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68話:オレ オマエ トモダチ(仮)!

「……なんだこれは」


 ある日の仕事終わり。

 下宿先のホテルへ帰ると、部屋が血塗れになっていた。


 白い壁に、ダイイングメッセージよろしく大きな血文字が書かれている。


『兄上。プレゼントがあるから僕の部屋に来てね。お願い』


 僕、なるものが誰かは書かれていないが、犯人はだいたい分かった。

 血液から漂う生臭さの中にある、残留魔力を調べると……やはり弟(妹)のマートである。

 念動力による遠隔操作で、我の部屋を汚したのであろう。

 この血は、どこぞの異界からやってきた勇者の血を再利用したに違いない。


 なんと迷惑すぎるメッセージであろうか。

 後でホテルの人に嫌な顔をされるのは、この我であるというのに。

 我はそういうのを気にしてしまう繊細な性格だというのに。




 ◇




 という訳で魔王城へやってきた。



 伝言は「部屋に来い」だったな。

 マートの部屋というと、現在は主に二つ存在している。

 一つは寝室。もう一つは魔王執務室『謁見の間』。今回おそらくは後者のことであろう。


 謁見の間。

 部下を呼び出し直接指示を与えたり、異界の勇者をわざと誘い込み戦ったり。つまりは魔王っぽい業務を遂行するための部屋だ。

 なんかソレっぽい高そうな照明器具があり、なんかソレっぽい骨とかが無造作に置いてあり、なんかソレっぽいお香が焚かれてあり。魔王による魔王のためのインテリアに溢れている。

 我も昔は毎日使っていた。


 そんな懐かしき部屋へ足を運ぶと……



「違うの~。お姉ちゃんは淫売じゃないの~。(スケベ)を売ったりなんかしたことないもん!」



 姉上が謁見の間から飛び出てきた。

 無駄に大きく重い扉が、姉上の魔界随一強靭な肉体で一気に開かれ、凶悪な衝撃波を放つ。

 我は咄嗟に飛び上がり、天井へ張り付き衝撃波を避けた。


「えっちなコトはメッシュくんとしかしたことないもん。うえええーん。マートちゃんのいぢわる!」


 人聞きの悪い事を叫んでいる。


 おそらくは女の(・・)マートに、また厳しいことを言われたのであろう。

 女の時のマートは、姉上が……というかこの世の全ての女性およびメスが嫌いなのである。


「今日はもうお仕事やめりゅううぅ」


 姉上は泣きながら、全力疾走で去っていった。

 それにより巻き起こる衝撃の第二波、第三波に多くの魔物たちが巻き込まれ、「うぎゃー」だの「ウボァー」だのと悲鳴が城内へ響き渡る。貴重な魔界の戦士たちであるのに。


 ともかく。あのうんざりするほど重い扉を開ける手間が省けた。

 我は床へ降り立ち、謁見の間へと入る。


「やあ兄上。来てくれて嬉しいよ♡ 扉は閉めてね」


 開ける手間は省けたが、閉める手間は省けなかった。

 仕方ない。手を使うと凄く疲れるので、念動力で閉めた。


「我の部屋を汚すなと、前にも言ったであろう」


 さっそく血文字の件について苦情を入れた。

 するとマートは、その長い金髪を指でくるくると弄りながら笑う。


「ごめんね。でも兄上の生活圏に僕の痕跡を付けたくて♡」

「付いたのはお前の痕跡では無く、どこぞの勇者の血だろう」

「まあまあ。クリーニング代は体で払うよ。さあどうぞ♡」


 マートは我の腕を掴み、己の胸を無理矢理揉ませ「あん♡」とわざとらしい嬌声を上げた。


「金で払ってくれ」

「そう。残念♡」


 そう言ってマートは手を離した。


「さて。せっかく兄上が来てくれたんだし、楽しいことや気持ちいいことでもやろうか♡」

「早く本題に入れ。呼び出した理由は何だ?」

「せっかちだね。ふふふっ」


 マートは微笑み、巨大な椅子へと腰掛けた。


 魔王の椅子はカラフルだ。

 異界から魔王討伐に来た勇者たちの、赤や青や緑色の血がこびり付いているためである。

 我の時代より更に色取り取りとなっているのを見るに、マートは仕事に励んでいるらしい。感心な弟(妹)だ。


()に書いてた通り、兄上へプレゼントがあるんだ。僕の愛を受け取ってくれるかな?」

「オヤツか?」

「お菓子は別に用意してあげるよ。そうじゃなくて、兄上のお仕事に関する物さ」

「仕事というと、レンタル召喚獣か」


 しかし召喚獣に必要な道具などは、特に思いつかない。

 強いて言うなら衣装だが……鑑定係に『悪魔っぽい服』を選んで貰ったので、間に合っている。

 今仕事で困り事は無いし、何かしらの改善アイテムも不要だ。


 と言うと、マートは「ふふっ」と楽しげに笑った。

 花のような香りが我の鼻腔をくすぐる。


「確かに兄上に必要なものは無いだろうね。でもレンタル召喚という事業自体に必要なものがあるんだよ。それは向上心。いつまでも『魔界の第七位産業』という立ち位置で満足してはいけない」

「つまり、もっと稼げと?」

「そうさ。そのためにやるべきことは、客層の新規開拓。そしてライバル企業の淘汰。そのために──」


 マートが指をパチリと鳴らした。

 すると我の眼前に小さな物体が現れ、宙に浮遊する。

 直径十センチメートルに満たぬ程度。半円状の物体だ。


「僕からのプレゼントさ♡」

「これが……?」


 我は訝しげに呟き、プレゼントを手に取った。

 平べったく、薄茶色で、なんだかちょっと湿っている……割れ煎餅(せんべい)だ。


「……やはりオヤツではないか」

「お菓子じゃないよ。食べちゃダメ♡ この割れセンベイはね……」




 ◇




 ~友達お供モンスター。トモモモン! 異世界トモモモン・ランドから召喚したトモモモンと友達になって、一緒に戦い、笑い、泣き叫び、トモモモンマスターを目指すんだ!~

(♪オープニング曲『知恵と勇気だトモモモン』 1分40秒)




(オープニング曲終了)



「ボクの名前はサトケン。今日めでたく誕生日を迎える、元気いっぱいの小学五年生さ! そんなボクの最近の悩みは、クラスの皆……いや全国の子供たち皆が持っているあるもの(・・・・)を、ボクだけが持ってないってコト! 流行に取り残されてるんだ。それは小五にとって生死にかかわるレベルの大ピンチだよ!」


「安心せい孫よ」


「別居しているおじいちゃん!」


「誕生日プレゼントじゃ。ワシが用意してやったぞ、その巷で人気のあるもの(・・・・)──トモモモン・デヴァイス・ウォッチを! しかも発売前の最新モデルじゃ!」


「わあありがとう! ボクの祖父にしてトモモモン研究の第一人者である通称トモモモン博士! そんな家族を持っているのに、どうしてボクだけトモモモン・デヴァイス・ウォッチを持っていなかったのか甚だ不可解だけど!」


「家庭の事情じゃよ。サトケン、さっそくウォッチを腕に付けるのじゃ」


「よーし……付けたよ! 思ったより大きくてクソ重い」


「最新型じゃからな。さあ、このトモモモンの大好物である割れセンベイをウォッチへセットし、トモモモンを呼び出すのじゃ。」


「うん! 友達呼び出し(サモン)! さあ来い、黄色い小動物(ロカピュウ)!」


「ロッカッピュ~」


「わあホントに出た! そしてロカピュウの持ってる割れセンベイと、ウォッチに装着してる割れセンベイの割れ目がぴったり照合したよ! つまりボクの友達証明完了!」


「ロッカ~」


「うむ、さすがワシの孫。筋がよいぞ! おおそうじゃ。最近発見された新種の割れセンベイもあってな。まだ研究もしてないのじゃが……特別じゃ。これもあげちゃうぞい!」


「えっ。そんな大事な物を子供にあげちゃって良いの!? また家族を実験台にするつもりだったりしない?」


「ほっほっほ。それで息子夫婦と別居するハメになったのじゃ。もう懲りておるよ。それに人類の発展には、大いなる礎が必要なのじゃよ……」


「ロッカァ~」


「んー、わからないけど、わかった! じゃあありがたく頂戴するね、おじいちゃん! 新種の割れセンベイを……セット! 友達呼び出し(サモン)! さあ来い、まだ見ぬ新種トモモモン!」



 …………



 と。こうして呼び出されたのは、もちろん──


「ゥハーッハッハッハ!」


 我である。

 いつもと違う召喚方法であったのだが、とりあえずいつものように高笑いしてみた。


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