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第13話「水着姿に殺される」(6/9)

「――だからさぁ、君が寂しそうにしてたから俺達が一緒に遊んでやるって言ってんの。いいでしょ?」

「いや……っ! 離して……っ!!」



 鳴神にあしらわれていたナンパ野郎とは明らかに雰囲気の違う、恐らくはハナからナンパなど目的としていないであろう二人の男が。

 堤防の階段に座っていたキリカに近付き、そのまま壁際まで追い詰め、そして無遠慮に手首を掴んでいる。



 そんな光景に――俺がサメのフロート(浮き具)を取りに行く数刻前には予想だに出来なかった光景に、多少なりとも動揺しながらも反射的にその場へと踏み込んだ。



「――ちょっと、待ってもらえますか」


「……は?」



 なるべく事を荒立てないように努めた……つもりだった俺の言葉に対して、男達はキリカに向けていた威圧感をそのままこちらに撒き散らすようにこちらへと振り向く。


 キリカの手首を掴んでいる男は短い髪を金色に染めたプレイボーイ風の男であり、もう一人の男は褐色の肌にスキンヘッド、そしてサングラスを着用した筋肉質の男である。

 ……どちらの男も、エクスキューズミーで帰路を譲ってくれそうには見えない。



「あのさぁ兄ちゃん、俺達いま取り込み中なの。見りゃ分かるでしょ?」

「いやー、その……その子、俺の知り合いなんで……今から二人で学校の行事に間に合うように戻らなきゃいけないんすよ」


 金髪の男の威圧感に気圧されつつ、あくまで平静を装いながら俺は俺達の要求を端的に伝える。

 この手の輩に対して交渉が有効となるかどうかは分からないが……漫画のように下手にヒーローぶって相手を格好良く挑発するよりは、まだまともに状況が好転する余地があるだろう。



「……何? 要はあんた、この子の彼氏なわけ?」

「――あー……いやまぁ、はい」


 男の問いに対し、僅かばかり考えた末に素直に肯定する。

 男達の向こうでキリカが目をぱちくりさせているが仕方ない、恐らくここは嘘でもお前と俺の関係性を強調した方が交渉がスムーズに進むはず……



「――じゃあ、今から俺達がこの子の彼氏になってやるよ」



 金髪の男があっさりと交渉を打ち切ったと同時に。

 褐色の男が俺に向かって予告なく殴り掛かってきた。



「――――っ!!」



 単調な右ストレートを咄嗟に両手でガードする。

 その衝撃は鳴神の跳び回し蹴りと同等かそれ以上だが、ガードさえできれば何とか凌げそうな手応えを感じる。



「っ……ちょっと!何するんすか――」


 抗議の声もむなしく次々と飛んでくる男の拳を、俺はそこまで苦も無くガードし続ける。

 ……こちとらこの数か月の間に幾度となく蹴り殺されかけたんだ、今更不良に殴り掛かられた程度じゃ動じない。


 動じないのだが。



(――ここから、()()()()()()()?)



 そもそも、今のこの状況は鳴神たちに殺されかけた時の状況に似ているようで全く異なる状況だ。


 鳴神たちに殺されかけた時は相手の攻撃を凌ぎつつ一般人が通りがかるまで待つか、警察を呼ぶか、もしくは逃げちまうか……ともかく、状況が好転するまで守備に徹していれば良かった。

 しかし今は違う。一般人がここに来てもこいつらなら恫喝して追い払うだろうし、警察を呼ぶためのスマホはBBQ会場に置いてきたままだし、キリカを置いてひとり逃げ出すわけにもいかない。

 今の状況を好転させるには、恐らく攻めに転じてこいつらを倒さなければならないだろう。


 ……それは困った。

 何せ俺は誰かに殺されかけた経験はあっても、誰かを殺そうとした経験は無い。

 それどころか相手を殴ろうとした経験もほとんどない、せいぜい相手の拘束を振り払ったりナイフを振り回して威嚇をした程度の経験が関の山だ。



(自宅で鳴神に襲われた時みたく、こいつを転ばせて組み敷けばいいのか……?)


 いやしかし地の利も何もないここ(砂浜)で俺よりも図体のデカい男を組み敷けるとはとても思えない。

 だいたい組み敷いたところでどうする、褐色の男の方を無力化させたところで金髪の男の方が黙ってキリカを解放してくれるとは思わない――



(――あれ)



 そのキリカと金髪の男の方に目を向ける――

 が、つい先程までキリカを掴んでいた金髪の男の姿が見えない。



「拓真!! うしろ――」


 

 同時に聞こえたキリカの叫び声に反応し振り向こうとするが……あまりにも遅すぎた。



「ぐっ――!?」


 いつの間にか後ろに回り込んでいた金髪の男に羽交い絞めにされ、両腕を完全に塞がれる。


「おうおう彼氏くん、やるなぁ? ちょっと俺とも遊んでくれや」

「――っ! この、離せっ――」


 その腕を振りほどこうと暴れようとしたのも束の間、真正面から褐色の男が拳を振りかぶるのが見える。

 当然ながらその拳に対抗する術はなく――



「が、あぁ――っっ!!」

「拓真ぁっ!?」


 左頬へ激痛が走るのとほぼ同時に、キリカの悲鳴が遠く聞こえる。

 鳴り響く耳鳴りが収まる間もなく、二発、三発――無防備となった俺の頬に容赦なく拳が打ち付けられる。



「……ぅ、ぐ……」

「いや……拓真、拓真ぁ……っ!!」

「――キリ、カ……逃げ……ろ……」


 霞む視界でキリカを見据えながら懸命に訴える。

 男達が俺に構っている今なら彼女も逃げられるはずだ――が。


「逃げるんじゃねぇぞ! ……もし逃げたら、このまま彼氏くんを殺しちまうからな?」


 金髪の男の言葉によってキリカは立ち竦んでしまう。

 彼女を助けるつもりが……俺が彼女の人質(足手まとい)となってしまっている。



「俺なんかに構うな、キリカ! 大丈夫だ、すぐに俺も追い付く――ごふっっ!!?」


 言いかけた言葉が、鳩尾に叩き込まれた拳によって強制的に中断させられる。

 同時に金髪の男が俺の身体を離したらしく、俺は堪える事もできぬまま無様にその場へと崩れ落ちた。



「俺達も舐められたもんだな、なぁキリカちゃん? ……もしかして殺すってのがハッタリだと思われているのかねぇ?」

「――っ!? やめて……っ」

「やめるかどうかはキリカちゃん次第だぜ? ……おい、やれ!」



 再びキリカの側へと取り付いた金髪の男の合図を受けて、褐色の男が片腕で俺の喉笛を掴んで持ち上げる。


 ……畜生、さっきの鳩尾への一撃が効いて身体が動かねぇ……こいつ、一体なにを――――



「――――きゃああぁぁ――っ!!」



 直後、背後に響くゴッと言う鈍い音と、

 キリカの悲鳴が同時に聞こえたような気がして。



 ――岩肌に後頭部を叩きつけられた俺は。

 視界がフラッシュするような錯覚の直後、テレビの電源コードを引っこ抜いたかのように目の前が真っ暗になった。



「……いや、やめて、お願い……」

「キリカちゃんが俺達と来てくれる、って言ってくれたらすぐにやめてやるぜ? ……早く言わなきゃ彼氏くんはもう一度頭を潰されるけどな」

「……やだ、そんな……だめ……」



 そんなやり取りが微かに聞こえる中、褐色の男が俺の頭を掴んでもう一度振りかぶるのを感じる。


 ……まずい、これ以上頭を叩きつけられたら、流石に――




「――やめてぇぇ……っ!!」




 彼女の声を合図に、褐色の男の動きが止まる。



「……わかった、着いて行く……着いて行きますから……お願い、拓真を離して……」



 涙声の混じった絶望的な宣言と共に、俺はあっさりと解放されて再び地べたへと崩れ落ちる。



「――はははっ! よーし、これで合意とみなしていいな! それじゃ行こうか、キリカちゃん?」

「……ま、待って! その前に救急車を……このままじゃ拓真が……!」

「まだ生きてるしこのまま寝かせておけば大丈夫だよ。早く行こうぜ」

「いや、いやぁ! ……拓真、たくまぁ……っ!!」



 流血に阻まれながらうっすらと開く視界に、泣き叫びながら腰を金髪の男に掴まれ密着させられるキリカと、無言で後へと続く褐色の男が見える。

 彼らはもはや文字通り死に体の俺の事など眼中に無い。



(……くそ……)



 ――だからこそ、まだチャンスはあるはずなんだ。


 俺が今立ち上がって、あいつらの不意を突けば、まだ彼女を救い出せるかもしれないんだ。



(……くそ、くそ……っ)



 ……それなのに、何で俺の身体は動かないんだ。



 鳴神に頭を蹴飛ばされて首が捻じ曲がった時も。

 キリカに全身をなます切りにされた時も。

 楠木に神経毒を盛られた時も。



 いつだって、()()()()()()()()俺の身体はすぐに動いてくれたのに。


 どうして、一番大事な時にこの身体は動いてくれないんだ――!



(ちくしょう――……っ!!)



 果たして俺の祈りは俺の身体に届かず……指先ひとつも動かせないまま、キリカが拉致される光景を見届けるハメとなっている。


 キリカは未だ微かな抵抗を見せているが、ナイフも持たないまま男に取り付かれてしまってはもはや完全に無力化されるのも時間の問題だろう。


 後はそのまま堤防の階段を上らされて、そのまま道路沿いにどこかへと連れていかれて――



(……ん?)




「いや……お願い、お願い……! なんでも、何でもしますから……拓真を手当てしてあげて……!」

「うるせぇなぁ、そんなに言うならここでお前に彼氏くんの手当てをさせながらおっぱじめるか――」



 俺と同様に、奴もその存在に気付いたのか。

 金髪の男は下卑た脅迫の言葉を止めて、自分達が上ろうとしていた堤防の階段を見上げる。 




 その最上段、陽光を反射するガードレールの側には。



「――手当てが必要な生徒がいるって聞こえたけど、どこかしら~~??」



 薄桃色の可愛らしいラッシュガードを着込み、ぽけぽけと喋りながらこちらを見下ろす女性の姿があった。


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