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94話:みんなで協力して戦うアレ

 武力の神獣、轟理羅號離羅豪裏羅(ゴリラゴリラゴリラ)


 我も何度か聞いたことのある名だ。

 この手の話が好きなフォルも良く口に出している、伝説の神獣。


 全身が漆黒の毛で覆われている、異形のモンスター。

 姿を簡単に説明すると、馬の首から上がゴリラの上半身。

 ただし馬の体から生えているのは蹄足ではなく、ゴリラ足。

 その印象から『魔獣ケンタウロスの神』または『ゴリラの神』などとも呼ばれているらしい。


 しかしただのゴリケンタウロス(今作った名前)では無い。

 ごつい顔が三つ。

 太い腕が六本。

 太い足が六本。

 つまり通常のゴリラ三セット分の顔と四肢を持ち合わせている。


 どこか神々しささえある、まさに『神獣』と言った様相である。



 そんなゴリラゴリラゴリラに対峙する防衛隊。

 我、叔母上、副隊長、その他ベテラン隊員三名。合計六人。

 我以外の五人は一万歳を越える強靭な悪魔。叔母上に至っては四万歳。


 そのように歴戦の大悪魔たる彼女たちでさえも、伝説の神獣を前に恐怖を感じているようである。

 強張った表情をしている。

 足が震えている者さえいる。


 ただしゴリラゴリラゴリラは暴れるでもなく、ただ突っ立ち、山の木々や空をきょろきょろと眺めている。

 まるで観光客だな。意外と大人しい。



「ミルミ隊長、二つ名(・・・)付きが出た場合のマニュアル通り、魔王様に連絡をしてください」


 副隊長が言った。


 SSS級ゲート案件の中でも、二つ名付き神獣はまた更に特別なマニュアルがあるのだ。

 あえて言うならSSSS級の対応とでも言おうか。

 簡単に言うと、最悪のケース──防衛隊の敗北──に備え、魔王が直々に住民たちへ避難警告を発令するのだ。

 我が魔王であった頃にも経験が無い。それほどに珍しい事態。


「わぁーってるよ。臆病風に吹かれてるみてえで、ちっとばかし気が乗らねえが」


 叔母上はそう返事をして、ゴリラゴリラゴリラの動向に注意しつつ、


『おいマート! ミルミお姉さんからの緊急連絡だ!』


 とテレパシーで現魔王であるマートを呼び出した。

 テレパシーは我や他の隊員にも聞こえるよう調整している。マートの指示を直接皆が聞けるようにし、伝達効率を上げるためだろう。


『やあ叔母上。要件は分かってるよ。名前付きの神獣だね?』


 マートの声が聞こえた。

 声から察するに、今は男の姿らしい。


『分かってんなら話は早え。一応住民どもの避難を……』

『発令済みさ。それに避難警告を出す前に住民たちは自発的に逃げ始めているよ。神獣のおどろおどろしい魔力は城下町にも伝わってきているのさ。しかも今見た所、それはゴリラの神様じゃないか。怖いね』


 怖いと言いつつ、どこか楽しそうな口調だ。

 我は『おいマート』とテレパシーに割り込んだ。


『お前も手伝いに来い。我と叔母上でも多少手こずりそうだ』


 そう伝えながら、我は己の右腕を見た。

 先程ゴリラゴリラゴリラに砕かれ紛失した右腕。少しずつ回復しかけている。今は肘まで生えた。

 この傷の治りから考察するに、ゴリラゴリラゴリラの魔力は我とほぼ同等。

 そして身体能力は圧倒的に我を越える。


 これまで我が戦った相手の中で、暫定一位の強者かもしれない。

 あのロボット勇者マークⅡを越えるぞ。


「おいメッシュ、何弱気なコト言ってんだボケ」


 叔母上がテレパシーでなく口で言った。が、言葉に勢いが無い。

 マートが助けに来るならそれに越したことはない、とも考えたのであろう。


 しかしマートは、


『へえ、兄上にしては弱気。可愛いトコロもあるね。でも残念。もちろん兵士は送るけど、僕自身は色々と忙しいので無理かな。まあ兄上と叔母上がいるから大丈夫でしょ。ふふっ、頑張ってね』


 と、あっさり断った。


『でももし兄上が死んだら僕が助けに来てあげるよ。僕はいつでも兄上を見てるから、安心してね』

『死んだ後に助けるも無いだろう。それにその言い方は少し気持ち悪い』

『そうかい? ふふっ』


 それだけ言ってテレパシーは切れた。

 叔母上が『あっおいマート!』と怒鳴るように言ったが、もはや反応は無い。


「まあいい。名前付きの神獣っつっても、ただ顔と手足が多いゴリラだ。アタイは一人でも負ける気ぁねえ」

「そうか。我も負ける気は無い」

「へっ、そうかよ」


 叔母上はニンマリと笑う。



 ……と、結構長々と話をしていたが。


 ゴリラゴリラゴリラは相変わらず直立不動で、ただ空を見上げている。

 いや、と思ったら急に動いた。ゆっくりとしゃがみ、地面の草を土ごと引き抜き、舌先でペロリと舐めた。

 腹が減っているのだろうか。そして意外と草食なのか。


 嵐が起きそうな程に鼻息は荒いが、それも興奮している訳では無く元々荒いだけかもしれない。

 我の腕を砕いた時は好戦的にも見えたが、単に「目の前に現れた邪魔な腕を排除した」だけであった可能性もある。


 もしや不用意に手を出さなければ、このまま平和的に帰ってくれる望みも──



「ウゴオオオオオオオオオオオオオ!」



 望みは無かった。

 ゴリラゴリラゴリラは突如咆哮。

 六本ある腕の内から右の一本を頭上に掲げ、勢いよく地面へ振り下ろす。


「いかん。魔界が壊れるぞ」

「馬鹿野郎、急に興奮してんじゃねーぞゴリラ!」


 我と叔母上それに他の隊員たち全員は、ゴリラゴリラゴリラの右腕が衝突する地点へ慌てて駆け寄った。

 叔母上が巨大鉄剣でゴリラの拳を受け止め、衝撃を分散させる。

 その鉄剣を全員で支え、なんとか魔界へのダメージを抑えこむことが出来た。


 しかし隊員二名が腕と腰の骨を負傷する。



 巨大鉄剣……と呼んでいるがただの鉄ではなく、正確に言うと鉄を遥かに超える強度の特殊な合金で出来ているのだが……

 その鉄剣が大きく歪み、もはや剣とは呼べぬ代物と化していた。


「なんつー力だゴリラ野郎め」


 叔母上は、長年付き添った大剣の末路に苦い顔をした。


「……そういやあ思い出したぜ。昔親父から聞いた伝説によると、轟理羅號離羅豪裏羅(ゴリラゴリラゴリラ)は理想の『巣』を探し回って旅してるらしい。色んな異界に現れて、自分好みの環境かどうかを見定めて……」

「こ、好みで無かったら?」


 隊員の一人が、恐る恐ると聞いた。

 しかしその答えは分かり切っている。


「怒って壊す」



「グオアアアアアアア!」



 ゴリラゴリラゴリラは右腕と左腕を一本ずつ、計二本の腕を振り上げた。


「こりゃ、城の兵士たちが到着するまで待ってられねえな」

「そうだな叔母上。長引かせると魔界の大地へ深刻なダメージが残りそうだ。短期戦が望ましい……だいぶ骨だが」


 ここにいる六名で何とかするしかない。

 協力して戦うアレだ。レイドバトルだな。

 昔妹のラスが言ってた。


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