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第3話「山田に殺される」(2/3)

「それじゃタク、俺は先に帰るぜ」


 昨日と同様にキッペーと掃除当番をこなした後、俺はキッペーと別れて掃除用具の整理整頓を行うべく用具室へと向かった。



「って言うか俺も手伝うか?2人でやればすぐ終わるだろ」

「俺が花崎先生に指示されたんだから俺だけでやるよ。キッペーは鳴神とふたりきりで帰ってアタックチャンスをものにしてくれ」


 ……表向きは花崎先生の指示と言う事にしたが、実のところあの先生がそんなこまめなメンテナンスを一生徒に指示するわけはない。

 あくまでこれは下校中の殺害リスクを下げるため、鳴神もみじに羽賀吉平をあてがって無力化するための俺の狂言なのである。




「ふぅ……。」


 俺の提案にハッスルするキッペーと別れ、俺は用具室でひとり掃除用具の整理を――もともと俺の狂言だし大してやる気も無いが――黙々と行っていた。

 埃っぽい室内に暮れかけの夕陽が差し込み、化学の授業で習ったなんとか現象とやらでキラキラと輝いている。



 ――このままここで適当に時間を潰して、それからひとりで海沿いの大通りを通って帰るようにすれば、鳴神もみじの襲撃リスクは今後充分に抑えられるだろう。


 ひょっとしたらマジでキッペーと鳴神がいい感じになって、俺に言われずとも毎日一緒に帰ってくれるようになるかもしれない。

 そうなると非常に腹立たしいが、それで俺の命が助かるならば目の前であの親友(バカ)があの豊満な肢体に腕を回しイチャつくであろう屈辱を甘んじて受け入れざるを得まい。



「……まぁ、それはそれでいいとして……」


 呟きながら昼休みの事を、もうひとつの懸念事項を思い出す。


 アルトリコーダーを受け取らなかった事がブラフだと考えれば、昨晩の襲撃犯が山田桐香である可能性は6~7割ってところだ。

 もちろんアルトリコーダーを落としたのが別の山田さんで、山田桐香さんがサバイバルナイフを見せた時の反応も純粋に驚いただけである可能性もあるが……ここは最悪の可能性の方を想定して行動したい。



 かくして、俺と容疑者(山田桐香)との目に見えぬ牽制合戦が始まった。


 まずは俺が今いる用具室。

 ここで彼女が襲撃してくれれば室内にある様々な道具を使って地の利を得られる算段だったが……流石に、俺ひとりの狂言に依ってやって来たこの場所に彼女が辿り着ける事は無かったようだ。


 次に用具室から俺のクラスの教室までの道のり。

 既に生徒の大半は帰宅しており廊下や階段は静けさが漂っていたが、それでも教師や部活動の生徒は何人か歩いており、とても俺が襲撃される状況ではない。


(……と、なると……)


 残る場所はひとつ、俺の鞄が置いてある教室である。


 用事を済ませた俺が鞄を取りに戻って来るまで、息を潜めてじっと待ち続ける。

 そんな昨晩の襲撃時のような行動――最後に残されたその行動が、彼女が襲撃犯であるならば最も可能性の高い行動だろう。



「…………。」



 教室に入り、ドアを閉めて、最後方にある自分の席まで歩き鞄を手に取る。


 ――掃除当番を終えて用具室に向かう前から鞄を確保していれば、俺はここに戻る事なく安全に帰宅する事が出来たのだろう。

 しかし俺はあえてここに鞄を残し、あえて今ここに鞄を取りに来た。

 そんなリスクでしかない行動を取ったのは何故か? 決まってる、()()()()()()()()()()()()()()()()からだ。



 俺にとっては「山田桐香が襲撃犯ではなく、他に正体も分からぬ襲撃犯が自宅近くで俺を狙い続けている」と言う状況の方が分の悪い状況だろう。


 それでも、俺は彼女が殺人鬼だとは思いたくなかった。

 例えその確率が6~7割だったとしても、俺と同じ高校生が2人も俺を殺そうとしている事実を認めたくなかった。




 認めたくなかったのに。




「――ちょっといいかしら?」



 

 躊躇なく開かれたドアの音に振り替えると。



 昼休みに見た忘れようもない金髪のツインテールの少女が、

 右手に持ったカッターナイフを薄暮に光らせて立ち塞がっていた。

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