96話:看病ってエロい意味の言葉でしょ?知ってる
我々防衛隊は、無事にゴリラゴリラゴリラを撃破した。
しかし討伐に加わったメンバー六名のダメージは大きい。
全員なんとか生きてはいるが、内臓やら全身の骨やらがズタボロにされている。
悪魔の中でも特に頑丈な方である我や叔母上でさえも、しばしの休養が必要なレベルの負傷であった。
叔母上は纏っている重い鎧を脱ぎ、隊員に預け、傷を治すため睡眠を取ることにした。
我ら高等な悪魔は基本的に年に三時間程度の睡眠しか必要無いのだが、大怪我を負った時は流石に寝る。
叔母上は意外とファンシーなフワフワひらひらしたパジャマに着替え、
「二十四時間くらい寝る。おめえもしっかりと寝とけ……なんだよその目は。アタイの寝巻に文句あんのか?」
と言って、隊長室のベッドでスヤスヤと眠りに入った。
普段の豪気な気性とは裏腹に、寝る時は毛布を抱いて小動物のように体を丸めている。
その寝顔を見ながら我は考える。
最近の叔母上は、召喚術師として我を召喚し続けている状態であった。
つまり超絶特(SSS)級の召喚報酬──莫大な魔力と生命力を払い続けているという事。
そのせいで傷の治りも遅くなっているだろう。二十四時間の睡眠で充分に回復可能であるか怪しい。
我は叔母上が眠っている間に、勝手に召喚契約を打ち切ることにした。
帰還用魔方陣を描き、召喚斡旋所へと移動する。
魔界に召喚され、魔界に戻る……という変な状況だが、一応形式は守っておかないとな。
こうして、今回の超絶特(SSS)級案件業務は終了した。
◇
「メッシュく~ん。あーんして~。あーん」
ネア姉上はそう言って、スティック状に切った人参を咥え、口移しで我に食べさせようとした。
右腕を失い部屋のベッドで療養している我を気遣い、世話してくれているのであるが……
「大丈夫だ姉上。自分で食える。左腕は無事なのだからな。あと人参ではなくポッキーが良い」
「はへほ~ふひひははひふにゃ」
「何を言っているのか分からないぞ」
そうツッコミを入れると、姉上は人参を自分でポリポリと食い切り、
「ダメよ~! ちょっとでも体を動かしたら傷の治りが遅くなっちゃうもん! それに野菜も食べなきゃメッ!」
と言って、我の口に無理矢理人参を押し込んだ。
世話をしてくれるのはありがたいが、少々スキンシップが過ぎる。
どこから調達したのかナース服を着用し、胸元を大きく開けている。下着は履いていないらしい。
ゴリラゴリラゴリラ討伐から一日経ち、我の右腕は既に手首が生えるまで回復した。
明日か明後日には完全に元へ戻るだろう。
そもそも念動力もあるし看護は必要無いが、姉上はこういう時に世話を焼きたがる性分であるため仕方無いか。たまに我の傷跡を見て「美味しそう……」と物騒な台詞を呟くが。
「ゴハンも食べたし、じゃあそろそろお姉ちゃんがシてあげるね~!」
「……何をするのだ?」
我が聞くと姉上は「いいからいいから~リラックスして~」と言い、掛け布団を引っぺがし、我の服を脱がし始めた。
「どうして脱がす」
「だって右手が無いからムラムラしても処理出来なくて困ってるでしょ? だからお姉ちゃんがスッキリさせてあげるの~。手でして欲しい? 口でして欲しい? おっぱい? それとも~」
「そういうのはやらなくていい」
我は無事な左手を振り上げ、姉上の頭に軽いチョップを打った。
「いたー。なんで~!?」
「無駄な体力を使い怪我の治りが遅くなるからだ」
「正論~!」
姉上は口を尖らせながらも、我のパンツを脱がせるのを中断した。
「せっかく甲斐甲斐しくお世話して、良い雰囲気作ったのに~!」
「性処理よりもオヤツを買って来てくれ。ポテトチップスのコンソメ味とチロルチョコのきな粉餅味が良い。炭水化物とタンパク質と糖分を多く取る必要がある」
「おっけ~!」
姉上は素直に頷き、
「でも残っている野菜全部食べてから~!」
と言ってキュウリスティックを口に咥え、再び口移しで食べさせようとしてきた。
仕方ないので我はキュウリを口で受け取る。
ぼりぼりと食い進め、姉上の唇が迫り……
「お、おい! おいバカ! おめえらまた姉弟で、そういうのは、そういうのは……だ、だめだと思う……だめだぞ! 馬鹿ああああああ!」
ちょうど良いタイミングでやって来た叔母上が、部屋の扉を(無断で開錠して)開けるなり叫んだ。
◇
「ほらよガキンチョ。おめえが防衛隊で働いてた分の給料だ」
叔母上はそう言って受領書を差し出してきた。
郵便局にある我の口座へ、相当の金額が振り込まれている。
「防衛隊の給料? 必要無い。我は召喚獣として働いていたのだ。既に報酬は貰っている」
「良いから受け取れ馬鹿。アタイの気持ちだ。ミルミお姉さんは太っ腹だからよ」
叔母上は若干のドヤ顔でそう言って、領収書を我に押し付けた。
くれるというのなら、ありがたく貰っておくか。
今の叔母上は鎧を身に付けておらず、珍しい私服姿だ。
黒く薄い布地のワンピースを着用し、腰をベルトで縛っている。四万歳を越えているが、まるで少女のような容貌だ。
「ったく。それにしてもガキンチョ、おめえ勝手に召喚契約を切りやがったな?」
「うむ。叔母上の怪我の治りが──」
「分かってるよ。言うな。ったく、だからおめえは『生意気』だってんだよ」
叔母上は我の頭を乱暴に撫でる。
いつものように力強い。どうやらもう怪我は完治したようだな。
「叔母上。また我を召喚するか?」
「……いや、もういいさ。ホントはおめえを無理矢理にでも防衛隊へ引き込んでやろうと思ってたんだけどよ」
そういえば、そんなことを副隊長も言っていたな。
「今回のゴリラ野郎の件で痛感したよ。おめえはまだガキっちゃガキだけど、思ってたよりはガキでも無いらしい。アタイが過剰に干渉する必要はねえようだ」
叔母上は我の両頬をバチンと平手で叩いた。
「痛いぞ」
「うっせ。まあ、おめえが防衛隊に転職したいって言うのなら歓迎するけどな。召喚獣が気に入ってるのなら今のまま続けろ。それとも全く違う仕事をしてもいいし、なんなら魔界の外へ旅に出るってのも良いかもな。実は若い頃のアタイや兄貴たちも、目的も無く何百年間も異界を遊び歩いてたんだぜ」
「兄貴……父上たちか?」
我の質問に、叔母上は「そうだ。おめえの親父。あと叔父だよ」と楽しそうに頷いた。
なんだか意外だ。あの厳格な父上たちにそのような時期があったとは。
まあ『遊び歩いた』というのは叔母上だけで、父上や叔父上は真面目に留学でもしていたのかもしれないが。
「そうか。旅か」
我はしばし考え、胸の内を述べる。
「我も今、召喚獣として色々な世界を旅している。様々な価値観に触れ、興味深い者たちにも出会った。異界の友達も出来たしな。中々楽しいぞ。我はまだしばらく、召喚獣の仕事を続けたい」
「そうかよ」
叔母上は優しい表情で微笑んだ。
「なら文句はねえ。おめえの好きにやんな」
そう言って、また我の両頬を叩いた。
ただし今度は叩くというより撫でると言った方が近かった。
「ま! 好きにヤって良いの~?」
そして、今まで空気を読んで黙っていたネア姉上が、もう我慢できないと言わんばかりに口を挟んできた。
「じゃあ好きにヤる~! 保護者の許しも出たし、お姉ちゃんとメッシュくんで子供作るわね~!」
姉上は全力でふざけて、我に抱きついて来た。
これを見た叔母上は、当然、
「はぁぁああ!? ば、馬鹿! おいえっちなのはダメだ! だって、だってえっちだし……ばか、ば…………ううわあああああああん!」
叫び、逃げていった。
ゴリラ編おしまいです。
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