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4話:チビで巨乳の姉

 レンタル召喚事業は、この国にとって第七番目の柱だ。


 しかし我の一族――つまり王族の者達は、第一の柱である他世界侵略や、第二・第三の柱である他世界戦争への介入に傾倒している。

 あと第四の柱である温室みかん栽培も、美味しいので補助費に予算を惜しまない。


 一方のレンタル召喚については「庶民主体の事業である」と割り切り、王侯貴族が出る幕は無いと考えている……というかハッキリ言って興味が無いらしい。

 かく言う我も、レンタル召喚事業への認識はその程度だった。




 レンタル召喚における超絶特(SSS)級案件とは、『A級召喚獣でも達成不可能な案件』という意味だ。

 しかし今回の一件から察するに、王族が召喚獣になれば問題無く完遂出来るレベルである。

 最初から王族が協力していればSSだのSSSだのと面倒臭いルールも必要無かったのでは?



 以上の意見を、新魔王であるマートへ述べてみたところ、


「兄上が特別強いからそう思ってしまうだけで、『王族ならSSS級案件も簡単』ってワケでは無いと思うけどね」


 と前置きをされた上で、


「王族が出るのは効率が悪いよ。基本的には今の召喚獣たちで充分儲けが出ているんだ。過剰投資は毒にしかならないのだから、他の事業に人員を回すべきだよ。それに王族は誰も召喚獣なんてやりたがらないさ。自分より弱い者の言う事を聞かなければならない、貴族の性に合わぬ仕事だからね」


 との答えが返って来た。


「貴族の性に合わぬ、か……しかしそんな召喚獣の仕事を、貴族である我に持ちかけて来たのはマート」

「兄上兄上兄上兄上兄上! ところで新しい地球のお菓子を仕入れたんだけどさ、一緒に食べよ♡」

「くれるのか!」




 ◇




 マートの説明はもっともだ。

 現状で過不足無いのならば、我が口を挟むことでは無い。

 それに我以外の王族が今更追加で召喚獣になっても、現場がいたずらに混乱するだけかもしれないな。


 現に我だけでも少々の不和が生じている。


「はーいおはよーございまーすメシュトロイオン先王陛下ー。いまは超特(SS)級案件が発生中なんですけどー……陛下なら言わなくてもー、どんな案件が発生中かどうかなんて察知して分かってますよねー? だって私なんかより、ずっと簡単に術師の強さを測れるんだからー」


 と、召喚斡旋所の鑑定係であるゴシック女職員がイヤミっぽく言ってくるようになったのだ。

 プライドが傷つけられたのを恨んでいるらしい。

 我が出社するたびに待ち構えたように寄って来て、馴れ馴れしく腕を掴み、召喚部屋へと引っ張って行く。


「せいぜーがんばってくださいねー。怪我とかしてきてくださーい」

「では行ってくる」

「ふふふー。いってらっしゃーい」


 まあ、この程度の軋轢(あつれき)だがな。

 あとは元魔王という肩書のせいで、F~Aのランク付けが中々決まらない。

 所長が、


「陛下を他の召喚獣と同列にランク付けするなど、畏れ多くて無理です! 胃痛(いで)っ!」


 と及び腰なのだ。

 おかげでずっとライセンス無し。


 ただしライセンス関係なしにA級と同じ事をやっているので、大した問題では無い。




 ◇




 と。少々のトラブルはあるが、我も召喚獣の仕事に慣れて来た。


 A級以上の仕事はあまり発生しないため、主にB級以下の仕事をこなす。

 低級の簡単な案件をやるたびに所長が「申し訳ございませぇぇんん!」と薄い頭頂を振り乱して謝るのだが、我は別に気にしていない。

 むしろせっかくなので色々な異界のオヤツ……いや、文化を見てみたいと思っているのだ。


 そして分かったのだが、強者ばかりのA級世界よりも、弱者ばかりのF級やE級程度の世界の方が旨い菓子を作るようだ。

 何故だろうか? 我が考えるに――


 召喚のランク基準である『強さ』とは『魔力+生命力』のこと。

 特にEやFの世界は、魔力の方が低い傾向にある。

 魔法が使えない者たちは、その代わりと言わんばかりに『技術』や『道具』を発展させる。その下地が食事の文化にも影響を及ぼす……のかもしれないな。


 もちろん強者ばかりでも、旨い菓子が存在する異界もあるが。



「なんて考察している間に、今日も一日が終わってしまった」


 我はホテル上階の一室でオヤツをバリバリと食べながら、すっかり暗くなった魔界の町を展望した。

 転職して数日経つが、未だに引っ越し先を決めることが出来ない。ホテル暮らしの毎日だ。

 どんな家に住むか迷っている……わけではない。ホテルならば金を払えば食事も掃除もすぐだし、出て行く必要を感じないのだ。


 それに我は毎日のように舶来の菓子を買い込んでいるのだが、舶来品ゆえ高額のため、どうにも金が溜まらず引っ越し費用を捻出する算段が付かない。

 なんて切実な悩みもあるのだが、しかしオヤツは旨いから仕方がないではないか。


 今日の菓子は、行商人から仕入れた地球産スナック。ベジたべる。

 旨い上に野菜が練り込んであるらしい。これは凄い。完全機能食ではないか。


「さて、オヤツも食べたしそろそろ……」


 そろそろ。

 えー、そろそろ……


「やることがないので、次のオヤツを食べよう」


 我にとって、睡眠は年に三時間しか必要無い。

 毎日毎日仕事が終わってから、朝までどうにも暇を持て余して仕方がないのだ。


「では次は……」


 色々ある。たくさん買い込んだからな。

 チョコボールだのエムアンドエムズだのスニッカーズだの。

 地球産以外もあるぞ。こことは違う別の魔界から取り寄せた、名物ヘルおでんちくわぶ饅頭……

 


 どれにするか迷っていると、ノックの音がした。



「ノックノック。ノックノック」


 わざとらしいノック音だ。地球のアメリカンなジョークか。

 もちろん扉を叩く音ではなく、人が言葉を出している。


「ノックノック。ねえノックノックってばあ」


 この声。そしてこの気配。

 ただならぬ強者の空気が漂っている。それも我に匹敵する力。


 知人。というか肉親。親族だ。

 と言っても弟(妹)のマートではなく――


「もお。ノックノックノックって言ってるでしょ~? 勝手に開けちゃうんだからね」


 カチャ、と部屋の扉が開いた。

 我はまだ鍵を回していないのだが、魔法で勝手に開けられたようだ。

 このホテル内は泥棒対策で魔法無効の陣が敷かれているのだが、我の一族にはあまり意味がない。


「メッシュく~ん。久しぶりね~」

「姉上。来たのか」


 扉から現れたのは、我をメッシュと愛称で呼ぶ女性。

 我の三分の二ほどの低身長。しかし胸だけは非常に大きく、アンバランスな体系の悪魔だ。

 胸元を大きく露出させた、漆黒のドレスに身を包んでいる。


「元気にやってる? 風邪引いてない? 寂しくな~い? 野菜食べてる~?」


 と、心配性な彼女はネア。

 一つ上の姉だ。


「そうだ聞いてよ聞いてよメッシュく~ん。お姉ちゃんね、身長が伸びたんだよ。141.01センチから141.02センチに!」

「そうか。おめでとう姉上」

「うん。おめでと~私」


 ちなみに魔界の長さ単位は、地球の学問から拝借してメートル法を採用しているのであしからず。

 魔界の人間と地球の人間は体のサイズが近いので、使い勝手が良いのである。


「あっそうそう。さっきも言ったけどちゃんと一人暮らし出来てる~? 野菜食べてる? 野菜は大事よ~」


 姉上は一番歳が近い肉親であるため、我と仲が良い。

 そして我の世話を焼きたがる。そういう性格なのだ。


「野菜ならきちんと食べているぞ。ほら」


 我は先程食べ終わった地球産の菓子、ベジたべるの袋を見せた。


「わぁ偉いわメッシュくん。ってコレお菓子じゃないの~!」

「菓子だが野菜なのだ。野菜が練り込んである完全食だ」

「へぇそうなの?」


 姉上はベジたべるの袋をまじまじと眺め、目を細め「う~ん」と唸る。


「書いてある地球の文字は読めないけど、凄いのね~。宇宙食みたいなものかしら?」

「我も全ては読めぬが多分そうだろう。ところで姉上は身長が伸びた報告と、我の食生活の確認をしに来たのか?」

「うん。ううん。それだけじゃないのよ。えっとね。実はね……う、うううぅぅ!」


 姉上は突然目に涙をため、鼻声になった。

 何か面倒臭いことになりそうな気配を察した我は、部屋の扉を閉めて姉上を廊下に放置した。


「なんで~!?」


 扉はすぐに破られ、姉上は部屋の中にズカズカと入り込むのであった。


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