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90話:何でも言うことを聞くんだよね?

 本日も仕事だ。

 レンタル召喚斡旋所に出勤した我は、


「仕事頑張るぞ。ガンバ我。イェイイェイ」


 と自分を鼓舞した。

 これは以前姉上から伝授された、仕事を頑張れるまじないである。

 ただし恥ずかしいので口には出さず、心の中で唱えただけだ。


「どーしたんですかー陛下ー。いつもより怖い顔してー」

「怖い顔ではない」

「そうですねー。ふふー」


 ゴシックドレス姿の鑑定係が悪戯っぽく笑った。

 我のやる気満々な顔は、見ようによっては真剣過ぎて怖いのかもしれない。そうに違いない。目付きが悪いのでは無い。


 無理に納得したところで、我は鑑定係へ「それよりも」と話を持ち掛けた。


「今日は稼げる案件を見繕ってくれ」

「稼げる、ですかー? メッシュ陛下にしてはー、なんだか珍しい頼みですねー」


 珍しい。確かにそうかもしれない。


 召喚案件のランクは一番低いF級から、一番高い超絶特(SSS)級まである。もちろん一番稼げるのは超絶特(SSS)級だ。

 いつもの我は「とりあえず今ある案件で適当に」と、仕事のランクを気にせず請け負っている。

 低ランクの世界へ行くのも、それはそれで楽しいからな。


 しかし今日は違う。金が必要なのだ。

 最低でもAランク以上。

 出来ればSSSが良い。


 どうして金が必要なのかと言うと、


「ホテルの修理費を稼がねばならぬのだ」

「修理費ー?」


 我が下宿しているホテルの部屋。

 フォルや叔母上に何度も何度も窓や壁を壊され、修理費が嵩んでいる。

 それに何度も何度も壊されたことでホテルマンから「そろそろ出て行ってくれないかな……」という目で見られ、肩身が狭いのだ。が、引っ越すのはもはや面倒。

 現金(チップ)を払い、有耶無耶にする必要がある。


 そして我に貯金はほぼ無い。

 悪魔は宵越しの銭を持たぬのが信条とは云え、オヤツに金を使いすぎたな。


「よく分かんないけどー。でもー。ちょうど良かったでーす」


 鑑定係はそう言って、現在召喚待機中の魔方陣が描かれている帳簿をパラパラとめくった。


「実は今日の早朝、っていうか深夜からー、もう何時間もずっと出現しっぱなしの召喚魔方陣があってですねー」

「深夜から? つまり召喚魔法を唱え続けているということか。根気があるな」


 レンタル召喚は一期一会。

 術師が魔法陣を描き召喚魔法を唱えても、応える召喚獣がいないと当然だがいつまで経っても誰も召喚されない。

 たいていの場合は数分から数十分で諦めるか疲れるかし、召喚失敗となる。


 それを何時間もずっと唱え続ける。

 前例が存在せぬ訳でもないだろうが、中々に良い根性の持ち主である。

 そんな根性魔方陣を我へ見せるべく、鑑定係は帳簿のページを開いた。


「で、これがその魔方陣ですけどー。メッシュ陛下に引き受けて貰おうとー思ってたんですよー」

「ほう」


 わざわざ我を指名する。

 つまりこの魔方陣は超特(SS)級の案件か、もしくは……


「超絶特(SSS)級でーす。大儲けですよー」


 という訳だ。

 まさに願ってもいない好案件。


「ふふふー。いってらっしゃーい」


 と手を振る鑑定係に見送られながら、我は魔方陣により異界へと召喚された。



 ……………………



 今回の召喚術師は、超絶特(SSS)級。



 数多の異界をひっくるめた平均的『強さ』を1とした時、超絶特(SSS)級召喚術師の強さは最低でも7777兆。

 7777兆から先は計測不能なため、兆どころかその上の単位、更にもっと上の単位の強さかもしれない。

 とにかく、全異界においても上級の強さを誇る逸材である。


 その逸材。

 今まで我が関わった超絶特(SSS)級召喚術師は二人。

 宇宙を破壊した戦闘狂ドラコマルフォなんとか。

 別魔界の魔王ヨッピー。

 それと特別な魔方陣であったため(クラス)の鑑定はしなかったが、我の弟ノーザも確実に超絶特(SSS)級であるに違いない。


 さて今回は一体どのような者であろうか。

 少しだけ興味を持ちつつ、召喚魔方陣から飛び出すと──




「やぁーーーっと来やがったなガキんちょ! もう逃がさねえからなボケェェエェエ!」




 召喚術師は知っている顔だった。親戚だった。

 というか、叔母上だった。




 ◇




「何度も何度も逃げやがってよ! そこでアタイは考えた。おめえは召喚獣の仕事やってんだから、召喚してやりゃあ良いってな。もう逃がられねえぞメッシュ! コラぁ!」

「我は一度も逃げていない。我の性器を見て何度も何度も逃げたのは、叔母上の方ではないか」

「う、うるっせえ!」


 叔母上はピンク色の長髪を振り乱し、身長の五倍はあろう巨大な剣で地面を叩いた。

 剣というより、もはやこれは『先が尖った鉄柱』である。

 地鳴り。というか地震が起こった。


「ぐうえええええ! なんか揺れたああああああ! うぎゃあラスちゃんの漫画にジューゥスがぁぁああおおんんんうううう!」


 我の耳は凄く良いため、そこそこ遠く離れている山のふもとの魔王城(・・・)から声が届いた。

 この声は、自室に引きこもっている妹のラスだ。

 叔母上が起こした地震に驚き慌てているらしい。



 そう。

 つまり我が召喚された先は異界では無く……地元。魔界。

 魔王城の裏山であった。



「召喚獣は召喚術師の言う事を何でも聞くんだよなあ?」


 叔母上は、おもむろに我の頭を掴んだ。

 叔母上の身長は我よりだいぶ低いのだが、装着している重い鎧で地面を破壊せぬよう常に浮いているため、我と同じ目線の高さで会話している。


「何でも、ではない。出来る事と出来ない事があるので要相談だ」

「ゴチャゴチャうるせえな! このミルミお姉さんがしっかりとシゴいてやっからよ。覚悟しろやガキ!」


 そう言って叔母上はニンマリと笑った。


 叔母上は間違いなく、今までで一番強い召喚術師。

 そして今回の仕事は、今までで一番厄介なものになる……そんな予感に襲われた。


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