70話:おともだち図鑑
ずかんNo.666
メツキワルーイ
なぞに つつまれた しんしゅの トモモモン。
にんげんの ことばを りかいし しゃべる。
こわい めつきで こどもを なかせる。
…………
「我の目付きは怖くないし、子供を泣かせたりもしない」
と、つい文句を言ってしまった。
上記の文章は『トモモモン図鑑』なる電子書籍のデータだ。
サトケン少年が、
「見て見てメツキワルーイ。図鑑にキミの記事が追加されたよ!」
と見せてくれた。
というか、これを見せるためだけに召喚された。
「ワシ。ワシ。ワシが書いたトピックが採用されたのじゃよ。うひひひひ」
などと、サトケン少年の祖父であるトモモモン博士が怪しく笑っていたが……不愉快な文は貴様のせいか。
時に、我の図鑑ナンバーは666番らしい。
ということは、少なくとも我の前に665種類ものトモモモンがいるという事だ。
想像以上に多いな。
ちなみにだが、ロカピュウの図鑑も見せてくれた。
…………
ずかんNo.25
ロカピュウ
たいないで どろみずを ろかし
ピュウっと ふんしゃし マーキングする。
あつかいやすく しょしんしゃに オススメの トモモモン。
…………
濾過した水をピュウっと出すからロカピュウ。そのまんまだな。
しかしなるほど、トモモモンのネーミング規則を理解した。
おおむね特徴そのままな名前を付けられるのだな。
我も目付きが悪いからメツキワルーイなのだろうし。いや目付きは悪く無いが。
ともかく我はサトケン少年の手持ちトモモモンとして、同僚のロカピュウと共に働いていた。
仕事内容は、今のようにサトケン少年の雑談相手になることも多いが、主は『トモモモン・バトル』なる戦闘業務だ。
要は、お互いの手持ちトモモモン同士を戦わせる娯楽である。
『トモモモンは友達』
などと言う建前から乖離しているが、しかしまあ世の中そんなものだろう。
友達を戦う道具にする。なんとも人間らしくて良い趣味ではないか。
さて、そのトモモモン・バトルでは──
「バトルするわよサトケン。今日こそ私が勝つんだから!」
「臨むところだよ幼馴染のアカリちゃん! いけ! メツキワルーイ&ロカピュウ!」
そんなサトケン少年の掛け声と共に、我とロカピュウが召喚される。
そして対戦相手である幼馴染のアカリちゃんも、二匹のトモモモンを召喚。
二匹対二匹の対戦だ。このルールが主流らしい。
あと最近のサトケン少年は、「センベイの割れ目が照合したから友達証明完了」云々と言った台詞を言わなくなった。やはり毎回言うのは面倒くさかったのだろう。
「いけロカピュウ! 水を吐く攻撃!」
「ロッカ~ぴゅぅおえええ!」
これも定番のパターン。だいたい毎回初手はロカピュウの水ゲロ攻撃だ。
しかし、
「防御よ、チャッカメン!」
「チャッカッ」
と、簡単に防がれる。
まあただの濾過した泥水だからな。
相手のチャッカメンという種族名のトモモモン。
玩具拳銃のグリップに無理矢理手足を生やしたような、奇抜な形のモンスターだ。
…………
ずかんNo.77
チャッカメン
けんじゅうがたの くちから ほのおをはく。
からだは じゅしせいで かたい。
ほのおを はくときは ガスのもとせんに きをつけよう。
…………
という種族らしい。
火を使うということで水に弱そうなトモモモンであるが、しかしロカピュウの水ゲロ攻撃は効かない。
「ロッカ~……」
ロカピュウは毎回のようにヘコむ。
この下りを何度も繰り返しているサトケン少年は中々残酷である。だが子供なのでしょうがない。
という訳で、我の出番。
「メツキワルーイ、怖い目線ビーム!」
「わかった」
我は、すごく手加減をしながら目から光線を放つ。
どうして手加減をするのかと言うと、サトケン少年いわく「相手のトモモモンを殺しちゃったら僕たちの負けになっちゃうよ!」というルールだからだ。
ビームにより、アカリちゃんのチャッカメンともう一体のトモモモンへ大ダメージ。
負傷した二匹は「チャッカ~」と言いながら元の世界へ帰っていった。
ある程度以上ダメージを負うと、自動的に召喚終了となるシステムらしい。
「今日もボクの勝ちだね!」
「もう。明日は負けないんだからね!」
サトケン少年と幼馴染のアカリちゃんが握手を交わす。
このやり取りまでが日課と化している。
毎日毎日飽きないものだ。
◇
ある日。
「お留守番を頼まれたんだけど、今日はロコモココミックの発売日だから買いに行かなきゃ! ロカピュウ、メツキワルーイ。ボクの代わりにお留守番しててよ! 友達だから良いよね?」
「うむ。わかった」
「ロッカッピュ~」
「じゃあね。三十分くらいで帰ってくるよ。よろしく。オヤツのカステラ食べてて良いからね!」
とのことで、我とロカピュウが二人で留守番することになった。
「さて。留守番と言ってもやることは特にないが……」
我は床に座りカステラを食べつつ、同僚のロカピュウを見た。
ロカピュウは首を傾げ、我を眺めている。
ロカピュウ~としか喋らないこの小さなモンスター。何を考えているのかは分からぬが……
「おい目付き悪ぅにーちゃんよ。やっと二人きりになれたのう。わたしゃよお、にーちゃんに言いたいことがあるんじゃけど。おんどりゃ調子乗っとんじゃねーぞコラ」
何を考えているのか分かった。
というか、
「貴様、『ロカ』と『ピュウ』以外の言葉を喋れたのか」
「あたりめーじゃ。何言っとんじゃ。にーちゃん自分が人型トモモモンじゃからって、小動物型トモモモンのわたしを差別しとんのう? 差別主義者か!」
「いやレイシストではない。すまない、差別的意図は無かった。訴訟はやめてくれ」
我は素直に謝罪した。
こういう時にすぐ謝れるのが我の良い所だ、とマートも言っていた。
「本当に知らなかったのだ。その小動物型?のトモモモンが人語を喋るということを」
「なんじゃと? ははーん分かったわ。にーちゃん新種で他に同型もおらんようじゃし、試作品ってヤツじゃな? わたしら自由な工場量産組とは違って、魔界では研究所に閉じ込められてたりするんじゃろ? じゃから他のトモモモンとの絡みが少ないとか? そういう系じゃろ?」
試作。工場量産。研究所。
これらの情報から察するに、トモモモンとは純粋な悪魔や魔物では無いらしい。
何かしらの技術で改造されたモンスター、もしくは一から生み出された人工生命体、といった所だろうか。
ロカピュウが急に喋りだしたのは意外だったが、トモモモンの裏側が朧気ながら見えてきた。
我にとっては都合が良い。
このまま会話を続けよう。
「まあそうだな。我はその『研究所に閉じ込められている系』だ」
「ほー。はー。そりゃ気の毒じゃけどな。でもだからって許してやるほど、私は甘い女じゃねーんじゃ」
こやつメスだったのか。
ロカピュウ(♀)は、我を睨みつけながら話を続ける。
「にーちゃんよお。サトケン坊ちゃんにチヤホヤされとるようじゃけど。坊ちゃんの手持ちトモモモンとしては、わたしの方が先輩じゃけん。おんどりゃもっと先輩を敬え」
「先輩なのか? 確かにお前の方が一分程早く初召喚されたようだが……しかし一分だぞ?」
「一分もありゃ充分じゃ。わたしのことは今から『ロカの姐御』と呼べい」
「分かった。ロカの姐御」
機嫌を損ねられたら厄介だ。
我は従い、今後ロカピュウを姐御と呼ぶことにした。
姐御は満足そうに頷いたが、しかしすぐにまた不機嫌そうな表情になる。
「しかし情けねーのう。情けないんじゃぁあ! わたしは自分が情けのーて、もうたまらんのじゃ」
「何が『情けないんじゃぁ』なんだ、ロカの姐御よ?」
「おんどれのせいじゃ!」
急に弱音を吐いたり、急に我を怒ったり。
姐御はその小動物的な見た目に似合わぬ、情緒の振れ幅が大きい性格であるらしい。
「我が何をした?」
「バトルでわたしの活躍奪っとるじゃろ! いっつもいっつもおんどればかり敵を倒して」
「なるほど、その件か」
ロカの姐御は、やはりバトルのことを気に病んでいたようだ。
言ってはなんだが、正直言って姐御が役に立ったことは皆無であるからな。
「わたしはヨワヨワのクソカスじゃ! でもサトケン坊ちゃんは、わたしにも平等にカステラくれて。その優しさが逆にわたしのナイーブな心を傷つけとんじゃあ。このままじゃ、わたしはただのチンカス雑魚トモモモン。可愛さだけが取り柄のベンチウォーマーになっちまうんじゃぁあ」
自分で自分を可愛いと言う図太さがあるのなら、まだ当分は大丈夫な気がする。




