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67話:チョコボール箱買いすれば銀のエンゼル1枚くらいはあるだろう

 さすが我。

 なんだかんだ言って、きちんと一人で回想シーンをやれたではないか。

 偉いぞ我。



 父、母、兄弟、親戚のこと

 そしてロボット勇者マークⅡのこと。


 中々ボリュームのある回想シーンであった。

 しかし頭の中で想い出を振り返るのは、そう時間を要するものでもない。

 回想を始めて終わるまで、実際は三十分も経っていなかった。


 外はまだまだ明るい昼間。

 今日の我は仕事を早く終えて帰ってきたので、暇が有り余っている。


 レンタル召喚獣の仕事は歩合制のため、食い扶持分だけ稼いでおけば後は自由。

 魔王の頃に比べ、まこと気楽な職業である。



 さて。やることも無くなったし、オヤツでも買いに行くかな。

 ベッドに腰掛け回想していた我は立ち上がり、外出のため部屋のドアへと近づいた。

 すると、


「うえーん。メッシュく~ん!」


 我が触るより前にドアノブが回った。

 鍵が掛かっていたはずだが、そんなもの関係ないと言わんばかりに堂々とドアが開く。

 現れたのはネア姉上。涙で目を腫らしている。

 部屋へ入るやいなや、我に抱きついてきた。


「どうしたのだ姉上」


 そう聞くと姉上は、


「あのね。あのね。聞いて~!」


 と言いながら、頭を我にグリグリと押し付けた。

 身長差、および姉上が前傾姿勢になっているため、姉上の頭は我の鳩尾(みぞおち)付近をグリグリしている。結構痛い。


「お仕事が辛いの~。キツいの~。やりたくないの~。昨日の兄弟会食で皆とたくさんお話して楽しい時間を過ごしたせいで、今日のお姉ちゃんはお仕事する気持ちがどうしても沸かないのよ~!」

「普通は楽しい時間を過ごしたのならば、仕事への英気を養えるものだろう」

「お姉ちゃんはそういうタイプじゃないもん。一度楽しさを経験したら、それ以降はもう苦しさを受け付けられなくなるタイプ!」


 難儀なタイプだな。

 まあそう言っている我も、姉上の気持ちは分からないでも無いが。


「でも良かったメッシュくんが部屋にいて~。もし留守だったら、お姉ちゃん一人でこの部屋に残ったメッシュくんの匂いを嗅ぎながら自分を慰めるしか無かったんだもの。くんくん。本物のメッシュくんの匂いだ~! 子宮が降りちゃう」


 などと如何わしい事を言いながら、姉上はようやく我から離れ、


「じゃあメッシュくん、お姉ちゃんのお腹を一発殴って~!」


 と、意味が分からないことを口走った。


「どうして殴る必要があるのだ」

「辛い現実に戻るため、痛みが必要なの~! でも他人に殴られたら、お姉ちゃんきっと反撃でその人を殺しちゃう。メッシュくんに殴られるのなら我慢出来るの~」

「理屈がよく分からない」

「さあどうぞ~。子宮の辺りをドカンと!」


 そう言って姉上は一瞬の間に服を脱ぎ捨て、己の下腹部を指差した。

 ここを狙え、という意味であろうが……


「いや殴らないぞ。というか、どうして全裸になる」

「そっちの方が盛り上がるでしょ~? そのままえっちも可!」

「別に盛り上がらん。我の趣味では無いな」

「まっ。そうなの~?」


 このままでは姉上の特殊なプレイに付き合わされてしまう。

 我はベッドに腰掛け、殴る意思が皆無であることを強調した。

 すると姉上も諦めたのか、一緒にベッドへ座る。全裸のままだが。


 思えばこのベッド、寝台として使われるよりも椅子代わりに使われることの方が遥かに多いな。

 ちょっと気の毒なベッドである。


「も~メッシュくんったら意地悪なんだから!」

「意地悪ではない」


 暴力を振るわないという平和的態度を取ったのに、意地悪呼ばわりされた。

 理不尽である。


「ところでメッシュくんも、今日お仕事じゃなかったの?」

「仕事はすぐに終わった。早く帰ってきて暇だったので、回想シーンをやっていた所だ」

「回想しーん~?」


 姉上は首を傾げた。全裸で。

 首だけでなく体全体まで傾けるクセがあるため、身長に似合わぬ巨大な胸が揺れて波打っている。


「回想……ハッ! もしやメッシュくんったら、お姉ちゃんとえっちぃコトした時を思い出してムラムラと……」

「いや。違うな」

「冷静に否定しないで~! でも分かった。じゃあ今からホントにえっちぃコトを」

「しなくていいぞ」

「まーまーまー。遠慮しないで~」


 姉上が我の膝の上に腰掛け、二人で向かい合う体勢になった。

 そのまま我の背へ手を回し、胸を押し付けてくる。


「ちゅーして~」


 と口を開け、舌を突き出し甘えてきた。

 が、それよりも我は気になる物を見つけてしまう。


「おい姉上。その箱はなんだ?」

「えー。箱~?」


 姉上が脱ぎ捨てた服やバッグと共に、白い包装紙とリボンに包まれた箱が床へ転がり落ちていたのだ。

 その箱から、なにやら甘い匂いが漂っている。

 チョコレートの匂いだな。オヤツに関して我の鼻は誤魔化せん。


「あ、そうだった~!」


 姉上は立ち上がりトテトテと歩き、箱を拾い上げた。全裸で。


「今朝ラスちゃんが珍しくお姉ちゃんの部屋に来てね。これをメッシュくんに渡してくれって頼まれたの~」

「ラスが?」


 我は姉上から箱を受け取った。

 20センチ×10センチ×10センチくらい。両手に収まる程度の大きさ。

 リボンに小さなカードが挟まっており、魔界の文字で『おわび』と書いてある。


「詫び?」

「ラスちゃんったら、昨日もまたメッシュくんを怖がっちゃってたでしょ~? あれで『お兄ちゃんの心を傷つけたんじゃないか』って気にしてるみたい。健気で可愛い~!」

「……そうか」


 我はリボンと包装紙を丁寧に解き、中身を見た。

 我の好きなチョコボールだ。ピーナッツ味。

 二十箱入りの、いわゆる『大人買いしたやつ』である。


「ラスちゃんも、ホントはメッシュくんと仲良くしたいのよ~」

「…………そうか」


 我はさっそく一つ開け、チョコボールを口に入れた。甘くて旨い。

 それを見ながら姉上は微笑んでいた。全裸で。


「食べ終わったら、今度こそえっちぃコトしようね」

「断る」

「なんで~!?」




 ◇




「ごめんくださーい」



 姉上が帰った後すぐ、再び人が尋ねてきた。

 外はまだ明るい。平日のこんな時間に、姉上以外の来客は珍しい。

 宗教とかの勧誘だろうか。


「いないんですかー? 開けてくださーい」


 改めて聞くと、知っている声であった。

 勧誘では無いな。


 今度の客は姉上とは違い、勝手に開錠したりはしないようだ。

 我はドアを開け、客を招き入れる。


「こんにちはー。お久しぶりでーす。ふふー」


 今朝会ったばかりのゴシックドレス女が、冗談っぽく挨拶した。

 客人は召喚斡旋所に勤める、鑑定係の女職員だった。


「遊びに来ましたー。奢ってくれるって約束ですよー」

「うむ。なるほどそうか。確かに『また遊びに連れていく』と約束していたが……」


 我は、壁に掛かっている時計を見た。

 時刻はまだ夕方にもなっていない。

 召喚斡旋所の営業時間中である。

 自由に仕事時間を決められるレンタル召喚獣とは違い、斡旋所職員は定時勤務のはずであるが……


「仕事はどうした?」

「サボりましたー」

「なるほどな」


 サボったらしい。

 まあ悪魔だから別にそれは良いのだが。


 しかし斡旋所にとって、鑑定係は替えが利かない非常に重要な職務である。

 以前この女が休暇を取った際には、斡旋所ごと臨時休業になった。

 こやつがサボると、レンタル召喚事業の運営が停止してしまう。今頃大騒ぎになっているだろうが……


「今日は一晩中遊びましょー」

「……まあ良いか。分かった。だが今日はお前が遊び方を決めろ。先日お前と町へ行った時に気付いたのだが、どうやら我は遊ぶのが苦手らしい」

「ふふー。そうですねー。陛下に任せたら、またお菓子買うだけですもんねー」


 鑑定係は少し意地悪そうな笑みを浮かべ、我の腕を掴み──


「……あの。メッシュ陛下のママのこと……ちょっと困惑したけど……私に話してくれて、ちょーっとだけ嬉しかったです……」


 突然真剣な表情になり、小さく呟いた。


「…………なーんて。んーん。やっぱり何でも無いでーす」


回想シーン編おしまいです。

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