39話:名前被りNGですマン
「宇宙最強マンか。奇遇だな。我もつい最近まではそう呼ばれていた」
魔王を務めていた時は、『宇宙最強の魔王』という少し恥ずかしい異名が付いていたのだ。
「今は違うがな」
「そう。でもあなたは異界の住民みたいだし、許してあげる。私に殺されなければだけど」
そんな我と宇宙最強マンの会話を聞いた呼び出しマンが、
「ゆ、許す……!? ただの呼び名に何を大仰な……? もしや……!」
と、関係者席で唸った。
「1号……宇宙最強マン……あなたがヒーローを狙っている理由は、もしかして……僕たちが『宇宙最強のヒーロー』という称号を使ってた。ただ、それが気に食わなかっただけ……なのか!?」
呼び出しマンは、試合場の宇宙最強マンへ尋ねるように叫んだ。
しかし宇宙最強マンは答えなかった。少年なのか少女なのか分からぬ顔で、澄ましている。
こやつは己の認めた強者としか会話しないという自分ルールを設けているのだ。
返事をする代わり……にもなっていないが、宇宙最強マンが無言で我の腹へ飛び蹴りを放ってきた。
我は右足を上げ、蹴りを蹴りで防ぐ。
「凄い。二度も防いだ。やっぱり強い」
「ヒーローたちが宇宙最強と自称していたのが気に食わなかったのか? と聞かれているぞ」
我は先程の試合中にフォルがやったように、呼び出しマンの台詞を通訳した。
異国語に変換する訳でもないので通訳と言うのもおかしいが……とにかく、この形式ならば答えてくれる。
この世界の騒動の理由など我には正直どうでも良いのだが、召喚術師へのサービスだ。
「……正解ではないけど、不正解とも言わない。確かにヒーローが『宇宙最強』と呼ばれるのは阻止しないといけない。でも私が気に食わないからとか、単純な話じゃない」
宇宙最強マンはどこか曖昧な返答をしながら、軽く飛び、我の顔へ回し蹴りを放った。我は手の甲で弾く。宇宙最強マンは着地すると、這うような低い体勢になった。
「三度も防いだ。四度。五度」
足を狙った手刀が二発。一発目は左手、二発目は右手。
我は靴の裏で受け流した。皮で出来た普通の靴だが、我の魔力で一時的に強化した。傷は付いていない。
ちなみにこの靴は、以前買い物に行った時にゴシックドレス姿の鑑定係に選んで貰った。
「……『気に食わないから』で無いのなら、どうして……?」
「『気に食わないから』で無いのなら、何故だ? と聞かれているぞ」
再度、呼び出しマンの呟きを通訳してやった。
その通訳の間、宇宙最強マンは背後へ飛び、我から距離を取りつつ首をカクンと振った。髪の毛が一本、ライフル銃弾のように飛ぶ。
我は右手の親指と人差し指で髪の毛をつまみ、受け止めた。
指を離すと髪の毛はふわふわと地面へ落ちた。
「六度目。本当にあなた凄い。だから特別に私の個人情報も教えてあげる。宇宙最強マンという名前、もとい宇宙最強という称号は、私が長い人生で唯一尊敬している人物──私の師匠から受け継いだものだから」
「だから……僕たちがその称号を使うのは許せない、と……?」
「だから呼び出しマンたちが使うのを許せないと? と聞かれているぞ」
「許す許さないという問題じゃない。ただ、私より弱い者が使うべきではない」
そこまで言って、宇宙最強マンは「ふう」と息を吐いた。
「それよりもあなたは、私から六度も攻撃を防いだ。私の攻撃が一発ごとにどんどん強くなっているのには気付いてたと思うけど」
「うむ? いや……」
そうだったのか?
「すまない。気付いていなかった。確かに最後の髪の毛攻撃は中々鋭い一撃だったが」
「……そう。どれもあなたには大差ない攻撃だったってことかな。良いね」
心なしか、宇宙最強マンが少しだけ傷ついたような気がする。気のせいということにしておこう。
「ともかく、約5%ずつ力を開放して、徐々にあなたの実力を測っていた。今はだいたい30%くらい」
「そ、それは……戦いを楽しむため……?」
「それは戦いを楽しむため? と聞かれているが──」
呼び出しマンの台詞を一応通訳したが、しかし我はそう思わない。
「──楽しむためではないだろう。トレーニングだな」
そう言うと、宇宙最強マンは頷きはしなかったが「うん」と答えた。
「『強い相手と戦う時は、最初から全力を出すな。相手の実力に合わせて力を抑え、戦いから学べ』って。師匠に言われた。だから徐々に力を出して、あなたに合った『ちょうどいい力加減』を探してた」
「そうか。『強い相手』と言いつつ、貴様よりは弱いのが前提なのか。まあ貴様ほどの実力ならばそれも当然かもしれぬな。しかし得られる効果のわりにリスクが高い修行法だ」
「かもしれない。けど、ずっとこれを続けてきたから。でもあなた程の相手に、5%ずつはちょっと小刻みすぎた。一気に倍上げて60%の力で戦うから」
と言うやいなや、宇宙最強マンが動いた。
低い姿勢で地を這うように我へ近づき、両手で手刀を放つ。
先程の二連手刀攻撃と同じだ。ただしスピードが遥かに向上している。
だが、
「60%では足りないようだな」
我はしゃがみ込み、わざわざ同じ高さの目線で応戦してやった。
宇宙最強マンの左手手刀を我の右手で、右手手刀を左手で受け止める。
「確かに足りないみたい。じゃあ80%で」
「100%にしておけ」
我は宇宙最強マンと両手を繋いだまま立ち上がり万歳し、上下へ振り、放り投げた。
宇宙最強マンは地面へ激突し、砂埃とクレーターを作りながら埋まる。
「……凄い。ホントに100%じゃないとダメかも」
と言って穴から抜け出し、少量の血を吐いた。赤い血液が唇を濡らし、美しい化粧のようにも見える。
そんな姿を見てふと思ったが、こやつは結局男なのだろうか。女なのだろうか。
マンと自称しているし、やはり男か? でもヒーロー的な名前ならば女でも〇〇マンと名乗る……ような気もする。
「実力を見誤ってた。100%、必要」
「そうか。ところで今更だが貴様は男なのか? 女なのか?」
気になったので聞いてみた。
我は不明点を後に残さぬ、優秀な社会人なのである。
「呼び出しマンの代弁でなく、あなた自身からの質問は初めて。答えてあげたいけど、でも答えられない。忘れちゃったから」
「自分の性別を忘れるなんてことがあるのか? 風呂やトイレに行かぬのか貴様は」
「……肉体的な特徴は問題じゃない。質問の答えはここまで。『100%』でいくから」
宇宙最強マンは我との距離を保ったまま、両手を前へ伸ばした。
右手の親指だけを曲げ、他の四本指を立てる。左手の親指と小指で右手首を掴み、残り三本指を立てる。
右手の指四本、左手の指三本。計七本の立てた指が、我を差している。
「……その構えは」
「殲魔・七宝」
宇宙最強マンの七本の指から各一色ずつ、計七色の光線が放出された。
我としたことが、見覚えある技に少々驚いてしまった。慌てて上空へ飛び避ける……が、七色の光は交差しうねりながら軌道を変え、我を追ってきた。
「追尾機能まであるのか。父上の『見せ技』とはレベルが違うようだな」
我はそう呟き、更に上空へ退避した。
この七色の光線は、我の父上が使っていた技と非常に似ている。
似ているどころか、発動時の指の動きが全く同じだ。
我も何度か使ったことがある。
最近では、転生召喚術師イーキリと共に武術大会へ出場した時だ。
派手な必殺技が必要ということで『見せ技』であるこの七色光線を使った。
あの時は”至高次元”……なんとかという名で呼んでいたが……名はどうでもいい。肝心な点は『見せ技』であるということだ。
所詮はただのデモンストレーション用の技。見た目重視で大した威力は無い。
しかし宇宙最強マンの光線は、明らかに威力を伴っている。
追尾機能まである。
あれに当たると、我も結構痛いと思う。
「むう」
我は飛びながら全身に魔力を溜めた。
驚愕のあまりつい避けてしまったが、追尾するのならば真っ向から消滅させるしか無いようだ。
という訳で、
「…………痛いぞ」
我は、七つ全ての光線をあえて身に受けた。
なんとか打ち消したが、非常に痛い。
少しだけ心も挫けそうになったので、チョコレートのことを考えながら地面へ再び降り立ち、
少しよろけた。
足元を見る。
我の左足首から先が無くなっていた。
しかも治りが少し遅い。この程度、普段ならあっという間に欠損部分が生えてくるのだが、今は徐々に少しずつしか修復していない。
あの光線には相当の魔力が込められていたようだ。
「あり得ないくらい強いね、あなた。まさか私の『殲魔七宝』を受けて無事なんて」
「七宝か……」
我はあの七色光線の正式名称を忘れていたが、そう云えば父上も『七宝』と呼んでいた……ような気もする。
ただ『殲魔』は無かったと思う。父上や我自身が『魔』だし。自分を殲滅してどうするんだ、ってことになるからな。
「その七宝なる技も、貴様の師匠から学んだのか?」
「うん。10万年前に。ただ派手なだけで威力は無い、デモンストレーション用の技。でも私は好きだから、ちょっと磨いてみた。あなたには通用しなかったけど」
「いいや、死にはしなかったが通用はしたぞ。ここまで磨き上げるとは見事だ」
などと褒めつつ、我は考える。
師匠。七宝。10万年前。
そして『宇宙最強』。
いや、まさかな。
と思うが、しかし可能性が無いわけではなく、
「もう一つだけ質問していいか?」
「いいよ。なに?」
我は、頭に浮かんだ疑問を率直に聞いてみた。
「もしや貴様の師匠は、ルキフェロイオンという名ではないか?」
「……ロイオンは知らない。でもルキフェ。ルキフェってのは合ってる」
「そうか」
まさかの正解であった。
なんという偶然か。
数多ある異界の中で、このような由縁ある世界に来ていたとは。
「どうして、師匠の名前を知ってるの?」
「ルキフェロイオンは──」
我は一歩、宇宙最強マンへ近づいた。
左足首はいつの間にか完全に治り、痛みが消えている。
「──我の祖父だ」




