなしで、もう立ってるのもやっとだと思いますよ」
「セブンライト大ピンチか!!……ん、頑の様子が……」
「奏エちゃん?大丈夫?」
マグネスは頑の異様な変化を心配していた。
というのも、蘇生された頑は足元から瓦礫を吸い上げて体にまとわせ始めていたからだ。
「私の瓦礫を吸って、大きくなってる……。いや、瓦礫だけじゃない、人?動物?機械もある。ここにはそんなのなかったのに。……ねえ、奏エちゃん。何になろうとしてるの?」
「今度はなんだ?」
満島は遠くでだんだんと大きくなっていく人型の瓦礫を見ていた。
蛇川の焦った声が響いた。
「レベル5乱入!」
「じゃあ、あれは奴の能力じゃねぇのか」
「反応は……奏エさんです」
「俺が倒しただろ」
「退場する前に相手に蘇生されました」
「ってことは、蘇生が早すぎるか、お前が無能かの二択だな」
「両方です」
「自覚があるのはいいことだ。応援を呼べ。レベル5だろ」
「満島さん。できないんです。奏エさんのバグは勝敗に考慮されません。反応はレベル5ですが、満島さんはα1の状態で奏エさんも番人も倒さなくてはなりません」
「そういうとこはちゃんとしてんのな。お前」
「僕を試したんですか?」
「いや、忘れてただけだ。鳥人間に変身。衝撃吸収ブーツを」
「わかりました」
鳥人間の姿になり、目の前に召喚されたブーツを履く満島。
「変身の対応スピードは及第点だな」
「ありがとうございます」
「及第点だ。100点目指して邁進しろ」
満島は瓦礫の巨人と化した頑に向かって、飛び上がった。