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35話:上の上にも上がいる

「さっきの雷マンより”数倍強い”ですってー? でも数倍程度じゃ結局”弱い”ってコトじゃないの。おーっほっほっほっほ!」


 レイスは調子に乗って高笑い。対する2号は、気にせず「ククク。さてそれはどうかな?」と笑い返している。

 一方ヒーロー側の関係者席では、呼び出しマンが眉間にしわを寄せていた。


「ミステリアスパートナー2号……彼が『2号』なのですか……」

「何を気にしている? やつが2号であることに問題があるのか?」

「いえ……特に問題という訳では無いのですが……ただ、ちょっと予想外で……」


 呼び出しマンは我の方を振り向き語った。


「彼は『宇宙を支配する』という宣言をしたり、この勝ち抜き戦を提案したり……つまり今までの交渉役というか代表というか、とにかく物事を取り仕切っていたのです。だから僕はてっきり彼が1号……リーダー格であると思い込んでいたのですが……」


 そう言って敵方の席を見る。

 1号も2号も同じ白いマントとフード姿だが、2号はハキハキと喋っているのに対し、1号は何も喋らずボーっと突っ立っている。

 敵の大将はきっと恥ずかしがり屋なのだな。どこにもシャイな奴はいるものだ。



「さあ!」



 2号が叫んだ。


「それでは始めようじゃないか。新たなる試合を!」


 と気取ったセリフを吐きつつ試合場へ飛び降りた。マントを風になびかせ、レイスの前へふわりと着地。


「その暑苦しい”マント”脱ぎなさいよ。ウザきもいから」

「言われなくても! 俺の正体を見て存分に恐怖しな。オープン・ゲット!」


 白いマントとフードが木っ端微塵になり、衝撃と共に布切れが辺りへ飛び散った。

 ずいぶんと派手な脱衣だ。


 そして現れた2号、真の姿。

 かみビリマンと同じく上半身裸の男だ。裸になるのが、こやつらの作法なのだろうか?

 二本の手、二本の脚。シルエットは普通の人間。

 ただし肌は透き通るような水色。というか本当に透き通り、向こう側が見えている。


「俺の名は、液体化マン」


 液体化マン。

 また分かりやすい名前だな。


「俺の隠されざる能力、果たして見破れるかな?」

「いや隠されてないし。”液体化”でしょ?」


 レイスが冷静につっこんだ。

 我も液体化だと思う。


「ふふふふ……クククク……ご明察」

「いや”ご明察”じゃねーわよ。まあいいや、さっさと”死”になさい」


 刹那。

 いまだ空を漂っていた大雲が轟き、巨大な雷が豪快に地面を抉りながら液体化マンを穿った。


 間髪入れぬ瞬息の技。

 我との戦いで『技の発動に時間をかけすぎて負けてしまった』ことが、よほど堪えているのだろうな。


「超超超必殺最強奇跡超越神技”女帝の雷撃(エンプレス・ライト)”! おーっほっほっほ。”水”っぽいやつは”電気”に弱い! これ”常識”!」


 抉れた地面から立つ砂埃が止むと、液体化マンの姿は既に無かった。

 蒸発して死んでしまったのか。それとも、


「液体化マンという名前であるからして、液体化してどこかに隠れているのではないか?」


 我がそう呟くとレイスにも聞こえたらしく、


「はぁ~? 私の”イカヅチ”を喰らって生きてる訳ないでしょ。何アンタ、私ばっかり”活躍”してるから”嫉妬”してんのかしら? バーカバーカ」

「馬鹿ではない」


 ここぞとばかりに煽ってきた。


 しかし我の予想は当たっていた。

 地面の亀裂に不自然な水溜りが湧いている。おそらくあれは液体化マンだ。

 レイスはまだ気付いていない。


 いいぞ液体化マン、そのまま神を倒せ。と、我は心の中で敵を応援した。

 別にレイスに馬鹿にされたので大人げなく怒っている訳では無いぞ。

 どうせ液体化マンは後で我が倒すのだ。政治的しがらみにより我の手で神は殺せぬ故、こんな機会に一人でも減ればお得だろう、と考えただけである。


「ククク、液体は電気に弱い? それは弱いのではなく、塩や泥など混じりけのある水は電気を通しやすいというだけだ。本物の純水は電気を通さない。そして俺は、体を純度の高い水に変化させることが出来るのさ」

「”!?” アンタ、”生きて”たの!?」

「そうさ」


 何! 液体化マンのやつめ、わざわざ自分から喋ってバラしたぞ。

 不意打ちで殺すチャンスであったのに、何というフェア精神。もしくは間抜け。

 しかも己の能力について丁寧に説明してくれているし。お喋りが好きなのだな。


「正確に言うならばお前の技は『電気+魔力』のようなので、完全なる絶縁は不可能だった。少量の電気は有効打となりえる」


 水溜りが喋りながら、ゆっくりと人型を成していく。


「だがその少ない有効打も、俺の体表面の電気伝導率だけ(・・)高くすれば、皮膚だけを通り地面へ逃げる。体内部まで貫通する致命傷にはならない、という訳だよ」

「……うざ! きもいから喋んな! バーカバーカ! バーーカ! 何その半透明の体。何でもスケルトンにしちゃうお年頃? いつの時代の流行よ? 二十年前に帰れ!」


 レイスは不貞腐れ、『”』を使うのも忘れ、悔し紛れの罵詈雑言を振りまく。

 そして、またもや気付いて(・・・・)いない。

 彼女の後ろの砂が湿っている。ほんの小さな湿り気であるが──


「ペチャクチャペチャクチャ、得意げに説明しちゃってさ! そういう自画自賛な性格、ホント気持ち悪いわよ!」

「自画自賛か。それはお前も似たような性格に見えるけどね……クク、『水鎌(ワサイズ)』」


 液体化マンが小さく技名を呟くと、レイスの背後の湿り気が瞬時に乾いた。

 その湿気の代わりに、鋭い透明の刃が出現する。

 三日月型の、鋭い水の刃物だ。


「はあ? 全然違うし。私はどう見ても控えめでおしとやか…………あぐっ」


 水の刃が飛び、レイスを斬首した。


 レイスの頭は胴体から切り離され、血をまき散らしながら宙を舞う。

 頭はヒーロー関係者席の手前に落ち、皆を凍り付かせた。


「そんな……かみなりビリビリマンを圧倒したレイスさんが、まさか……」


 という呼び出しマンの絶望を聞き、液体化マンは得意げに笑う。


「かみなりビリビリマンは、この宇宙で最強の(いかづち)使いだった。しかし異世界から呼び出されたあのレイスという女は、それ以上の戦士であった……ただそれだけのこと。そして俺もまたレイス以上の戦士である。ただそれだけのこと」


 そう言いながら水の刃をただの液体へと戻し、己の体内へと吸収した。


「さあお次は誰だ? 目付きの悪いお兄さんかな。それとも呼び出しマン自ら戦うか? まさか、もう一人いた小さな女の子が戦うなんてことは無いよな。既に席にいないって事は、レイスの残状を見て逃げ出しちゃったんだろうし。子供には刺激が強すぎたねえ」

 

 そう言われ、我も気付いた。

 小さな女の子とは、フォルのことであろうが……


「……フォル。どこへ行った?」


 我の隣で仮眠していたはずのフォルが、いつの間にか消えている。

 目が覚め、トイレへ行ったのか? それとも腹が減ったので売店へ?



「フォーエバー!」



 …………見つけた。トイレでも売店でも無いようだ。


「次はわたくし、勇者フォルテ・フェニックス・ケルケイオンが相手ですの! 華麗に正義を。勝利を手中に。ジャスティース・フロム・カオス!」



 フォルは既に試合場に立っていた。

 首が無くなったレイスの体を片足で踏みポーズを取り、液体化マンを指差している。

 液体化マンは、そのプルプルしている顔で苦笑いした。


「おやおや。本当にこの子供が戦うんだな。俺は手加減しないよ」

「あら? わたくしは手加減してあげてもよろしくてよ?」

「なかなか言うねえ、お嬢さん」


 液体化マンは手を構え、戦闘態勢を取った。


「…………」


 呼び出しマンは険しい目で試合場を凝視している。フォルの実力を判断しかねているらしい。

 我のオマケで着いて来た程度の認識なのだろう。事実そうなのだが。


「……メッシュさん、フォルさんを一人で戦わせて良いのですか?」


 我へ心配そうに聞いてきた。

 どうだろうなあ。我は考える。

 フォルは子供とは言え非常に優秀な悪魔。レイスのような油断をしなければ、死ぬことは無いと思う。


「おそらくは大丈夫だ。職場体験としては丁度良い相手であろう。死にそうになったら我が無理矢理交代する」

「…………わかりました。どちらにせよ、もう試合は始まってしまった……」


 試合場ではフォルが格好良い(と本人が思っている)ポーズを次々と取り「とお!」「やあー」と叫んでいる。足場にしているレイスの体は、グリグリと踏みにじられ続ける。

 特にポーズの意味は無い。だが相手からすれば謎の行動に見えるらしく、液体化マンは攻めあぐねていた。


 と、ある種の硬直状態が数十秒続いた後。



「────はっ!? ちょ、ちょっと待ちなさいよ”クソガキ”! まだ私の”番”が終わってないわよ! っていうか、私の”体”を踏むな!」



 

 試合場隅に転がっているレイスの生首が、元気よく言葉を発した。

 首だけになっても生きていたようだ。


「あら、天界のおばさま。しぶとくご生存あそばれていたのですね」

「生きてるに決まってんでしょ! 私は”エリート”なのよー!」


 残念だが、斬首程度では死なぬか。

 神だからな。


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