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第11話「告白されて殺される」(2/3)

「剣菱せんぱーい!」



 翌日の正午5分前。

 終業式も終わりウキウキ気分で駅前に向かった俺を出迎えてくれたのは、薄水色のシャツと紺色のキュロットスカートの可愛らしい姿に身を包んだ後輩、長浜美奈ちゃんが大きく手を振る姿だった。


「あ――あぁ、ごめん、長浜、さん。 待った?」

「私も今来たところだから気にしないでください。 ――それより、私後輩なんだから呼び捨てでいいですよ?」

「あ、あぁ。そうだな……な、長浜、行こうか?」

「はい!」


 直前までのウキウキ気分から一転、ガチガチで応対する俺に対して美奈ちゃんはくすくすと微笑みながら頷いてくれる。

 ……鳴神をはじめとして同級生の女子と話す事に抵抗は無いんだが、こうして下級生の女子と話す事は数えるくらいしか無かったのでどう接していいのか分からない。



「まずはお昼食べましょうか、先輩。どこで食べます?」

「あー……実はな、近くにあるパスタ屋を予約しているんだ。そこでいいかな?」

「え、先輩わざわざ予約してくれたんですか! 嬉しい!」


 スキップするように小さな身体を跳ねさせながら、好意を全面に向けてくる彼女。

 『男たるもの食事をする店の予約はしておけよ』とはキッペーの談ではあったが、なるほどここまで喜んでくれるものなのか。


(あいつは女好きなだけでモテてる所を一度も見た事なかったが、もしかしたら俺の知らない所では本当にモテてるのかもしれないな……)



 ――その後も俺はキッペー師匠のお導きに従いデートを順調に進めていった。


「……美味しい! こんな美味しいパスタのお店があるなんて知りませんでした、先輩!」

「いやぁ、実は俺も初めて来る店なんだけどほんと美味しいな。キッペー様様だよ」

「? キッペー……ですか?」

「あぁいや、うん、こっちの話だ」



「このお店は私も時々来るんですよ、先輩もこのお店に用事が?」

「あ、いや、長浜が山岳部って聞いたからどんな道具があるのか俺も興味が湧いてな」

「へぇー! それじゃ先輩も一緒に道具買って登山始めましょうよ! ほら、これとかこれとか……」

「お、俺はまた今度でいいよ。……と言うか、そんなロープとかも登山に必要なのか?」

「あくまで補助用ですけどね。今使ってるザイルがちょっと痛んじゃって――あ、ザイルってのはこのクライミングロープの事でですね」

(凄く活き活きしてるな……『男たるもの女の子の趣味の買い物に嫌な顔せず付き合えよ』と言うキッペー師匠の言葉通りだ)



 パスタ屋、登山グッズ屋と順調にキッペー師匠監修のプランをこなした俺は、プラン3件目となる喫茶店で映画の上映時刻までのひと時を美奈ちゃんと過ごした。


「先輩、登山が趣味じゃないのに良くあのお店知ってましたね」

「うーん、正直に言うとあの店も友人(楠木)に教えてもらった店でな。……白状するとこの喫茶店もこれからのプランも全部友人たちが考えてくれたプランなんだ」

「あははは、先輩正直で面白いです! 次はどんなプランなんですか?」

「こんな感じだな……見てくれ、この現代にLINEのメモじゃなくて手書きのメモでまとめてくれた師匠(キッペー)お手製のプランだぞ?」

「へぇぇ~……。 ……うん、 うんうん……。 ふふ、楽しみです先輩!」



 メモをこちらに返しながらにっこりと笑う美奈ちゃんの姿に思わずドキリとさせられる。

 ……本当に素直で可愛い子だ。山岳部の皆に人気だと言う師匠のリサーチもあながちデタラメでは無いのだろう。


 彼女が俺に告白してくれた、と言うだけでも俺にとっては勿体ない出来事だったのに。

 こうして順調にデートが進み彼女が笑ってくれている事を鑑みるに、いよいよいよもって俺にもフラグが立って報われる日が来たと思っても許されるんじゃないか――



(――……いや)



 駄目だ、落ち着くんだ剣菱拓真。

 今まで何度同じ事を考えて油断して、そして何度殺されかけたと思ってるんだ。

 いくら俺が彼女の窮地を救ったからと言って、それを理由に彼女が告白してきたからと言って、()()()()()()()()()()と言う証拠はどこにも無い。


 彼女の想いに応えるのはその疑いが晴れてからでも遅くはないだろう。

 何せ俺自身の命が掛かっているんだ、こう言うのは慎重すぎるぐらいで丁度良い――



「――ねぇ先輩、このパフェ美味しいですよ。ひとくち、食べませんか……?」



(――来た……っ!!)



 俯きがちにこちらを見ながらおずおずと差し出されたスプーンと、その上に乗せられた生クリームたっぷりのパフェ。

 ……これまで幾度も殺されかけた俺だからこそ分かる、このひとくちは俺の目を盗んで毒がたっぷり盛られた致死量のひとくちだ。

 わざわざ自分のスプーンではなく新しいスプーンでパフェをすくって差し出して来たのも怪しい、もしかしてスプーンの方にあらかじめ毒が塗られていたのではないか……?



「――い、いや! いいよ! 俺甘いもの駄目なんだ! 食べると蕁麻疹とか出て来ちゃったりして!!」

「え、えぇっ!? そ、そうなんですか!?」



 迫真の演技で何とか断り、その場をやり過ごす事に成功する。

 だがしかしまだまだ油断はできない、このデートの中で俺は彼女の殺意の有無を見極めなければならない……。



 ――こうして、俺と長浜美奈との静かな攻防が始まった。



 プラン4件目、映画館。


(まずい、周りの座席に俺達以外誰も座っていない……これだけ暗いとその気になればいくらでも暗殺は可能だ……)


 キッペー師匠お勧めの恋愛映画も内容が全く頭に入らぬまま、ガタガタと震えながら長浜美奈の様子を伺う。

 やがて何かクライマックスっぽい音楽が流れて何か映画が盛り上がって来た状況に乗じて、彼女が俺の手に音も無く手を触れてきて――


「う、うわぁぁぁ――っ!!」

「――っ!? せ、先輩っ!?」


 思わず奇声と共に椅子から飛びあがってしまい、少し離れた周囲の席から痛々しい視線を浴びてしまう。

 ……け、計画通りだ、これだけ目立てば彼女もこの場では俺を殺そうとはしないだろう。



 プラン5件目、ゲームセンター。


「先輩先輩! プリクラ撮っていきませんか?」


 ダンスゲームやUFOキャッチャーなど、殺される心配のないゲームに興じていた俺だったがとうとう長浜に密室殺人の舞台へと誘われてしまう。

 楠木もそうだったが何で女の子はプリクラを撮りたがるんだ、二人並んでスマホで自撮りすれば無料で写真を共有できるじゃないか。



「ふふふ、先輩には狼耳スタンプ着けちゃお~っと。後は……」


 狭い密室の中でウキウキとはしゃぎながら、彼女は撮影されたプレビューに『剣びし先輩とデート中~。楽しい~♪』と文字を綴っていく。


「先輩も何か書いてください!」

「お、おう……」


 楠木と撮った時はこんなに緊張しなかったんだがな、と思いながら『俺も楽しいです』とだけ書き加える。

 その時の凄く嬉しそうな美奈ちゃんの表情を見て、俺は彼女に殺意が無い事を確信しかけた――が。



「出来上がりました! 先輩、今半分に切り分けますね!」

「――ひゃぁぁっ!!?」


 何か言いながら突如ハサミを取り出した長浜に対し、俺は奇声を挙げながらプリクラの筐体から脱出しつつ彼女と距離をとる。



「――せせせ先輩!? ど、どうしました!?」

「いいいいやぁ、俺はいらないよ!長浜が記念として全部持って行ってくれ!」



 ――危なかった、彼女がキリカ並みの刃物の使い手であれば俺は即座にあのハサミで頸動脈を切り裂かれていただろう。

 やはり情に流されては駄目だ……そう自分に言い聞かせて、俺は花崎先生の誘惑に打ち勝った時の心境を思い出しながら冷静に長浜の出方を伺う事にした。




「先輩、大丈夫ですか? どこか具合でも悪いんですか……?」


 無事プラン5件目を乗り切ったものの、少なからず心労を浮き上がらせた俺に対し長浜は目ざとく牽制の言葉を投げかけてくる。


「……い、いや、大丈夫だよ()()()()()、次へ行こうか」

「――! はいっ、先輩!」


 半ば満身創痍、茫然自失となりながら必死で平静を装う俺に対して、長浜は何故か突然テンションを上げながらウキウキと次のプランに向けて歩を進め出す。

 ……確か次のプランでこのデートは終わりのはずだ。彼女の殺意の有無はまだはっきりしないが、とりあえず次を乗り切りさえすれば俺は五体満足で家に帰る事が――



「――……げ」


 キッペー師匠直筆のメモを見て思わず声を挙げそうになるのを必死に堪え、俺は長浜の後ろ姿を、そしてその先にあるケーブルカーの乗り場を見つめる。


 ……確かにゲームセンターからその乗り場までは目と鼻の先だ。

 程よく時間を潰して丁度良い時間にケーブルカーに乗って()()()()へ行くと言うのは完璧なプランニングである、と平常時であれば師匠を褒め称えたいところだ。



 ――だが、もしこれが殺人鬼とのランデブーだとしたら。




「せんぱーい! ちょうどケーブルカーが発車するみたいですよ! 早く行きましょうー!」


 こちらを振り返り満面の笑みで手招く彼女の姿を見ながら。




『プラン6:雁待岬(がんまちみさき)。予定通り進めばちょうど一面の夕焼けが見られる時刻のスポット。人も少ない隠れた名所で絶好のアタックチャンス!』



 死地へと誘う師匠のメモを、俺は大きく息を吸いながら握り潰した。


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