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56話:家族会議ってなんか照れる

 マートやノーザとの戦いから三日後。

 我は魔王城内にある外務大臣執務室へと呼び出された。


 室内にある大きな机と椅子。外務大臣かつ我のイトコであるサディートが座っている。

 相変わらずの茶髪オールバックで、相変わらず角ばった眼鏡をかけている。

 そんな眼鏡を指でチャキッと上げて光らせながら、サディートが要件を述べる。


「二代目魔王様のご子息ご子女……つまりあなたがた兄弟の会食が、三日後に迫っていますね」

「うむ。そうだな」


 我は来客用のソファに腰掛け、お茶菓子である飴玉を口に含みながら頷いた。


 兄弟会食。

 父上存命時から続く家族行事。我の兄弟みんなで食事する、名前通りの会である。

 ハッキリ言って、ただ集まって飯を食いながら雑談……というかマートとネア姉上がぺらぺらと喋るだけの会である。


 の、だが。

 集まるのが王族ということもあり、魔王城内で働く家臣達には重要な一大イベントと化している。

 特に企画担当者、つまり会場や料理人の手配など企画を任された者にとっては、大きな出世の足掛かりとなるのだ。


「今回は私の部下達が企画担当になりました。部下たちの出世のため、私自身も色々と口出しさせて貰っています」


 サディートがまたもや眼鏡を光らせて言った。


「ほう、そうなのか……だが去年も一昨年もサディートの部下達が担当ではなかったか?」

「そうですが、何か問題でもありますか?」


 要するに、サディートは権力を駆使し『美味しい役目』を己の部下たちに割り振っているのである。

 サディートは初代魔王の孫たちの中で最も年上。魔王城内での地位は魔王マートに次ぎ、実質ナンバー2か3くらいの立場。

 そんな男が職権を乱用している事実。これは他国の常識で考えると問題も問題。汚職行為でしかない。


 ただし、ここは魔界であるため、


「いや、何も問題は無い」

「でしょう」


 という訳である。

 そもそもサディートの厳しい選定眼をクリアして部下になった優秀な人材という時点で、将来重要な役職に就くのは確定しているも同然。

 兄弟会食の企画担当になろうが、誤差も良い所なのだ。


「そこで本題なのですが。メッシュ、あなたも会食準備の手伝いをしなさい」

「何!」


 急に命令され、我は飴玉をガリっと噛み砕いてしまった。

 まあ良いか。あんまり旨くなかったし。


「どうして我が手伝うのだ?」

「暇そうだからです」

「ふむ……」


 確かに、魔王だった頃に比べるとレンタル召喚獣の仕事はそう忙しく無い。

 我は一応定時出社してはいるが、ルールでは『好きな時に来て適当に働けば良い』となっている。

 時給制でなく報酬制だからな。

 当然、時間の都合も付きやすい。


 しかし別に、すごく暇であるという訳でもないのだが……


「それにこの仕事は、部下には任せられないのですよ。簡単に殺されてしまうでしょうから」

「物騒だな。我ならば殺されないと?」

「それは保証しますよ。何しろ相手は子供ですからね」




 ◇




「嫌ですのー! フォルもお呼ばれ! お食事会にお呼ばれしますのー!」

「聞き分けの無いことを言うな。お前は参加対象者では無い」

「し”ま”す”の”ー!」


 フォルは地べたに寝転がり、手足をジタバタさせた。


 我に任せられた仕事とは、要は説得。

 兄弟会食に自分も参加したいと駄々をこねているフォルを、諦めさせようという訳だ。



 こうなる事が目に見えていたため、去年まではフォルに兄弟会食の存在自体を伏せていた。

 が、しかし今年はついにバレてしまったらしい。

 姉上が口を滑らせたとの事だが……当の姉上は逃げた。


 父親のサディート自身が説得すればいいだろう、と当然我も言ったのだが、


「駄目です。何故ならば、私は娘に嫌われたくないからです」


 と返されてしまった。眼鏡も光っていた。

 確かにサディートは娘に「お父様嫌い」と言われただけで眼鏡の輝きを失い気絶してしまうので、説得のしようが無いだろう。

 頼りになる奥方も、こういう時に限って他国へ出張中であるという。



 となれば確かに、フォルの説得は我にしか出来ない仕事であるかもしれぬな。


「子供は黙って昼寝でもしていろ」

「子供じゃありませんのー! それにお父様も、メッシュお兄様たちの兄弟じゃなくてイトコなのに、お食事会にお呼ばれするみたいですのよ」

「サディートは企画の責任者として参加しているのだ。それに会場には来ないぞ」

「ならフォルもセキニンシャになって、会場にも行きますのー! フォルも出ますの出ますの出ますの!」

「駄目だ」

「駄目じゃないですの! うええええん! うえ、うえ、うううえええええええん! おぎゃああああん!」


 ついに泣きはじめてしまった。


 しかし臆することはない。

 こういう場合における子供の大袈裟な泣き声は、だいたいウソ泣きだからだ。

 我はそのまま放置し、しばらく泣かせ続けることにした。


 そして一時間後。


「うええええん。うえ、おお、ええええ、お、お、ひっく、おっ、お、おええええ。ひっくひっく」

「泣きつかれて声が出なくなっているようだが、そろそろ気は済んだか?」

「ひっく……お兄様はいぢわるですの」

「意地悪ではない」

「ひっく……ひっく……うぎゃあああああああん」

「まだ泣くのか!」


 そして結局、『会食の代わりに、我がフォルと遊んでやる』という約束でこの場はなんとか収まった。

 フォルとの遊びは相当に気力を消耗してしまうのだが、それしか手が無かったので仕方ない。

 サディートの奴も、おそらくはこうなる事を見越していたのだろうが……


 とにかく兄弟会食までの三日間、我は無休でフォルの勇者ごっこに付き合ったのであった。

 その間の給料は特別にサディートから出た。




 ◇




 そして当日。


 我はタキシードに似た正装で、会場へやってきた。

 魔界社交界での正装は上半身裸なのであるが、食事会では普通に服を着る。スープとかが熱いからな。


 会場は魔界でも屈指の超一流レストランだった。

 他国から拉致してきた超一流コックを無理矢理働かせている、なんとも効率良く『超一流』を実現している店である。


「ま。メッシュくんからちょっと焦げ臭い匂いがする~! 美味しそう。心臓食べて良い~?」

「ついさっきまでフォルの魔法で肌を焼かれていたからな。食うな。これから食事会だぞ」


 レストランの入り口前でネア姉上と会った。

 食うなと断ったのに、結局姉上は、


「ごめんねごめんね。我慢出来ないの~!」


 と言って我の首に抱きつき、動脈を食い千切る。

 さっそく血化粧に染まってしまったが……まあいいか。悪魔だし。


「食前酒も飲んだし。さあ行きましょうメッシュくん!」


 姉上は我の腕を掴み、レストランの入り口へ引っ張った。

 客は誰もいない。今日は我らの貸し切り。

 三階のVIPルームへ辿り着くと、既に二人が席についている。


 まず一番奥の席に、現魔王であるマート。

 今日は男の格好だ。


「おや兄上に姉上。今日も仲が良くて羨ましい限りだよ」

「でしょー!」


 ネア姉上は女マートが苦手だが、男マートに対しては普通に接することが出来る。

 今日は平和に食事出来そうだな。


「………………あに……」


 下座にいるのは、下の弟であるノーザ。

 赤く長い髪を紐でくくり、食事で汚れないようにしている。



 長女であるネア姉上。

 長男である我。

 次男かつ次女であるマート。

 三男であるノーザ。


 魔界の重鎮たるメンバーが、こうして集まっているのであるが……


「さてそろそろ開始時間だけど……ふふっ。一人足りないね」


 マートが頬杖を付き、微笑みながら言った。


 我にはもう一人妹がいるのだ。

 あいつが来ていない。

 悪魔であるからして少々の遅刻くらいは普通のことであるのだが……しかし今いないという事は、このまま待っていてもきっと来ない。


 何故来ないと言い切れるのかというと、そういう(・・・・)妹だからである


「まっ。困ったわね~」

「ノーザ。お前が呼びに行け。双子なのだからな」


 我がそう言うと、ノーザは、


「………………ぅん」


 と頷き、さっそく席を立つ。


「力づくで引きずって来い」

「……………………ぅん」


 そしてノーザは、VIPルームの大きな窓から外へ飛び出した。

 あいつの素早さを考えると、五分もあれば魔王城から妹を引っ張り出して来れるであろうが……



「や、や、や、ヤダぁ~……はーなーせーよーぉぉぉ……!」



 三分でやってきた。

 久しぶりに聞く。というか魔王城に住んでいた頃でもあまり聞くことはなかった、妹の声だ。


「ラスちゃんは部屋から出たくないのにぃ~……ノーザ(にー)やめぇれぇぇ……! この天使めぇぇぇ……~!」

「………………ぁ」


 この天使め、という言葉は悪魔に対する罵りである。


 ノーザに抱えられ、妹がVIPルーム内に現れた。

 双子であるノーザに比べ身長は低いが、髪の色や質はノーザと同じ赤。

 その赤く長い髪を、炎のように振り乱している。


「自分の部屋が良いよぉ……外の空気不味くて、ラスちゃんは震えが止まらないょぉぉぉ……!」


 自分のことを『ラスちゃん』と呼んでいる。

 フルネームは例に洩れず長い。

 こやつの名は、ラスクイーンロイオン。長いから覚えなくていいぞ。ラスでいい。


「あら~ラスちゃん久しぶりね~! 一緒に魔王城に住んでるのに、全然会わないんですもの~」


 ネア姉上がラスの元へ駆け寄る。

 しかしラスは姉上の姿を見て、


「ぐぅぅぅえええええ!」


 と苦しそうに叫んだ。


「ネア(ねー)がわざとらしく巨乳を揺らしながら走って、おっぱいおっぱいと見せつけてくるよぉぉ……! イヤミだよぉ。どーせラスちゃんは貧乳だからぁぁぁぁぉぉ!」

「もうラスちゃんったら、相変わらずの被害妄想系女子ね~」

「被害妄想じゃなくて、ネア(ねー)が隣に立つことで、ラスちゃんの貧乳が際立つんだよぉぉぉ……明確な心理的被害が出てるのにぃ~。ネア(ねー)がチビだからなんとか致命傷を避けられてるんだよぉぉぉ」

「んまっ! 失礼ね!」


 姉上は腕を上下に振り、分かりやすく『怒ってます』的なポーズを取った。

 それでますます胸が揺れている。わざとやっているのかもしれない。


 とにかくこれでようやく兄弟姉妹が揃った。

 早く会食を始めたい所である。


 我は長男らしく、「さあ静かにして、みんなで仲良く食事しようよ」と爽やかに述べようと考えた。


「うるさいぞラス。さっさと座れ」

「ひぎぃぃぃい!?」


 ラスは奇声を上げて背筋を伸ばした。

 ふむ……我の言い方が、少々イメージ通りにいかなかったようである。


「お、怒らないでメッシュ(にー)。えへ、えへへへへぇぇ。コミュ障同士仲良くしようぜぇぇいひひひへへえぇ」

「別に怒ってはいない。それに我はコミュ障ではない」

「いひひひ。お、怒ってないの? 顔が怖いけどぉぉ」


 この妹は昔から、どこか一言多いのである。

 我は傷つきやすく繊細であるのに。


 そんな我の心情を察したのか、マートがフォローしてくれた。


「あはは。メシュトロイオン兄上の顔が怖いのは生まれつきだよ」

「我の顔は怖くない」


 全然フォローじゃなかった。


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