表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

98/180

97話:闇穿ツ聖紋章ノ規則破リ~勇者悪魔少女は中二病を拗らせている~

「アルノちゃん様ああああ! お遊びになりまぁぁあしょおおおおおおああああ”あ”あ!」


 と、わたくしは可憐におしとやかに言った後、研究所のドアを叩きましたの。

 ドアが壊れましたの。わたくしのせいじゃありませんの。勝手に壊れましたの。これは異なことよ、ですの。


「ああー! フォル様、また設備を壊して……困りますよぉー!」


 研究員の方が嘆いておられますの。

 わたくしは輝く可愛い美しい笑顔(シャイニングスマイル)で、


「そうですわよね。ホント、ドアの立て付けが悪くて困りますわ。ぷんぷんですの!」


 とご返事致しました。

 研究員さんは何かを諦めたように項垂れました。

 わたくし悪くありませんの。




 わたくしのお名前は『魔界の清廉高貴姫(プリンセス)・フォルティッシロイオン』。

 またの名を『聖紋章の勇者フォルテ・フェニックス・ケルケイオン・零式』。

 またの名を『真・漆黒の殺戮超忍者フォルダーク・ハンゾー改』。

 またの名を『空ヲ砕ク槌・フォール』。


 多くの異名を持つ最強の戦士ですの。

 という設定ですの。



「フォルちゃん、おは……よー、ござまぁす……遊ぼ。きゃふふ」


 魔界文字の練習をしていたアルノちゃん様が、学習ノートから顔を上げて微笑みました。

 わたくしと同じくらい、とーっても可愛い笑顔ですの!



 アルノちゃん様は悪魔の女子。

 ただし、わたくしとは別種の悪魔。サキュバスって種族らしいですの。


 ある日突然ロリコンに目覚めたメッシュお兄様が連れてきて、今は魔王城の中にある研究所に住んでおられますのよ。

 どうして研究所なのかは存じ上げませんけど、でもわたくしも魔王城に住んでおりますので、すぐお友達になりましたの。


 アルノちゃん様はゆったりとマイペースな性格ですけれど、とってもお勉強熱心な方ですわ。

 元々別の異界にお住まいになられていたので、新しく魔界の言葉を学ばれてたり。

 それと同時に、難しそうな数字や図形のお勉強をなさってたり。

 さすが研究所に住んでるだけはあって、学者さんみたいですの。


 ただちょっとお変わりになられている所もあって、わざわざ床に教科書やノートを広げて、床に腰を下ろしてお勉強なさるの。

 お部屋には立派な机と椅子もありますのに、床の方が集中出来るとの事らしいですのよ。

 そこがなんだか天才肌っぽい感じですの。羨ましいですの。

 わたくしも真似させて頂き、お家の床でお勉強しておりましたところ、お母様から「行儀が悪い。あと通行の邪魔」と怒鳴られましたの。社会は理不尽に溢れてますの。



 それはともかくとして、冒頭で言った通りわたくしは遊ぶために研究所へ参りましたのよ。


「今日も悪魔淑女(レディ)らしく、お茶とお菓子を頂きながらお喋り致しましょう! 話題はネアお姉様からお聞きいたしました、殿方の身体の仕組みについて! ですの!」

「わぁい……えっちな、お話ぃ……」

「聞くところによりますと、殿方の足の付け根には──」


 わたくしは大人の女性ですので、お友達と遊ぶ時は『お茶会』が主ですの。

 女子会ってやつですわね。

 お菓子は魔王城のお台所に忍び込……お邪魔して、リュックに詰められるだけ詰めて持参しましたわ。

 お茶は苦くて嫌いですので代わりにコーラですの。ペプシですの。


「ばりばりもぐもぐむしゃむしゃグビグビ。美味ですの」

「きゃふふ……おいしぃ」


 こうしてわたくし達は、大人な女性のひと時を過ごしましたの。

 そしてお菓子を全て食べ終わった時、わたくしはふと、アルノちゃん様の様子がおかしいことに気付きましたわ。


「あら。どう致しましたの?」

「……おそと……おひさまぁ……」


 アルノちゃん様は研究所の分厚い強化ガラス越しに、外の景色をボーっと眺めておられましたの。

 察しが良くて賢いわたくしは、すーぐに理解致しましたわ。


「今日はお外で遊びたいんですの?」

「……うん。でも……だめー……」


 アルノちゃん様は、ずっと魔王城の中に引きこもっておられますの。

 というか、勝手に外に出ちゃダメらしいんですの。

 理由は存じませんが大人の方々のご都合らしいですわ。よく分からないけど大人は汚ねーぜ、ですの。


 と言っても監禁されているわけではなく、お父様やメッシュお兄様やネアお姉様といった王族の大人が一緒なら、城下町への散歩くらいは許されておりますわ。

 でも今日はあいにく大人の方はおられませんし。

 こういう場合いつもなら暇そうにしているメッシュお兄様を無理に連れてくるのですけれど、今お兄様は右腕をご負傷なさってご療養中とのことで。

 優しいレディのわたくしとしては、無理強い出来ませんわね。


「あ、でもよく考えたらわたくしもアルノちゃん様も悪魔。だから勝手に外に遊びに行っても問題ありませんわ! むしろルール破り推奨。論破完了! ですのー!」

「おぉ~……!」


 という訳で。

 わたくしたちは何の気兼ねも無く、お外へ出ることにしましたの。


 まずは研究員の方々を誤魔化すために、新聞紙と厚紙とゴボウで身代わりアルノちゃん様人形を急造しましたの。

 本物のアルノちゃん様の身長の五分の一くらいしかありませんけど、多分大丈夫。

 皆様の隙を突き、ドアを壊してエスケープ。ですの!




 ◇




「今まで黙っていましたけど、実は異世界におけるわたくしの正体は超究極勇者。聖紋章の疾風煉獄騎士、フォルティーヌ・ヒュードラ・レーヴァテインでしたの!」

「えー……すごいぃ……!」

「おーっほっほっほ、ですの!」


 現在、わたくしとアルノちゃん様は異界の地に降り立ちました。

 ごっこじゃありませんの。本当に異界にやってまいりましたの。


「せっかくお外へ遊びに行くのなら、どうせなら異界にまで遠征いたしましょう!」

「いかいー……おもしろそう。きゃふふ」


 という経緯がありますの。



 と簡単に言いましたけれど、色々と大変でしたのよ?

 基本的に、子供だけで異界へ移動するのは禁止されてますの。


 わたくしはもうカンペキに大人(アダルト)なのですけれど、残念ながら『年齢』という曖昧で不公平で盲目的な基準に照らし合わせると子供(キッズ)ということになってしまいますの。

 だから『公営の異界通行ゲート』を通ることは叶いませんの。


 以前は門番に見つからないようNINJAのごとく忍び込んでゲートを通っておりましたのですけれど、一度メッシュお兄様とお父様に見つかってしまい、それ以降は取り締まりが厳しくなってしまいましたのよ。


 でも心配はなくってよ。

 実は魔界には『国も把握していない自然発生したゲート』があって、それを使えば良いだけですもの。


 山に行けば、自然発生ゲートはたーくさんありますの。

 ただ魔王城の裏山には怖い魔神さんとその部下の怖いお姉様方がいますので、別の山にしておきますわ。

 別の山でも怖いお姉様方の別動隊が巡回されているのですけれど、裏山よりは見つかる可能性が低いですもの。


「わたくし、こうやっていつも異界へ遊びに行ってますのよ!」

「きゅふふ……フォルちゃんすごーい……」


 こうして怖いお姉様方に見つかることも無く、無事に異界へやって来ましたの。


「それにしても……なんだかゴミゴミして、空気が悪い所ですわね」

「ごーみー……」


 魔界の空気も悪いと言えば悪いのですけれど、この世界の『空気の悪さ』はまた質が違いますわね。

 魔界は血や内臓が腐った匂いが漂う、居心地の良い『空気の悪さ』ですの。

 比べてこの世界は、機械的な匂いのせいで空気が悪くなっていますわ。


 周りを見ると人混み人混み人混み。

 雑多でカラフルな看板を掲げたコンクリートのビルディングが立ち並んで、その横をたくさんの人間さんが歩いてますの。

 さらにその隣の道路では、自動車がエンジンを煩く鳴らしながら走ってますわ。

 そして中途半端な街路樹。


 全体的にわたくしの趣味ではございませんの。


 わたくしは、もっとこう……剣と魔法を主流とするファンタジー的な感じで、盗賊やモンスターが村々を荒らしまわって血の海になってて、そこに颯爽と格好良く現れる勇者わたくしと勇者アルノちゃん様!

 みたいなのを期待しておりましたのに。


 まあでもせっかく来たのですから、割り切って楽しむと致しますの。

 アルノちゃん様は、


「おー……ごごおおぉー……」


 と、自動車を見て喜んでおられますし。

 

 さて楽しむとなると、まずはこの世界の名称などを知っておくべきですわね。

 別に絶対に必要では無いのですけれど、でも名前を知っておけばなんとなく気分が乗りますもの。


 わたくしは、すぐ傍にいる通行人の女性へ話し掛けましたわ。


「そこのお方。ごめん遊ばせ。ちょっとお聞きしても宜しいですの? 宜しいですわよね? お答えくださいまし」

「何この子、お姫様のコスプレ? かわいー」

「コスプレじゃありませんの!」


 わたくしの服装は、この世界ではコスプレ扱いされちゃうみたいですの。

 魔獣の皮で作った、八万度の獄炎にも耐えられる貴族ドレスですのに。


「それよりも、ここは一体なんという名前の世界ですの? お答えくださいまし」

「世界? んー。なんかウケるー。迷子なのー? ここは渋谷の道玄坂だよー」

「なるほど。ご返答感謝いたしますの。あと迷子じゃありませんことよ!」


 シヴァ・アーノ・道化座──という名の世界らしいですの。

 名前だけはわたくしの趣味に合ってますわね!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ