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71話:友達の役に立ちたい。何故なら恩を売りたいから

「サトケン坊ちゃんは、トモモモン使いの中では超レアなメインキャラタイプなんじゃあ」


 ロカピュウ、もといロカの姐御がカステラを頬張り言った。


「メインキャラタイプ? なんだそれは。トモモモン関係の用語か?」

「いやわたしの作った言葉じゃけんど……主人公の友達とかライバルポジション、もしくは主人公そのものという意味じゃあ! 何故ならばトモモモン博士の孫だから。そーゆーのはたいてーメインキャラじゃろ?」

「それはゲームとかの話だろう?」

「ゲンジツも同じじゃあ! 結局は血筋の良いヤツが良い思いするんじゃい! とにかくサトケン坊ちゃんは目立つってコトじゃ!」


 血筋はともかく、サトケン少年が目立つという点は確かにそうかもしれない。

 サトケン少年はトモモモン・バトル業界に颯爽と現れた輝く新星として、この辺りの地域では話題になっているのだ。

 それは博士の孫だから、というよりも……自分で言うのもなんだが、我を使っているから。要するに『謎の新種トモモモン・メツキワルーイの使い手』だからである。


 トモモモンとしての我はものすごく手加減しているが、しかしそれでも当然強い。

 ご近所や学校内でのトモモモン・バトルでは負け無し。


 そのおかげでサトケン少年は、己が通う小学校だけでなく、隣地区や更に隣地区の学校に通う生徒にまで勝った。中学生にも勝った。

 いまやご当地コミュニティ内での圧倒的強者ポジションである。


「つまりサトケン坊ちゃんについて行けば、わたしも有名になれるんじゃい」


 姐御は目を輝かせ、その黄色く小さい体を震わせた。


「トモモモンとして苦節八年、ようやく回ってきた出世の大チャンスなんじゃあ。だというのに、わたしときたらチンカスみたいな戦果しかあげられず、お情けでカステラ貰っとぉ状態なんじゃい」

「そうか。気の毒にな」

「おぅにーちゃん何じゃその目は!? (チン)カスがカス(テラ)食うとるぞ~とか思っとんのか!? ウェットに富んどるのう!」

「別に思っていない」


 被害妄想で我を責めてきた。

 普段「ロカピュウ~」と可愛らしく鳴いているクセに、素の性格はわりと攻撃的だな。


「でな。わたしは考えたんじゃ。悔しいがバトルではにーちゃんに勝てん……」


 姐御は突然しおらしい態度になり、カステラと一緒に出された茶を飲んだ。

 どうでも良いが、茶も泥水と同様に体内で濾過(ろか)するのだろうか?


「勝てんモンはしょうがないんじゃぁ! じゃからわたしはバトルとは別んコトでサトケン坊ちゃんの役に立って、気に入られようと思っとるんじゃい」

「なるほどそれは建設的な考えだ。で、別のコトとは?」

「わたしが可愛いキューピットになるんじゃあ! サトケン坊ちゃんの恋を応援するんじゃあ!」


 そう叫び、姐御は飛び上がり宙で一回転した。「やる気一杯じゃあ」というポーズなのだろう。


「恋? どういう意味だ?」

「にーちゃん鈍いのう。サトケン坊ちゃんは幼馴染のアカリちゃんのことが好きなんじゃい。たぶん」


 多分か。


「じゃから! わたしが、あの、アレ、なんじゃ、その、アレを……アレ、なんか上手い感じにアレやって、坊ちゃんとアカリちゃんを交尾させるんじゃ~い!」


 抽象的でフワフワした作戦だ。

 プロポーズするとか付き合うとかでなく、いきなり交尾か。サトケン少年も幼馴染のアカリちゃんも、まだ小学五年生であるぞ。


「そしたら坊ちゃんもわたしに感謝して、重宝するようになるってワケじゃ!」

「ふむ……」


 姐御は自信満々の表情だ。

 しかし、どうにも考えが浅いと言うか、小動物的と言うか。


 我は忠告してやることにした。


「やめておけ。そういうのは余計なおせっかいと言うのだ。どうせ空回りする。サトケン少年がちょっとエッチなハプニングを体験したりはするが、それでアカリちゃんに嫌われてしまい結局は逆効果。そうして姐御が責任を感じてますます落ち込む──などという展開がオチであろう」

「なんじゃい……そう言われると、そんな結果になるような気がしてくるじゃろうが! でもちょっとエッチなハプニングがあるなら坊ちゃんも満足するかもしれんじゃろ? アカリちゃんが坊ちゃんのお風呂に乱入するとか。アカリちゃんが坊ちゃんにパンツとその中身見せてくるとか。アカリちゃんが坊ちゃんの股間まさぐるとか」

「アカリちゃんは痴女なのか?」


 と言って気付いたが……姐御が想像するアカリちゃんの行動は、まさにネア姉上が日頃やっていることである。

 つまり我は間接的に姉上のことを痴女と言ってしまった。

 まあ良いか。


「とにかく恋愛ごとはやめておけ。面倒事が増えるだけだ。それに姐御の……いや、我々トモモモンの思考ではどうせ下ネタになる」

「う~ん……それもそうなんじゃけんど。でも~。じゃけど~。他になんか、わたしが坊ちゃんの役に立てる良い案がないもんかの~ぅ」


 姐御は我の忠告を一応聞き入れ、代わりに別案を捻りだそうとしている。

 しかしすぐには思いつかないようだ。


「あ~。わたしが強けりゃ、こんな悩む必要無いんじゃけど! あーあー。強くなりたいんじゃぁ~。お手軽に修行とか無しでリスクも無しで今すぐ強くなりたいんじゃぁ~。痛いのも無しで~。ついでに金持ちにもなりたいんじゃあ~ぁ」


 ずいぶんと都合の良いことを望んでいる。


「良い性根だな。そういう『努力無しに美味しい所だけ味わいたい』という悪魔的な考え方は、我も好きだぞ」

「なんじゃい。皮肉かにーちゃん」

「そうではない。気に入ったと言っているんだ」


 我は立ち上がった。

 姐御を見下ろし、小動物的なシルエットを確認する。

 千里眼能力を応用し、ロカピュウという種族の体内を巡る血液、神経、魔力、生命力──構成全てを把握。


 異界の魔物だが、理解可能な範疇の体構造である。


「ふむ……なるほど。これなら我の力を使い、姐御を強くしてやれるぞ」




 ◇




「サトケン少年よ。我は新しい技を覚えた。ロカピュウをパワーアップさせる技だ。試しに次のバトルで使わせてくれ」

「えっ、いつ覚えたの? トモモモンが技を覚えるタイミングはレベルが上がった時だけど、今はカステラ食べて留守番してただけだよね?」

「留守番でゴキブリとか倒してレベルが上がったのだ」


 我は咄嗟に嘘をついた。

 サトケン少年は「すごいね!」と素直に納得してくれた。


「でも他のトモモモンをパワーアップさせる技かー。メツキワルーイって意外とサポート系だったの?」

「そうだサポート系だ。あと『他のトモモモンをパワーアップさせる』技ではない。『ロカピュウをパワーアップさせる技』だ」

「ロカピュウ限定!?」




 などという交渉を経て、数時間後にさっそくトモモモン・バトルが始まる。

 対戦相手はいつものように、幼馴染のアカリちゃん。


「今日こそ私が勝つわよ! いけチャッカメン!」

「チャッカ~!」

「いけロカピュウ! 水を吐く攻撃……じゃなかった。待って。忘れてた! ロカピュウの攻撃の前に……メツキワルーイ、応援ビームだ!」

「わかった」


 我は目から緑色のビームを出し、ロカの姐御に当てる。

 ちなみに応援ビームという名前は即興で適当に付けた。


「ロ、ロッカァ~…………ピュウウウウウウ!」


 姐御の全身にパワーが漲る。


 我の魔力を姐御の体内に送り込み、生体エネルギーをちょちょっと変化させ、魔力と筋力を増強させた。

 リスクは特にない。疲れも痛みも無い。まさに姐御が望んでいた『お手軽な強さ』を実現してやったのである。


「よーしロカピュウ! 改めて、パワーアップした水を吐く攻撃!」

「ロッカ! ピュウウウ!」


 その水ゲロ攻撃は、噴射の勢いがこれまでとは大きく違った。

 いつもは余裕の表情で水ゲロを受け止め防ぐチャッカメンだが、異変を感じたのか、今日は慌てて転がり回避した。

 その選択は正解だった。

 チャッカメンに避けられた水ゲロはそのまま勢いよく突き進み、数百メートル先に立っていた高層ビルに当たり……


 ビルは倒壊した。


 地響き。悲鳴。砂煙。

 地獄のような情景となる。


「……やりすぎじゃろ」


 ロカの姐御は、うっかり人の言葉で呟いた。

 しかし不幸中の幸い。サトケン少年とアカリちゃんはビル倒壊の騒動を呆然と眺めていたため、姐御の声は聞こえていなかったようだ。


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