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75話:子供には見せられない攻撃

「悪いコトはやめてよ、おじいちゃん!」

「ほっほっほ。うひひひひ。かわいい孫の頼みとはいえ、悪の組織はやめられんのじゃ。ワシを止めたくばトモモモン・バトルで勝ってみせよ! そしてお前が負けたらモトモト団に入団するのじゃ!」

「……わかった。仕方ないね、勝負だおじいちゃん!」


 トントン拍子で話が進み、ついに孫と祖父の対決が幕を開けた。戦うのはトモモモンなのだが。

 モトモト団総帥こと博士は己の懐に手を突っ込み、ドス黒い割れセンベイを取り出した。


「おじいちゃんのバトル用トモモモン……そういえば見たこと無いや。別居してるし」

「ワシはデスクワーク担当じゃからな。バトルは専門では無いのじゃ。トモモモンも、たったの一体しか持っておらん」

「一体だけ!?」

「しかしそれでも。一体しか持っておらぬのにも関わらず、ワシはモトモト団のナンバーワンなのじゃ。それがどういう意味なのか教えてやろう! ワシは一体のトモモモンしか使わぬが、お前は二体使って良いぞ!」

「えっ良いの? ラッキー」


 普通は「そんな卑怯なコト出来ないよ!」とでも言いそうな流れであったが、サトケン少年はまだ小学五年生なので素直にハンデ有りのルールを受け入れた。


 そして博士は気合を入れ、割れセンベイを腕時計型の召喚具へセットする。


「うひひひ。サトケンよ、お前のメツキワルーイは人間の言葉を理解し喋る、珍しい新種トモモモンだが……」


 博士が唐突に我の話題を口にした。

 というか、ロカの姉御たちも実は人間の言葉を喋っているのだがな。

 そう考えながら姉御の顔を見ると、「ロッカ!」と慌てるような表情で鳴いた。「黙っとれ」とでも言いたいのであろう。


 それより博士の台詞の続きだ。


「ワシのトモモモンも同じく言葉を喋るレアもの。そして新種どころか図鑑にも登録されていない……モトモト団により秘匿された、幻のトモモモンなのじゃ!」

「幻の!?」

「いでよ、ワシの友達……魔王型トモモモン・ザンブグ!」


 博士の腕時計に装着された割れセンベイが、赤黒く禍々しい光を放った。

 普通(・・)のトモモモン召喚は白い光を放っているので、博士の召喚は明らかに普通(・・)では無い。

 ついでに光輝いている時間が無駄に長く、中々そのザンブグとやらが現れない。演出過剰だ。


 それにしても魔王型、という説明に少々引っかかった。

 サトケン少年たちは知らぬだろうが、トモモモンとはそもそも『魔界の魔物』だ。我が住んでいる魔界とは別の魔界であるが。


 魔王型という称号がもし比喩などで無いのならば、まさにトモモモンの王であるという意味になるのだが……



 そう呑気に考察していたら、ようやくセンベイの光が収まった。

 そして博士の前に、一体の人型トモモモンが現れる。


「ザッハハハハハ! ワガハイこそが魔王型トモモモン・ザンブグだ! 久しぶりに呼び出してくれたなあ、トモモモン博士……いやさモトモト団総帥よ!」


 かなり大きいトモモモンだ。


 我の二倍程の背丈。そして腕の筋肉が凄い盛り上がっている。

 まあ足の筋肉は相対的にあまり凄くないので、少々アンバランスな体型だが……それでもやはり総合的には凄い筋肉だ。

 魔王っぽい。なんと羨ましい体格であろうか。

 おまけに頭頂部に一本の堂々としたツノまで生えている。ますます羨ましい。


「ワガハイが戦う相手はどこのどいつだ? 手加減は出来ないぞ!」


 ザンブグはその体格からイメージ出来る通りの大声で言った。


「手加減無用じゃよ。なにしろ相手はワシの孫。強敵じゃぞ」

「ザッハハハ。なるほど孫か、それは盛り上がって良いな! 都合良い!」


 何が都合良いのであろうか。


「で、その孫の手持ちトモモモンは何だぁ?」


 ザンブグはそこで初めて我を見た。

 そして、


「あ……!?」


 と小さく驚嘆の声を上げ、


「……………………………………め、メシュトロイオン?」


 とボソリと呟き、


「お、お前、魔王メシュトロイオンだろ! トモモモンじゃないじゃん! トモモモンじゃないじゃん! うそつきー! なんでここにいるんですかー!?」


 と喚き、


「……急用を思い出した。さらばだ総帥!」

「え!? なんじゃって!?」


 唐突に博士へ別れを告げ、割れセンベイを光らせ次元の裂け目を作り、異界へ逃げようとした。


 今の反応。どうやら我のことを知っているらしい。

 しまった。正体がバレてしまったぞ。

 サトケン少年も驚いた顔で、


「えっ、メシュ……何? トモモモンじゃないって、一体どういう意味なのメツキワルーイ?」


 などと質問してきた。

 いかん。これは非常に不味い。潜入捜査失敗か。


 いやいや待て、諦めるのはまだ早い。

 今回マートより課せられた我の仕事は『トモモモンの利権を丸ごと奪う』ことである。

 このザンブグという悪魔はトモモモンの中でも重要人物らしいので、とりあえず捕まえて人質などにすれば、何かしら進展が望めるかもしれない。


「待て。逃がさぬぞ」


 我はザンブグを追い、左手を伸ばし、やつの頭頂部に生えているツノを掴んだ。

 ザンブグは身体下半分を次元の裂け目に滑り込ませながらも、顎を上げ首を捻り「痛い痛い痛い!」と叫ぶ。


「痛いって! 頭皮ハゲる! そのツノ接着剤で付けてるヤツだから!」

「何。装飾品なのか」


 接着剤が剥がれたら普通に逃げられてしまう。

 危惧した我はザンブグの背中に右手を刺し、背骨を直に掴んだ。代わりにツノは離してやる。


「痛い痛い痛い痛い! 血が出てる血が!」


 ザンブグが叫んで自己申告している通り、背から大量の血が噴き出している。

 数滴、我の口に入る。不味い血だ。


「め、メツキワルーイ!? ちょっとやりすぎじゃない!?」

「ロッカァ~!」


 サトケン少年とロカの姉御は、まさかの流血沙汰にドン引きしていた。

 博士とフユキくんも「え~……!?」という顔だ。

 トモモモン・バトルは普通ここまでやらないからな。

 我も血を見たのは久しぶりである。


「痛い痛い痛いってば! 子供と老人にはショッキングな映像だからこれ!」

「ちょっと黙っていろ。今考えを纏めているところだ」

「ハイ」


 ザンブグは痛みに顔を歪ませながらも、素直に黙ってくれた。


 さて、これから我はどうするべきか。

 とりあえずこのザンブグが作った次元の裂け目に入り、トモモモン派遣元の世界へ行ってみるか?

 そして暴力によりトモモモンの利権を奪う。

 分かりやすい方法だ。



 なんて我が思案している間、サトケン少年と博士とフユキくん達は、


「まさかザンブグに逃げられるとは……ワシは慢心していたようじゃ。サトケン、孫のお前に教えられたよ。今日限りをもって! モトモト団を! 解散する!」

「おじいちゃん……!」

「そ、総帥……分かったモト。僕も総帥に従うモト……うぅう。語尾のモトもやめるっす」

「ロッカピュウ~」


 と諸々の問題を一気に解決していた。


「じゃあサトケン、いよいよ決勝戦じゃな!」

「うん。ボク頑張るよ!」

「きみなら勝てるっすよサトケンくん!」


 いやこの状況で決勝戦をやる気なのか。

 心の切り替えが早いな。なんと潔い奴らだ。


「さあメツキワルーイも。もうザンブグを離していいよ。早く決勝に行こうよ」


 サトケン少年が我に言った。

 しかし我は……


「いや、我は試合には戻らない。このままザンブグについて行く。トモモモンの世界──魔界へ用があるのでな」

「え!?」

「え!?」


 一度目のえっ!?はザンブグの驚きで、二度目のえっ!?はサトケン少年の驚きである。


「ダメだよそんなの、決勝戦があるのに……ボクの言う事を聞いてよ! メツキワルーイはボクのトモモモン……ボクの友達でしょ!?」

「すまなかったな少年。我は本当はトモモモンでは無いのだ」

「そんな……!?」


 もうここまで来たら、我の素性を隠す意味はさほど無い。

 これまでカステラとかをくれた義理もあることだし、我はサトケン少年へ正直に伝えた。


「真実を語ろう。我はトモモモンを調査するため異界よりやってきたスパイ的な悪魔なのだ。このミステリアスで爽やかで人当たりの良い雰囲気は、まさにスパイっぽいと思っていた事であろうが」

「全然思ってないけど」

「そうか……とにかく我は決勝には行けない。ここでお別れだ。少年、そしてロカの姉御。今まで世話になったな。カステラとかで」

「えええヤダ……」

「ロカピュ……」


 サトケン少年は愕然とした顔で、我に一歩近づいた。

 しかしザンブグの血だまりが気持ち悪いのか、それ以上は寄ってこない。


「でも……でも、ロカピュウだけじゃ決勝に勝てないよ……」


 少年は悲痛な顔で、絞り出すように言った。

 ロカの姉御も複雑な顔で我を見上げている。


「少年よ。お前が姉御の力を信じなくてどうするのだ。人の上に立つ者とは、部下を信じて託さねばならぬのだ」


 と、これはイトコのサディートからの受け売りであるが。


「僕が……信じる?」

「そうだ。信じろ」


 とにかくソレっぽい良い感じのことは伝えたぞ。

 我はザンブグの背骨を強く握り、みしりと軋ませた。


「痛い痛いいったい! 助けてください! たすけてください!」

「貴様の魔界へ案内しろ」

「分かりましたよもう!」


 そして我とザンブグは、この世界を後にする。


「…………あんがとのう。にーちゃん」


 別れ際、ロカの姉御が小さく呟いた。

 聴覚の鋭い我にしか聞こえなかったであろう、本当に小さな小さな呟きであったが。


 サービスだ。

 我は最後の応援ビームを撃ち、姉御の身体能力を向上してやった。

 今までは数分間だけのパワーアップだったが、今回はだいたい三万年ほど保つ。

 トモモモンの寿命がどれほどかは知らぬが、おそらく充分だろう。


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